AIによるクリエイティブの自動生成が急速に進化しています。画像に加え、動画や3Dモデルまでが自動生成できるようになることで 、マーケティングはどう変わっていくのでしょうか。
本記事では、画像や動画・3Dモデル自動生成の現状を踏まえたうえで、今後のマーケティングの変化を予想します。併せて、マーケターとして注目しておきたいAIサービスも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
日本でも大きな反響を呼んだ"画像生成AI"によるイラスト
「Midjourney」 や「Stable Diffusion」、「NovelAI Diffusion」をはじめとした画像生成AIが国内で話題となっています。画像生成AIとは、AIが画像を言葉と結び付けて学習し、任意のキーワードからイメージに合った画像を作り出すものです。無料で利用できるものもあり、SNSを中心に多くの人が楽しめる ようになっています。
画像生成AIの用途は多様で、フリー素材の代替や、アートやクリエイティブへの活用などが考えられます。実際に、ゲーム業界では背景や素材の制作に活用されはじめています。
一方、画像生成AIによる問題も起こっています。2022年9月の台風15号 の際には、静岡での水害の模様として、画像生成AIにより作られたフェイク画像がSNSに投稿されました。
また、ある画像生成AIサービスが公開からわずか1日で停止になる騒動も起きています。その画像生成AIは、クリエーターが労力をかけずにイラストを制作することを想定。複数枚 のイラストを学習させると、その作風に似た新たなイラストをほぼ無限に生み出します。
しかし、他人の作品を自分の作品と偽って利用する人が出るのではないかとの懸念が相次ぎました。現在は、身元確認や審査の徹底などの新たな対策を講じてサービスを再開しています。
海外では文章から3Dも生成可能に
海外企業では 画像だけにとどまらず、動画や3Dオブジェクトまでも生成可能になりつつあります。ここで、MetaとGoogle Researchの事例を紹介します。
Metaの「Make-A-Video」
米 Metaは9月29日、動画生成AI「Make-A-Video」を発表しました。短い文章を入力すると、その内容に相当する動画が生成されるもので、Metaは「A dog wearing a Superhero outfit with red cape flying through the sky(赤いマントとスーパーヒーロー の衣装を身に付けて空を飛ぶ犬)」や「Hyper-realistic spaceship landing on mars (火星に着陸する超リアルな宇宙船)」などの動画をSNSに公開しています。

マーク・ザッカーバーグCEOによると、教師なし学習プロセスの追加により、動画生成に必要なピクセルの時間変化の予測を可能としているのだそうです。 AIの学習には数10 万時間分の映像が使われました。
Google Researchの「Imagen Video」
続 いて10月5日には米Google Researchが、 短い文章から動画を生成する「Imagen Video」を発表しました。サンプル映像として「A teddy bear washing dishes(お皿を洗うテディベア)」や「A bicycle on top of a boat(船の上 の自転車) 」などの文章から生成した動画が紹介されています。
Imagen Videoには、多数のデータサンプルから「破壊」と「回復」 の方法を学習することで新たなデータを生成する「拡散モデル」が用いられているそうです。
Google ResearchとUC Berkleyの「DreamFusion」
さらに、Google Researchは米UC Berkleyと共同で、文章から3D オブジェクトを合成するシステム「DreamFusion」の開発も進めています。
DreamFusionは、 2D画像の生成に用いられる拡散モデルが用いられています 。2D画像から3Dへの合成には、新たに開発された手法を用いているため、3Dやマルチビューの訓練データは必要ないのです 。
文章からのクリエイティブ生成でマーケティングは変わるのか
文章からのクリエイティブ生成で、マーケティングがどのように変わるのかを見ていきましょう。大きく、以下の3点が予想されます。
- DCOのさらなる進化
- 動画活用のさらなる一般化
- ソーシャル投稿の自動生成
一つずつ詳しく見ていきましょう。
DCOのさらなる進化
まず予想されるのは、DCO(Dynamic Creative Optimization)がさらなる進化を遂げることです。
DOCとは
広告文と広告画像を組み合わせたクリエイティブは「ダイナミッククリエイティブ」と呼ばれ、従来手作業で行っていました。
DCO ( ダイナミッククリエイティブの最適化)は、広告文と広告画像の組み合わせをAIが自動的に行うものです。買い物客の表示した商品や位置情報、表示時間などのデータに基づき、各買い物客に最適な広告文と広告画像がリアルタイムで選択されます。
DCO システムにおいては、広告文と広告画像はマーケターが複数用意する必要があります。しかし今後は、訴求したい内容を用意するだけで最適な広告バナーが自動生成されるようになるかもしれません。
電通デジタルの「ADVANCED CREATIVE MAKER」
現状、電通デジタルが、AIによるバナー広告の自動生成ツール「ADVANCED CREATIVE MAKER」を公開しています。
同ツールはまず、キーワードや訴求軸などの情報に対して効果が高いと考えられるコピーや画像、レイアウト、色などを備えたバナーを大量に生成します。次に、生成されたバナーのクリック率を予測し、効果的だと判断されたバナーだけを残します。
画像生成AIの登場により、広告バナーの自動生成はさらに容易に、かつ自由度が高いものになる可能性があります。
動画活用のさらなる一般化
現状、動画の作成には大きなコストがかかりますが、AIによる動画の自動生成によりコストの削減が期待できます。大量の動画生成が低予算で可能になれば、利用する企業も増えるでしょう。
最近公開されている画像生成AI・動画生成AIは、さまざまな用途に対応できるものであり、テキストや画像、動画、音声などデータ形式をまたいだ使い方が可能です。動画広告でもDCO のようなシステムが登場する未来は、そう遠くないかもしれません。
また、従来までのAIはGoogle Researchなどの大手研究機関が開発を独占し、商用利用は制限されてきました。しかし、画像生成AIのひとつ「Stable Diffusion」はオープンソースとして無料で公開され、商用利用も可能 です。
そのため、 今後は以下のようなAIによるサービスが続々と生まれてくる可能性があります。
- 画像や動画だけでなく、効果音や音楽なども自動生成する
- メタバース上のオブジェクトやアバターなどの3Dモデルを自動生成する
こういった流れは、広告にも大きな影響を与えるでしょう。
ソーシャル投稿の自動生成
近年では、SNS広告に注目が集っています。SNS広告には以下のメリットがあるといわれます。
- ユ ーザーのプロフィールや投稿からデモグラフィックデータと行動データが入手できるため、ターゲティングの精度が高い
- さまざまなユーザーに対して広告を配信できるため、潜在顧客にリーチできる
- ユーザーのタイムラインに自然に溶け込むことから、ほかの 広告よりユーザーに受け入れられやすい
このようなメリットから、潜在層への商材・ブランドの認知拡大や、ブランドに対するファンの育成を目的とし、多くの企業がSNS広告の利用を始めています。
SNSの投稿には画像や動画など、クリエイティブのさまざまな要素が詰まっています。現状でも、SNSの動画広告を手軽に制作できるツールが公開されています。
クリエイティブの自動生成が可能になれば、SNS広告はさらに発展していくでしょう。3Dモデルの自動生成が進化すれば、メタバース上での広告の新しい領域が切り開かれるかもしれません。
マーケターとして注目しておきたいAIサービス
これまで解説してきたことを踏まえ、マーケターとして注目しておきたいAIサービスを紹介します。
ADVANCED CREATIVE MAKER
電通デジタルのDCOサービス「ADVANCED CREATIVE MAKER」は、制作したいバナーのオリエンテーション情報や、商品情報、ロゴデータなどを入力すれば、クリック率が高いと見込まれるバナーを自動生成してくれます。電通が開発したAIによるコピー生成システム「AICO(アイコ)」との連携で、コピーも自動生成されます。
今後さらなる成長が見込めるため、「Thunder」や「Adacado」、「Celtra」などの海外サービスと併せて、最新動向を見守る必要があるでしょう。
Make-A-Video / Imagen Video
「Make-A-Video」は米Metaにより、「Imagen Video」は米Google Researchにより開発中の、動画を自動生成するAIです。公開された動画はまだ不自然なところがあるものの、大きな可能性を感じさせます。
グローバルで最前線を走る2つの企業が動画生成AIを進化させていくことで、マーケティング業界にも大きな影響を与えるでしょう。
動画生成以外でも、MetaとGoogleはAIに相当な力を入れているため、次に紹介する「DreamFusion」とも併せ、多角的なAI活用に注目したいところです。
DreamFusion
DreamFusionは、米Google Researchと米UC Berkeleyの研究チームが共同で開発中の、3Dオブジェクトを自動生成するAIです。このシステムの特徴は、3Dオブジェクトの合成を3Dやマルチビューの訓練データを用いずに、2D画像の拡散モデルだけで行うことです。
その結果、与えられたテキストから合成される3Dモデルを、任意の角度から見たり、任意の照明で照らしたり、任意の3D環境に合成したりすることが 可能です。
まとめ
イラストなどの画像の自動生成が、SNSなどを通して一般に普及するなか、MetaやGoogleは動画・3Dモデルの自動生成システムを相次いで発表しました。今後は、バナーの自動生成がさらなる進化を遂げ、動画活用も一般化、ソーシャル投稿も自動生成されるようになるでしょう。
このような流れから 、マーケターの仕事はAIの活用が一般的になると考えられます 。クリエイティブの大まかな生成はAIが行い、細部の仕上げを人間のデザイナーが行うという業務スタイルが一般的になるかもしれません。
これからのマーケターにはテクノロジーへの理解が求められます。最新動向に注目しながら、今の技術で何ができるのか、どのような顧客体験が設計可能なのかを見極めていく必要があるのではないでしょうか。