広告におけるAI活用 ~効果予測編~

公開日:2023-03-27 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

近年、広告効果は「測定」から「予測」の時代へ移行しているといわれます。測定は時間を要し、広告主のKPIで評価できないなどの課題があるからです。この記事では、広告効果予測AIの代表的なサービスと、それを用いる際の注意点について解説します。

⇒広告におけるAI活用~クリエイティブ編~はこちら

広告効果は「測定」から「予測」へ    

広告の効果はマーケターにとって大きな課題です。投資対効果がどの程度あるのかを、広告の専門家ではない経営陣に対して、客観的に説明しなければなりません。

従来、広告効果の評価は、以下のような方法により「測定」されてきました。

  •  会場調査
    募集した協力者を会場に集め、CMなどを視聴してもらう

  • 生体情報による調査
    協力者がCMなどを視聴している際の脳波や視線などを測定し、反応を調べる

  • A/Bテスト
    複数の広告素材を少量ずつ出稿し、反応が良かった広告素材のみ出稿量を増やす

しかし、これらの測定方法には、以下のような課題がありました。

広告主のKPIで評価できない

広告主は広告を打つ際、認知の獲得や購買の誘発、イメージアップなどについてのKPI(重要業績評価指標)を設定しています。KPIが認知の獲得に関するものなら、認知獲得の効果を測定しなければなりません。

上の3つの測定方法はいずれも、以下の理由で認知獲得の評価は困難です。

  • 会場調査:会場でCMを強制的に視聴するため、「どの程度記憶に残るか」は評価しにくい
  • 生体情報による調査:モデルによる推定は可能だが、自社ブランドに当てはまるかは検証しにくい
  • A/Bテスト:デジタルデータ以外の、たとえば店頭などでの効果は測定できない

日常の場での効果を測定できない

会場調査や生体情報による調査では、特定の場所に集まってCMなどを視聴してもらうため、日常の場における効果の測定は困難です。A/Bテストはデジタル広告の領域では、日常の場における効果が測定できます。しかし、この方法をテレビCMなどに適用することはできません。

測定に時間がかかる

会場調査や生体情報による調査では、協力者を募集して、特定の日時に会場に集ってもらわなければなりません。そのため、測定の準備に多くの時間がかかります。

以上のような課題を、近年複数登場している広告効果を予測するAIが解決するといわれています。AIによる広告効果予測サービスの具体例を以下で紹介します。

テレビCMの広告効果を予測する「広告解析AI」

NRIのモデルイメージ

(画像出典:NRI『テレビCMの広告効果を高精度に予測するモデルを開発』)

野村総合研究所(NRI)によると「広告解析AI」は、テレビCMの効果を放映前に予測するAIです。①視聴者にCMがきちんと認知されるか(CM認知スコア)、②視聴者の購入・利用意向がどの程度上がるか(購入・利用意向スコア)を定量的に予測します。実際にテレビCMの効果を予測したところ、正解率は、CM認知スコアは95.3%、購入・利用意向スコアは91.3%となりました。

また、CMの色彩やタレント表示時間、商品表示時間、BGM、カット数などを変更すると、広告効果がどの程度改善するかについてのシミュレーションも可能です。

広告解析AIは、以下の2種類のデータを利用しています。

  • 203事例のテレビCMから抽出された、色彩やタレント表示時間、商品表示時間、BGM、カット数など特徴量のデータ
  • NRIのマーケティングコンサルティング業務「インサイトシグナル」で蓄積された、約3万サンプルの消費者から得られた広告効果データ

これらを学習し掛け合わせることにより、CMから特徴量を抽出し、消費者のCM認知や購入・利用意向が予測できるようになったのです。

デジタル広告の効果を予測する「極予測AI」

極予測AI

(画像出典:Cyber Agent『AIで広告クリエイティブ制作を一変、報酬は広告効果がでた時のみの料金体系「極予測AI」の提供を開始』)

サイバーエージェント社が開発した「極予測AI(キワミヨソクエーアイ)」は、デジタル広告の広告配信効果を事前に予測するAIです。

従来の効果予測AIは、広告代理店が大量に制作した新規クリエイティブ同士で広告効果を競い、高スコアのものが企業に納品されるというやり方をしてきました。それに対して極予測AIは、現在企業が配信しているなかで最も効果が出ている既存クリエイティブと、新規クリエイティブの効果を競わせます。その結果、効果が既存1位を上回った新規クリエイティブだけが、企業に納品されるわけです。

極予測AIを使用した場合の広告効果は、使用しなかった場合の2.6倍という結果が出ています。

極予測AIの仕組み

極予測AIは、単なるAIというより、デジタル広告の制作プロセスです。デジタル広告の制作自体は、サイバーエージェント社に在籍する総勢200名以上のクリエイターが、独自の広告効果予測AIを用いて行います。

広告効果予測AIは写真や文字などの素材を入力すると、クリエイティブを構成する構図や配置、フォント、色などのレイヤーごとにスコアリングを行います。そのスコアリングを参考に、クリエイターが最も効果的なクリエイティブを導き出す仕組みです。

効果予測AIは、これまでサイバーエージェント社が製作・配信してきた数十万におよぶ広告データを基に作られています。また、常にアップデートを重ねているため、その時々のトレンドも踏まえたクリエイティブにたどり着けるのだそうです。

極予測AIにより期待される広告制作上の効果

デジタル広告で活用が進んでいる運用型広告では、短期間で多種多様な大量の広告クリエイティブを制作しなくてはなりません。また、運用にも迅速さが求められます。さらには、既存クリエイティブより広告効果の高いクリエイティブを、高確率で生み出すことも必要です。

生身の人間が、広告効果を維持・向上させるようなアイデアを、生み出すことには限界があります。AIによる支援を受けることで、より効果的なクリエイティブを継続的に生み出すことが可能になるでしょう。

極予測AIの活用事例

定食チェーン「やよい軒」を運営する株式会社プレナスは、運営するアプリの利用率が伸び悩んでいるのが課題でした。その課題を解決するため、アプリのリニューアルとともに極予測AIの導入を決断しました。

極予測AIで制作された広告により、旧アプリの会員数が100万人になるのに約3年かかっていたものが、新アプリは最初の1ヶ月だけでインストール数が60万件を超えました。また、4ヶ月後には100万インストールを達成するというスピード感で成果が出たそうです。

今後予想される展開

極予測AIは、2020年5月の運用開始以来、さらに以下のような改良を行っています。

  • 動画と静止画を横断して広告効果を予測する「クロスフォーマット機能」を追加
  • クリエイティブバナー外における「テキスト自動生成機能」を追加

また、バナー画像に最適化したテキスト自動生成の研究開発を、AI研究者・牛久祥孝氏と共同で行うことも発表しています。今後のさらなる発展が期待できるでしょう。

効果予測も含めクリエイティブ制作全般を支援する「∞AI」

∞AI

(画像出典:電通デジタル『広告クリエイティブを革新する「∞AI(ムゲンエーアイ)」を開発』)

電通デジタルが開発した「∞AI(ムゲンエーアイ)」は、広告の効果予測はもちろんのこと、クリエイティブ制作プロセスの全般を支援するAIです。データ分析と予測だけではない、広告クリエイティブ制作において重要な、生活者の視点を捉えることを目指しています。

∞AIの仕組み

∞AIは、4つのAIにより広告クリエイティブ制作のプロセス全般を以下のように支援します。

1.訴求軸の発見

WebサイトやSNSなどのデータソースをAIが読み込み、心の琴線に触れるような訴求ワードを複数抽出します。

2.クリエイティブの自動生成

文章生成言語モデルを用い、広告クリエイティブに使うコピーを自動生成します。

3.効果予測

過去の広告出稿データを基に、インプレッション数、クリック数、コストなどの効果を予測します。

4.効果改善

改善対象となるクリエイティブを自動で特定し、複数の改善案を提案します。

今後の展開

∞AIの開発には、電通の子会社データアーティスト社が関わっています。電通デジタルは2023年4月にデータアーティスト社を合併し、AI技術開発力を強化しながら、∞AIの機能拡張を進める予定としています。

そのほかの効果予測AI

広告クリエイティブの効果予測AIは、以上で紹介した主だったもののほか、以下のものがあります。

AI feed designer Plus

サイバーエージェント社が開発した「AI feed designer Plus(エーアイ フィード デザイナー プラス)」は、ダイナミックリターゲティング広告に表示される商品画像の最適化をAIで行う、広告効果予測モデルです。

サイトを訪問したことがあるユーザーに対して、ユーザーごとに最適な広告を表示させるダイナミックリターゲティング広告では、最適な商品画像の選択が重要とされています。このモデルは、保有する複数の商品画像の効果を事前に予測し、最も効果が高いと予測された画像を広告に表示することが可能です。

さらに、配信実績を基に追加学習を行い、効果予測の精度をさらに高めることも可能となっています。

AIアートディレクター

電通グループが開発した「AIアートディレクター」は、バナー広告の効果を予測する機能です。バナー自動生成AIツール「ADVANCED CREATIVE MAKER(アドバンストクリエイティブメーカー)に搭載されています。

クリエイターが有する、広告効果が高いバナーを判断するスキルを数値化し、AIが学習することにより、バナー広告の自動選別が可能です。KPIに応じたバナー広告効果、およびダイレクトレスポンス広告・ブランド広告のどちらに有効かを予測します。

MONALISA2.0

電通グループが開発した「MONALISA2.0(モナリザ)」は、Instagram、Facebook、Twitter、LINEなどのソーシャルメディア向け広告効果予測ツールです。過去の広告配信データと広告クリエイティブを分析し、動画再生完了率とクリック率を広告配信の前に予測します。

広告効果予測AIを用いる際の注意点

広告効果予測AIをマーケターやクリエイターが用いる際の注意点を解説します。

広告効果予測AIを用いれば、マーケターやクリエイターの経験や先入観とは異なるデザインのクリエイティブの制作が可能です。しかし、AIはそのようなデザインに至った思考のプロセスを明らかにできません。AIがなぜそうデザインしたのかを人間が解釈しておかないと、デザイン経験の蓄積ができなくなる可能性があります。

また、クリエイティブを最後まで仕上げてから効果を予測し、もしその判定が良いものでなかった場合には、再度最初から作り直すことになってしまいます。レイアウトやコピー、写真などプロセスを細かく区切り、そのたびにAIで確認していくことが大切です。

まとめ

広告効果予測AIには、テレビCMの効果を予測する広告解析AI、デジタル広告の効果を予測する極予測AI、広告予測も含めクリエイティブ制作全般を支援する∞AIなどがあります。

広告効果予測AIを用いる際には、AIのデザインを人間が解釈すること、クリエイティブ制作のプロセスを細かく区切って確認していくことが大切です。広告効果予測AIを使って、より効果的な広告を制作していきましょう。


AI技術はこれからさらに発展していくと予測されているので、早い段階で基本的な活用方法を取り入れておくことが大切です。SEデザインでは、IT分野におけるBtoBマーケティング&セールス支援を行っており、30年以上の実績がございます。業務の効率化や顧客へのアプローチでお困りの際は、お気軽にSEデザインへご相談ください。

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