生成AIを使いこなすためのポイントは「自身のスキル」と「生成AIへの習熟」―デジタルハリウッド大学橋本大也氏インタビュー

更新日:2025-07-07 公開日:2025-07-07 by SEデザイン編集部

目次

生成AIを使いこなすためのポイントは「自身のスキル」と「生成AIへの習熟」 生成AIの登場は、私たちの働き方に大きな変化をもたらしています。かつてパソコンやインターネットがビジネス環境を変えたように、生成AIもまた過去に類を見ないほどのスピードで社会に浸透しつつあります。

しかし、実際に活用していると、「使いこなせない」「効果が実感できない」「思ったようなアウトプットが得られない」などの悩みを抱える方は多いのではないでしょうか?

本記事では、『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』(かんき出版)の著者であり、デジタルハリウッド大学教授である橋本大也氏にお話を伺い、生成AIを使いこなす力を高めるためのヒントを探ります。

生成AI時代に価値を持つ人材とは?

――はじめに、橋本さんが生成AIをどのようなツールだと捉えているのか、教えてください。

橋本大也氏(以下、橋本氏):
そうですね。生成AIというのはカバーできる領域が非常に広くて、生産的なこと、クリエイティブなこと、事務的なこと、あらゆる業務に活用できます。

まさに、これまでコンピューターやインターネットが仕事の基盤になっていったのと同じように、生成AIも仕事を支えるプラットフォームになっていくと考えています。

――生成AIの普及によって、消えていく仕事や新たに生まれる仕事はあるとお考えですか?

橋本氏:
仕事は大きく2つに分けられると思います。
1つ目は『複雑だがルール化が容易な仕事』です。論理的な手順が定まっていて、時間をかけて計算すれば答えにたどり着けるような仕事ですね。こういった業務は生成AIが得意で、今後ますます置き換わっていくでしょう。

一方で『複雑でルール化が難しい仕事』もあります。状況を読み取って判断したり、価値観に基づいて方向性を決めたりする仕事です。この領域は、当面の間、人間の役割が残ると考えています。

――『複雑でルール化が難しい仕事』として、例えば『企画』などが該当するのでしょうか?

そうですね。今の時点で、生成AIが一発ですごい企画を生成してくれることはありません。しかし、人間が生成AIを『道具』として使って企画を練る形にはなってきています。変化は案外地味で、今は工程の一部に生成AIを使う程度ですが、徐々にこの範囲は広がると考えています。

最近だと、 Photoshopに生成AIが組み込まれて、言葉の描写で物体や背景を簡単に描けるようになりましたよね。プロは丸ごと生成するのではなく描く補助ツールとして使っている。これと同じように、ツールの中に自然と生成AIが入り込み、気づけばワークフロー全体が大きく変化していく――そんな進み方になるのではないでしょうか。

――生成AIの活用範囲が広がる中で、ビジネスの現場で価値を発揮し続けるには、どのような意識が重要だとお考えですか?

橋本氏:
「使うのはあくまで人間である」という意識が非常に重要です。生成AIは、使う側の知識や判断力によって成果が大きく変わってしまう『道具』です。基本的には、「時間をかければ自分でもできる範囲で生成AIを使うべき」というのが私の考えですね。

なので、この先人間に求められる能力というのはむしろ高くなっていくと思います。

例えば、生成AIは、プログラマーではない人でも、まるでコードが書けたかのように感じてしまう。自分の能力以上のことができるような錯覚をさせるツールなのです。

だけれども、そこで作られたコードは、すぐに市場での競争力を失います。なぜなら、生成AIを使えば誰でも同じことができるからです。

逆に言えば、生成AIを使って他者を抜きん出ることができる少数の人が、今後ますます価値を持つようになる。つまり、求められるスキル水準はこれまで以上に高くなっていくということです。

生成AIで成果を上げるために必要なスキルとは?

――生成AIでより良いアウトプットを出すためには、使い手の能力が問われているのですね。それでは、生成AIを使いこなすうえで重要なスキルや知識についてお聞かせください。

橋本氏:
まず大前提として、先ほどもお話したとおり、生成AIはあくまでも人間が使う『道具』です。

ですので、生成AIを使いこなすためには、道具の特性、つまり生成AIの『仕組み』をある程度理解しておくことが重要になります。

特に、LLM(大規模言語モデル)については理解を深めておくのがおすすめです。

LLMは大量のテキストデータを多次元の数値ベクトルで表現・処理する言語モデルで、生成AIが自然言語を操る裏側では、数値の計算が行われています。この原理をある程度知ったうえで、いろいろなプロンプトを試していると、だんだんLLMの傾向が掴めてきて、精度の高いアウトプットを得られるようになります。

――橋本さんは、「生成AIはアナログ的な性質を持っている」ともおっしゃっていますね。その意味を詳しく教えてください。

橋本氏:
従来のデジタルツールは、ボタンを押せばいつも同じ結果が得られました。しかし、生成AIはそうではありません。たとえ同じプロンプトを入力しても、毎回少しずつ異なるアウトプットが返ってきます。

特に、自然言語で命令をすると、何度もやり取りを繰り返すうちに、人によって出力結果が大きく変わってきます。

このような性質から、私は生成AIをよく『大工道具』に例えます。大工道具は、誰が使っても同じではなく、その扱いに熟練した大工に渡すと、芸術作品や価値ある商品が生まれます。

生成AIも同様で、とにかくいじりまくって、生成AIというツールへの理解を深め、扱いに習熟することで、洗練されたアウトプットを得られるようになります。

生成AIの挙動や得意、不得意な質問などを感覚的に理解できるようになるのが理想ですね。1万時間くらい使っていると、このあたりはかなり感覚化されてくると思います。時間はかかりますが、生成AIはそれだけの時間をかける価値のあるツールだと考えています。

インタビューに答える橋本氏

――とにかくたくさん生成AIに触れることが重要なのですね。他に求められる知識はありますか?

橋本氏:
生成AIをうまく活用するにはもう1つ、『ドメイン知識』、つまり自分が取り組む業務分野の深い理解も不可欠です。これは非常に重要です。

生成AIが出力する内容は一見もっともらしく見えますが、その分野に詳しい人が見れば的外れだとすぐにわかる場合も多くあります。ドメイン知識が乏しいと、それに気づかずそのまま使ってしまうリスクがあります。

プロンプトの質も、その人の知識に左右されます。知識があれば、あらかじめ生成AIが誤解しそうな曖昧な表現を避けたり、適切な条件をつけたりできます。

このようなことから、生成AIをうまく活用するには、土台となるドメイン知識を身に着けたうえで、プロンプトエンジニアリングのスキルを磨くことが重要だと考えています。

――つまり、『生成AIにどう聞くか(プロンプト)』と『自分自身の専門性(ドメイン)』がセットで必要だということですね?

その通りです。生成AIを使いこなすには、自分の業務の文脈を深く理解した上で、「どう質問すれば適切な答えが返ってくるか」を考える力が必要になります。

もう1つ大事なのは、生成AIが出してきたアウトプットを鵜呑みにしないで読む力です。生成AIはしばしばハルシネーション(誤情報)を起こすので、一見正しいように見えても、内容に誤りが含まれていることがある。だから、人間が最終的なチェックをする監督者としてのマインドセットが不可欠です。

私が大学で教えている学生も、生成AIを使ってレポートを書くケースが増えています。ざっと見ると良くできていますが、よく読むと全然違うことを言っていることもあるんです。

これはビジネスの現場でも同様で、生成AIで作ったプレスリリースが、上司のチェックをすり抜けて、そのまま外部に出てしまうようなことが起こりはじめています。

このようなミスは、「生成AIが作ったから」で済まされる時代ではなくなってきているので、生成AIで作ったものの確認作業を真面目に行うことはすごく重要になると思います。

進化するAIエージェントと、より求められる『監督責任』

――最近話題のAIエージェントについては、作業を任せて自動化できるという期待もありますが、確認や監督の手間は減るのでしょうか?

橋本氏:
むしろ確認・監督作業は今以上に重要になる
と考えています。
例えばChatGPT Proプランのユーザーが利用できるOperatorのようなエージェント機能では、仮想のデスクトップ上で指示された作業を自動で実行できます。WordやExcelを開いたり、Gmailにログインしてメールを送ったり、ブラウザ操作までこなす。つまり「なんでもできてしまう」んです。

だからこそ監督の責任はさらに重くなります。エージェントは本当にクリティカルな操作──例えば銀行口座へのアクセスや、社内システムの操作など──も行えてしまう。AIエージェントを使う際は、実行内容が正確か、意図とズレていないかをきちんと監視する必要があります。

画面はリアルタイムでモニタリングできますし、必要に応じて操作を奪うこともできますが、だからといって完全に目を離して良いわけではありません。

――特に気をつけるべき点はありますか?

橋本氏:
注意が必要なのはマルチステップの自動処理です。
1つ1つのステップの正確性が70%だった場合、3ステップを連続で実行すると最終的な正確性は30%程度まで落ちてしまう計算になります。こうした『精度の掛け算』のリスクがあるので、本来は各ステップで止めて確認しながら進めるべきだと思います。

生成AIに任せるほど、監督者としての人間の役割はむしろ濃くなっていく。まさに使いこなす側の責任が問われる時代になっています。

アウトプットの精度を高めるカギは『Python』と『英語』

――さらに、生成AIの扱いに習熟するために有効なスキルはありますか?

橋本氏:
『Python』
『英語』のスキルは、生成AIを使いこなすうえでとても重要だと思います。

特にChatGPTは、内部にPythonの実行環境を持っているため、Pythonを理解していると活用の幅が大きく広がります。

例えば、生成AIに数字を計算させようとすると、時にはハルシネーションを起こしてしまうことがありますが、Pythonでコードを書かせて計算させれば、正確な処理結果が得られます。グラフの描画も同様で、画像生成AIではなくPythonで視覚的に正確なグラフを出力するように指示できます。

このように、Pythonと生成AIを組み合わせることで、対応できるタスクの幅が大きく広がるため、Pythonの学習はおすすめです。

また、英語のスキルも非常に重要です。生成AIは、英語のデータでの学習量や情報の網羅性が日本語に比べると圧倒的に多いため、英語でプロンプトを入力した方がアウトプットの精度が上がります。最近は日本語の精度もかなり上がってきましたが、それでも英語で指示が出せるだけで、体感1〜2割程度アウトプットの質が向上します。

ですので、Pythonと英語は、生成AIを業務で本格的に活用していきたい方には、ぜひ身につけてほしいスキルです。

ChatGPT山手線グラフ

▲橋本氏の書籍に習ってChatGPTで作成した山手線各駅の位置情報と利用客数のグラフ

うまくいかないとき、何を見直せばよいのか?

――業務で生成AIを活用しようとしても、うまくいかないケースもあります。そんな時、どこを見直せばよいのでしょうか?

橋本氏:
ポイントは2つあります。
まず1つ目は、「その仕事がそもそも生成AIに向いているのか」を疑ってみること。これは非常に大切です。

例えば、「アンケートの自由回答をまとめてほしい」というタスクを生成AIに任せるとします。数十件程度ならそれなりに意味のある要約を出してくれますが、数百〜数千件になると正確な分析を行うのは困難です。

生成AIは、一度に処理できるトークンに制限があるので、数千件のデータをちゃんと読んで分析するのは物理的に無理なんですね。
しかも、生成AIは基本的にありがちな言葉の並びを返す仕組みなので、厳密な数値処理には向いていません。もちろん最近は推論が強化されてきていますが、それでも統計的に数値を正確に出すような処理は得意ではない。こういう場合は、Pythonで単語の出現頻度をカウントするプログラムを作って処理させる方が正確です。

このように、生成AIにも向き不向きがあるため、それを見極めたうえで、「作業のどのポイントで生成AIを活用できるのか?」を考えてみるのがよいと思います。

――確かに、「仕事が生成AIに向いているか?」を見極めるのは重要ですね。では、2つ目のポイントはなんでしょうか?

2つ目は、「自分ひとりで解決しようとしないこと」です。

処理しようとしているタスクが自分の専門外だったり、そもそも生成AIの特性を詳しく理解できていない場合は、自身ではうまくいかない原因を見つけられないことがあります。

こういう時は、そのタスクのドメイン知識を持った人や、生成AIの特性に詳しい人に相談するのが一番の近道です。

自分で試行錯誤することも大切ですが、「ここから先は専門家に頼るべき」という判断力も、実はとても重要になります。

橋本氏が今注目する生成AIトレンド

――今注目している生成AI技術はありますか?理由も併せて教えてください。

橋本氏:
今注目しているのは、『ローカルで動く生成AI』『動画生成AI』2つです。

まず、ローカルで動く生成AIは、セキュリティ面の課題をクリアできる点が魅力的です。機密情報や個人情報などの重要な情報を、クラウドに情報をアップロードすることなく、自分のローカル環境で学習させることができるので、究極のパーソナルアシスタントを作ることができるという意味で注目しています。

もう1つの動画生成AIは、将来的にPowerPointに取って代わる可能性があると考えています。

これまでのスライドを用いたプレゼンテーションよりも分かりやすく、視覚的なインパクトを与えられる動画コンテンツが、生成AIを使うことで手軽に作れるようになってきました。

本来、資料は伝達手段の1つなので、もしより伝わりやすい手段として動画が簡単に準備できるのであれば、それを選んだほうがいいはずです。

今、動画生成AIはどんどん質が良くなってきていて、こうした活用が現実味を帯びてきていると感じています。

まとめ

本記事では、デジタルハリウッド大学の橋本氏にお話を伺い、生成AIを使いこなす力を高めるための考え方やヒントを探ってきました。

生成AIを使いこなすためには、使い手自身の知識やスキルレベルの高さと、生成AIの仕組みや特性に対する理解が不可欠です。

自身の専門領域に対する知識を深めつつ、生成AIを繰り返し使うことで、仕事をサポートしてくれる強力な道具として、自在に生成AIを活用できるようになるでしょう。

書籍『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』とは

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ぜひご一読ください。

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橋本大也様
インタビュイー

デジタルハリウッド大学 教授
橋本 大也 氏

ビッグデータと人工知能の技術ベンチャー企業データセクション株式会社の創業者。同社を上場させた後、顧問に就任し、教育者、事業家に転進。教育とITの領域でイノベーションを追求している。著書に『頭がいい人のChatGPT&Copilotの使い方』(かんき出版)『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』(SB 新書)『情報力』(翔泳社)など。書評ブログを10年間執筆しており、書評集として『情報考学 Web時代の羅針盤 213 冊』(主婦と生活社) がある。デジタルハリウッド大学教授。多摩大学大学院客員教授。早稲田情報技術研究所取締役。