従業員満足度調査(ES調査)とは?効果的な実施方法と分析のポイント、質問例を解説
更新日:2025-01-29 公開日:2025-01-28 by SEデザイン編集部
従業員満足度調査は、組織の健康状態を把握し、改善につなげるための重要なツールです。従業員の定着率向上や生産性向上、企業の成長には、従業員が働きがいを感じ、高いモチベーションを維持することが不可欠です。本記事では、従業員満足度調査の基本から実施方法、結果の分析、そして継続的な改善サイクルの構築まで、詳しく解説します。
人事担当者や経営層の方々に、従業員満足度調査とは何か、効果的な調査実施のためのノウハウ、質問例をお伝えし、従業員満足度向上に繋がる道筋を示します。
従業員満足度調査とは
従業員満足度調査の定義と目的
従業員満足度調査とは、従業員が会社や仕事に対してどの程度満足しているかを把握するための調査です。企業理念への共感、仕事内容へのやりがい、職場環境、給与、福利厚生、人間関係など、様々な観点から従業員の満足度を測ります。
この調査は「ES調査」という略称で広く知られており、人事部門や経営層が従業員の声を把握し、より良い職場環境づくりを進めるための重要なツールとして活用されています。
企業が従業員満足度調査を実施する主な目的は以下の通りです。
- 組織課題の発見と改善: 従業員が感じている不満や問題点を把握し、組織改善に繋げる。
- 従業員エンゲージメントの向上: 従業員の会社への愛着や貢献意欲を高め、組織全体の活性化を図る。
- 離職率の低下: 従業員の定着率を高め、人材の流失を防ぐ。
- 生産性の向上: 従業員のモチベーションを高め、業務効率や業績向上に繋げる。
- 企業イメージの向上: 従業員満足度の高い企業として、優秀な人材の確保や顧客からの信頼獲得に繋げる。
組織課題の発見と改善
従業員の声を系統的に収集・分析することで、表面化していない潜在的な問題点を特定できます。例えば部署間のコミュニケーション不足や、業務プロセスの非効率性、情報共有の質など、日常業務の中で見過ごされがちな課題を数値化して可視化することができます。
これにより、優先的に取り組むべき課題を明確にし、具体的な改善施策の立案が可能となります。また、定期的な調査を実施することで、改善施策の効果測定や新たな課題の早期発見にもつながります。
従業員エンゲージメントの向上
単なる満足度の向上を超えて、従業員の主体的な貢献意欲を高めることを目指します。企業理念や価値観の浸透を図り、従業員一人ひとりが自社の目指す方向性を理解し、共感することが重要です。
また、キャリア開発支援や能力開発プログラムの充実により、従業員の成長機会を提供し、業務における裁量権を適切に委譲することで、仕事への意欲と責任感を高めることができます。経営層と従業員との間で定期的な対話の機会を設けることも、エンゲージメント向上の重要な要素となります。
離職率の低下
離職率の低下に関しては、従業員の不満や懸念を早期に把握し、適切な対応を取ることで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。特にワークライフバランスの推進や、公正な評価制度の確立、将来のキャリアパスの明確化などは、従業員の定着率向上に大きく寄与します。
また、離職リスクの高い従業員を早期に特定し、個別のフォローアップを行うことで、予防的な対策を講じることも可能となります。
生産性の向上
従業員の満足度向上が仕事への意欲と直結し、業務効率や成果の向上につながります。無駄な作業の削減や業務プロセスの最適化、チーム内での効果的な協働体制の構築、ナレッジ共有の促進などにより、組織全体の生産性を高めることができます。また、イノベーションを生み出すための創造的な環境づくりや、明確なKPIの設定と達成支援も、生産性向上の重要な要素となります。
企業イメージの向上
従業員満足度の高さが、働きがいのある企業としてのブランド価値を高め、優秀な人材の採用や顧客からの信頼獲得にもつながります。特に近年は、ESG投資(環境・社会・ガバナンス)※における評価項目としても従業員満足度が注目されており、企業の社会的評価にも大きな影響を与えます。
また、従業員満足度の向上は、ポジティブな企業文化の醸成にも寄与し、それが更なる企業価値の向上につながるという好循環を生み出します。さらに、従業員満足度と顧客満足度には強い相関関係があることが多くの研究で示されており、サービス品質の向上にも寄与します。
これらの要素は相互に密接に関連しており、一つの領域での改善が他の領域にも波及的な効果をもたらします。そのため、従業員満足度調査を定期的に実施し、結果に基づいて具体的な改善施策を実行していくことは、組織の持続的な発展において極めて重要な意味を持ちます。
※ESGとは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(企業統治:Governance)の頭文字を取ったもので、企業の非財務面での取り組みや成果を評価する際の世界的な基準として用いられている
従業員満足度調査の種類
従業員満足度調査には、様々な種類があります。主な種類としては以下のものが挙げられます。
調査の種類 |
定義 |
特徴 |
定期調査 |
定期的に実施する包括的な調査 |
従業員満足度の全体像を把握し、経年変化を分析できる |
スポット調査 |
特定のテーマに焦点を当てた調査 |
特定の課題に対する従業員の意識を深く理解できる |
入社時調査 |
入社直後の従業員を対象とした調査 |
入社後のギャップや早期離職の要因を分析できる |
退職時調査 |
退職する従業員を対象とした調査 |
退職理由を把握し、組織改善に繋げることができる |
パルスサーベイ |
短期間で実施する簡易的な調査 |
従業員の意見をリアルタイムに把握し、迅速な対応が可能 |
それぞれの調査にはメリット・デメリットがあり、実施する目的や状況に合わせて適切な種類を選択することが重要です。
従業員満足度調査のメリットとデメリット
従業員満足度調査を実施するメリットは、上記で述べた目的達成に加え、以下のようなものも挙げられます。
- 従業員とのコミュニケーション促進: 調査を通して、従業員の意見や考えを把握し、双方向のコミュニケーションを活性化できる。
- 組織風土の改善: 従業員が働きやすい環境づくりに繋がる情報を収集し、組織全体の風土改革を促進できる。
- 人材育成への活用: 調査結果を基に、従業員の能力開発やキャリア形成を支援するプログラムを構築できる。
一方で、従業員満足度調査には以下のようなデメリットも存在します。
- 調査費用と時間: 調査の実施には、費用や時間、人材のリソースが必要となる。
- 従業員の負担増加: 回答に時間を取られる、個人情報に関する懸念など、従業員に負担がかかる可能性がある。
- 結果の解釈と活用が難しい: 調査結果を正しく分析し、具体的な改善策に繋げることが難しい場合がある。
- 期待と現実のギャップ: 調査結果を受けて改善策を実施しても、従業員の期待に応えられない場合、不満が高まる可能性がある。
従業員満足度調査は、メリットとデメリットを理解した上で、適切に計画・実施することが重要です。
効果的な従業員満足度調査の実施方法
調査の準備段階
従業員満足度調査を効果的に実施するためには、事前準備が非常に重要です。
- 調査目的の明確化: 何のために調査を実施するのか、具体的な目的を明確にする。
- 対象者の決定: どのような属性の従業員を対象とするのか、明確に定義する。
- 調査項目の選定: 目的に沿って、どのような質問項目を設定するか検討する。
- 調査時期の決定: 従業員の業務状況などを考慮し、適切な時期を設定する。
- 調査方法の選定: オンライン調査、紙媒体調査など、適切な方法を選択する。
- 実施体制の構築: 調査の実施責任者や担当者を決め、役割分担を明確にする。
- 周知と広報: 従業員に調査の目的や内容を伝え、協力を得られるよう周知徹底する。
特に、調査目的を明確化し、それに基づいた質問項目を設定することが、効果的な調査を行う上で最も重要です。
調査の実施方法
従業員満足度調査の実施方法は、大きく分けてオンライン調査と紙媒体調査の2つがあります。
調査方法 |
メリット |
デメリット |
オンライン調査 |
・集計が容易 ・費用を抑えられる ・回答しやすい |
・インターネット環境が必要 ・回答率が低い場合がある |
紙媒体調査 |
・インターネット環境が不要 ・回答率が高い場合がある |
・集計に手間がかかる ・費用がかかる |
それぞれのメリット・デメリットを考慮し、自社の状況に合わせて適切な方法を選択しましょう。
質問項目の設計と例
質問項目は、調査の目的を達成するために非常に重要です。質問項目を設計する際のポイントは以下の通りです。
- 質問項目は具体的に: 曖昧な表現は避け、具体的な内容を質問する。
- 質問項目は簡潔に: 長文の質問や複雑な質問は避け、短くわかりやすい質問にする。
- 質問項目は偏りなく: 特定の回答に誘導するような質問は避け、中立的な表現にする。
- 質問項目は網羅的に: 調査目的を達成するために必要な項目を漏れなく網羅する。
- 回答しやすい選択肢を用意する: 選択肢は網羅的で、かつ回答しやすいように設定する。
以下は、従業員満足度調査でよく用いられる質問項目の例です。
そのままコピーしてExcelに貼り付けて編集が可能です。ぜひ、ご活用ください。
設問番号 | カテゴリー | サブカテゴリー | 質問内容 | 回答(5段階) | コメント |
---|---|---|---|---|---|
1 | 職場環境 | 物理的環境 | 職場環境は清潔で快適ですか? | ||
2 | 職場環境 | 物理的環境 | 業務に必要な設備や備品は十分に揃っていますか? | ||
3 | 職場環境 | 安全衛生 | 職場の安全対策は十分ですか? | ||
4 | 職場環境 | 安全衛生 | 健康管理のサポート体制は整っていますか? | ||
5 | 職場環境 | 人間関係 | 職場でのコミュニケーションは円滑ですか? | ||
6 | 仕事内容 | 業務適性 | 現在の仕事内容はあなたの能力やスキルに合っていますか? | ||
7 | 仕事内容 | やりがい・成長 | 仕事にやりがいを感じていますか? | ||
8 | 仕事内容 | やりがい・成長 | 仕事を通して成長を実感できていますか? | ||
9 | 仕事内容 | 業務量・責任 | 仕事の量は適切ですか? | ||
10 | 仕事内容 | 業務量・責任 | 仕事の責任範囲は明確ですか? | ||
11 | 上司・同僚 | 上司との関係 | 上司はあなたの意見を尊重してくれますか? | ||
12 | 上司・同僚 | 上司との関係 | 上司は適切な指導やフィードバックをしてくれますか? | ||
13 | 上司・同僚 | 同僚との関係 | 同僚との協力体制は良好ですか? | ||
14 | 上司・同僚 | 同僚との関係 | チームワークは良好ですか? | ||
15 | 上司・同僚 | コミュニケーション | 部署内での情報共有は適切に行われていますか? | ||
16 | 給与・福利厚生 | 給与 | 給与水準に満足していますか? | ||
17 | 給与・福利厚生 | 福利厚生 | 福利厚生制度に満足していますか? | ||
18 | 給与・福利厚生 | 評価制度 | 評価制度は公正だと思いますか? | ||
19 | 給与・福利厚生 | 昇進機会 | 昇進の機会は公平に与えられていると思いますか? | ||
20 | 給与・福利厚生 | 待遇全般 | 現在の待遇に総合的に満足していますか? | ||
21 | キャリアパス | キャリア展望 | 会社でのキャリアパスに満足していますか? | ||
22 | キャリアパス | キャリア支援 | 会社はあなたのキャリア形成を支援してくれていますか? | ||
23 | キャリアパス | スキル開発 | スキルアップのための研修制度は充実していますか? | ||
24 | キャリアパス | 将来性 | 将来のキャリアビジョンを描くことができますか? | ||
25 | キャリアパス | 成長機会 | 新しいことにチャレンジする機会は十分にありますか? |
5:とてもそう思う
4:そう思う
3:どちらとも言えない
2:あまりそう思わない
1:まったくそう思わない
_____________________________________
_____________________________________
※集計結果は、職場環境の改善のために活用させていただきます。
これらの質問項目を参考に、自社の状況に合わせて質問項目を設計しましょう。
調査結果の分析とフィードバック
データ分析の基本手法
従業員満足度調査で得られたデータは、適切な分析手法を用いることで、組織の課題や改善点を見出すために活用できます。基本的な分析手法としては、以下のものがあります。
- 単純集計: 各質問項目に対する回答の度数や割合を算出する。
- クロス集計: 複数の質問項目の回答を組み合わせて分析する。例えば、部署別や年齢層別に満足度を比較する。
- 相関分析: 2つの変数の関係性を分析する。例えば、労働時間と満足度の関係性を調べる。
- 因子分析: 複数の質問項目から共通の因子を抽出する。例えば、「職場環境」に関する複数の質問項目から「職場環境満足度」という因子を抽出する。
- 自由記述回答分析: 自由記述で回答された意見や要望を分析する。
これらの分析手法を組み合わせることで、より深い分析が可能になります。
結果の解釈と課題の特定
分析結果を解釈する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 数値データだけでなく、自由記述回答も重視する: 数値データは全体的な傾向を把握するのに役立ちますが、自由記述回答からは従業員の生の声を理解することができます。
- 部門別、年齢層別など、様々な切り口で分析する: 全体的な傾向だけでなく、部門や年齢層など、グループごとの違いを分析することで、より具体的な課題が見えてきます。
- 過去のデータと比較する: 過去の調査結果と比較することで、改善された点、悪化した点などを把握することができます。
- 業界平均値と比較する: 自社の従業員満足度が業界平均と比べてどの程度なのかを把握することで、自社の強みと弱みを理解することができます。
分析結果を元に、組織の課題を以下の3つの観点から特定します。
- 満足度が低い項目: どの項目の満足度が低く、改善が必要なのかを特定する。
- 不満の声が多い項目: 自由記述回答などから、従業員がどのような不満を抱えているのかを特定する。
- 改善要望が多い項目: 従業員がどのような改善を望んでいるのかを特定する。
これらの課題を元に、具体的な改善策を検討していきます。
結果のフィードバックと改善計画の立案
従業員満足度調査の結果は、従業員にフィードバックすることが重要です。フィードバックすることで、従業員は調査に協力したことに対する感謝の気持ちを感じ、また、会社が自分たちの意見を真剣に受け止めていることを実感することができます。
フィードバックする際には、以下の点に注意する必要があります。
- 調査結果をわかりやすく説明する: グラフや図表などを用いて、視覚的にわかりやすく説明する。
- 良い点だけでなく、悪い点も正直に伝える: 問題点を隠さず、正直に伝えることで、従業員の信頼を得ることができます。
- 具体的な改善策を示す: 課題に対する具体的な改善策を示すことで、従業員は会社が改善に向けて真剣に取り組んでいることを理解することができます。
- 双方向のコミュニケーションを図る: フィードバック会などを開催し、従業員からの意見や質問を聞く機会を設ける。
フィードバックと並行して、改善計画を立案します。改善計画には、以下の項目を含める必要があります。
- 課題: 調査結果から明らかになった課題を具体的に記述する。
- 目標: 課題を解決することで、どのような状態を目指したいのかを明確にする。
- 対策: 課題を解決するために、どのような対策を実施するのかを具体的に記述する。
- 実施体制: 対策を実施するための責任者や担当者を明確にする。
- スケジュール: 対策の実施時期や進捗状況を管理するためのスケジュールを作成する。
- 効果測定: 対策の効果を測定するための指標を設定する。
改善計画は、従業員に公開し、進捗状況を定期的に報告することが重要です。
継続的な改善サイクルの構築
PDCAサイクルの適用
従業員満足度調査は、一度実施すれば終わりではありません。調査結果を元に改善策を実施し、その効果を検証することで、継続的に従業員満足度を向上させていく必要があります。
そのためには、PDCAサイクルを適用することが有効です。
- Plan(計画): 調査結果を分析し、改善計画を立案する。
- Do(実行): 改善計画に基づいて、具体的な対策を実施する。
- Check(評価): 対策の効果を測定する。
- Act(改善): 効果が不十分だった場合は、改善策を見直し、再度実施する。
PDCAサイクルを回すことで、従業員満足度向上のための取り組みを継続的に改善していくことができます。
組織文化の醸成と経営層の関与
従業員満足度向上は、人事部門だけの取り組みではなく、組織全体で取り組むべき課題です。従業員満足度を向上させるためには、従業員の声を尊重し、継続的な改善に取り組む組織文化を醸成することが重要です。
そのためには、以下の取り組みが有効です。
- 従業員満足度に関する研修を実施する: 従業員満足度の重要性や向上のための取り組みについて、従業員に理解を深めてもらう。
- 従業員満足度に関する意見交換会を実施する: 従業員同士が意見交換することで、課題や改善策を共有する。
- 従業員満足度に関する表彰制度を導入する: 従業員満足度向上に貢献した従業員を表彰することで、モチベーションを高める。
また、経営層が従業員満足度向上に積極的に関与することも重要です。経営層が率先して従業員の声に耳を傾け、改善に取り組む姿勢を示すことで、従業員は会社が自分たちのことを大切に思っていると実感することができます。
経営層は以下の取り組みを行うことで、従業員満足度向上に貢献することができます。
- 従業員満足度調査の結果を経営会議で報告する: 経営層が調査結果を把握し、改善に向けた議論を行う。
- 従業員満足度向上のための予算を確保する: 改善策の実施に必要な予算を確保する。
- 従業員満足度向上のための目標を設定する: 従業員満足度向上のための具体的な目標を設定し、達成状況を定期的に確認する。
従業員満足度向上は、組織全体で取り組むことで、より大きな効果を発揮します。
まとめ
本記事では、従業員満足度調査の基本から実施方法、結果の分析、そして継続的な改善サイクルの構築まで、包括的に解説しました。従業員満足度調査は、単なる数値の測定ではなく、組織の健全性を高め、従業員のエンゲージメントを向上させるための重要なツールです。適切な方法で調査を実施し、結果を正しく分析・活用することで、従業員のモチベーション向上や組織の活性化につながります。継続的な取り組みと経営層の積極的な関与により、従業員満足度の向上が組織文化として根付き、企業の持続的な成長と競争力強化に貢献することが期待できます。

人事コンサルタント