デジタルデータの増加を背景として、マーケティングの分野でも「AI(人工知能)」の導入が進んでいます。近年では、ビジネスにおけるAIの重要性が増しており、マーケティングにおいても、AIの導入でビジネス価値を高めることが見込めます。
本記事では、マーケターがなぜAIを学ぶべきなのかとともに、AIのビジネス活用に求められるスキル、マーケターが学ぶべきことを紹介します。AIについて関心があるマーケターの方はぜひ参考にしてください。
AIはビジネスにおいて重要度を増している
AIは近年、ビジネスにおける重要性が決定的に増しています。
1950年代にAIの概念が確立され開発が始まりました。しかし、実用レベルのAIが登場するのはコンピュータの性能が向上してきた1990年代以降です。2000年代以降、データの急増やクラウド環境の整備などによりAIが急速に発展し、近年ではビジネスに欠かせない存在となりつつあります。
AIの活用により、ビジネス価値を大幅に高めることが可能です。自動化によってコストが削減され、スピードや拡張性を向上します。約70%の労働時間が削減された例もあります。学習するデータの変化に合わせて自己学習と自己最適化を行うため、継続的に利益が生み出されます。
AI活用によるビジネス上のメリットは、具体的には以下があります。
- 組織全体の分析と人的/物的資源の活用度の改善による大幅なコスト削減
- 分析機能/パターン予測機能による意思決定精度の向上
- 市場に存在するチャンスを素早く発見することによる、新たなソリューションの提案
- 日常の定型業務をAIがこなすことによる、従業員の役割強化と生産性向上
- チャットボットなどによる24時間365日稼働のきめ細やかな顧客サービス
現代ではビジネスにおけるAIの重要性が増しているため、ビジネスパーソンにはAIのノウハウが強く求められるのです。
マーケターがAIを学ぶべき理由
マーケターがAIを学ぶべき理由は、おもに2つあります。AIが万能ではないことと、マーケティング分野でもAI導入が進んでいることです。それぞれ詳しく解説します。
AIは万能ではない
現状、AIは決して万能ではありません。マーケターはAIを学ぶことで、AIが得意なことと苦手なことを知り、AIの活用法を理解する必要があります。
そもそもAIとは
AIとは、コンピュータがあたかも人間のように認識、理解、行動、学習する、さまざまなテクノロジーの集合体です。近年よく耳にするようになった「機械学習」「自然言語処理」などは、いずれもAIで利用されるテクノロジーの一部です。
AIは大きく「特化型AI」と「汎用AI」に分類されます。特化型AIとは、画像や音声の認識、自動運転、天気予測など限定された範囲の処理を行うシステムです。一方で汎用型AIは処理の範囲を限定せず、人間のようにさまざまな処理を行います。特化型AIは多くの実用例がありますが、汎用型AIはまだ実現されていません。
AI が得意なこと
AIが得意なことは以下の通りです。
- 画像や映像、音声、文章などの分析
- 明確なルールがある場合の判定
- 数値化されているものの推論
大量の単純作業を迅速・正確にこなすのは、コンピュータが従来から得意としてきたことです。AIはそれに加えて、機械学習による識別の能力が飛躍的に向上し、分析や判定・推論などでは人間以上のパフォーマンスを発揮することもあります。
AIが苦手なこと
AIが苦手なことは以下の通りです。
- 創造性が求められる業務
- 感情や空気を読み取ること
近年では、AIによって音楽や絵画、小説なども生み出せるようになりました。しかし、それにはすでにある芸術作品を大量に学習する必要があり、新しい作品をゼロから作り出すことは、現在のAIにはできません。また、ルールや数値によらない感情・雰囲気などを読み取ることも、AIには困難です。
以上のように現状のAIは、何でもできるわけではありません。人間を超えるパフォーマンスを発揮するAIの得意領域を理解することが重要です。
ただし、AIは日進月歩で進化しています。以前はできなかったことが、できるようになっていく可能性も十分あります。AIのその時々での状況は、常にチェックしておくよう心がけましょう。
マーケティング分野でもAI導入が進んでいる
マーケティングにおいても、AIの導入は進んでいます。背景にあるのはデジタルデータの増加です。米国の市場調査会社IDCによれば、2020年の1年間に全世界で生成・消費されたデジタルデータの総量は、59ゼタバイト(1ゼタバイトは10の21乗バイト)を超えるとされています。
マーケティングにおいてデータ分析は重要な位置を占めています。しかし、上のような膨大なデータを生身の人間が扱うことは困難です。そこで、大量のデータ分析と相性が良いAIに注目が集まっているのです。AIの機械学習はデータ数が多ければ多いほど分析の精度が高まります。
マーケティングにおけるAIの具体的な活用方法
マーケティングにおけるAIの具体的な活用方法は以下の通りです。
顧客データの活用
顧客関係管理システム(CRM)や営業システム(SFA)をAIと組み合わせ、AIがより効果を見込める営業行動を提案してくれます。
人流分析
レーザーセンサーにより測定された実際の人流をAIに入力すれば、最適な売り場や広告の配置などをAIが提案してくれます。
需要予測
売上実績や商品情報、気象情報、カレンダー情報、近隣の店舗情報などにより、AIが顧客の来客数を予測します。
ハイパーパーソナライズ
ハイパーパーソナライズとは顧客の一人ひとりに最適な提案を行う、ECサイトなどのレコメンド機能が一例です。
チャットボット
顧客への自動対応を行うチャットボットにも、AI搭載が進んでいます。
AIのビジネス活用において必要な3つのスキル
AIのビジネス活用において必要なスキルはおもに以下の3つです。
- ビジネス課題を見つける力
- AIモデルを構築する力
- AIモデルを実行する力
それぞれのスキルについて詳しく見ていきましょう。
ビジネス課題を見つける力
AIのビジネス活用でまず必要なのは、ビジネス課題を見つける力です。
自社の経営課題を洗い出し、そのなかからAI導入により解決できるものをピックアップしていきます。経営課題の洗い出しには現場へのヒアリングなども必要になるため、コミュニケーション力やインタビュー力、あるいは顧客知識や業務知識も必要となるでしょう。
洗い出した課題のなかからAI導入で解決できるものをピックアップするには、AIでどのようなソリューションが可能かといったテクノロジー知識も必要です。
AIモデルを構築する力
次に必要なのは、AIモデルを構築する力です。
これは、エンジニアやデータサイエンティストに求められます。AIに関する数学や統計学の知識は身につけていなければなりません。また、基本的なエンジニアリングやプログラミングの知識も必要です。
どのようなAIモデルを構築するかの決定は、プロジェクトメンバーと相談しながら進めなければなりません。そのため、エンジニアやサイエンティストといえども、基本的なコミュニケーション力は必要です。
AIモデルを実行する力
作成されたAIモデルを社内で定着させ、具体的に実行していかなければなりません。そのためには、社内ネットワークを駆使しコミュニケーションを密に取りながら、ビジネスを動かしていく力が必要です。もちろん、AIのモデルを実行していくことになるため、AIテクノロジーについての十分な知識も必要となるでしょう。
マーケターAI活用に必要なのは「ビジネス課題を見つける力」
上で見たAIのビジネス活用のために必要な3つのスキルのうち、マーケターに最も必要とされるのは、1つ目の「ビジネス課題を見つける力」です。ビジネス課題を見つけるには、以下3つのスキルが必要です。
課題発見力
マーケティングにおけるビジネス課題を見つけるためにまず重要なスキルは、課題がどこにあるのかを発見する力です。課題発見には、最初に経営目標を明確化したうえで、マーケティング業務プロセスの見える化が必要です。
業務プロセスの見える化を行ったら、現場へのヒアリングを通して、各業務プロセスの課題を抽出していきます。マーケティングの場合、営業部門との連携も大きな課題です。
課題の抽出と併せて、各プロセスがそもそもシステム化されているのか、どのようなデータがあるのかも確認が必要です。この段階で、AIに処理させるべきマーケティングデータなのか、どう処理させるのかを見極めることが重要でしょう。
テクノロジー知識
課題を抽出したら、AIを用いた解決案のアイデアを広げます。AIの導入事例は年々増えているため、抽出した課題に対するソリューションを探し、AIが適用できるか、既存のソリューションがあるかを調べます。この見極めには、AIについてのテクノロジー知識が必要です。
また、自社で技術的に可能かの判断も必要です。その際には、社内のIT担当者・AIに知見がある人とのディスカッション、ベンダーへの問い合わせなども有効でしょう。
最後に、AIによる解決案の実現可能性とメリット・収益性を評価したうえで優先順位を付け、実際に実施する解決策を絞り込みます。
コミュニケーション力・プレゼン力
AIの導入には、現場の人々と相談しながら、体制や期間、費用などを決定しなければなりません。外部のベンダーを入れる場合は担当者との交渉も必要です。また実際の運用では、社内への使用方法のレクチャーなども必要となるでしょう。これらの業務を進めるためには、コミュニケーション力やプレゼン力が求められます。
まとめ
ビジネスにおける重要性が決定的に増しているAIは、マーケティング分野でも導入が進んでいます。すでに顧客データの活用や人流分析、需要予測、ハイパーパーソナライズ、チャットボットなどの領域で幅広く活用されています。
ビジネスでAIを活用するには、ビジネス課題を見つける力、AIモデルを構築する力、AIモデルを実行する力が必要です。特に、マーケターにとってはビジネス課題を見つける力、具体的には課題発見力とテクノロジー知識、コミュニケーション力、プレゼン力が最も必要とされます。
マーケターもAIを学び、使いこなすことにより、より高度なマーケティング戦略を構築していきましょう。