新型コロナウイルス感染症への対策が世界経済にとっての最優先の課題となる中、SDGs(エスディージーズ)に大きな注目が集まっています。SDGsは2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられている目標とターゲットです。出口の見えないコロナ禍の中で持続可能なビジネスとは何なのか、また私の社会はこれからどうあるべきなのか、地球規模のサステナビリティが今あらためて問われています。
地球社会のサステナビリティを支える行動原理
このところSDGs(エスディージーズ)という言葉を耳にする機会が多くなったと思います。SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連に加盟している193カ国によって採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている17の目標と169のターゲットのことを指します。
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継プログラムとして掲げられたSDGsは、サステナブル(持続可能)な地球社会の実現に向けた全世界の行動原理、共通目標として、世界中の政府や企業、さまざまな組織から大きな注目を集めています。
以下は、SDGsで掲げられている17の目標です。ここでは地球環境の保全にとどまらず、貧困の解消、ジェンダー間の格差是正、都市計画に至るまで、広範な課題の解決が提唱されています。また、17の目標にはそれぞれに紐づく合計169のターゲットがあり、例えば「3.すべての人に健康と福祉を」では、「2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する」といったような具体的な数値目標も設けられています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
CSR、ESGより一歩進んだ企業価値の指標
この中にある「12.つくる責任 つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」などをみてお気づきの方もいらっしゃると思いますが、これまでも社会を構成する企業や市民が地球環境保護などの課題を自らの問題と捉えて解決へ導くための概念は、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)やESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)といった形で提唱され、さまざまな取り組みが進められてきました。しかし、この段階でのイニシアティブは、例えば企業であれば、利益の獲得を目的とする本業とは切り離され、あくまで社会からの信頼を維持するための受け身の印象が拭えませんでした。
これに対してSDGsは、数値目標を含む具体的な課題の解決を2030年という時間とともに提唱している点が、これまでとは異なります。実際、日本では政府がSDGsに積極的に取り組んでいる自治体を「SDGs未来都市」として認定して補助金を支給するなど、いくつもの具体的な施策もスタートしており、こうした動きは各国の政府や企業においても急速に拡大しつつあります。
日本において当初からSDGsの推進に積極的に取り組み、政府から「SDGs未来都市」の認定を受けている例として、北海道の取り組みがあります。北海道に限らず、地方には少子高齢化や過疎化、またそれよる経済活動の停滞などといったさまざまな課題があります。北海道は道全体が「SDGs未来都市」に選定されているほか、札幌市、ニセコ町、下川町も同様の認定を日本政府から受けており、地域の人々が安心して暮らすことができ、将来にわたる成長性を維持していくための取り組みが進められています。
また、2018年4月には知事を本部長とする「北海道SDGs推進本部」が設置され、その恵まれた自然環境や資源の価値を高め、日本全国、世界の中で北海道の存在感を高めていくために、さらにSDGsを推進していくとしています。こうした動きが全国の自治体にも広がれば、そこから大きな成果が期待できます。
SDGsと密接に関係するX-Techの役割
このブログの別の記事で、世の中に存在するさまざまな壁や制約を取り払ってきたのがITの歴史だとお伝えしたことがありますが、ITはSDGsの推進とも決して無関係ではありません。それどころかX-Techという観点からは、SDGsとITのより密接な関係が見えてきます。いくつの例を挙げると、「2.飢餓をゼロに」であればFoodTech、「4.質の高い教育をみんなに」であればEdTech、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」であればCleanTechやAutoTechといった具合に、SDGs の17の目標はX-Techが今後生み出す多くのビジネス領域と重なります。
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)が2020年6月に発表したレポート「Sustainable Development Report 2020」によると、日本はSDGsの達成度において、調査対象となった166カ国の中で17位にランキングされています。上位を占めたのは、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ノルウェー、オーストリア、チェコ共和国、オランダ、エストニアといった北欧諸国が中心で、こうした国々と比べて日本はジェンダー格差の是正や高齢者の貧困対策などの面で、まだまだ改善の余地があることが指摘されています。産業界の取り組みや社会全体の意識の高まりを通じて、X-Techにこうした課題の改善における大きな可能性が潜在していることは間違いありません。
身近な取り組みから始まるSDGsのアプローチ
北海道のような自治体の取り組みや専門の機関が発表しているレポートなどを見ると、SDGsの推進にはやはり大規模な予算や組織が必要なのではないかとお考えの方がいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。SDGsの推進に寄与する施策は私たちのごく身近なところにも存在しています。その1つとして大きな期待を寄せられているのが、コロナ禍の中で急速に拡大しているリモートワークです。
オフィスに出勤することなく、自宅やサテライトオフィスで仕事をするリモートワークからは、SDGsの目標とも合致するさまざまな効果が生み出されます。例えば、企業のビジネスに関連したCO2の排出量は、その多くが公共交通機関を利用した通勤や、営業活動における自動車の利用、出張時における飛行機の利用によって生じています。リモートワークがさらに拡大することによって、こうした移動手段の利用頻度が低下すれば、CO2の排出量の大幅に低減につながることは言うまでもありません。
また、消費電力の抑制やゴミの削減についても、同様のことが当てはまります。自宅におけるリモートワークでは、消費電力の節減やペーパーレスに対する意識がオフィスワーク時よりもはるかに高まります。ゴミについても、昼食は自宅で自炊することで外食やテイクアウトを利用する際の包装ごみなどが削減され、フードロスの解消にもつながることは明らかで、こうした成果は「12つくる責任 つかう責任」のターゲットとして言及されている「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」とも一致するものです。
さらに、リモートワークの拡大は「5.ジェンダー平等を実現しよう」のターゲットである 「5.b 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する」にも貢献するはずです。多くの女性が経験する出産や育児というライフステージにおいて、オフィス以外の場所で働けるという柔軟な選択肢が用意されていれば、「5.ジェンダー平等を実現しよう」のターゲットである 「5.b 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。」の実現が大きく前進します。
このようにリモートワークだけをとっても、SDGsの理念と共通する多くの成果が見込まれることを考えると、私たちの生活や仕事のさまざまな側面を支えているITがさらに多くの可能性を秘めていることは想像に難くありません。また、X-Techのビジネス領域が今後ますます拡大していくことで、SDGsとのさらなる相乗効果が生まれていくはずです。こうなることで、地球環境のサステナビリティ、企業の成長、また働き方も含めた社会のダイバーシティがお互いの価値を高めあいながら共存する環境を作り上げることも夢ではないはずです。