清水建設の事例にみる建設業界における最新のAI活用

公開日:2022-02-13 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

70540227_l清水建設は2021年11月、シールド工事の掘進(くっしん)計画の立案、およびマシン操作の自動化を可能とするAIシステムシミズ・シールドAI」を、兵庫県姫路市での建設工事に導入すると発表しました。今回は、この「シミズ・シールドAI」に見るAI活用を解説します。

シミズ・シールドAIとは?

シールド工事とは「シールドマシン」と呼ばれる筒状の大型機械で土中を掘り進めていくことでトンネルを作る建設工事です。シールドマシンは前方の土をカッターの刃で削り取りながら、後方に土砂を排出し、また「セグメント」と呼ばれるトンネルの外壁ブロックを組み立てていきます。

ダイアグラム

低い精度で自動的に生成された説明
(出典:首都高速道路株式会社『横浜北線 工事手順(シールドトンネル部)』)

シールド工事は、建設工事のなかでも比較的機械化が進んでいる領域です。しかし、以下の2つの作業については長年の経験と技術が必要とされるため、人間が直接関わる最後の部分といわれています。実際の施工においても、昼夜交替で工事を行う必要が出てきます。

1. 施工計画の立案と掘進指示書の作成

トンネル全体の線形(コース)や、シールドマシンの掘進方法、直線部と曲線部で形の異なるセグメントをどう組み合わせるかなどについての計画は着工前に立案されますが、実際に工事を行うと計画値と実測値との間にどうしても誤差が生じます。そこで、交替時間の間にシールドマシンの位置やセグメントの出来形などの測量を行い、次の半日分の施工計画を立案し、それを掘進指示書としてまとめます。

2. 掘進操作

掘進指示書をもとにシールドマシンの実際の操作を、多数のデータを監視しながら行います。

シミズ・シールドAIは、「施工計画支援AI」と「掘進操作支援AI」の2つのシステムによって、この2つの作業をAI(人工知能)化しています。半日ごとの測量データをもとに施工計画の立案、掘進指示書の作成、掘進操作を自動的に行います。

スクリーンショットの画面

自動的に生成された説明

(出典:清水建設『「シミズ・シールドAI」によるシールド機自動運転に着手 ~AIを活用したシールド施工合理化システムを現場実装~』)

施工計画支援AIは、セグメントの種類や在庫数、シールドマシンやセグメント、掘削した山肌の位置関係などについて所定の条件を与えたうえで、コンピュータが機械学習と遺伝的アルゴリズム(後述)により膨大な回数のシミュレーションを繰り返し、得られた最適解を掘進計画とするものです。

開発にあたって作成した延長414m、セグメント数242の道路工事トンネルモデルでは、コンピュータは条件を満たす掘進計画を25分で導き出したとのことです。

一方、掘進操作支援AIは、熟練オペレータの実際の操作内容を元に教師あり学習(後述)を行います。学習を行ったAIは、掘進中のシールドマシンの姿勢や推進力、カッターのトルク、ジャッキ(シールドマシンが前へ進むために後方へ伸ばす複数本の脚)の長さなど、さまざまな情報からジャッキの最適な制御方法を瞬時に予測するものです。

これまで複数の現場に実装され、予測内容の精度を検証した結果、たとえばトンネルのカーブ区間において、変化させるべき方位角変化の指示値に対し、わずか0.02度の誤差でシールドマシンを制御できたといいます。

シミズ・シールドAIの基盤となるAI技術

ここからはシミズ・シールドAIの基盤となっている2つのAI技術、「機械学習」と「遺伝子アルゴリズム」について見てみましょう。

機械学習とは?

機械学習はAIのデータ分析技術の1つで、コンピュータが既存のデータを繰り返し学習することにより、データに潜むパターンを自分で見つけ出します。学習によって見つけたパターンを新たなデータにあてはめることにより、将来の予測が可能となります。

機械学習には大きく分けて、「教師あり学習」と「教師なし学習」とがあります。教師あり学習とは、望ましい答が決まっている場合の学習です。前述の掘進操作支援AIは、熟練オペレータの操作をコンピュータに学習させるため、教師あり学習に位置付けられます。

これに対して教師なし学習とは、望ましい答えがあらかじめ与えられるのではなく、コンピュータ自身が答えを見つけ出すものです。施工計画支援AIは、所定の条件のみを与えられ、その後はコンピュータが自ら学習していきますので、教師なし学習になります。

機械学習は現在、金融工学や顔認識・動き検出、医療診断・創薬、電力などのエネルギー生産、自動車・航空機などの故障を予知する予知保全、自然言語処理など、さまざまな分野で活用されています。

遺伝子アルゴリズムとは?

遺伝子アルゴリズムとは、AIにおける最適化の手法の1つです。一連の処理を最初から最後まで順に並べたまとまりを、遺伝子が並んでできている生物の染色体と捉え、親世代から子世代、孫世代……、と代替わりを繰り返す中で進化させ、適応度が高い染色体を選び取っていく手法です。

適応度は、実際に使用される状況に応じて関数として定義されます。世代ごとに関数の値が大きいものを「適応度が高い」として選び取ります。

代替わりする際には、適応度がさらに高い染色体を作り出すため、生物を模倣した以下の処理が施されます。

  • 交叉 ……2つの染色体をそれぞれ前後に分割し、前や後ろを他の染色体と入れ替える
  • 突然変異 ……遺伝子の情報をランダムに変化させる

遺伝子アルゴリズムを利用するシミズ・シールドAIの施工計画支援AIでは、以下のようなものが得点化されて適応度として与えられます。

  • 与えられたトンネル線形に対する掘進奇跡の誤差
  • シールドマシンと掘削した山肌との距離(ぶつかってしまう場合もある)
  • シールドマシンとセグメントの距離(同上)

施工計画支援AIは遺伝子アルゴリズムにより、条件を変えながら膨大な回数の試行を重ね、得点が高い条件を選び取っていきます。最終的に、それ以上は上積みできないという最高得点に達すると、それが掘進計画として採用されるというわけです。

建設業界でのその他のAI活用事例

建設業界では、このほかにもAIがさまざまな用途で活用されています。

工事進捗度合の判定

カメラを使って現場で撮影された画像や、ドローンによる空撮画像をAIが学習し、工事の進捗度合いを判定するシステム。

道路舗装の異常検知

移動する車両から撮影された路面の映像より、ひび割れなどの舗装の異常を検知し、道路上の位置を特定できるシステム。

建設機械の自律走行

クレーンなどの建設機械に作業員との接触を避けるための仕組みを実装することで、安全に自律走行させるシステム。

ロボットによる自動化

溶接などの単純で繰り返しが多い作業を代替し、さらには人間にはできない位置・方向での作業も可能とするロボット。

まとめ

清水建設が開発したシミズ・シールAIは、機械学習や遺伝子アルゴリズムなどのAI技術を活用し、シールドトンネル工事現場での日々の施工計画立案とシールドマシンの操作を自動化します。2022年3月からは、兵庫県姫路市でのトンネル工事に使われることになっています。

建設業は製造業などと比べると、AIの活用度合いはまだ低いともいわれています。しかし、建設作業のAI化を目指す「i-Construction」を国土交通省が推進するなか、建設業でもこれからますますAIが活用されていくことでしょう。

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