業種を問わず、現在のビジネスにおいてはデータを活用した経営戦略がもはや不可欠と言っても過言ではありません。それに伴い世界の人材市場で需要が高まっているのが、データから新たな価値を引き出し、ビジネスにイノベーションをもたらすことができるデータサイエンティストです。
しかし、データサイエンスの意味やデータサイエンティストの役割を正しく理解できている企業は、それほど多くないのが実情です。この記事では、データサイエンティストの実際の仕事内容について、最近の事例を交えてわかりやすく解説します。
データサイエンスとは?
まず、データサイエンスの定義や歴史、その種類について確認しておきましょう。データサイエンスの定義
データサイエンスは、統計学やIT、数学、経営学などさまざまな研究分野から成り立つ学問です。複数の研究分野の知識をもとに、企業の業務システムやインターネット、アンケートなどで集約したさまざまなデータに潜む知見や価値を明らかにし、社会課題や経営課題の解決に役立てます。データサイエンスの歴史
データサイエンスが初めて登場したのは、デンマークのコンピューター学者であるピーターナウアが1974年に発表した論文「Concise Survey of Computer Methods」だという説が有力です。その後、AIや機械学習の進化、ビッグデータなどの登場によって、2010年頃から社会課題や経営課題の解決に役立つ手法として、現在のデータサイエンスが脚光を浴びるようになりました。データサイエンスの種類
データサイエンスは、分析するデータの種類や統計方法などで3つに分類することができます。データの集計とグラフ化
データに含まれる数字をいくら眺めていても、それだけで経営の改善にどう役立てることができるかが見えてくるわけではありません。データを集計し、円グラフや棒グラフなどで可視化することで、数字が持つ意味の理解が深まります。こうすることで社内の情報共有もスムーズになり、業務改善や新たなビジネスの展開などの意思決定の迅速化につながります。
こうした用途に向けては、ExcelやAccessなどのOfficeアプリケーションをはじめ、最近は大量のデータを瞬時にグラフ化できるツールなどもITベンダーから提供されるようになっています。
統計的推測ないしは予測
統計データを用いた需要予測、経済予測などにもデータサイエンスは活用できます。従来の統計解析の手法でも、一定量のデータであれば簡易な未来予測は可能です。しかし、ITの進化にとって企業が取り扱うデータの量と種類は爆発的に増加し、従来の統計学の手法では精度の高い予測は期待できません。
大量かつ複雑なデータからより精度の高い予測を行う上で、最近は統計解析の分野において機械学習が広く用いられるようになっています。
人工知能(AI)
データサイエンスで解析するデータはテキストだけではありません。ビッグデータには画像や音声、動画などの非構造データもあり、これらにも有益な情報が含まれています。近年のAIブームの火付け役であるディープラーニングでは、画像解析や音声解析、言語処理などが可能で、こうした解析結果は経営課題や社会課題の解決に役立ちます。データサイエンスが期待される2つの理由
以下では、ビジネスの分野でデータサイエンスに期待が寄せられている理由を2つ紹介しますビッグデータの収集・分析が容易になった
データサイエンスが大きな期待を集めるようになった背景には、IoT、クラウド、AIなどの進化により、低コストかつ容易にビッグデータの収集・分析が可能になったことがあります。一般消費者向けのインターネットサービスの拡大やスマートフォン、タブレットなどの普及も、そこで生成されたビッグデータを入手しやすくなった理由の1つと言えます。利益拡大への期待
データサイエンスで解析された情報は、業種を問わず多くの企業に莫大な利益をもたらす可能性を秘めている点も、その需要が高まっている理由の1つです。令和2年度版の情報通信白書では、多くの企業が「経営改革・組織改革」「製品・サービスの企画、開発」「マーケティング」などの分野でデータ活用に取り組んでいることが報告されています。
下のグラフからも、収集するデータ量や分析技術を向上させることで、利益を拡大したいと考える企業が多く存在することがわかります。
データサイエンティストとは?
データサイエンスの需要が高まったことで、ビジネスの世界においてデータサイテンティストと呼ばれる専門職が誕生しました。
専門職とはいっても、データサイテンティストになるための共通の資格があるわけではありません。しかし、企業が求めるスキルを満たす人材が不足していることから、データサイテンティストの育成はいまや国家レベルの課題となっています。
ここからは、データサイエンティストの実際の仕事内容や求められるスキル、将来性について見ていくことにしましょう。
データサイエンティストの仕事内容
データサイエンティストの仕事は、まずビッグデータから必要な情報を抽出し、さまざまな種類のデータを効率よく分析するために、ツールを使ってフォーマットを統一するところからスタートします。
その後、多角的なデータ分析によって得られた知見を活かして、売上予測や新しい商品やサービスの企画・開発、業務プロセスの改善などを提案します。
データサイエンティストに必要な3つのスキル
データサイエンティストには、次の3つのスキルが不可欠です。ITの知識
データの収集、格納、処理、加工などでは、次のITスキルが求められます。
- PythonやR言語などのプログラミングのスキル
- データベース運用のスキル
- Hadoopなど膨大なビッグデータの分散処理に関するスキル
この他にも経営課題の背景を理解するためにも、ビッグデータを収集するIoTやWebサイト、セキュリティなどの知識もあるとよいでしょう。
統計学
収集したデータを適切に解析するために、以下の統計学などの知識も要求されます。
- 確率統計、ベイズ統計、線形代数、ラプラス変換などの数学の知識
- 統計学やパターン認識、AIなどのデータ分析のスキル
- SPSS、SASなどのデータ分析ツールの操作
ビジネススキル
分析したデータの活用方法の提案もデータサイエンティストの重要な仕事であるため、次のようなビジネススキルも求められます。
- 改善対象となる業務全般に関する知識
- 課題を解決に導くための論理的思考
- 経営陣や業務部門に分析結果をわかりやすく伝えるプレゼンスキル
データサイエンティストの仕事は将来なくなる可能性がある?
人材不足が深刻であるにもかかわらず、データサイエンティストの需要は近い将来なくなる可能性があるとも言われています。AIの進化によって、データサイエンティストが現在担当している業務の多くが自動化されるかもしれないというのが、その理由です。
しかし、AIが強みを発揮するのは決められたルールに沿った大量のデータ処理です。今後どれだけAIが進化しても、新しい理論やモデルの開発といった創造性が必要とされる仕事には、人間でないと対応できないものが多くあります。とはいえ、新たな技術の登場に備え、常にスキルアップを図ることが、長く活躍できるデータサイエンティストに求められる素養であることは間違いありません。
データサイエンスの活用事例5選
最後に、データサイエンスの活用事例を5つ紹介します。厚生労働省:LINEを使った「新型コロナ対策の全国調査」
世界を蔓延している新型コロナウイルスの感染防止対策にも、すでにデータサイエンスが活用されています。その1つが厚生労働省とLINEが実施した「新型コロナ対策のための全国調査」です。
2020年3月末に始まったこの調査では、これまで8,300万人以上の全国のLINEユーザーに対して、職業や現在の働き方、普段の過ごし方、また最近の健康状態などについてのアンケートを5回実施しています。
この調査は、アンケートの結果から感染リスクの高い職業、感染者の多い地域などを特定し、感染防止対策に役立てることを主な目的としています。
スシロー:10億件以上のデータから需要予測や売上分析などに活用
スシローでは、どの店でどんな寿司ネタが食べられたかなどのテーブルごとの注文情報を収集するために、すし皿にICタグをつけています。ICタグから収集した年間10億件以上のデータから、店舗の混雑状況や席ごとの滞在時間などの需要を予測し、レーンに流す寿司ネタやお皿の量をコントロールしています。
また、社内に蓄積された40億件の売上データもコスト削減や新商品の開発などさまざま用途で活用されています。
大阪ガス:ガス設備の故障原因を予測し、顧客満足度向上を実現
大阪ガスでは、顧客のガス設備の稼働データやコールセンターに蓄積された修理履歴から、故障原因の可能性が高い5つの部品を自動的に抽出するシステムを構築。
作業員は事前に部品を用意して顧客訪問ができるため、一度の訪問で修理が終わるケースが増加しました。これにより、作業員の業務効率と顧客満足度の向上が同時に実現しています。
Intel:チップの品質検査の短縮で300万ドルのコストを削減
米国のIntelでは2012年からチップの製造工程を短縮するために、データサイエンスを活用しています。
出荷前のチップから収集した過去データを分析し、一部のチップに絞って1万9,000回の品質検査を実施することで、製造から出荷まで期間の大幅な短縮に成功しました。その結果、300万ドルもの製造コストの削減に成功しています。
ベネッセ:学習教材の設計・改善や子どもの目標設定に活用
ベネッセは、既存のアンケートや観察記録、デジタル教材などから子どもの学習記録などを解析する専門の分析センターを設立しました。
分析センターが収集した小学生から高校生までの子どもの学習記録は、教材の設計や改善に活用されています。この他にも、子どもの目標設定や将来の到達点の予測などに役立てています。
まとめ
今やデータは、企業に多大な利益をもたらす可能性を秘めた貴重な情報資産です。SNSのつぶやきやファイルサーバに保存された古いファイルなど、一見ビジネスとは何の関係もないように思えるデータでも、分析によって新たなビジネスにつながる可能性があります。
しかし、データサイエンスには高度な専門知識が不可欠であり、誰でも簡単にできるものではありません。データサイエンスに関心をお持ちの方は、その第一歩として社内に蓄積され た身近なデータを使って、その価値をあらためて見直すところから始めてみるのがいいかもしれません。
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