MidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIに、衝撃を受けた人も多いのではないでしょうか。「創造力が必要となるためAIには難しい」と考えられていたクリエイティブ制作は、近年では実用的なレベルに達しています。
この記事では、広告クリエイティブ制作についてのAIの活用状況を紹介します。「クリエイティブ制作にAIをどのように取り入れたら良いのか」と考えている方は、ぜひ参考にしてください。
AIによる広告クリエイティブ制作のトレンド
国内では、電通が2020年に「データドリブン・クリエーティブ・センター」を発足させました。そんな電通を筆頭に、広告クリエイティブ制作でのAIの活用が進んでいます。AIコピーライターやバナー自動生成ツール、クリエイター向けのAIツールなど複数の製品が発表され、すでに実用の段階に入っています。
具体的には、以下のようなAIツールが注目を集めています。
- 電通による広告クリエイティブ制作ツール(コピーやバナーの自動生成など)
- サイバーエージェントの広告効果予測AI「極予測AI」
- 感性価値分析・訴求力向上を実現する「感性AI」
- AIが画像・動画の編集加工・素材生成を行う「cre8tiveAI」
これらのAIツールについて、以下で概要を紹介していきます。
電通による広告クリエイティブ制作ツール
最初に、AIによる広告クリエイティブ制作に積極的に取り組む、電通のAIツールを見ていきましょう。
コピーの自動生成「Direct AICO」
「Direct AICO」はバナー広告やリスティング広告など、デジタル領域での広告コピーをAIが生成するシステムです。デジタル広告は、さまざまなパターンの広告を出稿でき、また得られたデータのリアルタイムでの解析が可能なため、AIによるコピー生成が効果を発揮しやすいといわれています。
過去の運用実績に基づいてコピーを生成するDirect AICOの活用により、クリック率を予測したうえでの広告運用が可能です。人間が作成したコピーよりもクリック率が高くなることが、リスティング広告の事前検証で実証されました。
また、短期間に多くのバリエーションのコピーを制作しなければならないデジタル広告において、Direct AICOが制作者の業務負荷を緩和し、作業時間の大幅な削減に貢献することも明らかになっています。
バナー広告の自動生成「ADVANCED CREATIVE MAKER」
「ADVANCED CREATIVE MAKER(ACM)」は、バナー広告の配信候補を大量に自動生成するクリエイティブ制作支援ツールです。1枚のバナー広告を1秒以内で生成でき、1,000枚以上のバナー広告の候補を生成して、そのなかから特に優れた10~20案を利用することが想定されています。
ACMがバナーを自動生成する流れは以下の通りです。
- オリエン情報の入力
業種やキーワード、訴求軸、商品情報、ロゴデータなどのオリエン情報を入力する - Direct AICOとの連携、コピー生成
コピーを上述のDirect AICOが生成する - 候補バナーの大量生成
自動生成システムがバナーのデザインを大量に組み上げる - AIによるCTR予測、選別
CTR予測と、搭載される「AIアートディレクター」による評価を行い、候補を絞り込む - 完成
最終的に人間のクリエイターが確認し、最も優れた案を採用する
ACMの利用により、速く、大量に作れるようになります。また、必ずしもクリエイターが関与する必要がない工程をACMが支援することで、クリエイターはよりアイディアや表現に注力できるようになり、クリエイターの働き方改善にも寄与できるとされています。
動画広告の最適化「BRAND LIFT CHECKER」
「BRAND LIFT CHECKER」は、パフォーマンス向上に有効な動画広告の要素や組み合わせを推奨するサービスです。活用することで、テレビCMや動画広告のクリエイティブプランニングの高度化を図れます。
開発にあたっては、4,000件以上のインターネット動画広告と2,000件のテレビCMについて、電通のトップクリエイターによる181項目にわたるチェックと、データサイエンティストによる細部の分析が行われました。
BRAND LIFT CHECKER には以下2つの機能があります。
機能1:貢献度の高い表現項目のチェック
コンテを作る際にKPIや業種、ターゲット、メニューを入力すると、その条件に応じてリフトアップ貢献度の高い表現項目をランキングで表示します。
機能2:表現項目の組み合わせごとにリフト値をシミュレーション
制作したコンテ・動画のKPIや業種、ターゲット、メニューのほか、「ナレーションが入っている」「冒頭に音のアテンションがある」などの表現項目を複数選択すると、ブランドリフト値をシミュレーションします。
これら機能により、制作した動画がどの層のどのKPIをリフトする効果があるかを、ABテストを用いることなく可視化できます。
AIを組み合わせてカスタマイズ「CXAI」
「CXAI」は広告や販促、広報、問い合わせ対応などのさまざまなクリエイティブ表現を自動生成するAIツールを、企業ニーズに応じてカスタマイズ構築するサービスです。
電通グループが数年にわたって開発・自社運用してきた15種類以上のAIから、企業ニーズに応じた機能を組み合わせてオリジナルツールとして提供。それにより、企業はAIを自社開発することなく活用し、さまざまな制作物の表現開発を自動化・半自動化できます。
引用:クリエイターのノウハウを搭載した自動生成AIで企業のCX向上を支援|電通
CXAIで使われるAIはいずれも、電通グループが制作してきた大量のクリエイティブ表現やクリエイターのノウハウを学習しているため、クオリティの高い制作物を手軽に内製可能です。また、複数パターンの制作やパーソナライズも可能で、マーケティング効果・精度の向上も期待できます。
サイバーエージェントの広告効果予測AI「極予測AI」
サイバーエージェント社が提供する極予測AI(キワミヨソクエーアイ)は、広告配信効果を事前に予測する効果予測AIです。AIを用いて広告クリエイティブを制作し、制作費は広告効果が出たときのみの成功報酬とされています。
極予測AIのしくみ
引用:AIで広告クリエイティブ制作を一変、報酬は広告効果がでた時のみの料金体系
「極予測AI」の提供を開始|サイバーエージェント
従来の効果予測AIは、大量に制作された新規クリエイティブ同士で予測値を競い、高スコアのバナーが広告主に納品されていました。それに対して極予測AIは、配信中の既存クリエイティブで最も効果が出ているものと、新規クリエイティブの効果予測値を競わせ、効果予測値が既存1位を上回ったもののみが広告主に納品されます。
また、サイバーエージェントによると、極予測AIで制作されたクリエイティブと、通常のプロセスで制作されたクリエイティブの広告効果の勝率を比較して、極予測AIが通常プロセスの2.6倍という結果が出たそうです。
効果予測は動画・静止画を横断
極予測AIでは動画・静止画ともに制作できます。2022年9月に追加された機能により、動画と静止画を横断した1つの予測モデルが適用されるようになりました。それにより、動画・静止画を問わず、効果予測値が既存1位のクリエイティブを上回る新規クリエイティブが提案できるようになっています。
サイバーエージェントの極予測シリーズにはほかにも、広告テキストを自動生成する「極予測TD」、検索連動型広告のCVRを改善する「極予測LP」、企業やブランドに適したAIモデルを生成する「極予測AI人間」などがあります。
感性価値分析・訴求力向上を実現する「感性AI」
感性AI株式会社は、感性を定量化する技術「感性評価AI」により、AIでイメージを分析するツール「感性AIアナリティクス」、AIでアイディアを創造するツール「感性AIブレスト」の、2つのマーケティングソリューションを提供しています。
感性評価AIとは
感性評価AIは、電気通信大学における長年の研究に裏付けされた技術です。画像やモノの印象を、人間が五感で感じたことを伝える際に使われるテキストやオノマトペ(擬音語・擬態語・擬声語など)を手がかりに定量的に表現します。
感性AIアナリティクスとは
消費者データを学習したAIが、ネーミングの語感やキャッチコピーの印象、パッケージデザインの色彩印象を分析・可視化します。マーケティングリサーチなどのアンケート調査を行わなくても、ネーミングテストやキャッチコピーテスト、パッケージデザインのテストが実施できます。
感性AIブレストとは
消費者データを学習したAIが、ネーミングやキャッチコピー、パッケージデザインのアイディアを大量に提案します。ターゲットの性別と年代、パーソナリティを入力すれば、最適なアイディアの提案が可能です。
AIが画像・動画の編集加工・素材生成を行う「cre8tiveAI」
株式会社ラディウス・ファイブが提供するcre8tiveAI(クリエイティブAI)はAIによる画像・動画の編集加工、および素材生成を行うツールです。以下のようなサービスが提供されています。
- Photo Refiner(高画質化AI)
写真やイラストなどの画像を高画質化する - Face Refiner(顔高画質化AI)
ポートレートなどの顔に特化して品質改善をする - 彩ちゃん(顔イラストメーカーAI)
100万種類以上のオリジナルの顔イラストを超高速で制作する - 彩ちゃん+(全身イラスト制作)
全身イラストを制作する - Enpainter(絵画アーティスト化AI)
自分の写真を、ゴッホやピカソ、雪舟、モリゾ、キルヒナーなど世界的なアーティスト風の絵画画像に変換する - Moving Photo Maker(写真動画化AI)
1枚の写真やイラストから、14種類の動画を生成する
まとめ
現段階で、画像生成AIや上で紹介したcre8tiveAIなどのイラスト生成AI、Direct AICOなどのコピー生成AIにより、広告クリエイティブのパーツはAIが実用に足る品質のものを制作できるようになってきました。また、広告効果の予測についても、複数の高精度のAIツールが登場しています。
ただし、AIは人間の力なくクリエイティブを一から制作できるわけではありません。たとえばバナーの価値は、ターゲットとなるユーザーにクリックしてもらうことです。ユーザーの特徴を把握し、商品内容が的確に伝わるための表現を考える「設計」部分は、これからも人間が行わざるを得ないでしょう。
クリエイターやマーケターが広告の全体を設計し、その設計に基づいてAIがパーツを制作する、というように、役割が変化していくと考えられます。この「設計力」をどう身につけられるかが、これからのクリエイターやマーケターにとって、重要な課題となるのではないでしょうか。
AI技術はこれからさらに発展していくと予測されているので、早い段階で基本的な活用方法を取り入れておくことが大切です。SEデザインでは、IT分野におけるBtoBマーケティング&セールス支援を行っており、30年以上の実績がございます。業務の効率化や顧客へのアプローチでお困りの際は、お気軽にSEデザインへご相談ください。