パーパス経営 ~ニューノーマルの世界で成長を持続するための新たな経営モデル~

公開日:2022-06-14 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

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日本の企業経営は今、大きな転換期を迎えています。優れた品質の製品を開発し、巧みなマーケティング戦略と組み合わせることで大きな利益を獲得できた時代はすでに過去のものとなり、現在の消費者は製品やサービスの購入に際して、その品質や価格だけではく、販売する企業がどのような理念を持ち、自らの価値観に応えてくれるかを基準に判断するようになってきました。

こうしたなか、「パーパス経営」という次世代の経営モデルが大きな注目を集めています。本記事では、企業が自らの存在意義を明確に定義し、社会の発展に貢献していくパーパス経営が重視されるようになった背景を整理しながら、そこから生まれる価値、またパーパス経営の中でITがどのような役割を担うのかについても考えてみたいと思います。

未来に向けた成長の羅針盤としての「パーパス」

人口減少社会の到来、慢性化する需要の飽和などが指摘され、またここ数年はコロナ禍というかつてない環境下での経営を余儀なくされる企業にとって、自社の未来を考える上での最優先の課題は、製品やサービスの販売競争に勝ち続けることではありません。コロナ禍に限らずさまざまな環境変化がもたらすニューノーマルは、多くの消費者、ひいては社会全体の価値観を大きく変容し、もはやこれまでの競争原理は通用しなくなっています。

とくにバブル景気を知らないミレニアル世代(1980年から1995年の間に生まれた世代)の消費者は、たとえ製品やサービスの価格が割高であっても、自らの価値観を共有できる企業に対して高いロイヤルティを示すようになっています。さらに、彼らの多くは消費者であると同時に、さまざまな企業で働く従業員でもあります。つまり、彼らの価値観にどのように応えていくかは、企業と従業員のエンゲージメントにおいても大きな意味を持っているということです。

こうしたなか、ニューノーマルの世界で成長を持続するための新たな経営モデルとして、大きな関心を集めているのが「パーパス経営」です。自社の社会的な存在意義を「パーパス」として再定義し、製品やサービスの提供にとどまらず、多様な視点で社会の発展に貢献していくパーパス経営は、未来に向けた企業活動の行動指針、羅針盤として欠かせないものとなっています。

企業が掲げる目標という意味では「ビジョン」という言葉もよく耳にしますが、これは「パーパス」とはそもそもの意味が異なります。なぜなら、「ビジョン」は企業が目指す未来の姿であるのに対し、「パーパス」は自らの組織が立脚している(あるいはこれまで立脚してきた)根源的な価値であるからです。その意味で、「ビジョン」は自らの存在意義を定義した「パーパス」があって、はじめて成り立つものだといえます。

パーパス経営が日本の産業界を再び成長軌道に導く

バブル経済の崩壊以降、総じて日本の産業は30年以上にわたって停滞を続けてきたといわれています。その間、外資系企業の日本市場への進出が加速し、IT企業をはじめとする多くの日本企業は海外勢の後塵を拝しているのが現状です。プラットフォーマーと呼ばれるAmazonやGoogleといった海外の成功企業の多くは、自らのパーパスを積極的に発信し、消費者のロイヤルティを高めていくことを成長の原動力としており、ここでもパーパスが持続的な成長を支える重要な指標であることが示されています。

では、企業経営においてパーパスがこれほどまでに重視されるようになった背景には、どのような社会の変化があるのでしょうか。以下で簡単に整理してみることにします。

1. 若い消費者層や従業員の価値観の変化

すでに触れたとおり、ミレニアル世代を中心とした若い消費者層は、製品・サービスの品質や価格だけでなく、これらを提供する企業がいかに地球環境や消費者の健康へ配慮しているかといった点を重視して、購入の判断を行うようになっています。

また、彼らは自らが働く企業を選択する際も、報酬だけでなく、ワークライフバランス、キャリアアップを支援する学びの機会が提供されているかといった点に重きを置くようになってきています。

2.SDGsなど企業に求められる社会的責任

世界の産業界にパーパス経営の理念が広まったきっかけとして見逃せないのが、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)です。サステナブルな地球環境を実現するための世界目標であるSDGsでは、2030年までに達成すべき17の目標として、企業が主体的に取り組まなければならない多くの課題が掲げられています。

こうした世界的な気運の高まりが企業にもたらす影響は大きく、パーパス経営を積極的に推進する企業の多くは、その理念の中で必ずといっていいほど、地球や社会のサステナビリティについて言及しています。

3.パーパス経営を支えるデジタル環境の成熟

パーパス経営を支える基盤として、大きな役割が期待されているのがデジタルテクノロジーです。ITを活用した経営の可視化、業務変革の推進といった目標は、これまでも多くの企業が掲げてきました。しかし、これまでのITはどうしても情報共有の手段、個々の業務の支援ツールとしての域を脱することができず、業務の効率化ばかりが優先されてきた面が否めません。

しかし、アナリティクスやAI、機械学習に代表される昨今の高度なデジタルテクノロジーの登場によって、パーパス経営とデジタルテクノロジーの融合に向けた環境はますます成熟しつつあります。

たとえば、SDGsやESGの取り組みの成果をデジタルで測定し、自社が推進するパーパス経営の価値を広く市場に発信することで、ステークホルダーからの評価を高めていくことができます。そのため、パーパスを軸とした経営モデルの変革に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、多くの企業の共通課題となっています。

パーパス経営が企業にもたらす価値

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次に、自らの存在意義に立脚したパーパス経営は、企業にどのような成果をもたらすのでしょうか。主な点としては、以下が挙げられます。

1.消費者やステークホルダーからの共感

持続的な社会の発展に貢献する独自のパーパスの発信によって、これまで接点のなかった多くの消費者、またステークホルダーからの共感を引き出すことができます。最近はSDGsや地域社会への貢献といった観点で自社のパーパスをアピールする企業が増えていますが、こうしたパーパスはサプライチェーンネットワーク上のさまざまなパートナーとの長期的な信頼関係を構築する上でも重要な意味を持っています。

2.従業員とのエンゲージメントの向上

パーパスは従業員とのエンゲージメントの構築においても重要な意味を持ちます。企業の持続的な成長を支えるパーパスは、従業員の働くモチベーションを高め、離職率の低下、ひいては組織力の強化につながります。また、新たな人材の獲得においても、パーパスが未来を創造する若手層にとって魅力的なメッセージになることはいうまでもありません。

3.独自の価値に基づく企業ブランドの向上

パーパスとは、ターゲットに応じた個別のメッセージではなく、自社がそれまでの事業で築き上げてきた実績に基づく価値を定義したものです。最近聞かれるようになった「パーパスブランディング」という手法も、この社会的な存在意義を通じて、自社ブランドへの永続的なロイヤルティを高めていこうとするものです。一過性のトレンドに左右されることなく、自社の事業価値を独自のパーパスとして発信することで、ブランド力を着実に向上していくことができます。

長期的な視点で非財務指標を利益に転換

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最後に、パーパス経営におけるパーパスは基本的には非財務指標として位置づけられ、利益を獲得するための手段ではありません。とはいえ、コロナ禍の中で企業の存在意義が改めて問われている現状を踏まえると、短期的な利益の獲得に固執するのではなく、長期的な視点で消費者からの信頼を獲得していかなければ、成長は見えてきません。

つまり、これからの時代の企業経営において、パーパスと利益の追求は矛盾するものではなく、むしろ区別することのできない密接な関係にあるといえます。あらゆる業界の企業は、パーパスと利益を両立できる未来の創造に向けて、すぐにでも既存の経営モデルの変革に取り組まなければならない段階を迎えていることは間違いありません。

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