中小企業の人事担当者必見!勤怠管理とは?基礎知識と効率化のポイント
更新日:2025-04-14 公開日:2025-04-02 by SEデザイン編集部
中小企業の人事・労務担当者や経営者の皆さん、勤怠管理に頭を悩ませていませんか?本記事では、勤怠管理の基礎知識から効率的な管理方法まで、中小企業の実情に合わせて分かりやすく解説します。法令順守と業務効率化を両立する勤怠管理のポイントをつかみ、自社に最適な方法を見つけましょう。
【社労士監修】中小企業向け勤怠管理システム比較10選!選び方から導入メリットまで徹底解説
勤怠管理とは|その重要性と目的
勤怠管理の定義と基本概念
勤怠管理とは、従業員の労働時間を適切に把握し管理することを指します。単なる出退勤の記録ではなく、企業が従業員の就業状況を正確に把握し、適切に管理するための重要な業務です。そして、勤怠管理は労働基準法などによってすべての企業に課された義務であるということは言うまでもありません。
中小企業の人事担当者や経営者が押さえておくべき勤怠管理の基本的な考え方は以下の通りです。
- 労働時間の正確な記録
- 休憩時間の適切な管理
- 時間外労働の把握
- 有給休暇の取得状況管理
これらの要素を適切に管理することで、企業は労働基準法を順守し、従業員の健康を守りながら、生産性の向上を図ることができます。
それぞれの勤怠管理の基本要素について詳しく説明します。
労働時間の正確な記録
従業員の実際の労働時間を正確に把握することは勤怠管理の基本です。出勤時刻と退勤時刻を正確に記録し、総労働時間を算出します。これにより、法定労働時間の遵守状況を確認できるだけでなく、給与計算の正確性も確保できます。多くの企業ではタイムカードやICカード、勤怠管理システムなどを活用して、客観的な方法で労働時間を記録しています。
休憩時間の適切な管理
労働基準法では、一定時間以上の勤務に対して休憩時間を与えることが義務付けられています。例えば、6時間を超える勤務には45分以上、8時間を超える勤務には1時間以上の休憩が必要です。休憩時間を適切に記録・管理することで、従業員の健康維持と法令遵守の両方を実現できます。また、休憩時間は労働時間から除外して給与計算を行う必要があります。
時間外労働の把握
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働については、特に注意深く管理する必要があります。36協定の締結・届出、割増賃金の支払いなど、法的な手続きや義務が発生するためです。また、長時間労働による健康被害を防止する観点から、時間外労働の状況を常に把握し、必要に応じて是正措置を講じることが重要です。
有給休暇の取得状況管理
年次有給休暇は労働者の権利として法律で保障されており、適切な管理が求められます。付与日数、取得日数、残日数などを正確に記録し、従業員が適切に有給休暇を取得できる環境を整えることが重要です。また、年5日の有給休暇取得が義務化されているため、計画的な取得促進と取得状況の管理が必要です。
これら4つの要素を適切に管理することで、企業は法令遵守を実現しながら、従業員の健康と働きやすい職場環境を確保し、結果として生産性向上にもつなげることができます。
勤怠管理の重要性と企業にもたらすメリット
適切な勤怠管理は、中小企業に多くのメリットをもたらします。主な利点は以下の通りです。
- 法令順守によるリスク回避
- 従業員の健康管理
- 労働生産性の向上
- 人件費の適正化
- 労使トラブルの防止
では、どのようなメリットがあるのか、見ていきましょう。
法令順守によるリスク回避
勤怠管理を適切に行うことで、労働基準法違反のリスクを回避できます。特に中小企業では、人事担当者が少ないため、法令違反のリスクが高くなりがちです。正確な勤怠管理により、このリスクを大幅に軽減できます。
従業員の健康管理
労働時間を適切に管理することで、過重労働を防ぎ、従業員の健康を守ることができます。これは、従業員の長期的な生産性維持につながるだけでなく、企業の社会的責任を果たすことにもなります。
労働生産性の向上
勤怠データを分析することで、業務の効率化や無駄な残業の削減が可能になります。これにより、従業員1人当たりの生産性を向上させることができます。
人件費の適正化
正確な勤怠管理により、適切な残業代の計算や支払いが可能になります。これは、不要な人件費の削減につながるだけでなく、従業員との信頼関係構築にも寄与します。
労使トラブルの防止
勤怠管理を適切に行うことで、労働時間や残業代に関する労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。これは、中小企業にとって特に重要な点です。
適切な人事施策を導入することで、企業には様々な効果が期待できます。主な効果を以下の表にまとめました。
働き方改革と勤怠管理の関係性
近年、働き方改革が注目を集めていますが、これは勤怠管理と密接な関係があります。働き方改革関連法の施行により、以下の点が特に重要になっています。
- 時間外労働の上限規制
- 年次有給休暇の取得義務化
- 勤務間インターバル制度の普及促進
これらの変更に対応するためには、より精緻な勤怠管理が求められます。中小企業においても、これらの法改正に対応した勤怠管理システムの導入や、既存の管理方法の見直しが必要となっています。
例えば、時間外労働の上限規制に対応するためには、従業員の残業時間を正確に把握し、上限に近づいた際にアラートを出すようなシステムが有効でしょう。また、年次有給休暇の取得義務化に対しては、従業員の有給休暇取得状況を可視化し、取得を促進する仕組みが必要となります。
多様な働き方への対応も重要です。テレワークやフレックスタイム制など、従来の固定的な勤務形態にとらわれない働き方が増えています。これらに対応するためには、柔軟な勤怠管理システムの導入が不可欠です。
中小企業が働き方改革に対応するためには、以下のような取り組みが効果的です。
- 勤怠管理システムの導入または更新
- 労働時間の可視化と分析
- 柔軟な勤務形態に対応した勤怠ルールの策定
- 従業員への教育と意識改革
これらの取り組みにより、法令順守だけでなく、従業員の満足度向上や生産性の向上も期待できます。
勤怠管理で把握・記録すべき項目
労働時間の管理
労働時間の適切な管理は、勤怠管理の基本中の基本です。中小企業の人事担当者が押さえておくべき主なポイントは以下の通りです。
- 法定労働時間と所定労働時間の違い
- 始業・終業時刻の正確な記録
- 休憩時間の適切な管理
- 時間外労働の把握
法定労働時間と所定労働時間の違い
法定労働時間は労働基準法で定められた1日8時間、週40時間のことを指します。一方、所定労働時間は各企業が就業規則で定める労働時間です。この二つを混同しないよう注意が必要です。
始業・終業時刻の記録
労働時間の管理において最も重要なのが、始業・終業時刻の正確な記録です。タイムカードやアプリを利用したスマートフォンでの打刻など記録方法は様々ですが、どの方法を選択するにせよ、1分単位での記録が求められます。また、テレワークなど多様な働き方に対応できる柔軟な記録方法を検討することも重要です。
休憩時間の適切な管理
労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えることが義務付けられています。この休憩時間を適切に管理し、実際に休憩が取得されているかを確認することも勤怠管理の重要な要素です。
時間外労働の把握
法定労働時間を超える時間外労働については、特に注意が必要です。36協定の締結と順守、割増賃金の計算など、法令順守の観点から正確な把握が求められます。
時間外労働と休日労働の管理
時間外労働と休日労働の管理を怠ると、人件費の増加につながるため、中小企業には重要な課題でしょう。以下の点に注意して管理を行いましょう。
- 36協定の締結と順守
- 割増賃金の正確な計算
- 時間外労働の上限規制への対応
36協定の締結と順守
時間外・休日労働を行わせる場合、労使間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
割増賃金の正確な計算
時間外労働、休日労働、深夜労働には割増賃金が発生します。それぞれの割増率は以下の通りです。
労働の種類 |
割増率 |
時間外労働 |
25%以上 |
休日労働 |
35%以上 |
深夜労働 |
25%以上 |
※時間外労働が深夜に及ぶ場合は、50%以上の割増率となります。以下は実際の割増賃金の計算例です。
時間外労働の上限規制への対応
2019年4月から段階的に施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限が設けられました。中小企業も2020年4月から適用されています。
期間 |
上限時間 |
単月 |
100時間未満 |
2~6か月平均 |
80時間以内 |
年間 |
720時間以内 |
これらの上限を超えないよう、適切な労働時間管理が求められます。
有給休暇の取得状況管理
年次有給休暇の取得状況管理も、勤怠管理の重要な要素です。2019年4月からは、年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、年5日の取得を企業が義務付けられています。
有給休暇管理のためには、以下の項目をチェックすることが必要です。
- 付与日数の正確な把握
- 取得状況の記録
- 計画的付与制度の活用
- 取得促進のための施策実施
付与日数の正確な把握
年次有給休暇の管理において基本となるのは、各従業員への正確な付与日数の把握です。労働基準法では、勤続年数に応じて付与される有給休暇の日数が定められています。
入社日を基準とした管理が重要です。従業員ごとに入社日から6ヶ月後に最初の年次有給休暇が付与され、以降は1年ごとに付与日数が増加します。この基準日を従業員台帳に記録し、付与漏れがないよう管理します。
また、未消化の有給休暇は翌年度に繰り越され、最大2年間有効です。繰越分と新規付与分を区別して記録し、消滅する日付も管理しておくことで、従業員の権利を守ることができます。
管理方法としては、従業員数に応じて適切なツールを選びましょう。小規模企業であれば紙の台帳やExcelシートでも十分ですが、従業員が増えるにつれて勤怠管理システムの導入も検討すべきです。
取得状況の記録
有給休暇の取得状況を正確に記録することは、法令遵守の面でも非常に重要です。2019年4月から施行された「年5日取得義務化」に対応するためには、日々の取得記録が不可欠です。
取得記録には、日付、時間(全日または半日、時間単位)、理由(必要に応じて)、承認者などの情報を含めます。また、残日数も常に更新し、従業員が自身の有給休暇の残数を把握できるようにすることが大切です。
法定5日の取得義務に関しては、対象者をリストアップし、四半期または半期ごとに進捗を確認する仕組みを作りましょう。取得が進んでいない従業員には早めに通知し、年度末に慌てることなく計画的に取得できるよう促します。
記録方法は紙の申請書やExcelでも可能ですが、より正確かつ効率的に管理するためには、勤怠管理システムの導入も一考です。特に従業員の自己申告と上長の承認プロセスがシステム化されていると、二重管理による手間やミスを防げます。
計画的付与制度の活用
計画的付与制度は、労使協定を締結することで、有給休暇の取得日を計画的に指定できる仕組みです。この制度を活用することで、年5日の取得義務を効率的に達成できるだけでなく、企業全体の業務計画と調和した休暇取得が可能になります。
企業全体での計画的付与を実施する場合は、年間の業務カレンダーを作成し、繁忙期と閑散期を考慮した上で、休暇取得推奨日や一斉休業日を設定します。この計画は事前に従業員に通知し、準備期間を設けることが重要です。
部署別の計画も効果的です。例えば、製造部門では生産計画に合わせた休暇取得計画を、営業部門では顧客対応の少ない時期での休暇取得を推奨するなど、業務特性に応じた調整が可能です。
計画的付与制度を運用する際は、共有カレンダーなどのツールを活用して、全従業員が休暇予定を確認できるようにしましょう。また、計画的付与と個人の希望による取得のバランスも考慮し、柔軟な運用を心がけることが大切です。
取得促進のための施策実施
有給休暇の取得を促進するためには、単に制度を整えるだけでなく、実際に休暇を取得しやすい職場風土を作ることが重要です。
取得率の分析から始めましょう。部署別・個人別の取得状況を可視化し、取得率の低い部署や個人の原因を特定します。業務の属人化や人員不足が原因であれば、業務分担や体制の見直しが必要かもしれません。
管理職の意識改革も不可欠です。上長自らが率先して有給休暇を取得する姿勢を見せ、部下の休暇取得にも前向きな姿勢で臨むよう、管理職研修などを通じて啓発します。「休むことは当たり前」という意識を組織全体に浸透させることが、取得促進の鍵となります。
具体的な取得促進施策としては、記念日休暇制度(誕生日や結婚記念日に休暇を奨励)、アニバーサリー休暇(入社○周年に特別休暇を付与)、連休取得の奨励(有給休暇と土日や祝日を組み合わせた連休の計画)などが効果的です。こうした施策の効果を定期的に測定し、取得率の向上につなげましょう。
中小企業では、有給休暇の管理を紙ベースで行っているケースも多いですが、管理の負担軽減と正確性向上のため、専用のシステムやツールの導入を検討するのも一案です。
その他の勤怠管理項目(遅刻、早退、欠勤など)
遅刻、早退、欠勤などの管理も、適切な勤怠管理には欠かせません。これらの項目を正確に記録することで、以下のようなメリットがあります。
- 賃金計算の正確性向上
- 労務管理の適正化
- 従業員の勤務態度の把握
- 業務効率の改善
中小企業特有の課題として、少人数体制での急な欠勤への対応があります。これに対しては、以下のような対策が効果的です。
- バックアップ体制の構築
- 多能工化の推進
- 緊急連絡網の整備
- テレワークなど柔軟な勤務形態の導入
バックアップ体制の構築
バックアップ体制とは、従業員が急に休んだ際に業務が滞らないよう、代替要員を事前に決めておく仕組みです。中小企業では人員が限られているからこそ、計画的なバックアップ体制が重要です。
具体的な実施方法
-
業務マッピング: 各従業員の担当業務を洗い出し、誰がどの業務を担当しているかを可視化します。これにより、欠員が生じた際にカバーすべき業務が明確になります。
-
バディシステムの導入: 2人1組のバディを作り、互いの業務を理解し合います。一方が欠勤した場合、もう一方がカバーできる体制を整えます。特に重要な業務や締切の厳しい業務には、必ず複数の担当者を配置します。
-
業務マニュアルの整備: 各業務の手順を詳細に記したマニュアルを作成し、共有フォルダやクラウド上に保存します。急な代行でも手順書があれば最低限の業務継続が可能になります。
-
定期的な業務交代: 日常的に業務のローテーションを行い、複数の従業員が様々な業務を経験できるようにします。例えば四半期ごとに一部の業務を交代させるなど、計画的に実施します。
多能工化の推進
多能工化とは、一人の従業員が複数の業務スキルを持つよう育成することです。専門性を持ちつつも、他の業務もこなせる「T型人材」を増やすことで、組織の柔軟性が高まります。
具体的な実施方法
-
スキルマトリクスの作成: 各従業員のスキルレベルを業務ごとに評価し、マトリクス表にまとめます。例えば「◎(一人でできる)」「○(サポートがあればできる)」「△(見学経験あり)」「×(未経験)」などで評価します。これにより、組織全体のスキルの偏りや不足を把握できます。
-
クロストレーニングの実施: 計画的にOJTを実施し、主担当業務以外のスキルも習得させます。例えば、経理担当者に営業事務の基本を教えるなど、関連業務からトレーニングを始めるとスムーズです。
-
ジョブローテーションの制度化: 年に1〜2回、計画的に部署間や業務間の異動を行い、様々な経験を積ませます。特に若手社員には重要な育成手段となります。
緊急連絡網の整備
緊急連絡網とは、急な欠勤や災害時に迅速に情報を共有するための連絡体制です。単なる電話番号リストではなく、状況に応じた対応フローも含めた体系的な仕組みが重要です。
具体的な実施方法
-
多層的な連絡手段の確保: 電話、メール、ビジネスチャット(Slack、Teams等)、SNS、緊急連絡用アプリなど、複数の連絡手段を用意します。通信障害や災害時も考慮し、代替手段を確保しておきます。
-
連絡フローの明確化: 誰が・誰に・どのタイミングで・どの手段で連絡するかを明確にします。例えば「欠勤者→直属上司→部門責任者→代行担当者」というフローを決めておくと混乱を防げます。
-
早朝欠勤時の対応プロトコル: 特に多い早朝の体調不良による欠勤に対して、何時までに・誰に・どの方法で連絡するかを明確にします。例えば「始業2時間前までに上司に電話連絡」などのルールを設けます。
-
情報共有プラットフォームの活用: クラウド上のカレンダーや勤怠管理システムを活用し、欠勤情報をリアルタイムで共有できる仕組みを構築します。これにより、誰が休んでいるかを全員が把握でき、適切な業務調整が可能になります。
以下は緊急連絡網を整備する際に即時活用できるチェックリストです。コピーしてご活用ください。
テレワークなど柔軟な勤務形態の導入
テレワークや時差出勤などの柔軟な勤務形態を導入することで、体調不良や家庭の事情があっても、完全欠勤せずに業務を継続できる可能性が高まります。
具体的な実施方法
-
テレワーク環境の整備: クラウドサービスやVPNなどを活用し、社外からでも安全に社内システムにアクセスできる環境を整えます。ノートPCやタブレットの貸与、通信費補助なども検討します。
-
ハイブリッドワークの導入: 出社とテレワークを組み合わせるハイブリッドワークを導入します。例えば「週3日出社、2日テレワーク」など、業務特性に応じた柔軟な勤務形態を設計します。軽度の体調不良や家庭の事情がある場合も、テレワークに切り替えることで業務を継続できます。
-
時差出勤制度の活用: 始業・終業時間を柔軟に設定できる時差出勤制度を導入します。通勤ラッシュを避けられるだけでなく、体調や家庭の事情に合わせた勤務が可能になり、完全欠勤を防止できます。
-
短時間勤務オプションの設定: フルタイム勤務が難しい日には、短時間勤務を選択できるようにします。例えば「午前のみ勤務」「午後のみ勤務」などのオプションを用意することで、私用や体調に合わせた働き方が可能になります。
これらの対策を効果的に導入するためのステップは以下の通りです。
- 現状分析: 現在の欠勤状況や業務の属人化度合いを分析します
- 優先順位決定: 自社にとって最も効果的な対策から着手します
- パイロット実施: 一部の部署や業務で試験的に導入し、課題を洗い出します
- 全社展開: 課題を解決した上で、全社的に展開します
- 定期的な見直し: 3ヶ月に一度など定期的に効果を検証し、改善します
いずれの対策も、経営者や管理職が率先して取り組む姿勢を示すことが重要です。トップダウンの方針と現場の実情を踏まえたボトムアップの提案を組み合わせることで、より効果的な対策となります。
勤怠管理方法の種類と各メリット・デメリット
勤怠管理には様々な方法がありますが、それらのメリット・デメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
タイムカードによる管理
タイムカードは、多くの中小企業で採用されている伝統的な勤怠管理方法です。
【メリット】
- 導入コストが比較的低い
- 操作が簡単で従業員の教育が容易
- 物理的な記録が残るため、データの信頼性が高い
【デメリット】
- データの集計に手間がかかる
- 改ざんのリスクがある
- リアルタイムでの労働時間把握が難しい
- テレワークなど多様な働き方に対応しづらい
タイムカード管理を効率化するポイント
- ICカードタイプの導入で、データの電子化を図る
- 集計作業の自動化ツールを活用する
- 定期的なチェックと監査を行い、不正を防止する
エクセルによる管理
エクセルによる勤怠管理は、中小企業でよく見られる方法です。
【メリット】
- 初期コストが低い
- カスタマイズが容易
- 基本的なデータ分析が可能
【デメリット】
- 入力ミスのリスクが高い
- データの一元管理が難しい
- セキュリティ面で脆弱
- 従業員数が増えると管理が煩雑になる
エクセル管理を効率化するテクニック
- マクロ機能を活用して自動計算を設定
- データの入力規則を設定し、ミスを防止
- ピボットテーブルを使用してデータ分析を行う
勤怠管理システムの活用
近年、クラウド型を中心に勤怠管理システムの導入が進んでいます。
【メリット】
- データの自動集計による作業効率の向上
- リアルタイムでの労働時間把握が可能
- 多様な働き方に対応可能
- データ分析が容易で、経営判断に活用できる
【デメリット】
- 導入コストがかかる
- 従業員の教育が必要
- システムトラブル時の対応が必要
- カスタマイズに制限がある場合がある
なお、中小企業向けの手頃なクラウド型勤怠管理システムには、「KING OF TIME」(ヒューマンテクノロジーズ)、「ジンジャー勤怠」(jinjer)、「CLOUZA」(アマノビジネスソリューションズ)があります。
中小企業に適した勤怠管理方法の選び方
中小企業が自社に適した勤怠管理方法を選ぶ際は、以下の要素を考慮したほうがいいでしょう。
- 企業規模
- 業種特性
- 従業員の働き方
- 予算
- 将来的な事業拡大計画
これらの要素に基づいて、最適な選択肢を検討しましょう。
企業規模別の推奨方法
- 10人未満:エクセル管理や低コストのクラウドサービス
- 10-50人:中小企業向けクラウド型勤怠管理システム
- 50人以上:機能が充実した勤怠管理システム
業種別の考慮点
- 製造業:シフト管理機能が充実したシステム
- サービス業:リアルタイムの勤怠把握が可能なシステム
- IT業:テレワーク対応が充実したシステム
段階的な導入方法の例
- エクセル管理の効率化
- クラウド型勤怠管理システムの一部機能導入
- 全社的なシステム導入
将来を見据えた選択のポイント
- スケーラビリティ(拡張性)のあるシステムを選ぶ
- 他のシステム(給与計算システムなど)との連携を考慮する
- 法改正への対応が容易なシステムを選択する
多様な働き方に対応した勤怠管理
テレワークやフレックスタイム制など、働き方改革の推進によって進んだ働き方の多様化に対応した勤怠管理に迫られている中小企業も多いのではないでしょうか。テレワーク時の労働時間把握には、タイムカードなど従来型の勤怠管理は難しいため、クラウド型勤怠管理システムを活用するとともに業務開始・終了時のメール報告などで労働時間の状況を把握し、従業員の健康管理に努めましょう。
勤怠データの活用と分析
勤怠管理で得られたデータは単に従業員の健康管理と法令順守のためだけに用いられるものではありません。経営判断や業務改善にも活用することができるのです。ではどのように活用できるのでしょうか。
データ活用の具体例
勤怠管理で得られたデータは、以下の事柄を把握・改善する上で活用することができるでしょう。
- 部署ごとの残業傾向分析
- 有給休暇取得率の向上策立案
- 業務の繁閑期の把握と人員配置の最適化
中小企業でも実践できるデータ分析手法には以下の3点があります。
- エクセルのピボットテーブル機能を利用
- 無料のビジネスインテリジェンスツール(例:Looker Studio)の利用
- クラウド型勤怠管理システムに付属の分析機能の利用
また、Tableau Public、Power BI 、RStudio などビジネスインテリジェンスツールのプラットフォームにあるツールを利用することで、中小企業でも高度なデータ分析が可能になります。
さらに、データ分析の結果、以下のメリットが得られるでしょう。
- 労働時間の最適化
- 業務プロセスの改善
- 従業員の健康管理
- コスト削減
例えば、特定の部署で恒常的に残業が多いことが分かれば、業務の再分配や人員増強を検討できます。また、有給休暇取得率が低い従業員がいれば、個別にフォローアップすることで、従業員の健康維持やモチベーション向上につながります。
勤怠管理業務の効率化テクニック
中小企業の人事担当者が実践できる、勤怠管理業務の効率化テクニックをいくつか紹介します。参考にしてみてください。
日々の勤怠確認
○ 勤怠管理システムのアラート機能を活用
○ 従業員への自己申告促進(特に変更がある場合のみ報告)
○ 管理職による一次チェックの実施
月次集計作業
○ 自動集計機能の活用
○ 締め日を統一し、作業の一括化
○ エクセルのマクロ機能を活用した自動計算
勤怠関連の問い合わせ対応
○ FAQ作成と社内共有
○ チャットボットの導入
○ セルフサービス型の情報閲覧システムの導入
勤怠管理の効率化がもたらす効果としては、人事担当者の業務負担軽減やヒューマンエラーの減少、リアルタイムでの労働時間把握、従業員満足度の向上などが挙げられるでしょう。例えば、勤怠管理業務の効率化により、人事担当者が戦略的な人材育成や組織開発に時間を割くことができるようになります。また、正確な勤怠データに基づく公平な評価や報酬制度の構築も可能になります。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
中小企業における勤怠管理の活用例
タイムカードからクラウド型システムへの移行例
例:製造業A社(従業員50名)
【背景】
- タイムカードによる管理で集計作業に多大な時間がかかっていた
- 残業時間の把握が遅れ、労務管理に支障を来たしていた
- 年次有給休暇の管理が煩雑で、取得促進が進まなかった
⇒クラウド型勤怠管理システムに移行
【移行プロセス】
- 経営陣への提案と承認取得(1か月)
- システム選定と契約(1か月)
- 試験運用(1か月)
- 全社導入(1か月)
【移行後の効果】
- 勤怠管理に要する作業時間が月40時間から4時間に削減
- 残業時間の可視化により、平均残業時間が20%減少
- 有給休暇取得率が前年比30%向上
多様な働き方に対応した勤怠管理の実現例
例:IT企業B社(従業員30名)
【背景】
- 従業員の働き方の多様化(テレワーク、フレックスタイム)への対応
- 優秀な人材の確保・定着
- 生産性の向上
⇒クラウド型勤怠管理システムに移行
【システム選定のポイント】
- テレワーク対応機能の充実
- フレックスタイム制の管理機能
- スマートフォンアプリの使いやすさ
- 他のツール(プロジェクト管理システムなど)との連携
【導入後の効果】
- 従業員満足度が20%向上
- 離職率が5%から2%に低下
- 生産性(売上/従業員)が15%向上
- 採用における応募者数が2倍に増加
勤怠データの分析による業務改善例
例:小売業C社(従業員40名)
【背景】
- 店舗ごとの労働時間にばらつきがあり、人件費の最適化が困難
- 繁忙期と閑散期の人員配置が非効率
- 従業員の勤務シフト作成に多くの時間を要していた
⇒AI機能付き勤怠管理システムに移行
【データ分析の方法】
- 店舗ごとの売上と労働時間の相関分析
- 時間帯別の来客数と必要人員数の予測
- 従業員個々の勤務パターンと生産性の分析
【分析結果の活用】
- AIによる最適シフトの自動作成
- 繁忙期に合わせた適切な人員配置
- 個々の従業員の強みを活かした業務割り当て
【導入後の効果】
- 人件費が前年比8%削減
- 従業員1人当たりの売上が12%向上
- シフト作成時間が週8時間から2時間に削減
- 従業員の残業時間が平均30%減少
中小企業ならではの工夫による勤怠管理の効率化例
例:サービス業D社(従業員20名)
【背景】
- 限られた予算内での勤怠管理の効率化が必要
- 従業員の勤務地が分散しており、一元管理が困難
- 急な欠勤や遅刻への対応に時間がかかっていた
⇒既存ツールを組み合わせた独自の勤怠管理システムに移行
【具体的な工夫】
- オンラインフォームとスプレッドシートを活用した出退勤報告システム
- ビジネスチャットツールを使用した勤怠状況の共有と急な変更の連絡
- タスク管理ツールによるシフト管理と可視化
【運用ルール】
- 従業員は出勤時と退勤時にオンラインフォームで報告
- 管理者はスプレッドシートで自動集計されたデータを確認
- 急な変更はビジネスチャットツールで全員に共有
- シフトはタスク管理ツール上で管理し、全員がリアルタイムで確認可能
【導入後の効果】
- 勤怠管理にかかる時間が1日平均2時間から30分に削減
- 勤怠データの正確性が向上し、給与計算ミスがゼロに
- 急な欠勤や遅刻への対応時間が75%削減
- 従業員の勤務状況の透明性が向上し、チーム内のコミュニケーションが活性化
これらの活用例から、中小企業における効果的な勤怠管理のポイントとして以下が挙げられます。
- 企業規模や業種に適したシステムの選択
- 段階的な導入と従業員教育の実施
- データ分析による継続的な改善
- 既存ツールの創意工夫による低コスト化
勤怠管理における注意点と効率化のポイント
最後に、ここまで紹介した活用例を踏まえて、勤怠管理の基本概念や重要性、具体的な管理方法について説明します
勤怠管理はすべての企業に課された法律上の義務です。特に注意すべき主な法令と注意点は以下の通りです。
なお、労働基準法違反の場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、企業の社会的信用の失墜や従業員のモチベーション低下など、間接的な損失も大きいため、中小企業は自社の状況に応じた最適な勤怠管理方法を選択し、導入・運用していきましょう。適切な勤怠管理は、法令順守だけでなく、従業員の健康管理や生産性向上、ひいては企業の持続的な成長につながる重要な要素なのです。
まとめ
本記事では、中小企業における勤怠管理の基礎から効率化まで解説しました。勤怠管理は単なる記録業務ではなく、法令順守、従業員の健康管理、生産性向上の要となります。
適切な勤怠管理には、労働時間の正確な記録や時間外労働の把握といった基本要素が不可欠です。企業規模や業種に合った管理方法を選び、働き方改革関連法に確実に対応することが重要です。
クラウド型システムの活用や既存ツールの工夫により、限られたリソースでも効率的な管理が可能になります。また、蓄積したデータを分析して業務改善に活かし、多様な働き方にも柔軟に対応することで、従業員の満足度向上と企業の持続的成長を実現できるでしょう。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント