
TSUTAYAが図書館をどう変えたのか
TSUTAYA(カルチュア・コンビニエンス・クラブ:以下CCC)が2013年4月に武雄市図書館(佐賀県武雄市)の運営を受託してから1年半になる。この話が公になってから、新聞/メディアなどを通じて「経済価値優先の私企業が、公的な図書館という社会的価値に直接関与すること」に対する批判が多く出た。地元の佐賀新聞は2012年5月20日付の社説で、日本図書館協会の当時の考えを引用し「民間の専門性を生かして運営を改善し、経費節減にもつなげる指定管理者制度の発想と図書館は相いれない」とした。
■武雄市図書館運営委託 「質」保つ根本議論不可欠(2012年5月20日)
http://www1.saga-s.co.jp/news/ronsetu.0.2208678.article.html
しかし、いざ開館されると、全国の図書館・メディア・マーケティング関係者の「武雄詣で」がブームとなった。書籍販売を併設し、スターバックスでコーヒーを飲みながら借りた本を読める新しいスタイルの「公立図書館」というマーケティングスタイルは多くの人に刺激を与えたに違いない。事実、筆者が開設から9カ月たった12月の下旬に訪問したときも、図書館前の100台は入る駐車場は満杯、各車からは小さな子供を連れた家族がまるで動物園かシネマコンプレックスにでも行くごとく楽しそうに図書館に吸い込まれていた。これが公立図書館か。
智の提供の場として、いままでとは違った形の運営は、住民サービスの向上に私企業のノウハウを利用した好例として、開館1年で92万人の来館者を記録した。
借りるか買うか?
武雄市図書館の新しい機能についてはすでに多くのメディアに取り上げられているので、そちらを参照いただきたいが、私が一番特徴的だと感じたのは「検索機」である。随所に設置されたタッチパネルのそれは、蔵書検索だけでなく、貸し出し予約ランキングやネット閲覧もできるが、特筆すべきは「蔵書と販売棚の在庫本」を一括で検索できることだ。
『ニューロマンサー』。サイバーパンクの古典であるこのSF小説は、それほど有名な本でもないし、学術書のような高価な本でもない、ちょっと珍しい本の類だ。これを検索した結果は、「蔵書=無し」「販売=棚番号**」であった。私は「してやられた」と胸のうちでつぶやいた。「本当に欲しい本なら金を出しても手に入れるだろう」というマーケティングがそこにあった。
「本を買う書店」と「本を借りる図書館」の中間点の「借りられないなら買ってもいい」市場を見事に開拓していたのである(みごと筆者は購入してしまった)。
図書館運営委託は武雄市から始まったのではない
さて、私企業にして公共図書館の指定管理者になるCCCが、まるで健全なる図書文化の破壊者のように言われる以前から、実は公共図書館の運営を受託していた私企業があることが、あまり知られていないのは、樋渡啓祐武雄市長(2014年9月現在)の人徳によるものか・・・・・・。
ここに株式会社図書館流通センター(TRC)という企業がある。1979創業のこの会社は、
とある。
■同社webサイトより引用
http://www.trc.co.jp/company/index.html
TRCは丸善、ジュンク堂を擁する書籍流通グループ、丸善CHIホールディングス株式会社の事業会社だ。旧来から図書館、大学への専門書流通に強い丸善の力をバックに、各地の公共図書館の運営を受託し、その数は2014年9月現在416館。そのうち指定管理者として220館を扱っている業界ナンバーワンなのである。一方、CCCは武雄市図書館以降、宮城県多賀城市(2015年夏開館予定)、山口県周南市(2018年開館予定)というリリースがある程度であった。
両雄動く
大きな動きがあったのが2014年4月。TRCとCCCは共同事業体として、海老名市立中央図書館の運営を開始した。TRCは運営受託にあたって、指定管理者として運営する各地の図書館を管理する第一線で活躍した谷一文子会長を館長として選出。2014年度末から改築、2015年10月にリニューアルオープンして、カフェや書店などCCCの「企画力、空間力」を生かした「理想の図書館(谷一氏)」づくりを目指している。
CCCが武雄市図書館で示した新しい図書館運営の形は、競合他社を巻き込んで、次代のパッケージ流通の形を作り出すことになるのか。全国から書店が消えつつある現代こそ、出版社、レコード会社、映像関連会社なども注目していかなければならないだろう。
まとめ
さて、CCCは単に図書流通の変革だけを目的に図書館運営に進出してきたのだろうか。
本当の目的は「人の智への欲求」そのものを広告ビジネスに展開すること、と私は考えている。その仕組みを後半で明らかにする。(次回へ続く)