MaaSとは?概要や日本の現状、メリット、国内外の事例を解説

公開日:2023-04-05 更新日:2024-02-22 by SEデザイン編集部

目次

MaaSとは、複数の種類の交通手段を1つのサービスとして統合した次世代の交通サービスのことです。近年急速に注目されているサービスのため、「聞いたことはあるが詳しい内容はわからない」という方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、MaaSの概要や日本の現状、メリット、国内外の事例などを解説します。

「MaaS」とは

はじめに、MaaSの概要や歴史、市場規模予測について解説します。

MaaSの概要

MaaSとは、「Mobility as a Service」の略であり、複数の種類の交通手段を1つのサービスとして統合した次世代の交通サービスを指します。読み方としては、「マース」や「マーズ」が一般的です。2015年のITS世界会議で設立された「MaaS Alliance」では、MaaSの定義を以下のとおり説明しています。

Mobility as a Service (MaaS) integrates various forms of transport and transport-related services into a single, comprehensive, and on-demand mobility service

引用元:MaaS Alliance「Mobility as a Service?

また、国土交通省は、MaaSを日本語で以下のとおり定義しています。

MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。

引用元:国土交通省「日本版MaaSの推進

上記より、MaaSはさまざまな移動手段を一括管理し、利用者の快適な移動や地域の活性化などに貢献するサービスだといえるでしょう。

MaaSの歴史

MaaSの歴史は、フィンランドが発祥とされています。フィンランドのMaaS Global社は、2016年に世界初となるMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を発表しました。

日本では、2018年にMaaSの社会実装をめざす一般社団法人「JCoMaaS」が発足したことがひとつ のはじまりです。2019年には「スマートモビリティチャレンジ」プロジェクトを発表し、2020年には日本国内での「Whim」の実証実験を行うことを発表しました。

世界・日本ともにMaaSの歴史はまだ10年も経っておらず、新しいサービス実装の取り組みであることが伺えます。

MaaSの市場規模予測

続いて、MaaSの市場規模について見ていきましょう。世界におけるMaaSの市場規模は、2021年時点で33億ドルです。2030年には401億ドルとなり、平均年成長率は32.1%になると予想がされています。

また、国土交通省「国土交通白書2020」によると、2030年にはMaaS国内市場が約6兆円、2050年までにはMaaS世界市場が約900兆円にまで拡大するとの予測がされています。

上記の調査より、MaaSの市場は世界・日本国内ともに、中長期に大きく成長していくと考えられるでしょう。

MaaSを導入するメリット

本章では、MaaSを導入することで得られるメリットについて、以下の5点を解説します。

  • 予約や決済の利便性が向上する
  • 地域や交通手段にかかわらず、誰もが移動しやすくなる
  • 交通渋滞や混雑を回避できる
  • 観光地の活性化に寄与する
  • 環境にやさしい

予約や決済の利便性が向上する

MaaS導入により、交通機関利用時の予約や決済の利便性が向上します。MaaSを使うことで、あらゆる交通手段のなかから最適な組み合わせを選択可能です。加えて、予約や支払いなどの手続きを1つのアプリで完結できるため、利用者にとっては手軽かつ便利に交通機関を利用できるようになるでしょう。

地域や交通手段にかかわらず、誰もが移動しやすくなる

MaaSは、地域や交通手段にかかわらず、誰もが移動しやすくなる社会を実現します。たとえば、地方ではバスや電車などの公共の交通手段が少なく、自動車での移動がメインとなっている地域も少なくありません。自動車免許を返納した地方の高齢者などは、日常生活における移動が難しい実情もあるでしょう。

しかし、MaaSによってさまざま交通手段のデータを有効活用することで、最適なバスや電車の運行を実現し、地方の交通手段の充実化が可能です。自動車を運転できない地方の高齢化などでも、タクシーやバスの有効活用によって移動しやすくなることが期待できます。

交通渋滞や混雑を回避できる

MaaSを導入すれば、交通渋滞や混雑の回避にもつながります。公共交通機関やカーシェア、乗り合いタクシーなどの活用が進むことで、自家用車での移動が減少するでしょう。その結果、道路を走行する車両数が減るため、都市部をはじめとする交通渋滞の軽減や混雑回避を実現可能です。

さらに、交通渋滞や混雑の解消によって、物流・運送の効率化につながり、サプライチェーンの安定化にも貢献します。

観光地の活性化に寄与する

MaaSは、移動者の利便性向上だけにとどまりません。観光地の活性化にも寄与します。観光地への移動や飲食、宿泊などに関する検索や予約、決済を1つのアプリで完結することで、旅行者がより快適に旅行できるようになるでしょう。

その結果、観光地への集客増加につながり、経済面での活性化をもたらします。

環境にやさしい

MaaSのメリットは、利便性向上や経済活性化に加え、環境への良い影響も挙げられます。公共交通機関やカーシェアが増え、自家用車での移動が減ることで、温室効果ガスの排出量を抑制可能です。

温室効果ガスの排出を軽減することによって、地球温暖化などの環境問題を解決する一助になります。

日本におけるMaaSの現状

MaaSは前述のとおり多くのメリットがある一方、現状の普及状況はまだまだ発展途上であり、導入においてはいくつか課題も存在します。ここでは、日本におけるMaaSの現状や推進上の課題を解説します。

MaaSの統合レベル

MaaSには、実現度合いを示す指標として統合レベルというものがあります。MaaSの統合レベルは5つに分かれ、それぞれ以下のとおりです。

レベル0:統合されていない

それぞれの交通手段が独立する状態、つまりMaaSが導入されていない状態です。

レベル1:情報の統合

それぞれの交通手段の運賃や移動時間、目的地までのルートなど、移動に関する情報が統合されている状態を指します。たとえば、電車とバスを乗り継いで移動する際、電車とバスをまたいだ移動ルートが検索結果に表示される状態です。乗り換え案内アプリなどが代表例です。

レベル2:予約・決済の統合

複数の交通手段を使う場合でも、1つのアプリやサービスで予約から決済までを完結できる段階を指します。たとえば、バスから電車、さらに飛行機に乗り継ぐ場合に、パソコンやスマートフォンを使って一括で決済できる状態です。

レベル3:サービス提供の統合

サービス提供の統合は、交通サービスにかかわらず、統一的な料金で目的地まで移動できる段階です。交通事業者間の連携などが進むことで実現できます。たとえば、バスやタクシー、電車など複数の移動手段をまとめてサブスクリプション型(定額料金)にして利用者に提供するケースなどが考えられます。

レベル4:政策の統合

政策の統合とは、交通事業者だけでなく、国や地方自治体が政策として交通のあるべき姿を協議し、国家レベルで推進していく状態です。

日本のMaaS統合レベル

日本の現在のMaaS統合レベルは、レベル1の段階だといえます。乗り換え案内アプリなどを使った交通機関のルート検索は一般的です。一方で、日本全国のあらゆる種類の交通機関の時刻表や料金を統合管理し、予約から支払いまで一括で行えるレベル2に向けて取り組んでいる段階といえます。

MaaS推進における課題

MaaSによる移動の利便性向上や経済活性化、環境問題貢献などのメリットを最大限に活かすためには、前述した統合レベルを上げていくことが必要です。しかし、MaaS推進にはいくつか課題が存在します。おもな課題は以下のとおりです。

  • 事業者間の連携が難しい
  • 利用者のデジタルリテラシーに依存する
  • 地域ごとに別々のアプリが乱立する可能性がある
  • セキュリティ対策を十分に行う必要がある

MaaS導入を促進するためには、事業者間での協力体制の整備やアプリの統一化、十分なセキュリティ対策などが求められるでしょう。

MaaSの海外事例

MaaSに関するサービス事例を知ることで、よりMaaSへのイメージを持てるようになるでしょう。本章では、MaaSの海外事例を3つ紹介します。

MaaS Global社「Whim」(フィンランド)

「Whim(ウィム)」は、MaaS発祥地のフィンランドにて、世界で初めて 開発されたMaaSアプリです。首都ヘルシンキ市内のバスや電車、タクシー、レンタカーなどさまざまな交通手段での移動を便利にするアプリであり、目的地までのルート検索から予約まで可能です。

本サービスを開始した後は、ヘルシンキ市内での自家用車の利用率が減少し、交通機関の利用者が増えたという効果も報告されています。

REACH NOW社「REARCH NOW(旧:Moovel)」(ドイツ)

ドイツの大手自動車メーカーのダイムラー社とBMWグループのREACH NOW社が、「REARCH NOW(旧:Moovel)」というMaaSサービスを開始しました。

本サービスにより、交通状況をリアルタイムで把握するとともに、バスや電車、タクシー、カーシェア、レンタサイクルといったあらゆる交通手段をシームレスに連携できます。また、支払い方法もクレジットカードに加えて、Apple PayやGoogle Payなども選択できて便利です。

日本においても、東急電鉄やJR東日本、ジェイアール東日本企画などの企業が本サービスを使った実証実験を行っています。

Trafi社「Trafi」(リトアニア)

 リトアニアのTrafi社は、公共交通機関やカーシェアなどの複数の移動手段を1つのデジタルプラットフォームに統合した「Trafi」をリリースしました。

本サービスでは、複数の交通手段の運行情報をリアルタイムに取得してルート検索に表示するとともに、決済サービスまでをワンストップで提供しています。

日本では、2020年に住友商事がTrafiとの業務提携の締結を発表しました。

MaaSの国内事例

MaaSの海外事例に加えて、日本国内の事例についても3つ紹介します。

トヨタ自動車「my route」

「my route」トヨタ自動車は、マルチモーダルモビリティサービスである「my route(マイルート)」を発表し、2018年から西日本鉄道と福岡市と連携した実証実験を開始しています。そして2020年には横浜市や水俣市、宮崎市、日南市など、多くの自治体や事業者との協業を取り入れながらサービスエリアを拡大しています。

JR東日本「都市・都市間MaaS」「地域・観光型MaaS」

JR東日本のMaaS

次にJR東日本の事例です。JR東日本は、「都市・都市間MaaS」として、経路検索や鉄道の運行情報などを提供する「JR東日本アプリ」を発表しました。本アプリをMaaSにおける重要な役割を果たすアプリとして位置づけ、サービスを順次拡大しています。電車や新幹線だけでなく、航空会社とも連携し、飛行機の予約サイトへもシームレスに遷移可能です。

また、「現在地から駅まで」「駅から目的地まで」をコンセプトとした二次交通(バス、タクシー、シェアサイクルなど)のワンストップサービスとして「Ringo Pass」があります。事前にSuicaとクレジットカードを登録しておくことで、1つのアプリで複数の交通手段の手配や決済が可能です。

さらには、さまざまなエリアで「TOHOKU MaaS」や「ググっとぐんMaaS」といった「地域・観光型MaaS」を展開していることも特徴的です。

小田急電鉄「EMot」

小田急電鉄「Emot」

3つ目は小田急電鉄の事例です。小田急電鉄は、MaaS戦略として、交通サービスを統合する「統合型」と新しい交通サービスを提供する「次世代サービス型」の2軸を掲げています。そして統合型MaaSとして、「Emot」を2019年10月にサービスインしました。

「Emot」では、複合経路検索や電子チケット、リアルタイム情報表示、混雑予報、オンデマンド交通予約、周遊プランニングなどの多種多様なサービスを提供しています。

また、次世代サービス型MaaSとしては、自動運転バスやタクシー、オンデマンド交通などにも取り組んでいます。

MaaSを導入して移動者の利便性向上や経済活性化を実現

MaaSは、電車やバス、タクシーといったさまざまな交通手段を最適に統合し、ひとつのサービスとして利用できるようにする取り組みです。

MaaSを導入することで、移動者の利便性向上はもちろんのこと、地域の経済活性化や物流の効率化、地球環境問題への貢献など多くのメリットを享受できます。一方で、日本におけるMaaSの導入は発展途上であり、MaaSの普及においては事業者間の連携やアプリの統一化、セキュリティ対策などが課題となるでしょう。

MaaSは将来的にも大きな成長が期待される分野です。今回紹介したような海外事例や日本国内の事例も参考にしながら、MaaSの理解を深めていきましょう。

 

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