DXの実現が日本の未来を左右する~経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とは?~

公開日:2020-11-24 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

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it-crisis-2025_12025年までに既存システムの課題を解決し、業務自体の見直しを行わなければ、デジタルトランスフォーメーション(DX)が実現できないばかりか、年間で12兆円の経済損失が生まれる─。経済産業省は2018年9月に公表した「DXレポート」において、既存システムの老朽化がもたらす最悪の将来シナリオを「2025年の崖」と呼び、早期のシステム刷新に向けた経営判断を呼びかけました。そこで今回はDXレポートを読み解きながら、「2025年の崖」を克服する方法について考えてみたいと思います。

DXの足を引っ張るシステムの老朽化、ブラックボックス化

DXレポートでは、「あらゆる産業において、新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起きつつある。各企業は、競争力維持・強化のために、DXをスピーディーに進めていくことが求められている」と警鐘を鳴らしています。それに対して、多くの経営者はDXの必要性は認識しているものの、具体的な方向性をいまだに見いだせていないのが現状です。経営者がビジネスをどのように変えるか明確な指示を出さないまま、「AIを使って何かできないか」といった漠然とした指示だけが現場に降りてきて、PoC(概念実証)が繰り返されるばかりで、実際のビジネス変革につながらないケースが多いという指摘もあります。
DXを本格的に展開していく上では、ビジネスをどう変えるかといった経営戦略の方向性を定めていく課題もありますが、既存システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化している限りは、最新のデジタル技術を導入したとしても、データの利活用ができません。現在、日本の企業のあらゆる基幹系システムが老朽化しています。2018年時点で、21年以上稼働し続けている基幹系システムは全体の約2割ですが、2025年には全体の6割になると予測されています。また、システムのマイナーチェンジを繰り返してきた結果、開発者でさえ理解できないほどブラックボックス化が進んでしまっていることも大きな問題点です。

2025年にはIT人材が約43万人不足する

こうした現状には、いくつかの背景があります。まず、日本ではシステムを使うユーザー企業より、ベンダー企業にITエンジニアが多く所属しているという実態です。結果として、システムをベンダー企業に開発してもらうケースが多くなり、そのノウハウはユーザー企業側には蓄積されません。さらに、システムを開発した担当者の転職や定年退職によって、属人的なノウハウが失われることも多くあります。しかし、システムがブラックボックス化していても、安定的に稼働している限りは大きな問題とならないため、ユーザー企業は原因の解明や新たな構築の検討を後回しにしてしまい、結果として何も手を付けないまま時間が経過してしまっているケースもあります。
もう1つは人材の問題です。2015年の段階でも、すでにIT人材が約17万人不足しているとされてきた状況は悪化の一途をたどり、2025年にはこの数が約43万人まで拡大することが予測されています。そこに拍車をかけるのが、老朽化したシステムの運用・保守ができる人材がリタイアによって枯渇していくことです。最先端の技術を学んだ若い人材にレガシーシステムの運用を任せようとしても、先のないシステムのお守りを押しつけられたら離職するのも当たり前で、先端技術を担う人材の育成と活用が進まなくなるのは明らかです。

日本企業のIT関連予算の80%は守りの投資

DXの推進には、攻めの投資に重点を置く必要がありますが、日本企業ではIT関連予算の80%が現行ビジネスの維持・運営といった守りの投資に割り当てられている実態があります。結果として、新たな付加価値を生み出すための戦略的なIT投資に資金や人材を振り向けることができていません。
基幹系システムの維持といった観点では、グローバルで高いシュアを誇るSAP ERPの「2025年(2027年)問題」がよく知られています。SAP社は2015年に次世代バージョンのSAP S/4HANAをリリースし、2025年に現行のSAP ERPの保守サポートを終了すると発表しました。その後、保守サポートの期限を2027年まで2年間延長することを決まり、若干の猶予が生まれたものの、現在SAP ERPを導入している企業はSAP S/4HANAに移行するか、別のシステムに乗り換えるか、基幹系システムの見直しを迫られています。
以上のように、現状の課題が克服されないまま2025年を迎えた時に起こる課題をDXレポートでは「2025年の崖」と呼んでいます。では、「2025年の崖」をそのまま放置すればどうなるのか。これについてDXレポートでは、「爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者になる」「多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる」「サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクが高まる」と予測しています。ベンダーにとっても最先端のデジタル技術を担う人材が確保できない、レガシーシステムを運用保守する受託型業務から脱却できないなどの課題が浮き彫りになり、世界の市場からは取り残されていくことになります。

「2025年の崖」の克服を支援する「DX推進ガイドライン」と「DX推進指標」

それでは、「2025年の崖」を克服するためには、どうすればよいでしょうか。このカギを握るのは、やはりDXの推進です。経済産業省では、2025年までにDXを推進することで、2030年に実質GDPを130兆円超に押し上げる「DX実現シナリオ」を描いています。このシナリオでは、2020年までをデジタル技術の活用による新たなビジネスモデルの創出を検討する先行実施期間と位置付けました。2021年~2025年までをシステム刷新集中期間(DXファースト期間)と定めて、業種・企業ごとの特性に応じた形でレガシーシステムの刷新を断行していくことを提案しています。
DXを推し進めることで期待される効果・展望として、DXレポートでは「IT予算に占める保守運用と価値向上の比率が、現在の8:2から6:4に変化し、GDPに占めるIT投資額が1.5倍に向上する」「サービス追加やリリースに作業にかかる時間が現在の数カ月から数日間に短縮する」「IT人材分布比率(ユーザー:ベンダー)が現在の3:7から欧州並みの5:5に変化する」「IT人材の平均年収が現在の約600万円から2倍程度(米国並み)に増加する」としています。
またDXを推進する対応策としては、ITシステムを構築していくうえでのアプローチや失敗の典型パターンを示した「DX推進ガイドライン」を策定し、ユーザー企業・ベンダー企業などで共有しながら諸課題に対応していくシナリオを描いています。具体的には「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」の2つから構成されています。経営の観点では経営戦略・ビジョンの提示や経営トップのコミットメントなど5つの項目、ITの観点では体制、ガバナンス、変化への追従力など6つの項目を定めています。
DXレポートの発表から約1年後の2019年7月には、企業がDX推進の到達度を自己判定できるように「デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)」をまとめています。DX推進指標は、「DX推進のための枠組み(経営のあり方や社内体制)」と「ITシステム構築の枠組み」の2つで構成され、それぞれで定性指標と定量指標の項目が設定されています。企業はそれらの指標に合わせてチェックし、自社の現状を把握しながらDXを進めることになります。

DXの推進から課題解決型社会である「Society5.0」へ

ここまで紹介してきたように、日本企業が「2025年の崖」を乗り越えていくカギは、早期にシステム刷新を実現し、DXを実行することにあります。政府としては、サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)を実現する「Society5.0」に向けて、さまざまな施策に取り組んでいます。Society5.0に必要な技術が、AIやIoT、ビッグデータ、クラウドなどであり、個々の企業がDXを着実に実行していくことが結果として、Society5.0につながっていきます。
2020年9月に誕生した新内閣は、民間より遅れている行政のDXを牽引する「デジタル庁」の創設に向けた動きを本格化し、2025年までに自治体間で異なる業務システムを統合する考えを明らかにしました。デジタル化の促進に必要とされるマイナンバーカードについても、2022年度末までにほぼすべての国民に普及させるための対策を講じるとのことです。
日本の企業がDXを成し遂げていくための課題は広範囲にわたりますが、具体的な施策に向けたアクションは確実に現れています。DXを通じて各企業が継続的に新たなビジネスモデルを生み出すようになることと同時に、課題解決型社会であるSociety5.0の実現にもますます大きな期待がかけられています。

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