中国アパレル業界を変革するAIサービス「知衣」の機能や仕組みを解説

公開日:2022-06-16 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

132290430_m中国のアパレル業界では現在、AIによる変革が急速に進んでいます。その中心的な役割を担うテック企業の1つである「知衣科技(Zhiyi Tech、ジーイーテック)」が提供するAIサービス「知衣(ジーイー)」は、2021年12月時点で大手を含む2,000以上のブランドが利用し、知衣科技の2021年の売上高も4億元(約71億円)に達しています。今回は、この知衣科技の事例にみるAI活用をご紹介します。

知衣科技が提供するサービスとは?

知衣科技の設立は2018年。創業者の鄭沢宇(ジャン・ザーユー)CEOは北京大学と米国カーネギーメロン大学でAIを学んだあとGoogleに入社し、そこでAIと出会います。2016年にはAIをビジネスで活用するためのツールを開発し、起業したものの失敗。この失敗を糧として、ツールのレベルを超えて、アパレル業界にターゲットを絞ったソリューションを提供する知衣科技を設立しました。

知衣科技の主力サービスは、アパレルデザイナーの仕事を支援するAIサービス「知衣」です。知衣はECサイトやSNSなどにある膨大なファッション関連の画像を、自社開発のアルゴリズムによって次のように解析します。

テキスト が含まれている画像

自動的に生成された説明画像出典:知衣科技公式サイト 

上記の例では、1枚のファッション画像から性別や季節、国籍、服の種類、スタイル、さらには製造法、型紙の種類、素材、柄までが自動的に判定され、タグ付けされています。知衣科技では、設立から3年で10億種類以上のファッション画像が蓄積されており、さらに毎日100万種類以上が新規で追加されています。この膨大なデータにより、「知衣」は次のようにデザイナーを支援します。

リサーチ支援

中国のアパレル業界には、「4321の原則」という言葉があります。これは定番製品が4割、競合企業の売れ筋に対抗するための製品が3割、ブランドのオリジナリティを打ち出した製品が2割、デザイナーの個性を生かした商品が1割、という意味です。7割が既存製品の改良となるため、デザイナーの仕事の半分以上は、ECサイトや小売店の売れ筋商品、ブランドの新作、インフルエンサーのSNSなどのリサーチになるといわれます。

知衣はまず、このデザイナーのリサーチを支援します。さまざまな集計を行うことにより、例えば以下のように重要なキーワードが大きく表示されるワードクラウドなどにより、売れ筋や急上昇などの傾向を分析します。
グラフィカル ユーザー インターフェイス, テーブル

自動的に生成された説明
(画像出典:知衣科技公式サイト

 企画支援

次に、知衣はデザイナーの企画を支援します。
タイムライン

自動的に生成された説明(画像出典:知衣科技公式サイト

上記の例では、あるキーワードを選ぶことにより関連した画像が表示され、さらにそれと類似した柄やスタイルの画像も表示されています。

また以下のように、ある柄を選択すると類似した柄が表示されるようになっています。

タイムライン

低い精度で自動的に生成された説明(画像出典:知衣科技公式サイト 

このような検索結果をもとにしながら、デザイナーはデザイン企画を練り上げていくことができるわけです。

デザイン支援

さらには、知衣はデザイナーのデザイン企画も支援します。
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(画像出典:知衣科技公式サイト 

上記は、ファッション画像を参考にして知衣が生成した基本的なスタイル画です。デザイナーはこのスタイル画を修正し、素材や色、柄などを決めていけばデザインが完成してしまうのです。

AIサービス知衣活用のメリット

AIサービス「知衣」を活用するメリットとしては、どのようなものがあるのでしょうか? 主なメリットを以下で挙げました。

デザイナーの生産性向上

従来、ECサイトや小売店、SNSなどのリサーチは、デザイナーが自ら行っていました。そのうえで、どのようなラインナップを揃えるかが議論され、実際のデザイン作業が開始されます。

しかし、この方法では1人のデザイナーが生み出せるデザインは、1日に1~1.5件が限界でした。ところが、知衣を活用すれば1日に4件程度のデザインが可能となります。デザイナーの生産性はこれまでの約3倍に高まるというわけです。

「類似問題」の回避

デザイナーが自力でリサーチできるのは、30ほどのブランドと、50人ほどのSNSインフルエンサーのフォローが限界だといわれます。限られた情報源をもとにデザインを企画するため、完成したデザインが似通ってしまうことも珍しくありませんでした。

AIによるリサーチの支援では、ブランド数やインフルエンサー数に上限はありません。リサーチ対象として設定した範囲の情報を収集し、分析・集計してくれます。これにより幅広い情報源から多くの差別化のヒントが得られることで、類似問題を避けられるようになります。

中小企業が圧倒的に多い中国のアパレル業界では、AIツールを自力で開発できる企業はわずかで、多くの企業はいまだに伝統的な方法でデザインをしています。そのため、知衣科技のAIサービスは広く支持されて、利用企業がますます拡大しています。

知衣が用いるAIによる画像解析技術とは?

知衣は、アパレルデザインの支援サービスにおいてAI画像解析の技術を用いています。ここで、画像解析とはどのようなものかを見てみましょう。

 画像解析とは?

画像解析とは、画像から必要な情報を抽出し、統計的なデータを得ることです。画像解析にあたっては、まず以下のような画像の前処理を行わなくてはなりません。

  • 画像のノイズの除去
  • 画像にある物体などの輪郭の強調や色合いの調整
  • 画像にある物体などを切り出す

しかし、これだけではコンピュータは画像に何が写っているかを判断できません。たとえば自動車の認識なら、コンピュータに「この画像は自動車だ」と認識させ、さらに自動車の「メーカーや車種」を認識させるためには、ボディや車体、タイヤなどの特徴点をコンピュータが抽出できるようにすることが必要です。

こうした特徴の抽出はAIの登場によって、人が細かく指定しなくても自動的に行えるようになりました。そのため、画像解析は以下のような分野で幅広く応用されています。

  • 自動運転のため人と車、道路などを識別する
  • 駅に設置したカメラで人と電車、点字ブロックなどを識別する
  • 倉庫のデジタル化のため、荷物の内容を自動的に判別する
  • 無人店舗で顧客の行動や商品の減少を認識する

 知衣の画像解析

知衣はこうした画像解析技術を用いることにより、前述のとおり1枚のファッション画像から、モデルの性別や国籍、季節、服の種類、スタイルなどの特徴を抽出し、統計データとして蓄積します。

ただし、AIも完全に自動で特徴を抽出してくれるわけではありません。人間による調整もある程度は必要です。そのため、開発者がファッションについて詳しくなかった知衣は、当初はデザイナーが求めるデータを得られなかったといいます。

そこで、知衣科技はスタッフのチームが1ヵ月間にわたってデザイナーに張り付き、デザイナーがどのような情報を必要としているかを学び、それをもとにAIを調整しました。それにより、デザイナーが実際に活用できるAIが誕生したというわけです。

 まとめ

画像解析でアパレルデザインを支援するAIサービス「知衣」。すでに中国の多くのアパレル企業が導入し、さまざまな要望も上がってきているそうです。なかでも最も要望が多いのが「流行予測」だといいます。

そこで、知衣科技では東華大学などと共同でラボを設立し、流行予測を可能とするAI開発を進めています。AIによる流行予測が可能になれば、中国アパレル業界はより一層変わっていくことでしょう。

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