メタバースという言葉は、Facebook社が「Meta」に社名を変更し、メタバース事業に本格参入したことで話題となりました。
今回は、メタバースとは何かを詳しく知りたいかたに向けて、VRとの違いや仮想通貨との関連性、概念の意味をわかりやすく解説します。
1 メタバースの意味とは?わかりやすく解説
「メタバース」自体は新しい概念ではなく、2000年代からインターネット利用者の間で利用されてきました。今でこそメタバースという言葉を耳にする機会が増えていますが、ブームはひとつの通過点に過ぎません。
まずは、メタバースとは何か詳しく知らない方のために、意味やVRとの違いをわかりやすく解説します。
1-1. メタバースの定義
メタバースとは、仮想空間のなかで現実のように行動できる3次元空間のことで、「Meta(超越、抽象度が高いなどの意味)」と「Universe(世界、領域などの意味)」を組み合わせた造語といわれています。
1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ(ニール・スティーブンスン著)」の中で「メタヴァース」という仮想世界が登場したのを機に使われるようになりました。メタバースの概念は、2003年にアメリカのLinden Lab社が提供した「Second Life」が火付け役ともいわれています。
これは「リンデンドル」と呼ばれる仮想通貨を使い、バーチャル空間上の制作物や土地を売買するソーシャルプラットフォームです。当時は仮想空間上で経済活動ができることが画期的だといわれていました。
具体的にメタバースは3次元のデジタル空間上に、自分がアバターを作成して動かせます仮想空間上でも現実世界と同じように人とコミュニケーションし、行動できることが特徴です。
1-2. VRとの違い
VRとメタバースとの大きな違いは、ゴーグルなどに代表される専用機器の有無です。VRは仮想現実の意味で、ゴーグルを装着して映像を見たりゲームをしたりしながら利用します。VR専用機器を使い、「現実に起こっていないことを体験できるツール」とイメージできるでしょう。
一方、メタバースは、ゴーグルを装着しなくてもインターネット上にある仮想空間で行動できます。アバターを使うことで、仮想空間のなかで社会生活ができると考えるとわかりやすいでしょう。
2 メタバースが注目される理由
メタバースはそれほど新しい概念ではないとはいえ、なぜここまで注目されているのでしょうか。メタバースが注目を集めている理由を、3つに分けて解説します。
2-1. VR機器の普及
一つ目はVR機器の普及です。ゴーグルの軽量化やワイヤレス化など、より実用的なゴーグルの開発が進んでいます。新型コロナウイルスの影響により、VR市場はエンタメ・ビジネス・教育分野での参入が活発化しました。
これまではゲーム業界が主流でしたが、セミナーやリモートワークなどにも展開されています。
2-2. 仮想通貨・NFTなどの技術革新
仮想通貨やNFTなどの技術革新も注目される要因です。メタバースで経済活動を行う際には、仮想通貨が使われます。
また、従来であれば簡単に複製できたデジタルデータに、「オリジナルである」という証明書をつけて売買できるNFTと呼ばれる技術も進歩してきました。
ブロックチェーンによるデータの信頼性も高まり、データの改ざんによって仮想通貨を失ったり、オリジナルの複製が高値で取引されたりすることを防ぐ安全性の仕組みも構築されています。
今後は、NFTにより所有しているデジタルデータの信頼性と資産価値が増すほか、コミュニティ形成などの技術革新が進むことで、メタバース技術の発展が期待できます。
2-3. Facebookによるメタバース事業への参入
大企業がこぞってメタバース事業に参入していますが、その背景にあるのがFacebook社による本格参入です。それに伴いFacebook社は、2021年に社名を「Meta」に変更しています。これが三つ目の理由です。
Meta社は、単なるソーシャルメディア企業を超えて、持続可能なビジネスを作ることを目的にメタバースへの投資を開始しました。
ソーシャルメディアの運用で培ったノウハウに、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を組み合わせることで、オンライン上の新たな交流体験の構築を目指しているといわれています。
3 エンタメ分野でのメタバース活用方法
ここからは、実際にメタバースがどのように活用されているかを具体的に解説します。
3-1. ゲーム
オンラインゲームではアバターでのコミュニケーションなど、すでにメタバースの一部が構築されています。
たとえば、アメリカのゲーム会社Epic Games社のゲーム「フォートナイト」では、過去に米津玄師や星野源らミュージシャンによるバーチャルライブが行われました。また、任天堂社の人気ゲーム「どうぶつの森」では、ファッションブランドのAnna Sui(アナスイ)社がアバター用にコレクションを提供したことも話題となっています。
このようにアバター同士が同じ時間を共有したり、ショッピングを楽しんだりすることで、仮想空間が現実世界と同じように楽しめることを実感した人も多いでしょう。
3-2. 観光
観光業界においても、メタバースをオンライン観光にも取り入れようとする動きが世界中で進んでいます。中国の観光地である湖南省張家界市武陵源区では、「張家界メタバース研究センター」を設立し、観光産業の発展を図っています。
また、沖縄のエンターテインメント企業であるあしびかんぱにー社では、2021年にメタバース観光施設「バーチャルOKINAWA」を立ち上げたことが話題となりました。国際通り商店街やビーチなどを再現しただけでなく、バーチャル上でライブコマースやチラシ配りなどを行い、宣伝や購買活動につなげています。
3-3. スポーツ・ライブ観戦
スポーツやライブ観戦についても、メタバースが活用されている事例がいくつかあります。
ソニー株式会社は、2021年11月に英国のプロサッカークラブであるマンチェスターシティと提携し、「エティハド・スタジアム」という仮想空間を構築していることを発表しました。実現すれば、スポーツファン同士が新しいコミュニティを作ることも容易になるでしょう。
また、メタバースは音楽業界にも大きな影響を与えています。欧米をはじめ、韓国のアーティストや音楽業界の大手レーベルは、いち早くメタバースに参入しました。
ロサンゼルスのスタートアップ企業であるAmazeVR社は、2019年末頃からVRコンサート事業に本格参入しています。
コンサートを視聴するだけでなく、ライブ会場にいるかのような疑似体験ができるのが特徴です。2024年までに、自宅用と劇場用のVRコンサートを提供する予定と発表されています。
4 IT・ビジネス分野でのメタバース活用方法
メタバースはエンタメ分野だけでなく、ビジネス分野にも幅広く展開されています。ここからは、ITやビジネス分野でメタバースがどのように活用されているかを解説します。
4-1. バーチャルオフィス
テレワークでの課題を解消するための方法のひとつとして、バーチャルオフィスが挙げられます。
新型コロナウイルスの影響によるテレワークやオンライン会議の増加に伴い、ITやビジネス分野でもメタバースが活用されています。
とくに、コロナ禍で急速に普及したWeb会議システムでは、参加者とのコミュニケーションが十分に取れないなどの懸念がありました。例えば、参加者の顔が画面に表示されるだけで、声が一方通行となりやすく、認識しづらい傾向にあります。
しかしバーチャルオフィスは、メタバース空間でアバターとなって発言・行動できるため、コミュニケーションにおける間や声の方向を認識しやすくなります。
このように実際のオフィスにいるような感覚を体験できるのが特徴です。
4-2. バーチャルイベント
メタバースは、ビジネス向けの展示会やファンイベントなどのバーチャルイベントにも活用できます。会場に向かう時間がなくても、休憩時間や通勤の移動中でもイベントに参加することが可能となります。
また、現実世界での展示会やイベントは、会場によってキャパシティが決まっています。
とくに、コロナウイルスの影響により入場規制がかけられている場合は、イベント規制において大きな壁となるでしょう。
バーチャルイベントであれば、サーバーの増強により参加人数を無制限に増やすことが可能です。
このように、人数や場所の制限を受けないことからも、バーチャルイベントの開催は今後も注目されるでしょう。
4-3. バーチャルショップ
メタバースの技術は、ショッピングにも展開されています。老舗百貨店の三越伊勢丹では、アバターで街を歩いてショッピングやイベントを楽しめるバーチャルショップなどを営業しています。
伊勢丹新宿店では、スマートフォン向け仮想都市空間サービス「REV WORLDS」を出店しており、デパ地下・ファッション・ギフトなど実際に販売されている商品が並んでいます。アバターで試着した商品をそのままオンラインストアで購入できるため、実際にショッピングを楽しんでいるかのような体験が可能です。
5 メタバースのメリット・デメリット
最後にメタバースのメリットとデメリットについて解説します。
5-1. 場所に縛られない
先にも述べたように、メタバースの大きなメリットは場所に縛られないことです。仮想空間は、世界中のどこからでも参加でき、普段会えないような人とも気軽にコミュニケーションを取れます。また、バーチャルオフィスであれば出勤も必要なくなり、移動コストが減った分だけ生産性向上を見込めるでしょう。
その反面、仮想空間に依存しすぎると、現実でのコミュニケーションがおろそかになる可能性もあります。また、アバターの操作はゲーム要素も強いため、オンラインゲームのように依存症につながる懸念もあるでしょう。
5-2. 新たなビジネスの可能性
メタバースでは場所や距離の制約がないため、日常と非日常の両方で活用できます。まだ発展途上の分野ですが、場所の制約がないことで、これまで実現不可能だったビジネスチャンスが生まれる可能性もあるでしょう。
たとえば、世界に4,000万人以上の利用者がいるとされる「The Sandbox」というゲームでは、仮想通貨を使って土地を売買することが可能です。大手企業なども仮想空間上の土地購入に積極的で、購入した土地に街を作ったりイベントを開催したりしてビジネス展開しています。
今後もさまざまなビジネスにつながっていくことが期待できるでしょう。
5-3. 脆弱性によるリスク
メタバース上では仮想通貨を使って取引を行いますが、ウォレットの脆弱性によるリスクが問題となっています。ウォレットとは仮想通貨を保管する場所のことで、財布のようなものです。
過去にはウォレットが不正アクセスされ、仮想通貨が流出する事件も起こっています。
事例を挙げると、2022年3月に人気NFTゲーム「Axie Infinity」で約764億6,000万円相当の暗号資産が不正流出しました。メタバースは現実世界の法律が適用できないケースもあるため、法律の整備が追いついていないのが現状です。
日本では2014年にはじめて仮想通貨が定義されたこともあり、現行法では多くの課題を抱えています。
6 まとめ
VR機器の普及やNFTなどの技術革新により、メタバースは今後も注目されるでしょう。Facebook社のメタバース事業への参入を皮切りに、エンタメ分野からIT・ビジネス分野まで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
メタバースは場所や距離の制約がなく、世界中の人といつでも交流できるメリットは大きいでしょう。しかし現時点では、セキュリティ面でのリスクがあるのも否めません。とはいえ、今後さらに存在感は増すと見られるのでビジネスやマーケティングにはメタバースの理解が欠かせません。
ブロックチェーン技術などの進歩を期待し、法改正などの情報をしっかりチェックしていきましょう。