通貨制度の未来を変革するトークンエコノミーの可能性~その仕組みと事例

公開日:2020-12-11 更新日:2024-02-26 by SEデザイン編集部

目次

85612929_m「トークンエコノミー」という言葉をご存知でしょうか。概念自体はそれほど難しいものではありませんが、仮想通貨やブロックチェーンといった新しい技術も関係してくることから、何となく難しく感じている人も多いようです。

そこで、この記事ではトークンエコノミーの概念とそれを支える仮想通貨やブロックチェーンの仕組みについて、活用事例を交えてご紹介していきたいと思います。

特定の「通貨」によって形成される新たな経済圏

トークンエコノミーは、トークンと呼ばれる代替通貨の流通によって形成される経済圏のことを指します。

トークン(token)は、しるし、象徴、記念品などの意味を持つ英語ですが、トークンエコノミーにおけるトークンは「ブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨」を指し、世の中に流通している仮想通貨はすべてトークンに該当します。

日本国内では通貨として円が使われていますが、海外との取引においても他の通貨に両替することなく、トークンをそのまま使用できる経済圏がトークンエコノミーです。

トークンエコノミーのメリット

トークンエコノミーが注目されている背景には、新たな価値を創造する手段としての期待があります。個人や特定のサービス事業者、自治体などが、これまでの貨幣に代わってトークンを発行し、それを利用者が購入して使うことでトークンに経済的価値が生まれます。

トークンは個人・法人を問わず誰でも発行できるため、(現実には難しいものの)理論的には個人のトークンを流通させて、資産を形成することも可能です。ビジネスとしては、クラウドファンディングのリターンとして、自社商品やサービスのみで利用できるトークンを発行する事例もすでに報告されています。

トークンを発行するには、大きく2つの方法があります。1つは、雛形のソースコードを書き直して新たなブロックチェーンを開発する方法。もう1つは、既存のブロックチェーンの仕組みを利用する方法です。

新たにブロックチェーンを開発するためには、サーバーなどのインフラの調達や日々の運用管理が必要となることから、これはかなり高いハードルです。そこで世の中には、IndeiSquareWavesといった既存のブロックチェーンの仕組みを利用することで、誰でもトークンを発行できるサービスが存在します。

「仮想通貨」と「ブロックチェーン」は、トークンエコノミーを正しく理解する上で必須の知識です。以下では、この2つについて順に説明していくことにします。

仮想通貨とは?

仮想通貨=トークンは「貨幣の代わりとなり得るもの」をITで実現したものです。似た機能を備えたものとしては電子マネー(交通系ICカードやQRコード決済、プリペイドカードなど)があり、また商品やサービスと交換できるという意味では、小売り企業などが会員向けに発行しているポイントも仮想通貨と似ています。

仮想通貨とそれ以外との大きな違いは、仮想通貨は従来の法定通貨を基準にしていないということです。具体的には円やドルなどの既存通貨と紐付いておらず、価格が変動することが最大の特徴です(注)。したがって、電子マネーやポイントで投機的な利益を得ることはできませんが、仮想通貨では円でドルを売買するように投機が可能です(もちろん損をすることもあります)。

(注)直接既存通貨とは結びつきませんが、価格変動が小さくなるように調整することで、実質的に円やドルなどの既存通貨の価格と連動する「ステイブルコイン」と呼ばれる仮想通貨もあります。

このような「貨幣」としての特徴をコンピューター上で表現するためには、以下の必要条件を満たす必要があります。

  • 仮想通貨の流通を支えるシステムに不具合が生じたり、データが破壊されたりしないこと
  • 取引を不正に操作することができないこと
  • 不正にコピーすることができないこと(「偽札」が作れないこと)

これらの条件を技術的に満たすことは難しく、そのため仮想通貨は長年実現することができませんでしたが、ブロックチェーン技術の発明によって現実のものとなりました。仮想通貨を発行するためにブロックチェーン技術を利用する必要があるのはそのためです。

ブロックチェーンとは?

次にブロックチェーンについてです。ブロックチェーンの出現は、2008年にサトシ・ナカモトという正体不明の人物が「ブロックチェーン」に関する論文を発表したことが始まりです。彼は2009年にビットコインを発行し、その運用を開始しました。

日本ブロックチェーン協会(JBA)は、ブロックチェーンを以下のように定義しています。

“電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、かつ当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。”

そして、ブロックチェーンの技術によって以下のことが可能になります。

(1) 暗号技術(電子署名やハッシュポインタ)を駆使することで、改ざんされても容易に検出することができる

(2) ネットワークの複数のコンピューター上に分散してデータを持っていることで、システム全体として停止しないようになっている

(3) 分散しているデータの同一性を保証する仕組みがあるため、改ざんや不正コピーが不可能になっている

つまり、ブロックチェーンは前述した貨幣の必要条件を満たし、トークンの価値を担保する仕組みなのです。

なお、この仕組みが「ブロックチェーン」と呼ばれる理由は、取引記録を格納したブロックが、次々と連結(チェーン)されるというデータ構造を持っているからです。

01各ブロックは(先頭ブロックを除いて)前ブロックの取引記録を暗号化技術で計算した値(ハッシュ値)を持っています。したがって一度後続ブロックができあがり、それが合意されると取引記録を改ざんすることは不可能になります。さらに同じブロックチェーンが世界中のコンピューターに分散して保存されているため、改ざんはさらに困難であり、仮想通貨をコピーして増やすようなこともできません。一部のコンピューターがダウンしても、データが分散されているためシステムが停止することもありません。

トークンエコノミーの具体的なサービス事例

トークンエコノミーの具体的なサービス事例として、GMOインターネット(以下、GMO)の「オープンソースブロックチェーン」があります。

02出典:GMO社ウェブサイト

これは市区町村や都道府県レベルの地域通貨を創造することにより、地域経済の活性化を目指す取り組みであり、国家よりも小さな単位での経済圏を作ることができるトークンエコノミーのメリットを活用したモデルだと言えます。

自治体や商店街など小さな地域コミュニティの加盟店が発行するポイントを、地域通貨のように使えるようにすることで、その土地に繰り返し足を運ぶインセンティブを作り、地域活性化につなげることがねらいです。

GMOは、ポイントとして利用できる「地域トークン」を発行するための仕組みをオープンソースとして提供しています。無料で開放されるオープンソースを利用して生まれた追加開発物は、誰でも自由に利用することができることから、時間とともにサービスが改善・拡大する好循環が期待できます。

トークンを発行するためには、公開されているソースコードから新たなブロックチェーンを開発するか、既に存在するブロックチェーンの仕組みを利用するかのいずれかですが、GMOは後者の仕組みを提供しています。新たなブロックチェーンを開発するには手間もコストもかかるので、予算が限られている地方自治体や地域の商店街にはハードルが高くなります。GMOのサービスを利用すれば、そのハードルが下がり、多くの組織が地域トークンを発行できるようになります。

トークンエコノミーの他の事例としては、以下のものがあります。

  • 博報堂とALIS(ブロックチェーン関連サービス企業)によるトークンエコノミー価値交換プロセスの共同研究
  • JCBとカウリー(ブロックチェーン開発およびコンサルティングの専門会社)の連携による地域トークンのプラットフォーム提供
  • LINEの仮想通貨LINKコインによるサービス決済

インターネットの普及に伴い、ビジネスや経済のグローバル化が進展しました。国や地域によって異なる通貨を使うことは、すでに時代のニーズに合わなくなっているのかもしれません。トークンエコノミーによって個人や法人の国籍に関係なく決済ができれば、経済活動の効率は高まります。

近い将来、世界中に多くのトークンエコノミーが出現し、通貨制度が大きく変わっていく可能性があります。それと同時に、国家、自治体、企業の役割も大きく変化するかもしれません。あるいは国家レベルの信用と力のある個人が登場しても不思議ではありません。トークンエコノミーは、それほど大きな可能性を秘めているのです。

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