物流DXは、データ・デジタルを駆使して社会やビジネスを変革するDXを物流業界に適用していく考え方や取り組みを指します。近年急速に注目されている分野であるため、「物流DXという言葉は聞いたことあるが、詳しい内容はわからない」という企業担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、物流DXの概要や物流業界が抱える課題、メリット、事例を解説します。
「物流DX」とは
そもそもDXとは「Digital Transformation」の略であり、データとデジタル技術を使って社会やビジネスを変革していく取り組み全般を指します。そのため物流DXとは、DXを物流業界に適用していく考え方や活動といえるでしょう。
物流DXは、「ロジスティクスデジタルトランスフォーメーション」と呼ばれることもあります。国土交通省によると、物流DXは以下のように定義されています。
機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること
引用元:国土交通省「物流DXについて」
物流のこれまでのあり方を変革するためには、主に「既存業務の改善・効率化」と「ビジネスモデル自体の革新」の2つのアプローチが挙げられるでしょう。物流DXは、デジタルの力を駆使して物流業界の業務効率化やビジネスモデル革新を担う重要な取り組みであるといえます。
物流業界が抱える課題
本章では、物流業界が抱える課題について、以下の3点を解説します。
- 深刻な人手不足と従業員の負担増加
- EC市場の拡大に伴う小口配送の増加
- 燃料費などのコスト増加
深刻な人手不足と従業員の負担増加
物流業界が抱える大きな問題の一つが人手不足です。国土交通省の調査によると、配送ドライバーの有効求人倍率は2.68であり、全職種平均の1.35の2倍ほど高くなっています(平成30年時点)。
出典元:国土交通省「トラック運送業の現状等について」
また、トラックドライバーの高齢化が進んでいることも、物流業界の人手不足を加速させる大きな課題です。国土交通省の調査では、配送ドライバーの平均年齢は全産業の平均よりも高くなっています。
出典元:国土交通省「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」
上記より、物流業界では配送ドライバーなどの人手不足が顕在化していること、さらに今後ますます人手不足が深刻化していくことが想定されるでしょう。加えて、人手不足によって従業員の長時間労働などの負担増加が問題となっています。
EC市場の拡大に伴う小口配送の増加
物流業界が抱える課題には、EC市場の興隆も関係しています。
デジタル化や新型コロナウィルスの流行などを背景に、EC市場が大きく拡大し、ネットショッピングの利用者が増加しました。それにより、小口配送を中心に配送の総数が増加し、物流業界の負担が増加しているのです。
多くの利用者がネットショッピングで買い物をすることで、倉庫での商品管理が複雑化し、仕分けや保管といったオペレーションの負荷が増えています。
燃料費などのコスト増加
燃料費などのコスト増加も物流業界が抱える課題です。
たとえば、世界の紛争リスクやインフレによって、燃料やトラック、タイヤなどの原材料費が高騰傾向にあります。原材料費が高騰することで、売り上げが同じでも利益率が減少するため、物流業界の各社の経営状況にマイナスの影響を与えることになります。
また、コスト面では人件費も無視できません。人手不足を解消するために、配送ドライバーの賃金増加なども必要経費として考えていく必要があるでしょう。
物流DXによって得られるメリット
ここでは、物流DXによって得られるメリットについて、以下の3つを解説します。
- 物流の機械化・自動化による人手不足の解消
- 配送手続きのデジタル化によるコスト削減
- 配送状況の可視化による業務効率の向上
物流の機械化・自動化による人手不足の解消
物流DXによって、物流の機械化・自動化が実現可能です。たとえば、物流の幹線輸送手段として、トラックや自動運搬船の自動化・機械化の取り組みが行われています。
国土交通省と経済産業省は、2021年3月にトラックにおける後続車無人隊列走行技術の実現を発表しました。無人走行が実現できれば、人手不足の解消にも大きく貢献するでしょう。
配送手続きのデジタル化によるコスト削減
物流DXでは、配送手続きのデジタル化によるコスト削減も見込めます。これまで紙でアナログ管理されていた配送伝票などをデジタル化することで、紙の管理コスト印刷コストなどを大きく削減することが可能です。
加えて、紙でのアナログ管理をなくすことで、伝票の紛失リスクや改ざんリスクなども減らせるでしょう。
配送状況の可視化による業務効率の向上
物流DXによって配送状況を可視化することで、配送業務の効率化にもつながります。たとえば、配送トラックの現在地や目的地への到着時間をリアルタイムに可視化して把握することで、従来のアナログ手法による現在地確認や電話連絡が不要になります。
また、配送状況や走行データをデジタル管理することで、配送ドライバーが手書きで運転日報などを作成する手間がなくなるため、業務効率化を図れるのです。
物流DXの事例
物流DXに関するサービス事例を知ることで、より物流DXへのイメージを持てるようになるでしょう。本章では、物流DXの事例を2つ紹介します。
佐川グローバルロジスティクス
倉庫のデジタル化・自動化・機械化を実現した事例として、佐川グローバルロジスティクスの取り組みが挙げられます。同社は、無線通信自動認識システム(RFID)および仕分けシステム「t-Sort」を導入し、入出荷検品作業や通常仕分け作業、返品仕分け作業の生産性向上を実現しました。
入出荷検品作業は、これまで伝票を一枚ずつ人手で検品していたのに対し、RFIDゲートを通すだけで検品を行えるようになりました。仕分け作業は、ロボットが代わりに行うことで、作業者の動作や移動の時間・手間を削減しています。
倉庫内のシステム化を実現したことで、作業品質の向上や属人性の解消、作業スキル習得時間の短縮に貢献している良い事例です。
長野県伊那市/KDDI
配送の自動化・機械化を実現した事例として、長野県伊那市とKDDIの取り組みがあります。長野県伊那市とKDDIは、中山間地などの地域で買物困難者が増加している生活課題を解消するために、共同で「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」を実施しています。
具体的には、ケーブルテレビによる簡単な注文とドローンによる配送を組み合わせた買い物サービス「ゆうあいマーケット」を2020年より本格開始しました。商品はケーブルテレビの画面で注文し、商品代金はケーブルテレビ利用料と合わせて口座振替で後日支払うため、住所や支払い方法の入力は不要です。
午前11時までに注文すれば、当日の夕方までにドローンによる配送が行われます。食料品や日用品の買い出しが困難な高齢者などの課題改善につながっている事例です。
物流DXは物流業界の業務効率化や人手不足解消につながる
物流DXは、物流業務の機械化やデジタル化によって、業務効率化やビジネスモデル革新を目指す取り組みです。
物流業界では、深刻な人手不足や従業員の負担増加、燃料費の高騰などが課題となっています。物流DXに取り組むことで、業務効率化やコスト効率化を図ることができ、人手不足の解消や収益性の改善にもつながるでしょう。
物流DXに関する取り組みは今後も活発に行われていくことが想定されます。今回紹介したような事例も参考にしながら、物流DXの理解を深めていきましょう。
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