従業員のスキルを可視化するスキルマップとは?5つのメリットと作り方、事例を紹介

更新日:2025-03-13 公開日:2024-12-16 by SEデザイン編集部

目次

企業が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりのスキルアップが不可欠です。しかし、従業員の現在のスキルレベルを把握し、適切な育成計画を立てることは容易ではありません。

そこで注目されているのが「スキルマップ」です。
スキルマップとは、組織で求められる役割や業務ごとに必要なスキルを体系的に整理した資料のことです。これを活用することで、さまざまなメリットが期待できます。

本記事では、スキルマップの概要と、それを活用した育成計画の立て方についてご紹介します。従業員の成長を後押しし、企業の持続的成長につなげましょう。

 

 

スキルマップとは

スキルマップとは

スキルマップとは、組織に必要なスキルを体系的に整理し、従業員一人ひとりの保有スキルレベルを可視化したものです。スキルマップには、以下の3つの軸があります。

  • 組織で求められる「業務プロセス」や「職務」
  • 業務プロセスや職務を遂行するために必要な「スキル項目」
  • スキル項目ごとに設定する「スキルレベル」

各従業員の現在のスキルレベルを、スキルマップ上に落とし込むことで、個人とチームのスキルギャップを可視化できます。スキルマップを活用すれば、従業員一人ひとりに合った育成計画を立てることができるのです。

スキルマップを導入する5つのメリット

スキルマップを導入することで、以下の5つのメリットが期待できます。

  • 適切な人材配置ができる
  • 人材育成を行いやすくなる
  • 公平な人事評価が可能になる
  • 業務の標準化と効率化が図れる
  • 従業員のモチベーション向上につながる

それぞれ詳しく解説します。

適切な人材配置ができる

スキルマップを活用することで、社員一人ひとりの保有スキルを可視化できます。これにより、各業務に求められるスキル要件と、社員のスキル保有状況を容易に照らし合わせることができるようになるのです。

たとえば、下記のような表を作成すれば一目でスキルギャップが確認できます。

社員名

業務A必須スキル

業務B必須スキル

鈴木

佐藤

×

高橋

◎…スキル保有、○…一部保有、△…未習得だが経験あり、×…未習得

このように、スキルマップを活用すれば、社員の適性を踏まえた最適な業務配置が可能になります。また、スキルギャップを埋めるべく教育研修を実施することで、将来の人材ローテーションや後継者育成の指針としても役立ちます。

人材育成を行いやすくなる

スキルマップの導入により、従業員一人ひとりの保有スキルが可視化されます。これによって、個々の従業員のスキルギャップが明確になり、計画的な人材育成が可能になります。

具体的には、以下のようなメリットがあります。

  • 必要なスキルと、従業員の現在のスキルレベルとのギャップを特定できる
  • ギャップに応じた適切な研修や配置転換、OJTの計画が立てやすくなる
  • キャリアパスが明確化され、従業員の成長ビジョンが描きやすくなる

たとえば、次のようなスキルマップを活用することができます。

スキル項目

Lv1(初級)

Lv2(中級)

Lv3(上級)

Lv4(特化)

業務知識

基礎知識

応用知識

専門知識

特化知識

実務経験

補助業務

一般業務

主導業務

指導業務

 

従業員個人のスキルレベルを評価し、マップ上にプロットすることで、今後の育成ステップが明確になります。このように、スキルマップは計画的な人材育成を実現する有力なツールとなるのです。

公平な人事評価が可能になる

スキルマップの導入により、従業員の業務スキルを客観的に評価することが可能になります。スキル評価基準を明確化し、複数の評価者による公平な評価を行うことで、恣意的な人事評価を防ぐことができます

たとえば、以下のような評価基準を設ける場合があります。

スキルレベル

定義

5

指導者レベル。後進の指導ができる

4

専門家レベル。高度な知識と経験を有する

3

実務者レベル。一人で業務を遂行できる

2

経験者レベル。一部業務を遂行できる

1

初級者レベル。基本的な知識を有する

 

このように、明確な評価基準に基づき、上長や人事部門、あるいは複数の評価者による360度評価などを行うことで、公平な人事評価を実現できます。

さらに、スキルマップには従業員個人の強みや弱みが可視化されるため、適切な育成計画を立てやすくなります。このように、スキルマップを活用することで、公平で納得性の高い人事評価が可能になり、従業員のモチベーション向上にもつながります。

業務の標準化と効率化が図れる

スキルマップを活用することで、業務の標準化と効率化を図ることができます。スキルマップに必要なスキルと評価基準が明確に定義されているため、業務のプロセスや手順を統一しやすくなります

たとえば、営業職のスキルマップでは、以下のようなスキルが定義されている可能性があります。

スキル

評価基準

商品知識

自社商品の特徴や仕様を正確に説明できる

提案力

顧客のニーズを的確に捉え、最適な提案ができる

コミュニケーション力

分かりやすく丁寧な対応ができる

 

このように、スキルと評価基準が明確になっていれば、新入社員への教育や、OJTの際の指導内容を標準化しやすくなります。また、業務マニュアルの作成や、チェックリストの整備などにも活用できます。

さらに、スキルマップを共有することで、部門間や職種間での業務の棲み分けも明確になり、重複業務を避けられるようになります。このように業務の標準化と効率化が進めば、生産性の向上やミスの削減、コスト削減にもつながります。

従業員のモチベーション向上につながる

スキルマップを活用することで、従業員のモチベーション向上も期待できます。 具体的には以下のようなメリットがあります。

  • 自身のスキルレベルと目標を明確に認識できるため、キャリア形成への意識が高まる
  • スキルアップの目標設定と達成がわかりやすくなり、モチベーション維持につながる
  • 公平な評価基準が確立され、透明性の高い人事評価が可能になるため、納得性が高まる

スキルマップの導入により、従業員は自身のキャリアビジョンを明確に持つことができ、公平な評価の下でモチベーションを維持しながらスキルアップに取り組めるようになります。

スキルマップの作り方

スキルマップの作り方

では、実際にスキルマップを作成してみましょう。ここでは、スキルマップの作り方を以下5つのステップに分けて解説します。

  1. 目的の設定
  2. 必要なスキルの洗い出し
  3. スキルの評価基準と評価者の決定
  4. スキルマップの作成とテスト
  5. 運用ルールの策定とマニュアル化

1.目的の設定

スキルマップを導入する際、最初に行うべきことは目的の設定です。スキルマップの目的を明確にしないと、作成した後の活用が難しくなります。

一般的なスキルマップの目的には、以下のようなものがあります。

目的

内容

人材育成

従業員一人ひとりの強み・弱みを把握し、計画的な育成を行う

適正配置

各従業員のスキルを評価し、適切な業務への配置を実現する

業務標準化

必要なスキルを明確化し、業務の標準化と効率化を図る


目的は複数設定しても構いませんが、目的が多くなるほど運用が複雑化するため、最初は1つか2つに絞ることをおすすめします。

目的を設定する際は、経営層や人事部門だけでなく、現場の責任者や従業員の意見も反映させることが重要です。組織全体で合意形成を図ることで、スキルマップへの理解が深まり、導入後の浸透が期待できるでしょう。

2.必要なスキルの洗い出し

スキルマップを作成する際の肝心な作業が、必要なスキルを網羅的に洗い出すことです。まずは、組織の目標や戦略に基づき、保有すべき人材像を明確化します。次に、その人材像を実現するために求められる「知識」「技能」「経験」などの要素を列挙していきます。

部門ごとに以下のようなワークショップを行うと効率的です。

  1. 現在の業務プロセスを洗い出す
  2. 業務を遂行する上で必要な能力を列挙する
  3. 能力ごとに、「熟達」「標準」「初級」などのレベル分けを行う
  4. 各レベルの具体的な行動指標を決める

以下は、プログラミングに関するスキルのレベル分けの一例です。

レベル 内容
初級 単一の機能を作成できる
標準 複数の機能を組み合わせてシステムを構築できる
熟達 大規模システムの設計・構築ができる

 

このように、組織の実態に即したスキルマップの土台を作ることが重要です。

3.スキルの評価基準と評価者の決定

スキルの評価基準を事前に明確化し、評価者を決めておくことが重要です。

評価基準は、職種ごと・職階ごとに「行動目標」として具体的に設定します。行動目標は、できるだけ定量的な目標値を設けることで、評価の客観性を高めます。たとえば以下のようになります。

職種

行動目標(評価基準)の例

営業職

1年以内の新規顧客獲得件数が○件以上

SE職

設計書のレビューを遅滞なく行える


評価者は、上司に限らず、同僚や部下、顧客など、評価対象者の業務を見ている関係者から選任します。複数の評価者による360度評価を行えば、より公平性の高い評価ができます。

評価者に対しては、評価手順や留意点などを十分に説明し、評価の仕方を統一しておきます。また、評価のばらつきを抑えるため、評価者間で定期的に評価のすり合わせを行うとよいでしょう。

4.スキルマップの作成とテスト

スキルマップを作成する際は、前工程で整理した情報を基に、実際に社員ごとのスキルレベルを可視化します。

具体的には、以下の流れで作成します。

1.作成方法

  1. スキルシートにスキルと評価基準を記載
  2. 各社員のスキルレベルを評価者が採点
  3. レーダーチャートなどでスキルマップを視覚化

社員名

Java

Python

A氏

4

3

B氏

2

5

2.テスト運用

  1. 一部の部門や社員を対象に試行
  2. 評価の公平性や運用プロセスを検証
  3. スキルマップの改善点を特定

3.フィードバックと改善

  1. テスト結果を踏まえ、スキルマップを修正
  2. 評価者への教育やマニュアル改訂を実施

このように、実際にスキルマップを運用することで、課題を発見し、より実用的なツールへと磨き上げていきます。

厚生労働省のサイトに、「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」というページがあります。業種別に用意されており、必要な知識や推奨する資格なども一覧化されています。活用してみるとよいでしょう。

5.運用ルールの策定とマニュアル化

スキルマップを適切に運用するためには、明確なルールを定めマニュアル化することが重要です。
おもな運用ルールとしては、以下の項目が挙げられます。

ルール

詳細

評価周期

評価の実施頻度(例:年1回、半期に1回など)

評価プロセス

評価の流れ(例:自己評価→上長評価→調整など)

評価者

評価者の選定方法と評価者の役割

レビュー体制

評価結果のレビュー方法と体制

活用方針

評価結果の活用方針(昇給、異動、育成など)


これらのルールを明文化し、全従業員に周知徹底します。また、ルールに則った評価プロセスの手順をマニュアル化し、評価者向けの研修を実施することで、公平性と一貫性を確保します。

このように、運用ルールとマニュアルを整備することで、スキルマップを適切に運用し、人材育成や業務改善につなげることができます。

スキルマップ導入時の4つの注意点

スキルマップ導入時の注意点

スキルマップを導入する際には、以下の4点に十分注意を払いましょう。

作成には時間がかかることを把握しておく

スキルマップの作成は、業務分析や評価基準の設定など、多くの作業を要します。十分な時間を確保し、ステークホルダーの理解と協力を得ながら慎重に進めることが重要です。

評価基準の客観性と公平性を確保する

スキルの評価基準は、できる限り客観的で公平なものとする必要があります。評価者によってばらつきが生じないよう、明確な基準を設けるとともに、評価者研修などを実施することが求められます。

運用プロセスを標準化し負荷を減らす

スキルマップの運用には、定期的な評価や育成計画の見直しなど、さまざまなプロセスが伴います。これらを標準化し、評価者の負荷を軽減する仕組みを整備することが重要となります。

継続的な改善サイクルを確立する

社内外の環境変化に合わせ、スキルマップ自体も継続的に見直していく必要があります。PDCAサイクルを確立し、スキルマップの改善を図ることが大切です。

以上のような点に注意しつつ、スキルマップの導入を進めることで、より効果的な人材育成が可能となるでしょう。

スキルマップの活用事例

ここでは、製造業やIT業界、その他の業界におけるスキルマップの活用例をご紹介します。

製造業での活用例

製造業では、従業員の技術力が企業の競争力の源泉となります。そのため、スキルマップを活用して計画的な人材育成を行うことが重要です。

ある自動車部品メーカーでは、以下のようにスキルマップを活用しています。

対象者

生産技術職

評価スキル

・金型設計

・CAD/CAM

・加工プログラミング

・品質管理 など

評価基準

経験年数と職務経歴に応じて5段階

評価者

上長と人事部門


このスキルマップを活用することで、以下のようなメリットがあります。

  • 新入社員の育成計画を立てやすくなった
  • 中堅社員の強み・弱みが明確になり、適切な配置ができるようになった
  • ベテラン社員の技術継承が効率的に進められるようになった

このように、製造業でもスキルマップを導入すれば、計画的な人材育成と最適な人員配置が可能になります。

IT 業界での活用例

IT業界ではスキルマップを活用し、プロジェクトメンバーの適切な人員配置や育成を行っている企業があります。たとえば、ある企業では以下のようなスキルマップを作成し運用しています。

役割

必須スキル

推奨スキル

プロジェクトマネージャー

プロジェクト管理、リーダーシップ

アジャイル開発、クラウド技術

システムアーキテクト

システム設計、プログラミング

クラウド技術、データベース

プログラマー

プログラミング、フレームワーク活用

テスト自動化、DevOps


このように役割ごとに求められるスキルを明確化し、社員の現在のスキル習熟度を評価しています。その上で、社員一人ひとりにスキルアップの目標を設定し、研修受講や実務を通じた育成を行っています。

さらに、スキルマップを活用することで、プロジェクト参画者の適切なスキルマッチングが可能になり、効率的で質の高い開発が実現できるようになりました。また、スキルに応じた公平な人事評価や報酬制度の導入も検討されています。

その他の業種での活用例

スキルマップは、製造業やIT業界だけでなく、さまざまな業種で活用されています。

たとえば、流通業では、店舗スタッフのスキルレベルを可視化し、適切な人材配置や育成計画の策定に役立てています。店長やエリアマネージャーの育成にも活用できます。

職種

必要スキル

店長

売場運営、人材育成、販売促進企画

エリアマネージャー

収支管理、業績分析、店舗指導


また、コールセンターでは、オペレーターのスキルレベルを評価し、適切なシフト管理や研修計画に活かしています。

さらに、サービス業では、接客スキルやホスピタリティに関するスキルマップを作成し、従業員の育成やレベルアップに役立てています。このように、スキルマップは業種を問わず、人材育成や適正配置、モチベーション向上などに幅広く活用できるツールです。

まとめ:スキルマップを人材育成やキャリア支援に活用しよう

スキルマップを導入することで、従業員の強みと伸びしろが可視化され、適切な人材配置や育成計画の立案が容易になります。
さらに、以下のようなメリットも期待できます。

  • 社員のスキル保有状況が分かり、適切な人材配置ができる
  • スキルギャップが明確になり、人材育成を行いやすくなる
  • 客観的な評価基準に基づき、公平な人事評価が可能になる
  • 必要なスキルが明確化され、業務の標準化と効率化が図れる
  • キャリアパスが明確になり、従業員のモチベーション向上につながる

一方で、スキルマップの作成には時間を要し、評価基準の設定や運用プロセスの標準化など、導入に際しての課題もあります。

しかし、これらの課題を乗り越え、PDCAサイクルを確立することで、スキルマップは人材育成やキャリア支援に大きく貢献するでしょう。従業員や会社の成長のために、スキルマップを取り入れてみてはいかがでしょうか。

橋本朋美
監修者プロフィール
橋本 朋美(はしもと ともみ)
社会保険労務士法人HALZ(HALZグループ)
株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
監修者からのメッセージ
スキルマップは、従業員のスキルを可視化し、組織全体で必要なスキルを体系的に整理したツールです。適切な人材配置や公平な人事評価、業務の標準化・効率化が可能となり、従業員のモチベーション向上にも寄与します。またスキルマップ作成には、目的の設定、必要なスキルの洗い出し、評価基準の決定、運用ルールの策定が不可欠で、企業の持続的成長を支える重要なツールにもなります。スキルマップを作成・運用していくことで、採用のミスマッチや労務トラブルの防止にも繋がるでしょう。

社会保険労務士法人HALZへ相談

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hashimoto
監修者
2009年お茶の水女子大学大学院卒業後、株式会社HALZ入社。2020年より代表取締役社長就任。大手アパレル業界、IT業界、医療法人など、100名から3000名規模の様々な業界・規模の人事制度設計、業務改善コンサルティング等を担当。人事基幹システム会社への常駐を経て、人事システム導入支援、システムリプレイスコンサルティングも得意とする。HR基幹システムに精通したITに強い人事実務家集団を強みにお客様の業務効率化に貢献するサービスをご提供。