2013年に創業し、AIモジュール、マーケティングAIソリューション、DX支援を行うデータアーティスト株式会社。この記事では、同社のマーケティングAIソリューション「Multi Impact Switcher」「InSEC」「Microscope」について紹介します。
データアーティスト社とは？
データアーティストの会社概要と、マーケティングAIソリューションの概要を紹介します。
データアーティスト社の概要
データアーティスト株式会社は2013年6月に設立されました。主要事業は以下の3つです。
- AIモジュール
- マーケティングAIソリューション
- DX支援
AIとビッグデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CRO（コンバージョン率最適化）やSEO（検索エンジン最適化）など、多数のデジタルマーケティングサービスを手掛けています。
同社は2016年11月に株式会社電通と業務・資本提携契約を結び、テレビ視聴率予測システムを共同で開発するなど、協業を進めてきました。その結果、2018年2月には電通の子会社となり、2023年4月には合併することが決まっています。
この電通との協業～子会社化の流れについて、代表取締役社長の山本氏は以下のように語っています。
AIがどんどん普及していく中で、AIマーケティングを他の領域に活用できないかと思ったからですね。（中略）そう考えたときに、電通が一番データを持っていて、なおかつ各企業への営業チャネルが豊富な会社ということで、ぜひとも一緒に開発することができたらなと思いました。
データアーティスト社のマーケティングAIソリューション
引用：Data Artist CORPORATE BOOK 2022
『Data Artist CORPORATE BOOK 2022』によれば、最も強みとするマーケティングとAIの領域において、データアーティスト社は以下3つのマーケティングAIソリューションを提供しています。
- Multi Impact Switcher 時間・場面・行動などを組み合わせた広告配信
- InSEC …AI支援のSEO戦略＆運用
- Microscope …AI活用のCVR改善サービス
※プレスリリースなどによれば、「Multi Impact Switcher」は“株式会社電通デジタルの開発・提供”とされています。
データアーティスト社では、上記3つのソリューションでカスタマージャーニーの「認知」から「獲得」までのステージを網羅し、複雑化するデジタルマーケティングの高度化・効率化・最適化を実現しています。
ソリューション1：Multi Impact Switcher
まずはマーケティングAIソリューション「Multi Impact Switcher」について詳しく見ていきましょう。
Multi Impact Switcherの概要・特長
引用：気象・Twitter情報からタイムリーなムーブメントを広告へ反映可能な
「Multi Impact Switcher™」を開発・提供｜電通デジタル
Multi Impact Switcherは、気象情報とTwitterのツイート情報を常時観測し、タイムリーな社会的ムーブメントを捉えてデジタル広告へ反映するシステムです。「急に気温が下がると温かい飲み物がほしくなる」、「SNSで話題のアイドルが気になる」など、人のニーズが最も高まる瞬間（モーメント）をAIが自動検知し、商品やサービスの魅力を最大限にアピールできるタイミングでの広告配信を可能にします。
たとえば、以下のような柔軟な広告配信が可能です。
- あらかじめ設定した気温を上回ったエリアだけ広告を配信する
- 商品に関連するキーワードが一定数に達したタイミングで広告を配信する
配信先は、Google広告やTwitter、Facebook、Instagramなど6つの広告媒体に対応しています。
従来の手法とMulti Impact Switcherの違い
これまでのデジタル広告では、ユーザーの属性情報や興味・関心など、プラットフォーム内のデータに基づく配信の最適化は可能でした。しかし、プラットフォーム外の情報について長期予測や仮説構築を行うことは困難でした。
それに対して、Multi Impact Switcherは気象情報とTwitter情報をかけ合わせられるため、その時々の天気や、社会的なムーブメントを反映した「今」の状況に基づいた広告配信が設計できます。
Multi Impact Switcherのしくみ
Multi Impact Switcherは、電通による日用消費財向けのマーケティングメソッド「モーメントアーキテクチャ™」の一環として位置づけられています。
引用：電通、日用消費財向けのマーケティングメソッド「モーメントアーキテクチャ™」を開発｜電通
「モーメントアーキテクチャ™」は、生活者のニーズが高まる時間。場所・行動などの組み合わせである「モーメント」を捉え、マーケティング・コミュニケーションの戦略立案、施策の実施、購買効果の可視化を行うメソッドです。具体的には、以下の流れで施策が実施されます。
- 【戦略立案】電通が独自開発した手法をもとにモーメントを発見する
- 【施策の実施】Multi Impact Switcherなどを活用し、効果的に広告配信を行う
- 【購買効果の可視化】購買データを活用し、施策と実購買の関係性を測定・検証
Multi Impact Switcherの活用事例
Multi Impact Switcherそのものではありませんが、電通が開発した気象データに応じて広告出稿を調整する「ウレビヨリ」や「RICH FLOW（リッチフロー）」などのシステム
を、森永製菓がロングセラーアイス「チョコモナカジャンボ」のマーケティングで活用しました。
気象データから予測される最適なタイミングでテレビCMを出稿することにより、2020年7月・8月の「チョコモナカジャンボ」の売り上げは、対前年比で107.8％となりました。
Multi Impact Switcherの今後の展望
近年は気候変動が大きく、マーケティングにおける気象データの価値は、今後ますます高まっていくでしょう。電通ではさらに人工衛星データにより、農作物の生育状況・収穫時期を解析し、マーケティング効果を最大化する取り組みもスタートさせています。
ソリューション2：InSEC
つづいて、データアーティスト社のマーケティングAIソリューション「InSEC」を詳しく見ていきましょう。
InSECの概要・特長
InSECはAIを活用したSEO最適化ツールです。分析のターゲットとなる自社や競合ドメインのURLを入力すると、膨大な検索キーワードを自動でグループ化し、分析結果を誰でも分かりやすいバブルチャート型のレポート「コンテンツ戦略マップ」として提供します。
上の図では、自社と競合との関係について、以下の5つがグループ化されています。
- 自社が競合に負けているキーワード群 ⇒ ATTACK（攻める）
- 自社が競合に勝っているキーワード群 ⇒ DEFEND（守る）
- 大きな伸びしろがあるキーワード群 ⇒ GROW（育てる）
- 検索量が少ない、または独占状態で脅威がないキーワード群 ⇒ OBSERVE（見守る）
- 自社も競合も流入を獲得していないキーワード群 ⇒ DISCOVER（発見）
レポートから、どのようなコンテンツを用意すべきかが容易に分かり、マーケターは企画・作成・改善に集中できるとされています。
InSECのしくみ
InSECはまず、ターゲットおよび競合のドメイン情報から、流入キーワードを取得し、AIでユーザーの検索意図を推測します。推測された検索意図に基づいてグループ分け（クラスタリング）を行います。
InSECは、大手検索エンジンも採用する自然言語処理技術「BERT」を用いているため、高精度のSEO対策が実現できるとされています。
また、AIによる継続的な学習もシステム内に実装されており、以下の対応を自動で実行できます。
- 対象キーワードに関連する最新動向の把握
- アルゴリズム変更への対応
- 競合コンテンツなどの学習
InSECの活用事例
InSECのWebページには、社名は公表されていませんが、通信キャリア・デジマツール・自動車販売・外食チェーン・生活家具販売などの複数業界のサイトで用されており、すでに継続利用の要望もあるとされています。
InSECの今後の展望
Webマーケターは日常的に、コンテンツ戦略の準備・説明・方針決定、コンテンツ企画の立案・実行・運用など、さまざまな業務を担っています。「戦略決定」でInSECを活用し、検索キーワードの収集や順位チェックを効率的に行うことで、準備すべきコンテンツが分かり、企画・作成・改善に専念できるでしょう。
SEOの市場規模は、近年、毎年9％近い割合で成長を続けており、2022年の市場規模は700億円ほどと見られています。SEO戦略を効率化するInSECは、今後もニーズが拡大していくと考えられます。
ソリューション3：Microscope
最後に、データアーティスト社のマーケティングAIソリューション「Microscope」について詳しく見ていきましょう。
Microscopeの概要・特長
Microscopeは2種類のAI「セグメント生成AI」と「コピー生成AI」の活用により、WebサイトのCVR（コンバージョン率）を改善するサービスです。Webサイトを訪れたユーザーをセグメント化し、各セグメントに最適なWebページの配信を行います。
Microscopeのしくみ
Microscopeは以下の3ステップで、WebサイトのCVRを改善します。
STEP1：セグメント生成AIがサイト訪問者を分類してセグメント化
セグメント生成AIが、訪問ユーザーの特性や傾向を、外部サイトの行動ログデータから特定します。そこからユーザーの興味や関心を類推し、分類・セグメント化します。
STEP2：コピー生成AIがセグメントごとに有効な訴求メッセージを自動提案
それぞれのセグメントに合わせ、プロのコピーライターの特徴を学習したコピー生成AIが、訴求メッセージの候補案を自動生成、提供します。訴求メッセージは、自社サイトや競合サイト、業界キーワードなどを設定することで、AIがそれらを読み込んで学習データを生成し、顧客ごとにオリジナルのメッセージ案を生成します。
STEP3：セグメントごとにメッセージを出し分け
訪問ユーザーに、分類されたセグメントに合わせたメッセージが表示されます。なお、ユーザーの分類にはCookieを使用しないため、Cookie規制問題もクリアしています。
Microscopeの活用事例
Microscopeは、株式会社モバオクが運営する大手オークションサイト「モバオク！」で試験的に採用され、53％のCVR改善を実現しました。
モバオクが実施したのは、サイトのファーストビューに使っていた「出品・入札し放題！！」とのメッセージを、サイト訪問者ごとに出し分けることです。Microscopeはサイト訪問者を、「高級品関心層」「カルチャー関心層」「ゲーム関心層」「フリマ関心層」の4つに分類しました。
それぞれの関心層に対してMicroscopeが生成した各100個の訴求メッセージ案から、以下4つのメッセージが実際に採用され、配信テストが実施されました。
- 高級品関心層：「思い立ったら、出品・入札」
- カルチャー関心層：「モバオク!で出品・入札に差を付けろ。」
- ゲーム関心層：「出品も入札も満足。」
- フリマ関心層：「さあ、モバオク!をはじめよう。」
Microscopeの今後の展望
AIを使用しなくても、流入元やアクセス環境のセグメント、ファーストパーティーデータ、サードパーティーデータなどを掛け合わせることにより、セグメントを行うことは理論上可能です。しかし、組み合わせは数万通り以上あるため、手動でのセグメント化は困難でしょう。
コロナ禍の影響でリアルチャネルが制限されるなか、顧客体験においてはデジタルチャネルの期待が高まっているともいわれます。外部サイトの行動データから顧客体験を演出するMicroscopeの役割は、これからますます大きくなっていくのではないでしょうか。
まとめ
マーケティング分野において、AIが活用されるシーンが急激に増えています。マーケティングAIは今回紹介したデータアーティスト社の事例のほかにも、広告コピーを自動生成するAI、広告クリエイティブの自動的な最適化を実現するAIなど、さまざまな種類のものがあります。
AIは、マーケティングの作業の一部を任せることで作業負担を減らし、人間にしかできない創造性を活かした仕事に集中できる可能性を開くものでもあります。これからは、AIを活用するからこそ可能となる、さまざまな企画やアイディアが、続々と登場していくのではないでしょうか。
AIの活用によってマーケティングの可能性は広がっています。「AIがマーケターの仕事を奪ってしまうのでは？」との悲観的に捉えるのではなく、AIの得意分野を理解し、うまく使いこなせる方法を見出していきましょう。
AI技術はこれからさらに発展していくと予測されているので、早い段階で基本的な活用方法を取り入れておくことが大切です。SEデザインでは、IT分野におけるBtoBマーケティング&セールス支援を行っており、30年以上の実績がございます。業務の効率化や顧客へのアプローチでお困りの際は、お気軽にSEデザインへご相談ください。
