AIを活用した次世代のマーケティングリサーチ手法『リサーチ4.0』とは?

公開日:2022-06-20 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

100849785_l株式会社ビデオリサーチはP.A.I.(パーソナル人工知能)を開発する株式会社オルツとパートナーシップを締結し、次世代のマーケティングリサーチ手法『リサーチ4.0』の実証実験を進めています。今回はこのリサーチ4.0の概要や、背景となるAIの仕組みについて解説します。

1.高度な専門知識を持つ知識人をモデルとしたデジタルクローンの開発に成功

『リサーチ4.0』は、ビデオリサーチ社がAI(人工知能)を活用した次世代のリサーチ手法として位置づけ、現在さまざまな実証実験を進めているものです。これまで同社は、対面のアンケート調査による「リサーチ1.0」、インターネット調査による「リサーチ2.0」、ネットのログや表情解析などのセンシングデータを用いた「リサーチ3.0」と、リサーチ手法を進化させてきており、「リサーチ4.0」は最先端のAIを駆使して、リサーチのさらなる精度向上を目指しています。

リサーチ4.0に関する取り組みの一環として、2022年1月7日、ビデオリサーチとオルツの両社は、脳科学者の茂木健一郎氏の協力のもと「高度な専門知識を持つ有名人・知識人をモデルとしたデジタルクローン開発の成功」を発表しました。デジタルクローンとは、ある人物のデジタル化された複製を作り出す技術のことです。コンピュータネットワーク上にある文章や画像・音声・映像などをAIに学習させ、その人物の経験や思考・価値観などを再現するものです。

以下の動画は、実際に開発された茂木氏のデジタルクローンが受け答えする様子です。この動画を見ると、デジタルクローンが茂木氏の専門知識に基づく回答や、価値観を土台とした返答をしていることがわかります。この実証実験の結果は、デジタルクローン・アンケートシステムの精度の向上、活用方針の策定に生かされるとのことです。

>>YouTubeで動画を視聴する

デジタルクローン生成のメカニズム

ダイアグラム

自動的に生成された説明
(画像出典:ビデオリサーチ社『AI技術を活用した次世代のマーケティングリサーチ手法リサーチ4.0において、「有名人をモデルにしたデジタルクローン」の開発に成功 ~株式会社オルツとの共同開発で茂木 健一郎氏のデジタルクローンを生成~』)

茂木氏のデジタルクローンは、「デジタルクローン生成手法第1種」という手法により生成されています。この手法では、膨大な人々の思考を統合した巨大なデータ集合体「平均モデル」を、特定個人の個性が反映された比較的少量のデータ(Life log)で歪ませた、人間としての基礎的な思考を保ちながら個人の価値観・性格を反映する「個性モデル」としてデジタルクローンを生成します。今回の実証実験ではLife logとして、茂木氏の著作やSNSへの投稿などが用いられました。

『リサーチ4.0』の成果:デジタルクローン・アンケートシステム

また、ビデオリサーチ社とオルツ社は、2021年2月より「デジタルクローン・アンケートシステム」の実証実験を進めています。すでにご紹介した「高度な専門知識を持つ有名人・知識人をモデルとしたデジタルクローンの開発」は、デジタルクローン・アンケートシステムの精度向上、活用方針の策定に生かすために行われました。つまり、デジタルクローン・アンケートシステムは、リサーチ4.0の成果の1つであるといえるでしょう。

そこで、以下ではデジタルクローン・アンケートシステムの概要と活用イメージを見ていきましょう。

 デジタルクローン・アンケートシステムとは?

デジタルクローン・アンケートシステムは、ビデオリサーチ社が行ってきた人間モニターへのアンケート調査で取得されたデータを元にデジタルクローンを生成し、生成されたクローンに対して新たなアンケート調査を行うものです。

下の図は、デジタルクローン・アンケートシステムのクローン生成イメージです。

ダイアグラム

自動的に生成された説明(画像出典:ビデオリサーチ社『ビデオリサーチ、オルツ社と共同で"次世代リサーチ"を実現 AIで作られた「デジタルクローン」からの回答取得が可能に ~企画段階での番組の評価予測、視聴者の定性的な感想の把握などへの応用を検討~』)

デジタルクローン・アンケートシステムにおいて、デジタルクローンは「デジタルクローン生成手法第2種」という手法により生成されます。手法第2種は、著作やSNS投稿などをもとにクローンを生成する手法第1種と異なり、ビデオリサーチ社がこれまで実施してきた顧客へのアンケート調査で得られたモニターの属性(性別や年齢・居住地など)や回答をもと、モニター一人ひとりの価値観・個性の違いを再現したデジタルクローンを生成するものです。

ただし、手法第2種は第1種と比較して簡便な方法となるために、精度を高めるためにはトレーニングが必要になってきます。そのトレーニングに手法第1種で生成された茂木氏などのデジタルクローンが使われるというわけです。

デジタルクローン・アンケートシステムのデジタルクローンは、元になった人間モニターがアンケートで受けた質問に、人間モニターと同じように回答するのはもちろんのこと、未知の質問を受けた場合も、人間モニターの価値観・個性を反映して回答するのが特徴です。さらに、回答は定量的な集計のみならず、定性的な自由回答も得られます。

 デジタルクローン・アンケートシステムの活用イメージ

デジタルクローン・アンケートシステムの活用により、以下のようなことが可能になると見込まれています。

1. 番組の企画段階で、出演者などの情報をもとに視聴者の評価を予測し、番組制作に反映させる。

2. デジタルクローンを大量に生成することで、たとえばTikTok好きな女性、あるいはサブスクに加入している若年層など、これまでは調査が難しかった詳細なターゲットの反応を確認する。

3. たとえば、番組に高い評価をした、あるいは視聴意向が低いと回答したなど、一定の回答をしたデジタルクローンに対して、評価の理由や視聴した感想などを追加で質問し、結果を深堀する。

デジタルクローンへの調査は実際の人間に対する調査と比較して、時間やコストを抑えることが可能です。また、クローンは個人情報を保持しないため、プライバシー保護の課題もクリアできます。

 リサーチ4.0を支える技術ディープラーニング

リサーチ4.0を支えるのはAIの技術であるディープラーニングです。ここではディープラーニングの概要と、リサーチ4.0への応用を見てみましょう。

 ディープラーニングとは?

ディープラーニングとはAIで用いられる技術です。文字や顔などの特徴を認識・抽出する画像認識、人間の声を認識する音声認識、書き言葉や話し言葉を理解する自然言語処理などに用いられます。膨大な数のデータを学習させることにより、コンピュータが人間の力なしで自動的にデータの特徴を抽出します。認識精度は場合によっては、人間の能力を超えるほどになることもあります。

 ディープラーニングの仕組み

グラフ, バブル チャート

自動的に生成された説明(画像出典:LeapMind『ディープラーニング(Deep Learning)とは?【入門編】』)

ディープラーニングの基礎となっている仕組みは、人間の脳神経回路(ニューロン)をモデルとしたニューラルネットワークです。ニューラルネットワークは、入力された情報を中間層において処理して出力します。

従来のニューラルネットワークでは、この中間層が1~3程度だったのに対し、ディープラーニングで利用されるニューラルネットワークは150もの中間層を持つものもあります。中間層が大幅に増えたことにより、ニューラルネットワークは自動的に特徴量を抽出するようになり、以前のような手作業での特徴抽出は必要なくなりました。

ニューラルネットワークは学習によりデジタルクローンを生成

前述のデジタルクローン生成では、人物のLife logを学習させることにより、ニューラルネットワークが人物の特徴を自動的に抽出していきます。繰り返し学習することで、抽出される特徴は精密になっていきます。やがて十分な量のLife logが学習されると、ある質問をニューラルネットワークに入力したときの出力と、その人物の実際の回答との見分けがつかなくなるというわけです。

まとめ

デジタルクローンを用いてマーケティングリサーチを行う『リサーチ4.0』。茂木 健一郎氏のような高度な専門知識を持つ人の思考や価値観の再現も可能となるデジタルクローンの活用で、番組企画段階でのリサーチ、詳細なターゲットの反応確認、結果の深堀などができるようになると見込まれます。

リサーチ4.0を支えるAI技術はディープラーニングです。コンピュータの性能がこれからますます向上していくのに伴って、AI技術のマーケティングリサーチへの活用も、さらに幅広く行われていくのではないでしょうか。

関連記事

コンテンツマーケティングで、
ビジネスの効果を最大化しませんか?

もっと詳しく知りたい方

ご質問・ご相談したい方