スーパーアプリとは何か?〜ヤフーとLINEの経営統合で日本発のスーパーアプリはどうなるのか

公開日:2020-11-14 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

スーパーアプリとは何か?〜ヤフーとLINEの経営統合で日本発のスーパーアプリはどうなるのか2019年末のヤフーとLINEの経営統合計画において「スーパーアプリ構想」が発表されたことを機に、日本でもスーパーアプリが大きな注目を集めるようになっています。

今回はスーパーアプリとは何なのか、これほど注目される理由はどこにあるのかについて、具体的な事例を交えて紹介します。

スーパーアプリとは

スーパーアプリの解説図
スーパーアプリとはスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末向けに提供されるアプリで、1つのアプリ内にメッセンジャーアプリ、決済アプリ、SNSアプリ、Eコマースアプリ、ニュースアプリなどの機能が搭載された統合アプリのことです。このスーパーアプリというモデルを最初に実践したのは、中国のテンセント社が提供する「WeChat」だとされています。

たとえばLINEはもともとメッセンジャーアプリとして誕生しましたが、LINEを起動するとニュースアプリ、決済アプリ、ゲームアプリ、Eコマースアプリなどのサービスを、LINEアプリの中で利用することができます。この場合、LINEがスーパーアプリで、LINEニュースやLINE Payなどの個々の機能を提供するアプリは、ミニアプリと呼ばれます。

なぜ今、スーパーアプリが必要とされるのか?

スマートフォンの爆発的な普及に伴い、日常生活のあらゆることをスマートフォンで解決するために、膨大な数のアプリが提供されるようになりました。

ただし、スマートフォンでアプリを利用するには、まずGoogle PlayやApp Storeにアクセスして、アプリをダウンロードしなければなりません。インストール完了後、さらにアカウント登録をしてはじめて利用できるようになります。この一連のプロセスがそれぞれのアプリで必要になります。

たとえば、ブラウザアプリで見つけた商品を友達にも教えてあげたいとしましょう。この場合、メッセンジャーアプリやメールアプリを起動して情報を送信します。また、購入する際には今度はEコマースアプリを起動して購入します。このように、使いたい機能ごとに別のアプリをホーム画面から探して起動するのには手間がかかります。

スーパーアプリは、それひとつをインストールしてアカウント登録すれば、複数のアプリ(ミニアプリ)が利用できるので、こうした手間がかかりません。

さらに、ミニアプリの多くはブラウザ上で動作するため、それぞれの機能ごとにアプリをインストールするよりも、スーパーアプリの方がスマートフォンの容量の消費を大幅に抑えることができます。

加えて、スーパーアプリには、アプリを提供するベンダー側にも利点があります。ベンダーがアプリを提供するには、iOSとAndroid端末向けに2つのアプリケーションを開発する必要がありますが、スーパーアプリ内のミニアプリはHTML5の言語で開発されたものが多いため、両端末に移殖しやすく、開発費が大幅に抑えられます。

実は、ユーザーが日常に使うアプリは限られています。ニールセンが2019年12月に行った調査によると、月に31回以上利用するアプリが8.8個、月に1回以上利用するアプリが34.6個で、ユーザーが高い頻度で利用するアプリはほんの一握りです。日常的に利用され、かつユーザー数が非常に多いアプリを中心にスーパーアプリ化することで、ユーザーにとっては利便性の向上、アプリベンダーにとってはユーザー数の増加と囲い込みが期待されます。

中国で誕生し、東南アジアで進化したスーパーアプリ

スーパーアプリを代表する「WeChat」や「AliPay」は中国で誕生しました。それには理由があります。

中国では、欧米諸国のようにパソコンが普及していません。そのため、ウェブサイトを見て回って情報を得たり、オンラインショップで商品を買ったり、送金したりするなどということは一般的ではなく、そうしたサービスも発達していませんでした。そこに現れたのがスマートフォンです。

スマートフォンというパソコンよりずっと手軽に扱えるデバイスに、それまでパソコンで行っていたことを含めて、日常生活で必要なツールがアプリとして開発され、またたく間にユーザーの支持を得るようになりました。とりわけ決済や送金を可能にするモバイル決済アプリは、クレジットカードやATMが発達していない中国においてスマートフォンの普及を加速させました。また、このことがアプリの普及に一役買うという好循環も生まれました。いまや中国では、スマートフォンがなければ町で買い物をしたり、食事をしたりすることもできないほどです。

その後、中国と生活や環境が近い東南アジア圏からは、後述のインドネシアの「gojek」、シンガポールの「Grab」などのスーパーアプリが登場しました。スーパーアプリが中国から誕生し、東南アジアでも普及したのには、こうした背景があります。

世界のスーパーアプリ事例

世界で採用されているスーパーアプリは、どのようなものがあるのか紹介いたします。

WeChat(ウィーチャット)(中国名:微信、ウェイシン)

世界のスーパーアプリ事例:WeChat(ウィーチャット)
(画像出典:Google Play
WeChatは、2011年にサービス提供が開始された中国テンセント社が運営するメッセンジャーアプリです。中国版LINEとも言われるように、グループチャットや写真、動画の共有などができ、2020年5月には月間のアクティブユーザー数が12億人を超えました。

WeChatでは、中国でのモバイル決済で約40%のシェアを誇るWeChatPayをはじめ、配車、店の予約、チケット予約、ゲームなど100万本以上(2019年時点)のミニアプリが提供されています。

AliPay(アリペイ)(中国名:支付宝、ジーフーバォ)

世界のスーパーアプリ事例:AliPay(アリペイ)
(画像出典:Google Play)
AliPayは、中国アリババグループが2004年にサービス提供を開始したモバイル決済アプリです。中国でのモバイル決済シェアの54%以上を占め、テンセント社のWeChat Payと合わせると、この2社で実に90%以上のシェアを占めています。

AliPayでも、公共料金の支払い、個人信用スコア、チケット予約、不動産売買、投資といった決済に関連したミニアプリを中心に、学校教育、旅行、チャリティーなど数多くのミニアプリが提供されています。

gojek(ゴジェック)

世界のスーパーアプリ事例:gojek(ゴジェック)
(画像出典:Google Play
gojekはインドネシアのベンチャー企業GO-JEK社が提供する配車アプリです。東南アジア圏では、次に紹介するGrabと競合するサービスとなっています。

また、GO-JEK社は配車アプリ以外にも、モバイル決済の「gopay」、宅配フードサービスの「gofood」、ニュース配信の「goplay」などのミニアプリの展開を行なっています。

Grab(グラブ)

世界のスーパーアプリ事例:Grab(グラブ)
(画像出典:Google Play
Grabは、2012年にシンガポールのグラブタクシーホールディングスが、タクシー配車アプリ「MyTeksi」のサービス提供を開始したところからはじまりました。ソフトバンクグループから2014年、2016年に続いて、2019年には14億6,000万ドルの資金を調達したことでも知られています。
Grabには、この他にもモバイル決済の「Grab Pay」、フードデリバリーの「Grab Food」などのミニアプリがあります。

ヤフーとLINEの統合をきっかけに日本のスーパーアプリはどうなる ?

2020年8月にヤフーとLINEの経営統合計画が公正取引委員会で承認されました。それに伴い、ヤフーを展開するZホールディングスを傘下に納めるソフトバンクは、「PayPay」のスーパーアプリ化を発表しました。

ヤフーがサービス提供するQRコード決済アプリ「PayPay」は、QRコード決済利用者の約半数(MMD研究所 2020年7月調査より)が利用しています。このアプリはモバイル決済に加え、Eコマースの「PayPayモール」、フリマアプリの「PayPayフリマ」などのミニアプリも提供するスーパーアプリです。これに今秋以降に予定されているジャパンネット銀行、ヤフー保険の名称変更(それぞれPayPay銀行、PayPay保険)にともない、PayPayを中心したスーパーアプリがさらに進化するものと思われます。

ただ一方で、スーパーアプリである「LINE」にも「LINE Pay」や「LINEショッピング」など、「PayPay」と重複する機能があります。経営統合発表当初は8,000万人ものユーザー数を持つ「LINE」のスーパーアプリ化も噂されていたのですが、ここへ来て消費税還付に伴うモバイル決済需要の伸びで大幅にユーザー数を伸ばした「PayPay」とどういう形で統合されるのか、はたまた独立した2つのスーパーアプリとなるのか、その動向が気になるところです。

ヤフーとLINEの経営統合とスーパーアプリ構想には、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に対抗するという側面もあります。GAFAは日本市場において圧倒的な勢力を持ちますが、スーパーアプリを利用すればGAFAのサービスを介さずにさまざまなサービスを提供することが可能となります。

ただ、4社合計で毎年8兆円をも超える莫大な研究開発費を投じるGAFAに対して、経営統合後の研究開発費が年間200億円というスケールで果たしてどこまで対抗できるのか、さらに思い切った資本投下が望まれるところです。

スマートフォンはもはや生活必需品であり、スーパーアプリは今後、ユーザーの満足度をさらに高めていくと考えられます。コミュニケーションと決済という普遍的な2つのニーズを抑えているヤフーとLINEの経営統合によって、どんなスーパーアプリが生まれるのか、期待は高まります。

終わりに

今後、日本でも大手アプリのスーパーアプリ化が進むと予想されます。LINEやヤフー以外にも、NTTドコモの「d払い」ではモバイル決済アプリを中心にミニアプリでさまざまなサービスを提供しています。また、楽天やメルカリといったすでに多くのユーザーを有するアプリもスーパーアプリ化を進めています。

こうして日本では中国の2社での複占状態とは違い、各社各様のアプリを開発して提供する、まさに群雄割拠の時代に入ることが確実と思われます。

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