小売業界のRaaSとは?注目の理由や導入メリット・成功事例を紹介

公開日:2022-06-29 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

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近年、新型コロナウイルスの影響により消費者のECサイト利用が急増しています。多くの小売店にビジネスモデルの変革が求められる今、中小規模の小売企業から注目を集めるのが「RaaS」です。 本記事では、RaaSの概要や注目を集める理由、メリットや成功事例について解説します。

RaaSとは?

RaaSとは、「Retail as a Service」の略称で「小売のサービス化」を意味します。革新的な小売りの仕組みを持つ小売企業がIT企業と協業し、ほかの小売企業へ「仕組みをサービス提供する」ビジネスモデルのことです。

従来の小売企業は、自社で販売・運用ノウハウを確立し、店舗の設計や運営を自社で行っていました。店舗で使うシステムは開発会社に外注し、必要なIT機器を準備して、従業員の管理などを行う形が一般的です。

一方RaaSでは、この一連の仕組みをパッケージ化し、ほかの小売企業へ提供します。先進的な小売企業が持つナレッジとIT企業の持つテクノロジーを掛け合わせ、共通課題を持つ小売企業に対し「パッケージサービス」として提供する取り組みです。

RaaSの提供範囲は、サービス提供企業によってさまざまです。サービス提供企業が保有する自社システムを提供するケースもあれば、サービスに必要なインフラに加え「人」も含めて提供するケースもあります。

なぜ、RaaSが注目されるのか

なぜ今RaaSが注目されているのでしょうか。RaaSが注目される理由として、以下の点が挙げられます。

購買手段・購買経路の多様化

これまでの買い物の方法は「店舗に行き商品を選んで買う」といった、シンプルな行動でした。しかし近年、消費者の買い物スタイルや販売チャネルは多様化しています。

楽天やAmazonを始めとするECサイトが続々と登場し、メルカリに代表されるフリマアプリを使った「個人間取引サービス」が普及。また動画配信サービスNetflixなど、毎月一定料金を支払いサービス利用する「サブスクリプションサービス」が世の中に浸透しました。

多くの選択肢から「自分の好みに合う購買手段」を消費者が選べる時代になり、小売企業は複数の購買手段の対応に迫られています。そこでRaaSを利用することで、資金力やノウハウが乏しい小売企業でも、多様化する購買手段に対する仕組みを容易に導入できるのです。急速に変化する購買環境に対して、柔軟な対応が可能になります。

消費者行動の変化

RaaSが注目される背景には、購買手段の多様化に加え、消費者の行動変化も関係しています。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、人々の感染防止の意識が向上し、実店舗で買い物をする際は「非接触」が好まれるようになりました。現金での支払いは減少し、電子マネーなどのキャッシュレス決済が浸透。また、セルフレジも積極的に活用されています。

全ての小売企業がこれらニーズを満たすシステムを開発し、スピーディーに対応するのは容易ではありません。しかしRaaSを利用することで、小売りのDX化(デジタル・トランスフォーメーション)に成功した、先進的な小売企業が保有するシステムやノウハウを自社でも適用でき、対応が可能になります。

RaaSのメリット

raas2中小規模の小売企業にメリットの大きいRaaSですが、サービス提供する先進的な企業側にもメリットがあります。以下にRaaSの利用メリットを紹介します。

低コスト、低リスクで最新技術を利用できる

RaaSでは、すでに成功を収めている小売企業が開発した「効果実証済みのシステム」を低コストで利用可能です。先端テクノロジーを駆使したサービス開発は、多大な開発コストと投資リスクを伴います。RaaSを利用することで、コストとリスクを極力抑えつつ、新たなビジネスの仕組みを導入できます。

また、導入したRaaSのシステムが古くなったり不必要になったりした場合も、サービスの変更や停止、利用終了が容易です。課金制のため、必要なときに必要なだけ利用できる点がRaaSのメリットです。

顧客の行動を分析できる

サービス提供する小売企業が蓄積したデータやナレッジと、IT企業の技術を掛け合わせることで、高度な顧客の行動分析が可能です。

行動分析の例として、店内に設置したカメラで顧客の店内行動を分析し、適切な商品配置や店内レイアウトをAIが導き出します。また、顧客の購入動向をリアルタイムで捉え、販売予測によって在庫を最適化し、無駄な消費ロスを無くすことも可能です。

詳細な顧客の行動データは、新たなプロダクト開発や精度の高いマーケティング施策の実行にも役立ちます。

新たな収益源の確保や新しいビジネスの創出につながる

RaaSは、サービスを利用する企業側にメリットがあるだけでなく、サービスを提供する企業側にもメリットがあります。

サービスを提供する企業側は、自社開発したRaaSの利用者が増えれば増えるほど自社の収益が向上します。また、普及が進むことで利用データのサンプル数が多くなるため、自社だけでは気が付かなかった課題や特徴の発見にもつながるでしょう。 さらに、サービス提供を通じた新たな発見が新規ビジネス創出の種となり、企業の可能性を広げる機会にもなります。

このようにRaaSは、提供企業にとって新たな収益源となるほか、新たなビジネス創出につながることがメリットです。

RaaSの成功事例

raas3小売業界では、RaaSを利用してどのような小売革命が起きているのでしょうか。ここではRaaSの成功事例を紹介します。

商品体験の場を提供する「b8ta」

サンフランシスコ発のベンチャー企業「b8ta(ベータ)」は、店舗で商品を販売するのではなく、来店者に商品体験してもらう場を提供する「RaaSサービス企業」です。日本でも2020年8月から、新宿や有楽町などでサービスを展開しています。

b8taが提供するのは店舗スペースのほか、店舗運営に必要なスタッフ、来店者の動きを店内カメラで撮影したマーケティングデータなどです。店舗の売上とともに、顧客にマーケティングデータを提供するビジネスモデルといえます。

サービス利用企業は、b8taが保有する一等地店舗のスペースを月額固定料金でレンタルし、来店者に自社商品を体験してもらう場を所有することが可能です。小売店に販売経路を持っておらず、ユーザーに商品体験の場所を提供しづらい新興メーカーなどから、注目を集めています。

移動型ポップアップ・ショップ「by REVEAL」

b8taと同様に、顧客体験を提供する店舗として注目を集めるのが「by REVEAL(バイリビール)」です。by REVEALは、小規模で移動可能なポップアップストア(期間限定型店舗) をRaaSサービスとして提供しています。

by REVEALのおもな特徴は、顧客が欲しいときに、欲しい場所でショッピング体験を提供する利便性です。たとえば展示会やパーティーなどのイベントや人の集まる場所に、簡単に店舗を出店し、商品を手に取ってもらったり体験してもらったりすることができます。

また、by REVEAL のビジネスはインテル社がサポートしており、提供サービスには最新のテクノロジーを活用。顧客が商品を手に取り、ショッピングを楽しむ様子をリアルタイムで確認することが可能です。さらに、顧客の感情の動きや売れ筋商品を分析する機能も備わっています。

大手食品スーパー「Kroger」

米国小売企業の「Kroger(クローガー)」は、アメリカの35州に約2,800のスーパーマーケットを展開する企業です。Microsoft社が提供する「Microsoft Azure」を活用し、電子ディスプレイ棚「Kroger EDGE Shelf」を開発しています。

「Kroger EDGE Shelf 」は、電子タグによる商品管理システムを用いた「無人レジ」です。利用方法は、ユーザーが棚にある商品のバーコードをスマホアプリで読み込みます。買い物終了後に無人レジで支払うことで、商品の購入が可能です。 また、店内に設置されたカメラで、買い物客の属性や行動、登録済みの顧客データや購買履歴をAIが分析。買い物中に、顧客一人ひとりの特性に合った電子POPを表示するなど、これまでにない新しい購買体験を提供しています。

この無人レジシステム「Kroger EDGE Shelf 」は、自社利用だけでなくRaaSサービスとして商品化し、ほかの小売企業に販売しています。日本国内ではKrogerと大日本印刷株式会社が協業し、「デジタルシェルフ」という名称で実証実験中です。2019年には株式会社丸善ジュンク堂書店に試験導入され、大きな話題となりました。

世界最大のEC企業「Amazon」

世界最大のEC企業「Amazon」は、RaaSサービスの一環として「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」を展開しています。Amazon Goは、レジ無しで購入から決済まで可能な「無人コンビニ」のような店舗です。

買い物客が入店後、商品棚から商品を取ると、店内に配備されたAIカメラが商品の動きを認識。買い物客が商品を持って店を出ると同時に、専用アプリを通じて自動的にAmazonアカウントで代金清算される仕組みです。
最新のデジタル技術を駆使し、小売業の常識を覆す顧客体験を実現したことで、RaaSの成功事例として大きな話題を集めました。

Amazonは、このAmazon Goのレジ無し決済システムを「Just Walk Out Technology(ジャスト・ウォークアウトテクノロジー)」と命名し、サービス化。2020年3月から、小売企業向けにサービス販売することを発表しています。

小売業とRaaSの未来

what-is-marketing-channel1RaaSは、小売企業がIT企業と協業してサービスを開発し、サービス提供者となる新しいビジネスモデルです。今後、先進的な小売企業とIT企業がより結びつきを強化し、成功事例で紹介したb8taやby REVEAL、Krogerのような、新たなRaaSサービスが続々と誕生するでしょう。その結果、小売業の事業形態はさらに多様化していくことが予想されます。

またRaaSの発展に伴い、リアル店舗では流通業者を通さずメーカーが直接販売する「D2C(Direct to Consumer)」が加速していくでしょう。b8taの事例のように「商品を体験してもらう場所」を提供するRaaS企業が増えることで、メーカーは実店舗を持たなくても広告やプロモーションの機会を確保できます。

スマートフォンなどで誰もがいつでも簡単に買い物が楽しめる今、単に商品を販売するだけではなく「体験を販売する」ことがより重視されています。リアル店舗でどんな情報を伝え、どんな体験を提供するのかを意識すること、顧客一人ひとりの嗜好を捉えた新たな顧客体験の場を提供することが、今後は必要になるでしょう。

まとめ

今回は、RaaSについて紹介しました。RaaSの背景には、消費者の購買変化や多様化に迅速に対応するため、既に確立された仕組みを活用したほうが競争優位性をいち早く確立できるという考えがあります。

小売企業が競争優位性を確保するには、消費者ニーズの変化にいち早く対応し、テクノロジーを駆使して業務を柔軟に組み替える「DX(デジタル・トランスフォーメーション) 」の取り組みが不可欠です。

RaaSは、限られたIT予算やIT人材の課題を解決し、小売業のDXを推進する有効な手段になり得ます。今後、RaaSビジネスモデルの有効性が実証されることで、小売業界のDX推進とともに、RaaSを活用したリアル店舗やサービスがますます増えていくでしょう。

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