近い未来、AIによってマーケティングはどう変わるのか?

更新日:2024-02-26 公開日:2022-11-17 by SEデザイン編集部

目次

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ここ数年で「AI(人工知能)」は目覚ましい進化を遂げており、車の自動運転や医療での診断支援など、さまざまな領域での活用が進んでいます。

マーケティングの分野においても例外ではありません。人流分析や需要の予測、レコメンドなどのパーソナライズ化、広告デザインやSEOの最適化など、AIはさまざまな分野で活用されています。

本記事では、日本におけるAIの現状と、近い未来マーケティングはAIによってどう変わっていくのかを解説します。

日本におけるAIの現状

まず、日本国内におけるAIを取り巻く環境がどうなっているかを整理します。

"PRとしてのAI"の流布

まず、日本国内のAIを取り巻く環境は、単に「AIを使っている」とPRするためにAIが流布している状況とも思えます。

さまざまな可能性があるといわれるAIですが、あくまでもデジタル技術の一つです。AIを企業が導入しようとする場合、本来はDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で考える必要があります。DXとは、経済産業省による定義では以下の通りとされています。

《経済産業省によるDXの定義》

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

デジタルガバナンス・コード2.0

上の定義にあるとおり、DXの目標はあくまでも「製品やサービス、ビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革」にあり、デジタル技術であるAIはその目標を達成するための手段です。

ところが日本国内では、以下のようにサービスや業務などの変革を伴わず、従来通りのサービスやシステム・業務などにAIを組み込んで、“AI活用”とPRする事例が目立ちます。

機械学習を組み込んだシステムを導入しただけの“AI活用”

日本の企業がうたう「AI活用の推進」は、以下のようにAIや、AI技術の一つである機械学習を組み込んだシステムソリューションを導入するだけのものが大半です。

  • 製造ラインのシステム ⇒ 製造ラインのAIシステム
  • CADシステム ⇒ AIによる設計支援CADシステム
  • 生産管理システム ⇒ 機械学習による生産計画の自動作成

AIや機械学習と謳ってはいるものの、既存のシステムに多少の機能が増えた程度で、昔ながらのシステム導入と本質的には変わりません。また、Amazonのクラウド音声サービス「Alexa」やチャットボットの導入だけで「AI活用」を謳う例もあります。

データ分析の延長として機械学習を使っているだけでも“AIで改善”

データ分析の延長で機械学習を使っていても、「AIで改善」と誇張する例も数多く見られます。

たとえば、単回帰分析や重回帰分析、ベイズ推定などのデータ分析のための数学は、たしかに機械学習の基礎となります。しかし、従来はそれらの数学を使ってデータ分析を行っても「機械学習」や「AI」とは呼ばず、単に「統計解析」と呼ばれていました。

それを、近年では “機械学習を組み込んだデータ分析”などと呼ぶようになっています。「AI」や「機械学習」がDXを伴わず、単なる宣伝文句となってしまっている代表的な例でしょう。

テクノロジーの高度化により発注側とベンダーとの知識が乖離

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日本のAIの現状として、テクノロジーの高度化により発注側とベンダーの知識の乖離が増大していることもあげられます。

AIは導入したいが経営陣にAIの知識がまったくない場合に、頼るのはベンダーです。ところが、経営陣の「AIで何かしたい」という思いが先行してAI導入が目的化し、ベンダーに丸投げした結果失敗に終わるプロジェクトもあります。

従来のITシステム導入に際しても、多くの会社はITを理解しておらず、ベンダーに悩みだけ聞いてもらいシステムを入れてもらったものでした。しかし、AIやIoT(Internet of Things)などはテクノロジーが高度化したため、従来のやり方が通用しなくなり、発注側とベンダーの知識やノウハウの乖離が広がっているのです。

ERP(Enterprise Resources Planning)など従来のITシステム導入においては、ビジネス上の目的をまず設定し、その実現のためにITを利用することが可能でした。そのため会社はビジネス上の目的さえおさえておけば、システムについてはベンダーに任せることができました。

ところがAIやIoTなど高度なテクノロジーが登場して以降、「ビジネスがITを利用する関係」から、「ビジネスとテクノロジーが融合する関係」に変化してきました。つまり、ビジネスを創造するためには、テクノロジーへの理解が前提となっているのです。

しかし、日本の企業の多くは、経営陣がAIを理解できていないのが現状です。そのため、ビジネス上の目的とテクノロジーを融合できず、AIの導入が目的化してしまい、プロジェクトの失敗につながってしまうのです。

未来(2~3年後)のAIを活用したマーケティングはどうなるか?

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ここからは、2~3年後の未来にAIを活用したマーケティングはどうなるのか、あくまで予測ではありますが見ていきたいと思います。

ビジネス層(非エンジニア層)へのAIノウハウの一般化

まずいえることは、ビジネス層(非エンジニア層)でAIのノウハウが一般化し、AIでできることとできないことの線引きが明確になっていくだろう、ということです。

AIは発展途上の新しい技術であるため、ビジネスパーソンにとって何ができるものなのかがわかりにくいところがありました。そのため、「AIで自分たちの仕事が代替されてしまうのでは」という過度な心配も生まれていたのです。

しかし近年では、AIができることとできないことの共通認識ができつつあるといえるでしょう。その線引きが明確化すれば、AI活用のアイディアもより多く生まれていくと考えられます。

AI関連サービスへのニーズの増加

ビジネス層のAIに関する知識レベル向上に伴い、真のAI活用がどのようなものかという認識が浸透すれば、AI関連サービスの需要が高まる可能性があります。

特に、マーケティングはテクノロジーの活用が前提であり、現段階ですでにWeb上の行動データやSNSなどの、人間が解釈できる範囲を超えた膨大な量のデータが存在します。データ活用がマーケティングの大きな課題であるため、膨大なデータを高速で処理できるAI関連サービスの浸透は、マーケティングにおいてはほかのX-Techより早いと想定されます。

実際、「敵対性生成ネットワーク」と呼ばれるAI技術では、さまざまな現象をデータとしてシミュレーターに取り込むことで、現実世界で実験することなく、AIだけで実験を行えます。この技術を利用すれば、消費者がどのような購買行動をとるのかをAIで実験でき、チラシなどのマーケティング施策の効果予測や製品価格のシミュレーションができるようになるかもしれません。

マーケティング業界を変革するようなAIを活用した新サービスの登場

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GoogleやMetaなどの大手IT企業がAIソフトウェアのソースコードをオープンにしていることもあり、AIテクノロジーは近年、非常なスピードで改良され進化を続けています。近い将来、マーケティング業界を変革するようなAI活用の新サービスが登場するかもしれません。

その発信源は、海外サービスの日本(アジア圏)展開と、国内での先進的なAIサービスの開発の双方が考えられます。また、既存のマーケティングテクノロジーへの本格的なAI導入も進むでしょう。

具体例としてあげられるのは、仮想現実でのシミュレーションによる効率的なコンセプト開発です。近年、現実世界で取得されるさまざまなデータを利用し、コンピュータ上に構築される「デジタルツイン」と呼ばれる仮想現実が次々と作られています。デジタルツイン上でのAI活用により、さまざまなシミュレーションが行えます。

デジタルツインの活用で、これまではマーケターやクリエイター、プランナーに大きな負荷がかかっていた「コンセプト開発」も可能になるといわれています。AIがさまざまな概念を総当たり的に組み合わせることによりコンセプトの候補を数多く生成し、最後のコンセプト決定とネーミングを人間が行うイメージです。

IoTデバイスのさらなる普及にともなう、さまざまな広告フォーマットの拡大

近年ではパソコンやスマホ、さらにはスマートスピーカーやスマート家電、スマートハウスなどのIoTデバイスが、生活空間に浸透してきています。それらのテクノロジーを活用し、広告も新たなフォーマットが拡大していくでしょう。そのなかでも特に注目されているのが音声広告です。

音声広告はもともとラジオで使用されてきた広告です。しかし、広告の配信先がインターネット上へと移行して「デジタル音声広告」となり、特定ユーザーへのターゲティングができるようになりました。さらには現在、Siriなどの音声アシストを利用して、商品・サービスの提案から販売までが可能となる「対話型音声広告」も構想されています。

近い将来には、スマートスピーカーやスマート家電で対話しながらの買い物が、当たり前になるかもしれません。

クリエイティブの自動生成・運用の一般化

広告のクリエイティブ制作にも新たな展開が見られそうです。バナーや広告文などをAIが自動生成し、運用成果に基づいて自動調整するなどのサービスの一般化が進むでしょう。

顧客の嗜好分析から、エンゲージメントが高まるコピーライティングの生成や配色の最適化などを行うAIはすでに存在しています。近い将来、記事などの文章作成もAIが行えるようになるでしょう。また、マーケティング効果を調べるためのA/Bテストも、AIによる予測マーケティングにより過去のものとなる可能性があります。

これまでマーケティング領域では、マーケターの属人的な経験・知識・スキルがどうしても必要でした。しかし、AIを活用したマーケティングツールにより、真にデータドリブンなマーケティングが実現するかもしれません。

まとめ

日本においてAIは、まだまだ“PRとしてのAI”が流布する状況となっており、テクノロジーの高度化による発注側とベンダーの知識の乖離も増大しています。

近い将来のマーケティングにおいては、ビジネス層のAIノウハウの一般化とAI関連サービスニーズの増加に伴い、AIを活用したさまざまな新サービスが登場することとなるでしょう。

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