タイムカード計算ミスを防ぐ!ひとり人事のための「基本のキ」と効率化ツールの紹介
更新日:2025-04-14 公開日:2025-02-17 by SEデザイン編集部
タイムカードの計算は人事・労務担当者にとって欠かせない業務ですが、正確性と効率性の両立に悩む方も多いのではないでしょうか。本記事では、タイムカードの計算方法や注意点、さらには効率化のためのツールまで幅広く紹介。お一人で人事・労務を担当している方や個人経営者の方々にとって、業務改善のヒントとなる情報をお届けします。
【社労士監修】中小企業向け勤怠管理システム比較10選!選び方から導入メリットまで徹底解説
タイムカード計算の基本と重要性
タイムカードの計算は一見すると単純な作業にも見えますが、見落とすとミスを招いてしまういくつかのポイントがあります。タイムカード計算は勤怠管理の中核で従業員の給与に直結する重要な業務であり、ミスの内容に正確な計算が求められます。
タイムカード計算の基本的なフロー
基本的には、出勤時刻と退勤時刻から労働時間を計算することですが、それだけではなく所定労働時間との照合などの工程があります。
【タイムカード計算の基本的なフロー】
①出退勤時刻の確認
②実労働時間の計算(退勤時刻-出勤時刻)
③休憩時間の控除
④所定労働時間との照合
⑤残業時間の算出
⑥給与計算への反映
正確な計算が求められる理由
タイムカードの正確な計算が求められる理由は主に二つあります。
一つ目は、法令に基づいた適正な労務管理を行うためです。2019年4月以降、「客観的方法による労働時間把握」が企業の義務になりました。タイムカードの正確な計算が実現できていれば、法定労働時間の順守や適切な残業管理につながります。万が一、労働基準監督署の調査が行われた場合にも正確な計算ができていれば客観的資料として対応できるでしょう。
二つ目は、従業員との信頼関係を構築・維持するためです。もし労働時間の計算にミスがあれば、本来もらえるはずの給与額が少なくなるなどの事態を招き、不信感を招きかねません。タイムカードの正確な計算は、公平で透明性の高い労務管理の基盤となり、良好な労使関係の維持に貢献するでしょう。
労働基準法に基づく正しい計算とは
■法定労働時間の基本
労働基準法では、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定めています。ただし、企業の業態や働き方に応じて、変形労働時間制を採用することも可能です。1カ月単位や1年単位の変形労働時間制、またはフレックスタイム制を導入する場合は、一定期間における平均が週40時間を超えないように調整する必要があります。
■割増賃金率の考え方
時間外労働に対する割増賃金は、原則として25%以上の支払いが必要です。特に、月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増率が適用されます。
深夜労働(22時から翌朝5時まで)の場合も25%以上の割増が必要で、時間外労働と深夜労働が重なる場合は、合計で50%以上の割増率となります。また、法定休日労働の場合は35%以上の割増率が適用されます。
■労働時間の端数処理と記録
労働時間は1分単位での記録が原則です。15分単位や30分単位での端数処理は労働基準法違反のためできません。また、以下の事柄も、労働時間に含めなければなりませんので注意が必要です。
・始業前の準備作業や終業後の片付け
・研修や教育訓練の時間
・休憩時間は、6時間超で45分以上、8時間超で60分以上を確保
■記録管理の重要性
タイムカードなどの労働時間の記録は、法令で定められた5年間の保存が必要です。また、賃金台帳との整合性を確認し、適切な給与計算の根拠として管理することが重要です。
自己申告制を採用している場合は、労働時間の適正な申告を阻害する要因がないか定期的に確認し、必要に応じて実態調査を行うことが推奨されます。また、申告漏れが発見された場合の対処方法についても、あらかじめ明確にしておくことが望ましいでしょう。
このように、労働基準法に基づく労働時間管理は、単なる時間の記録だけでなく、従業員の適正な労働条件を確保するための重要な要素となっています。正確な記録と適切な管理を通じて、働きやすい職場環境の実現につなげることが大切です。
計算時の注意点
■1分単位での計算が原則
・労働時間は1分単位での記録・計算が原則
・タイムカードの打刻が5分単位の場合でも、実際の始業・終業時刻を記録する必要あり
■端数処理に関する規定
・15分や30分単位での一律切り捨ては労働基準法違反のためできない
・例外として、月単位での端数処理(29分以下の切り捨て)は可能
・不利益変更となる場合は、従業員の同意が必要あり
■割増賃金の計算
従業員が法定労働時間を超えて働いた場合や、深夜・休日に働いた場合は、通常の賃金に割増率を加えた割増賃金を支払う必要があります。以下の表は、各労働形態における法定の最低割増率をまとめたものです。
区分 |
割増率 |
備考 |
時間外労働(残業) |
25%以上 |
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働 |
深夜労働 |
25%以上 |
22時~5時の労働 |
時間外労働+深夜労働 |
50%以上 |
時間外労働かつ深夜労働の場合 |
法定休日労働 |
35%以上 |
法定休日(週1日)の労働 |
月60時間超の時間外労働 |
50%以上 |
企業規模に関係なく一律 |
※その他の注意事項
・休憩時間は必ず控除(実労働時間に含めない)
・遅刻・早退は就業規則に基づいて処理
・打刻漏れの場合は、実態調査を行い適切に補正
・労働時間の記録は5年間の保存が必要
タイムカード計算時の注意点と法的留意事項
タイムカード計算で陥りやすいミスには、主に3つのパターンがあります。これらのミスは、労働基準法違反や従業員とのトラブルにつながる可能性があるため、しっかりと対策を講じる必要があります。以下の表で、よくあるミスの種類と具体的な対応策をまとめました。
よくある計算ミスとその防止策
以下に、よくある計算ミスの例とその防止策をまとめました。いずれのミスも労働基準法違反となり、雇用者には罰金刑など処罰が科されるおそれがありますので、注意しましょう。
ミスの種類 |
原因 |
防止策 |
休憩時間の控除漏れ |
出退勤時間のみに注目し、休憩時間を見落とす |
休憩時間入力欄を目立つ色にする |
残業時間の見落とし |
1日当たり8時間超過分の確認漏れ |
条件付き書式で超過時間を強調表示 |
端数処理の誤り |
15分単位などの安易な切り捨て |
1分単位での計算を徹底(※月単位での集計時、29分以下の切り捨ては可) |
電卓を使ったタイムカード計算の方法
タイムカードを計算する方法はいくつかあります。中でも電卓を使った計算方法は、最も基本的な方法です。以下の手順で計算を行います。なお、手作業になるため、ミスが発生するおそれが高い点については留意が必要です。
基本的な計算手順
例:出勤9:15、退勤19:10の場合
①時刻を4桁の数値に変換する
出勤:9:15 → 0915
退勤:19:10 → 1910
②退勤時間から出勤時間を引く
1910 - 0915 = 995
※上1桁が時間(9)、下2桁が分(95)を表す
分の調整(60分超過分の処理、下2桁が60を超える場合は40を引く)
95分 - 40 = 55分
→労働時間は9時間55分
③労働時間から休憩時間を引く
9時間55分 - 1時間 = 8時間55分が実労働時間
→実労働時間は8時間55分
実際に以下では、チャートの時計マークを押下することで労働時間が計算・算出できます。
ぜひ、活用してみてください。
エクセルを活用したタイムカード計算
電卓ではなくエクセルを使用することは、タイムカードの計算作業を大幅に効率化できるでしょう。基本的な集計表の作成から、高度な自動計算まで段階的に解説します。
基本的な集計表の作成
以下のような形式で基本的な集計表を作成します。
※以下の表をコピーして、セルA1に貼り付けてください。
日付 |
出勤時刻 |
退勤時刻 |
休憩時間 |
労働時間 |
4/1 |
09:00 |
18:00 |
1:00 |
|
4/2 |
08:30 |
17:30 |
1:00 |
|
セルの設定のポイント
- 時刻入力セル:「時刻」形式を選択
- 計算式:「=退勤時刻-出勤時刻-休憩時間」
表示形式:[h]:mm(24時間以上の表示に対応)
関数を使った労働時間の自動計算
①基本的な労働時間の計算
=IF(C2-B2-D2<0,0,C2-B2-D2)
E列のセル2に上記関数を入れてみます。
E列のセル2に労働時間が算出されました。
②残業時間の自動計算
=IF(E2>TIME(8,0,0),E2-TIME(8,0,0),0)
セルF列に「残業時間」を作成し、上記の関数を入れると、
残業時間が自動で算出されました。
③月間集計
=SUM(E2:E31)
さらに、G列に月間集計を追加することで月の労働時間を算出できます。
高度な自動計算機能の実装
残業時間や深夜労働の自動判定など、より高度な機能を実装する場合は以下の数式を使ってください。
④残業時間の割増計算
=IF(AND(E2>TIME(8,0,0),F2>0), F2 + IF(OR( AND(B2<=TIME(22,0,0),C2>=TIME(5,0,0)), AND(B2>=TIME(22,0,0),C2<=TIME(5,0,0)) ), NETWORKDAYS(B2,C2)*0.25,0), 0)
残業時間計算用の関数を使用する際は、まず入力データの時刻形式が正しく設定されているか確認が必要です。特に日付を跨ぐ勤務の場合は計算が複雑になるため、DATE関数との組み合わせを検討してください。
また、休憩時間の処理や深夜時間帯の取り扱いにも注意が必要です。実装時はテストデータで十分な検証を行い、手計算との照合で精度を確認することをお勧めします。関数が複雑になりすぎないよう、必要に応じて分割することも検討してください。
勤怠管理システムの活用による業務効率化
さて、ここまで電卓やエクセルによる計算方法を紹介してきましたが、これらはあくまで簡易的なものであり、限界があります。より正確で効率的な勤怠管理を実現するため、勤怠管理システムの活用を検討してはいかがでしょうか。
勤怠管理システムの主な機能とメリット
機能 |
メリット |
打刻管理 |
・ICカードやスマートフォンでの打刻が可能 |
自動計算 |
・労働時間の自動集計 |
データ管理 |
・勤怠データの一元管理 |
法令対応 |
・労働基準法改正への自動対応 |
システム導入時の注意点と選び方
勤怠管理システムの導入は、業務効率化の重要な一歩ですが、慎重な検討と準備が必要です。主に以下の3つの観点から検討を進めましょう。
1.導入コストの検討
システム導入にはさまざまなコストが発生します。以下の表で、主要な費用項目と具体的な内容をまとめました。
【費用項目一覧】
費用区分 |
具体的な内容 |
特徴と注意点 |
初期費用 |
・システム導入費用 |
一括での支払いが必要。機器の選定は慎重に行う |
ランニングコスト |
・月額利用料 |
従業員数に応じて変動。長期的な視点での試算が重要 |
付随コスト |
・従業員教育費用 |
見落としがちだが、無視できない金額になることも |
特に注目すべきは、クラウド型とオンプレミス型でコスト構造が大きく異なる点です。
【サービス形態別価格比較】
クラウド型の標準プランでは、初期費用0~10万円、月額利用料は1人当たり300~1,000円程度です。一方、オンプレミス型は初期費用が50万円以上かかり、別途保守費用も必要です。
2.運用体制の整備
システムの効果的な活用には、以下のような体制づくりが不可欠です。
【運用体制の核となる3要素】
①管理者の体制
管理責任者を明確に定め、以下の役割を担当させます:
・システム全体の運用管理
・社内規定の整備
・トラブル対応の統括
・従業員からの相談窓口
②導入前の準備
現状分析と体制整備を丁寧に行います.
<現状分析のポイント>
・現行の勤怠管理ルールの棚卸し
既存の運用ルールを整理し、新システムでの対応可否を確認。移行時の課題を洗い出します。
・就業規則との整合性確認
特に以下の項目について詳細な確認が必要です:
- 勤務時間の定義
- 休憩時間の取り扱い
- 残業申請のフロー
- 休暇取得のルール
③従業員教育プログラム
段階的な教育プログラムの実施が効果的です:
第1段階:システム概要説明
・導入目的の共有
・基本的な操作方法の説明
第2段階:実践的なトレーニング
・実際の操作演習
・よくあるトラブルと対処法
第3段階:フォローアップ
・運用開始後の質問対応
・追加機能の説明会

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
3.システム選定のポイント
選定にあたっては、機能面とサポート面の両方を考慮する必要があります。
【必須機能チェックリスト】
①基本機能
- 労働時間の自動集計
- 残業時間の自動計算
- 休憩時間の管理
- 36協定の上限管理
②法令順守機能 ※厚生労働省のガイドラインに準拠している
- 始業・終業時刻の記録
- 労働時間の適正集計
- 記録の保存(3年間)
- 賃金台帳との連動
【重要度別評価基準】
機能/項目 |
重要度 |
評価のポイント |
カスタマーサポート |
◎ |
・対応時間 |
システムの安定性 |
◎ |
・ダウンタイム |
操作性 |
○ |
・画面構成 |
価格 |
△ |
・初期費用 |
最後に、選定時には必ず複数のシステムを比較検討し、デモ環境での試用や他社の導入事例の確認を行うことをお勧めします。特に、自社の規模や業態に合った導入実績のあるシステムを選ぶことで、スムーズな導入と運用が期待できます。
まとめ
タイムカードの計算は、従業員の給与に直結する重要な業務です。電卓やエクセルを活用する方法を知っておくことはもちろん、より正確で効率的な勤怠管理を実現する上では勤怠管理システムの導入・活用を検討してみてもいいでしょう。いずれの方法にせよ、ミスや法律違反を犯すことなく、従業員との信頼関係を築いていくための、またお一人で人事・労務を担当している方への負担軽減のヒントとなれば幸いです。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント