業務の現場とIT部門の仲介役として、データ活用を支える「ビジネストランスレーター」とは?

更新日:2024-02-26 公開日:2021-05-27 by SEデザイン編集部

目次

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「データドリブン経営」や「データドリブンマーケティング」が多くの企業にとって不可欠な課題となりつつある現在、「ビジネストランスレーター」という新たな役割がにわかに注目を集めています。自社の業務とテクノロジーの双方に精通し、業務の現場とIT部門の会話を文字通り「翻訳(トランスレート)」して、その仲介役を担うビジネストランスレーターの役割とはどのようなものなのか?実際のユースケースを交えて考えてみます。

データドリブン経営の拡大で注目される「ビジネスの仲介役」

業種を問わず、これまでの組織体制の中で、業務の現場とIT 部門はしばしば相容れない存在として見られがちでした。「販促企画に必要な最新のデータやレポートが欲しいのに、IT 部門は業務の現場を理解していない」という営業担当者の声に対し、ITの担当者は「データの見方もわからないのに、現場は無茶な注文ばかりする」と反論する。こうした不満や誤解の原因は、双方の立場の違いだけではありません。むしろ、お互いの考え方や目的を共有するための「共通言語」がないことが、さまざまなすれ違いを生み出してきました。

こうした状況に対し、以前であればベテラン社員が双方の言い分を聞くことで何とか調整できました。しかし、eコマースの代表されるように膨大なデータをリアルタイムで分析し、次のアクションにつなげる「データドリブンなビジネス」が当たり前になった現在、業務部門とIT部門の意思疎通のギャップは成長の大きな障壁となりかねません。こうした中でビジネスの視点でデータを読み解き、双方の仲介役を果たすのがビジネストランスレーターです。

データ活用におけるビジネスリーダーの頼れるアドバイス役

では、ビジネストランスレーターとは具体的にどのような知識やスキルを備えた人材なのでしょうか。「データ分析の専門家なら、データサイエンティストがいるじゃないか」という意見もあるかもしれません。しかし、ビジネストランスレーターとデータサイエンティストは、似ているようでスキルも役割も大きく異なります。

データサイエンティストには、データの収集やモデリングといったデータ分析の基本的なスキルはもちろん、数学や統計についてのアカデミックな知識を実務で使いこなす技量が求められます。また、最近はAIや機械学習、IoT といった最新のトレンドにもいち早く対応できる情報感度も欠かせません。

一方のビジネストランスレーターにまず求められるのは、「ビジネスに対する理解力」です。自社の業務スキームに関する知識はもちろん、それぞれの現場が抱えている課題や、それを解決するための社内横断的な視点も不可欠です。さらに、1つの課題を経営層や業務の現場、ITといったそれぞれの視点で見る洞察力、立場の異なる人々と話し合うためのコミュニケーション力などが備わって、はじめてビジネストランスレーターは業務の現場とIT部門の仲介役としての役割を果たすことができます。

もう1つ、「ビジネストランスレーターには、マネージャーとしての技量も求められるのか?」という点です。もちろん社内横断的な仲介役として機能するためには、ある程度のリーダーシップも必要です。しかし、むしろ重要なのは、各業務部門のリーダーの補佐役として、必要なデータをリストアップし、それを読み解き、現場の要望をITチームに伝えることです。この中でビジネストランスレーターには、リーダーシップよりもむしろビジネスリーダーの頼れる相棒、アドバイス役である資質が求められます。

理系領域と文系領域を横断した新たな発想の価値

では、社内でビジネストランスレーターを育成するためには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。今のところビジネストランスレーターに該当する認定資格などは存在せず、そのための標準的なカリキュラムもありません。また、組織の中で活躍するためには自社の業務に精通していることが前提となるだけに、このカリキュラムさえマスターすればOKというわけにいかないのも、ビジネストランスレーターならではの難しさです。

とはいえ、データ分析の専門知識などは独学での習得がかなり難しいのも事実です。データサイエンスについて学んだ経験のない人は、一般に公開されているトレーニングを受講するのも1つの選択肢です。いずれにしても、こうした点は社内の信頼できる専門家に意見を聞くなどして、自分の目指す役割や方向性を見極めながら判断することが賢明だといえます。

また、ビジネストランスレーターはいわゆる文系出身者でもデータ分析に関わることのできる役割でもあります。データサイエンティストとなると、数理統計など理系の専門知識をかなり深く学ばなくてはなりません。その点、ビジネストランスレーターはデータサイエンティストやエンジニアと会話し、意思疎通できるレベルの技術知識があれば十分に活躍できます。また業務部門とIT部門の仲介役としては、技術以上に自社のビジネスへの理解が重要になるため、文系出身者ならではの発想を活かせる可能性もあります。

ビジネストランスレーターの仲介が生み出す業務とITの信頼間

最後に、ビジネストランスレーターが実際にどのような役割を果たし、組織にどのようなメリットをもたらすかについて、簡単なユースケースをご紹介します。

コンシューマー向けのE コマースサイトを展開しているA社の商品企画部門では、新商品が思うようにヒットしないことが課題となっていました。そこでIT部門から提供された過去の売上データやWebサイトの閲覧履歴などを踏まえて、ランディングページの刷新などを試みましたが、期待した成果につながりません。IT部門は依頼したページデザイン変更や機能追加などには応じてくれますが、商品企画や販売の経験はないだけに、商品企画部門のメンバーが売上データなどを見て判断し、指示するしかありませんでした。

「ビジネスの視点でデータから知見を引き出し、新たな企画を立案できる人間がいてくれたらなあ…」。メンバーの嘆きを耳にした商品企画部門のリーダーは、「いないなら、育てるしかない!」と決意。経営層の賛同を得た上で、商品企画部門の中堅社員からデータ活用に意欲的なメンバーを「ビジネストランスレーター候補生」に抜擢しました。

その後、候補生にデータサイエンティストの養成講座を受講させる一方で、この人材をモデレータ役にIT部門との意見交換の場を定期的に設けるなど、全社でバックアップした結果、確実な手応えが出てきました。

「企画のメンバーが課題解決に必要なデータを探す際に、私がより適切なデータはどれかを助言したりします。また、ITチームから上がってきたレポートを実務に即した応用例などを挙げて説明することで、双方のチームにお互いの立場を認め合う信頼関係が生まれてきました」と、ビジネストランスレーター役を任された担当者は語っています。

このユースケースでご紹介したビジネストランスレーターの役割は、現時点でニーズが高い過渡的なモデルではありますが、こうした人材に対する期待がこれからますます高まっていくことは間違いありません。ビジネストランスレーターは組織の変革を後押しするキーマンとなる可能性もあるだけに、早い段階でその育成に取り組む価値は十分にあるはずです。

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