市民と行政が一体となったデジタルプラットフォームの構築

公開日:2020-11-24 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

digital-government_1新たな内閣が誕生し、新型コロナウイルス対策と並行して、急務の課題として掲げられているのが「デジタル庁」の創設です。広範な行政手続きのデジタル化という国家全体のテーマを担うこの組織は、早ければ来年にもスタートするという報道もあるだけに、新内閣の肝いりの施策として大きな関心が集まっています。

コロナ禍で明らかになったデジタル後進国の日本の現状

行政手続きのデジタル化と聞いてすぐに思い出されるのが、コロナ禍を乗り切るための生活支援策として打ち出された10万円の特別定額給付金をめぐる混乱です。この手続きに関しては、必要な書類を揃えて郵送で申請するか、マイナンバーカードを使ってオンライン申請するかのいずれかの方法がありましたが、オンライン申請は短期間のうちにアクセスが集中したこともあってシステムトラブルが多発し、その結果、各地の自治体の問い合わせ窓口に人が殺到して、「三密」の状態が生まれるなどの大混乱が生じました。
すでに半年間以上におよぶコロナ禍の中では、この他にも学校に通えない児童・生徒にリモートで授業を実施するためのインフラや、在宅で医療サービスを受けるためのオンライン診療体制の不備など、デジタル化の後れによるさまざまな日本の社会課題が明らかになりました。
国連の経済社会局(UNDESA)が2020年7月に発表した「世界電子政府ランキング」(国連に加盟している193カ国が対象)では、日本は14位にランキングされています(前回の2018年のランキングからは4位後退)。この順位だけをみると、日本のデジタル化は世界の中でも比較的進んでいるようにみえなくはないですが、コロナ禍における混乱ぶりをみるかぎり、人々が安心して暮らせる社会の実現に向けた日本のデジタル活用はまだまだなのが現状です。

「e-Japan戦略」後も拡大する世界とのデジタル格差

政府が発表した方針によると、行政手続きのデジタル化の牽引役となる「デジタル庁」を2021年秋までに新設し、現行のマイナンバーカードに健康保険証や運転免許証の機能も集約することで、何かの手続きのたびに申請者が最寄りの行政機関に行かなくていい環境を整備するなど、デジタル化を加速させるとしています。
しかし、2016年から運用がスタートしたマイナンバーカードの普及率がいまだに20%にも満たない状況をみてもわかる通り、日本においてこうした宣言が看板倒れになってしまった過去があることも忘れてはいけません。そのわかりやすい例が、2001年に日本政府が国家規模の施策として掲げた「e-Japan戦略」です。ITで世界をリードする新たな国家像が打ち出されたこの戦略の中では、「5年以内(2005 年)に日本は世界でも最先端の IT 国家となる」という方針が盛り込まれ、ここには多くの行政手続きをデジタル化する施策も含まれていましたが、コロナ禍の給付金をめぐる混乱をみるかぎり、この目標はまだ実現されていません。
企業のビジネスの観点でみても、2000年にAmazonの日本語サイトがオープンしたのを皮切りに、その後もGoogleやAppleといった先進的なIT企業が次々と新製品やサービスを世界に向けて発表し、現在もクラウドやSNSを活用したプラットフォームビジネスで世界経済を牽引するプレゼンスを確立していることは、あらためて説明するまでもありません。日本においてもさまざまな企業が新たなECサイトを立ち上げるなど、世界の勝ち組企業を追随するものの、この20年近くの間、新たなビジネス領域においては常に外資系企業の後塵を拝し、国際競争力の点で大きく水をあけられています。

すべての市民と地方が参画する新たなデジタルプラットフォーム

こうした歴史的な経緯をみても、新内閣が掲げる「デジタル庁」に関連する施策は、まさにその実行力いかんにかかっているということです。では、2021年にも新設される「デジタル庁」には、一体どのような役割が期待されているのでしょうか。以下で、その主なポイントを整理してみたいと思います。

すべての行政分野を横断した組織の確立

新たに創設される「デジタル庁」は、従来の省庁、行政機関のような縦割り型組織の1つであっていけません。また、政府直轄のシステム子会社のようなものでもなく、すべての行政分野を横断して、横串で機能する組織でなければ意味がありません。日本においては、たとえば企業が導入すると統合基幹システム(ERP)をみても、個々の業務の利便性に応えようとするあまり、次々とカスタマイズが加えられ、特定の目的だけに特化した個別最適になりがちです。「デジタル庁」が目指す行政サービスの効率化、スピード化においても、各省庁の用途に応じてプラットフォームがサイロ化すると、市民サービスのレベルはすぐに低下し、デジタルガバメントのガラパゴス化に行き着いてしまうことは想像に難くありません。こうしたことにならないためには、行政のデジタル化を牽引するリーダーシップを明確に定義し、すべての行政分野を俯瞰した取り組みが求められます。

「市民ファースト」なデジタルプラットフォーム

しばしば混同されがちですが、「デジタル庁」に期待されているのは、単なる行政事務の効率化ではありません。紙の書類がデジタル化する、検索性が高まるといったように、行政職員側だけの利便性が高まり、デジタル化がもたらす成果が市民サービスに還元されないようでは、この取り組みは成功したとは言えません。そうならないためには、最新のデジタルテクノロジーを活用して行政とすべての市民がつながるためのプラットフォームの構築が不可欠です。
ここでは、コロナ禍における給付金申請のような煩雑な手続き、システムトラブルの排除はもちろんのこと、特定なデバイスに依存しないチャットボット、AIロボット、リスニングデバイスといったテクノロジーを駆使して、働く人、子育てに奮闘する人、就学中の子ども・学生、高齢者など、さまざまな立場の人たちとのデジタルデバイドを解消する「市民ファースト」なプラットフォームの構築が求められます。こうしたプラットフォームが具体化してくれば、地域の学校や医療機関も参画して、市民生活を広範にサポートするエコシステムが誕生することも夢でありません。

デジタル化をリードする人材の育成

コロナ禍における失業率の高まりを受けて、欧米ではデジタル人材を育てる再教育に対する公的支援が広がっています。この人材育成に関する課題は、日本の行政のデジタル化にも同様に当てはまることです。
これまでの日本における業務の見直しといえば、どうしてもコスト削減や目の前の業務の効率化ばかりに目が行きがちでした。しかし、すべての行政サービスのデジタル化を目指す上では、既存の業務プロセスの再構築はもちろんのこと、市民との接点やコミュニケーションの手法などを抜本的に見直しいくことになります。さらに、デジタルプラットフォームを活用した地方創生などにおいては、これまでは関わりのなかったステークホルダーが参画してくることも考えられます。
すでにふれたように行政側の視点に固執したデジタル化では、いずれ破綻の憂き目に遭うことは明らかです。それだけに新たに創設されるデジタル庁においては、未来の社会を俯瞰的な視点で創造できるデザイン思考を備えた人材が不可欠です。政府には、既存の人材の意識改革、再教育、リスキリングも含めて、前例にとらわれず幅広い分野から新たな人材を登用していくことが求められます。

この他にも行政サービスのデジタル化においては、地方自治体との連携(プラットフォームの統一)、個人情報の保護を含めたセキュリティ、デジタルデバイドを生じさせないための啓蒙活動など、さまざまな課題があります。とはいえ、新型コロナウイルス感染症がもたらした未曽有の事態が、こうした取り組みのドライバーとなっている側面もあるだけに、ニューノーマルをデジタル化の追い風と捉えて、できるだけ早い段階で未来社会のグランドデザインが市民と共有されることが大いに期待されます。

関連記事

コンテンツマーケティングで、
ビジネスの効果を最大化しませんか?

もっと詳しく知りたい方

ご質問・ご相談したい方