中小企業必見!従業員代表の選出方法とその役割|書類作成フォーマット付き
更新日:2025-04-14 公開日:2025-04-01 by SEデザイン編集部
従業員代表の選出は、労使関係の基盤となる重要な手続きです。しかし、その選出方法や役割について正しく理解していない企業も少なくありません。本記事では、中小企業の人事労務担当者や経営者向けに、従業員代表の選出方法と役割について詳しく解説します。適切な選出を行い、労使トラブルを回避するためのポイントをしっかり押さえましょう。
従業員代表制とは?その役割と重要性
従業員代表制の基本的な役割と労働組合との違い
従業員代表制とは、事業場における労働者の過半数に支持された代表(従業員代表)が従業員の意見を集約し、会社側に伝える制度のことです。労働条件の変更や各種制度の導入時において、労働者との協議が必要な場合、労働組合もしくは従業員代表がこの役割を担うと労働基準法で定められています。
● 「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」の締結…労働基準法36条
● 就業規則の作成・変更時における意見の聴取…労働基準法90条
ところで、従業員代表と労働組合の共通点および相違点はどのようなものでしょうか。
36協定の締結など労使協議で果たす役割は、従業員代表と労働組合(ただし労働者の過半数で組織する労働組合=過半数組合に限る)と同じです。過半数組合があるような大企業の場合は過半数組合が労働者側の代表となります。一方、従業員の過半数を組織する労働組合がない、もしくはそもそも労働組合がないということも多い中小企業では、労働基準法に基づき、その代替として労働者の過半数に支持された従業員代表を選出するというわけです。
相違点は、以下の通りです。
|
従業員代表 |
労働組合 |
形態 |
個人 |
団体 |
性質 |
常に従業員の過半数を代表 |
過半数の従業員で組織する労働組合(過半数組合)と、一部の従業員だけで組織する組合(小数組合)がある |
法的根拠 |
「従業員代表」そのものを定めた法律はなく、権利権限は有しない。あくまでも労働組合の代替として位置付けられる |
日本国憲法・労働組合法 |
なお、従業員代表には労使間の協議役という役割はあるものの、その他の特別な権限は有していません。
ストライキなどの団体交渉などの団体行動権は労働組合法に基づき、労働組合のみに認められています。
従業員代表が必要となる主な場面
従業員代表は、主に以下の場面で必要となります。
これらの場面からわかるように、従業員代表は労働条件の変更や労使協定の締結において重要な役割を担っています。労働基準法をはじめとする労働関係法令では、労働者の権利を守るために、会社が一方的に労働条件を決定するのではなく、労働者の意見を反映させるための仕組みとして従業員代表制度を位置づけています。
企業としては、これらの場面で必要となる手続きを適切に行い、コンプライアンスを遵守するとともに、従業員の声を尊重した職場づくりを進めていくことが重要です。
従業員代表の適切な選出方法
民主的な選出手続きが必要
従業員代表の選出は、必ず民主的な手続きによって行わなければなりません。これは単なる形式的な要件ではなく、従業員の意見を適切に代表できる人物を選ぶための重要な原則です。
民主的な選出手続きを怠った場合、深刻な影響が生じる可能性があります。たとえば、労使協定自体が無効となるリスクや、労働基準監督署からの是正勧告を受ける可能性があります。さらに、従業員からの信頼低下を招き、健全な労使関係を損なうことにもなりかねません。
具体的な選出方法とそのポイント
選出方法は事業場の規模や特性に応じて、適切な方法を選択する必要があります。代表的な選出方法として、投票方式、挙手方式、持ち回り方式があります。
選出方法の比較表
選出方法 |
メリット |
デメリット |
向いている規模・特徴 |
投票方式 |
・最も民主的 |
・手続きに時間がかかる |
中規模以上の事業場 |
挙手方式 |
・その場で結果が分かる |
・記名制による圧力 |
小規模事業場 |
持ち回り方式 |
・全員の意見を確認できる |
・時間がかかる |
交代制勤務がある事業場 |
選出にあたっては、まずその目的を明確にすることが重要です。36協定の締結なのか、就業規則の変更に関する意見聴取なのか、具体的な目的を従業員に説明する必要があります。
その上で、候補者の募集を行います。立候補制を採用する場合は、十分な募集期間を設けることで、より多くの従業員に機会を提供することができます。他薦の場合は、必ず本人の承諾を得ることが必要です。
選出時の注意点と禁止事項
選出過程において、会社側の関与は最小限に留める必要があります。特に、会社側が特定の人物を指名したり、選出過程に不当に介入したりすることは厳に慎まなければなりません。会社側の意向によって選出された従業員代表と締結した労使協定は無効になります。
選出の記録は適切に保管することが推奨されます。選出日時、場所、選出方法、参加者数などの基本的な情報に加え、選出された代表者の同意書なども保管しておくとよいでしょう。これらの記録は、後日、選出過程の適切性を証明する重要な証拠となります。
公平性を確保するためには、選出の場所や時間についても配慮が必要です。全従業員が参加しやすい環境を整えることで、より多くの従業員の意見を反映することができます。また、結果については速やかに全従業員に周知し、透明性を確保することが重要です。
従業員代表制度の運用における書類作成テンプレート
従業員代表制度の運用において、適切な書類の作成・保管は非常に重要です。ここでは、実務で使える選出プロセスと労使協定関連の書類例をご紹介します。これらのテンプレートを参考に、自社の状況に合わせてカスタマイズしてご利用ください。
従業員代表選出関連の書類
選出告知文書
従業員代表選出の目的と方法を全従業員に周知するための文書です。
従業員代表承諾書
選出された従業員代表が、その役割を引き受けることを承諾する文書です。
従業員代表選出記録
選出過程を記録し、適正な選出が行われたことを証明するための文書です。
労使協定関連の書類
36協定届
法定労働時間を超える時間外労働・休日労働を可能とするための労使協定です。
※36協定届は厚生労働省の様式を使用し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
詳細は以下より確認し、ダウンロードを行ってください。
賃金控除に関する協定書
法令で定められているもの以外の賃金控除を行うための協定書です。
年次有給休暇の計画的付与に関する協定書
一定の年次有給休暇を計画的に取得させるための協定書です。
これらの書類例は、従業員代表制度を適切に運用するための基本的なテンプレートです。各企業の状況に合わせて必要な修正を加え、労働関係法令を遵守した運用を心がけましょう。不明点がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
従業員代表になれる人・なれない人
従業員代表になれる人
従業員代表の資格要件について、雇用形態による制限は基本的にありません。正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイト社員であっても、従業員代表になることができます。重要なのは、その事業場における労働者の過半数の信任を得られるかどうかという点です。
事業場の実情に精通し、労働条件について従業員の意見を適切に代表できる人物であることが望ましいとされています。特に、日常的に他の従業員とコミュニケーションを取れる立場にある人物が適任といえるでしょう。
従業員代表になれない人
労働基準法上の管理監督者は、従業員代表になることができません。管理監督者の判断基準は以下の表の要素から総合的に判断されます。
判断要素 |
具体的な内容 |
職務内容 |
経営者と一体的な立場での経営判断への参画している |
権限と責任 |
人事権の所持、部下の労務管理に関する決定権がある |
勤務態様 |
出退勤の自由裁量、労働時間管理の対象外になっている |
待遇 |
一般の従業員と比較して地位にふさわしい給与水準にある、役職手当の支給を得ている |
また、単に「課長」「部長」といった役職名だけで判断することはできません。実態として上記の要素を満たしているかどうかが重要です。
その他、従業員代表として適切でない人
経営者の親族や、人事部門で労務管理を担当する者、近い将来の昇進が約束されている者など、会社の意向を受けやすい立場にある人物は、従業員代表として適切ではありません。
これらの人物は、客観的かつ公平な立場で従業員の意見を代表することが難しいと考えられるためです。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
労使協定締結の重要性と手順
労使協定締結の意義
労使協定は、労働条件に関する重要な取り決めを行うための制度です。36協定をはじめとする各種労使協定は、法令で定められた労働条件の原則について、労使の合意に基づいて例外を認めるための重要な手段となっています。
主な労使協定の種類と特徴
労使協定は、労働条件に関する重要な取り決めを行うための制度です。以下の表は、主な労使協定の種類とその概要をまとめたものです。
協定の種類 |
内容 |
有効期間 |
届出の要否 |
36協定 |
法定時間外・休日労働に関する労使協定 |
1年以内 |
必要 |
変形労働時間制協定 |
繁閑に応じた労働時間の配分に関する労使協定 |
1年以内 |
必要 |
フレックスタイム制協定 |
労働時間の柔軟な配分に関する労使協定 |
期限の定めなし |
不要 |
賃金控除協定 |
税金、社会保険料等法令で定められているもの以外を賃金から控除する場合の労使協定 |
期限の定めなし |
不要 |
年次有給休暇の計画的付与協定 |
会社側が計画的に取得日を定めて年次有給休暇を与えることを可能とする場合の労使協定 |
1年以内 |
不要 |
最も代表的な労使協定である36協定は、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を可能とするために不可欠な協定です。その他にも、変形労働時間制やフレックスタイム制の導入、賃金からの控除に関する協定など、様々な労使協定が存在します。
労使協定締結の手順
労使協定の締結は、以下のような流れで進められます。
まず、締結する協定の内容について社内で検討を行います。
次に、従業員代表との協議を行います。協議においては、法定の要件を満たしているか、従業員の実態に即した内容か、合理的な理由のある制限かなどの点について、十分な検討が必要です。
協議が整ったら、所定の様式に従って協定書を作成します。協定書には、協定の当事者、対象となる従業員の範囲、具体的な協定事項、有効期間、締結年月日などを明記します。
トラブル回避のためのポイント
記録の作成と保管
選出過程や協定締結に関する記録は、適切に作成し保管する必要があります。特に、従業員代表の選出告知文書、選出手続きの議事録、投票記録、従業員代表の承諾書などは、選出の適正性を証明する重要な証拠となります。会社側は従業員代表が協定締結に関する事務を円滑に遂行することができるよう、これらの点について十分な配慮を払いましょう。
具体的には以下のような書類を作成し、保管することが推奨されます。
【保管すべき主な記録類】
- 選出告知文書
- 選出手続きの議事録
- 投票用紙または信任投票の記録
- 従業員代表の承諾書
- 選任通知書
従業員への周知
従業員代表制度を効果的に機能させるためには、従業員全体の理解と協力が不可欠です。社内イントラネットでの告知や説明会の開催などを通じて、制度の周知と理解促進を図ることが重要です。
【効果的な周知方法】
- 社内イントラネットでの告知
- 従業員向け説明会の開催
- 社内掲示板への掲示
- 朝礼・会議での説明
特に重要なのは、従業員代表の役割と権限について、具体的に説明することです。「なぜ従業員代表が必要なのか」「どのような場面で関与するのか」といった基本的な事項を、分かりやすく伝えることが大切です。
不利益取り扱いの防止
従業員代表に対する不利益取り扱いは法令で禁止されています。降格や減給、不当な配置転換などの行為は、たとえ別の理由があったとしても、そのタイミングによっては違法と判断されるリスクがあります。
会社は以下のような行為を厳に慎む必要があります。
【禁止される不利益取り扱いの具体例】
- 降格や減給
- 不当な配置転換
- 人事評価での差別
- 退職勧奨
- 雇い止め
まとめ
従業員代表の選出と運用は、労使関係の基盤となる重要な手続きです。適切な選出方法の採用、記録の保管、従業員への周知、不利益取り扱いの防止など、法令に則った運用を心がけることが、健全な労使関係の構築につながります。
従業員代表の選出と運用は、労使関係の基盤となる重要な手続きです。本記事で解説した以下のポイントを押さえることで、適切な運用が可能となります。
- 選出の際は必ず民主的な手続きを踏むこと
- 選出過程の記録を適切に保管すること
- 従業員全体への周知を徹底すること
- 不利益取り扱いを厳に慎むこと
従業員代表制度の適切な運用は、健全な労使関係の構築につながります。不明な点がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

株式会社HALZ 取締役社長
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