人事部立ち上げの3ステップ完全ガイド|人事部員に必須のスキルとは
更新日:2025-07-28 公開日:2025-07-28 by SEデザイン編集部
人事部の立ち上げは企業の成長に欠かせませんが、多くの中小企業やベンチャー企業にとって大きな課題となっています。本記事では、人事部立ち上げの重要性から具体的な手順、そして成功のポイントまでを詳しく解説します。これから人事部を立ち上げようと考えている経営者や人事担当者の方々に、確実に成功するための道筋をお伝えします。
人事部立ち上げの重要性と現代の役割
従業員の人数が少ない中小企業の場合、人事部を設けているところは決して多くはありません。経営トップが人事権を握っていることが多く、コスト面から管理部門の中でも人事部の設置が後回しにされる傾向があります。しかし、その考え方は変えていく必要があります。
なぜ今、人事部が必要なのか
人事部の主な役割とは何でしょうか。端的に言えば、企業の規模を問わず、自社の人的資源を最大限に活用し、組織全体の生産性と競争力を向上させることです。
企業を取り巻く環境は急速に変化しています。少子高齢化による労働力人口の減少、働き方改革の推進、そしてデジタル化の加速など、企業が直面する課題は多岐にわたります。このような状況下で、人材の確保・育成・定着が企業の競争力を左右する重要な要素となっています。
人事部がない企業では、複数の業務を掛け持つ限られた人員が担当するため、採用活動の非効率化、人材育成の体系化の遅れ、従業員エンゲージメントの低下、労務管理の不備によるリスク増大、経営戦略と人材戦略の不一致などの課題に直面せざるを得ません。
人事部を設けることによって、これらの課題に対して戦略的かつ体系的にアプローチすることが可能になるでしょう。
人事部を設置することで得られる主なメリットは以下の通りです。
- 戦略的な人材採用と育成
- 従業員満足度とエンゲージメントの向上
- 労務リスクの軽減
- 組織文化の醸成と維持
- 経営戦略と連動した人材戦略の実現
これらのメリットは、企業の持続的な成長と競争力の強化に直接的に寄与します。
現代の人事部に求められる機能と役割
従来の人事部は、主に採用や給与計算、労務管理などの管理業務を担当する部門と言っていいほどでした。しかし、現代の人事部には、より戦略的かつ多面的な役割が求められています。
以下の表は、現代の人事部に求められる主な機能と役割をまとめたものです。
機能 |
役割 |
戦略的人事 |
経営戦略と連動した人材戦略の立案・実行 |
タレントマネジメント |
優秀な人材の獲得・育成・定着 |
組織開発 |
組織の生産性と効率性の向上 |
エンゲージメント向上 |
従業員の満足度とモチベーションの向上 |
ダイバーシティ&インクルージョン |
多様な人材の活用と包摂的な職場環境の創出 |
HR テクノロジーの活用 |
人事業務の効率化とデータ分析に基づく意思決定 |
コンプライアンスと労務管理 |
法令順守と適切な労務管理の実施 |
これらの機能を効果的に果たすためには、人事部が経営陣と密接に連携することが重要です。人事戦略を経営戦略と整合させることで、組織全体の目標達成に大きく貢献することができます。
例えば、戦略的人事の観点からは、事業計画に基づいた中長期的な人材ポートフォリオの設計や、将来の事業展開を見据えた人材育成計画の策定などが求められます。タレントマネジメントでは、従業員の潜在能力を最大限に引き出すための育成プログラムの開発が重要になります。
組織開発の面では、組織構造の最適化や、部門間の連携強化を通じた業務効率の向上などに取り組みます。エンゲージメント向上においては、定期的な従業員満足度調査の実施や、その結果に基づいた改善施策の立案・実行が求められます。
ダイバーシティ&インクルージョンは、企業に多様な人材の活躍を通してイノベーションと経営効果を生み出すとして、国が推進しています。企業側の対応としては、女性の活躍推進や外国人人材の活用、障がい者雇用の促進などに取り組む必要があります。
HR テクノロジーの活用は、人事業務の効率化だけでなく、データに基づく客観的な意思決定を可能にします。AI を活用した採用選考や、従業員データの分析による離職予測などが考えられます。
コンプライアンスと労務管理は、企業のリスク管理において重要な役割を果たします。労働法規の改正に迅速に対応し、適切な労務管理体制を構築することで、労務トラブルの予防や企業価値の保護につなげることができるでしょう。
人事部立ち上げの3ステップ
人事部を効果的に立ち上げるためには、計画的かつ段階的なアプローチが必要です。ここでは、人事部立ち上げの3つの重要なステップについて解説します。
経営陣ヒアリング(2週間)→ 従業員アンケート → 具体的KPI設定
緊急性の高い1-2制度から着手 → 現場巻き込み設計 → 段階的導入
週次フォロー → 月次KPI → 継続改善
人事部立ち上げの3ステップ
ステップ1:現状分析と目標設定(立ち上げ期間:1〜2ヶ月)
まず着手すべきは「見えない問題の可視化」です。
多くの企業が人事部立ち上げで失敗する最大の理由は、現状把握が不十分なまま制度構築に走ってしまうことです。例えば、全体の離職率だけを見て対策を立てたものの、実は特定の部署や年次に偏りがあったことが後から判明し、施策の大幅な見直しを余儀なくされるケースがよくあります。
効果的な現状分析の進め方
最初の2週間で経営陣と各部門長への個別ヒアリングを実施し、「人材に関する本音の課題」を引き出します。このとき「優秀な人材が辞めてしまう本当の理由は?」「採用で苦戦している職種とその原因は?」といった具体的な質問を投げかけることが重要です。
次に、各部署の代表者への匿名アンケートと、現場で活躍する従業員との1on1面談を組み合わせて実施します。これにより、経営層が把握していない現場の実態が明らかになります。
目標設定で陥りがちな罠と回避法
「従業員満足度を上げる」「働きやすい職場を作る」といった抽象的な目標では、成果が測定できません。代わりに「営業部門の離職率を前年比で半減させる」「採用にかかる平均日数を現在より2週間短縮する」など、測定可能で期限を明確にした目標を3〜5個に絞って設定します。
ステップ2:人事制度の設計と構築(立ち上げ期間:3〜4ヶ月)
「完璧な制度」ではなく「動く制度」を目指す
初めから完璧な人事制度を作ろうとすると、複雑になりすぎて誰も使えない制度になってしまいます。評価項目を細かく設定しすぎた結果、マネージャーが評価に膨大な時間を費やすことになり、本来の業務に支障をきたすケースは珍しくありません。
段階的導入アプローチの実践
まず最も緊急性の高い1〜2つの制度から着手します。例えば、採用難が深刻なら採用制度から、離職率が高いなら評価・報酬制度から始めるといった具合です。
制度設計では「シンプル・公平・透明」の3原則を守ります。評価制度なら、評価項目を5個以内に絞り、各項目の判断基準を具体的な行動レベルで明文化します。「積極的にチャレンジする」ではなく「四半期に1回以上、新規プロジェクトの提案を行う」といった具合です。
現場を巻き込む制度設計
制度設計の段階から現場のキーパーソンを巻き込むことで、導入時の抵抗を最小化できます。各部署から影響力のある中堅社員を「人事制度検討メンバー」として選出し、月2回のワークショップで意見を反映させていきます。
ステップ3:運用体制の確立と改善(立ち上げ期間:2〜3ヶ月〜継続)
人事制度の設計が完了したら、次は実際の運用体制を確立し、継続的な改善を行っていく段階に入ります。この段階では、日々の業務フローの確立とPDCAサイクルの実践が重要になります。
まず、人事部の業務分担と責任範囲を明確にし、効率的な業務フローを構築します。採用、評価、研修などの各プロセスにおいて、担当者や承認フロー、必要な書類などを明確化し、マニュアル化することで、一貫性のある運用が可能になります。
PDCAサイクルの実践では、定期的に人事施策の効果を測定し、改善点を洗い出します。効果測定には、離職率、従業員満足度、生産性指標などのKPIを活用します。例えば、以下のような指標が考えられます。
KPI |
測定方法 |
目標値 |
離職率 |
年間退職者数÷平均従業員数 |
10%以下 |
従業員満足度 |
アンケート調査(5段階評価) |
4.0以上 |
1人当たり売上高 |
年間売上高÷平均従業員数 |
前年比5%増 |
これらの指標を定期的にモニタリングし、目標値との乖離がある場合は原因を分析し、必要に応じて施策の見直しを行います。
また、人事部の運用においては、従業員からのフィードバックを積極的に収集することも重要です。定期的な従業員アンケートや1on1面談の実施、提案制度の導入などを通じて、現場の声を人事施策に反映させていくことで、より効果的な人事部運営が可能になります。
よくある運用の落とし穴と具体的対策
1. 評価制度が機能しない
- 症状:期末になってマネージャーが「評価の仕方がわからない」と人事部に駆け込んでくる
- 原因:導入時の説明会1回だけで、その後のフォローがない
- 対策:評価時期の1ヶ月前に「評価者研修」を実施。実際の部下を想定したケーススタディで練習し、評価基準の認識を統一
2. 採用制度が現場で活用されない
- 症状:人事部が作った採用面接シートを現場が使わず、独自の質問で面接している
- 原因:現場の採用ニーズを反映せず、人事部だけで作成した
- 対策:各部署の採用成功事例を収集し、部門別にカスタマイズした面接ガイドを作成。四半期ごとに内容を更新
3. 研修制度への参加率低下
- 症状:導入当初は満席だった研修が、3ヶ月後には定員の半分も埋まらない
- 原因:業務時間中の研修で現場の負担が大きい、内容が実務と乖離している
- 対策:オンデマンド動画研修の導入、現場のニーズ調査に基づいたプログラム改善、上司の推薦制度導入
完璧を求めすぎず、まずは基本機能だけでスタートし、運用しながら改善していく姿勢が重要です。実際、人事部立ち上げに成功した企業の多くは、最初の1年間で複数回の制度改定を行い、現場の声を反映させながら最適化を進めています。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
人事部立ち上げ時に必要な人材とそのスキル
管理部門である人事部には、会社経営に直結するという意味でも優秀な人材を確保したいところです。では、人事部員に求められるスキルとはどのようなものなのでしょうか。
人事部員に求められるスキル
人事部を効果的に運営する上で、人事部員は多岐にわたるスキルが求められます。主要なスキルとしては、以下のようなものが挙げられます。
まず、コミュニケーションスキルは人事部員にとって不可欠です。従業員、経営陣、外部関係者など、様々なステークホルダーと円滑なコミュニケーションを取る能力が求められます。また、問題解決能力も重要です。人事に関する様々な課題に対して、創造的かつ効果的な解決策を提案・実行する能力が必要です。
データ分析スキルも近年重要性を増しています。採用や評価、従業員エンゲージメントなど、様々な人事データを分析し、意思決定に活用する能力が求められます。さらに、法務知識も必須です。労働法や社会保険関連法規などの理解と適切な運用能力が重要になります。
これらのスキルは、実務経験を通じて徐々に習得していくものもありますが、研修やセミナー、資格取得などを通じて積極的に学んでいくことも効果的です。例えば、社会保険労務士や人事・労務関連の資格取得を目指すことで、専門知識を体系的に習得することができます。
人事部立ち上げ時の人材確保の方法
人事部を立ち上げる際の人材確保には、主に内部人材の育成、外部からの採用、外部サービスの活用という3つの方法があります。
内部人材の育成は、自社の文化や事業への理解が深い人材を活用できるメリットがあります。しかし、専門知識やスキルの習得に時間がかかるというデメリットもあります。外部からの採用は、即戦力となる専門人材を獲得できる可能性がありますが、適切な人材を見つけることが難しく、また採用コストも高くなる傾向があります。
外部サービスの活用は、専門知識やノウハウを持つ外部の専門家のサポートを受けられるメリットがあります。特に、人事部立ち上げの初期段階では、この方法が効果的であることが多いです。ただし、長期的には自社内に人事のノウハウを蓄積していく必要があります。
人材確保の方法を選択する際は、自社の状況や優先課題、利用可能なリソースなどを総合的に考慮し、最適な方法を選択することが重要です。場合によっては、これらの方法を組み合わせて活用することも効果的です。
人事部員の育成と組織づくり
人事部の組織づくりと人材育成は、長期的な視点で取り組む必要があります。まず、人事部の組織構造を検討する際は、自社の規模や事業特性に応じた最適な形を選択します。小規模な企業では、少人数で多機能を担う「ゼネラリスト型」の組織が適している場合が多いです。一方、規模が大きくなるにつれて、採用、労務、研修などの機能別に専門化した「スペシャリスト型」の組織が効果的になることがあります。
人事部員の育成においては、OJTとOff-JTを効果的に組み合わせることが重要です。日々の業務を通じた実践的なスキル習得に加え、外部研修やセミナーへの参加、資格取得支援などを通じて、専門知識の向上を図ります。また、他部署との人事ローテーションを実施することで、事業への理解を深め、より戦略的な人事施策の立案・実行が可能になります。
人事部立ち上げ時の課題と解決策
人事部の立ち上げ時では、様々な課題に直面することがあります。それらの原因を探るとともに、解決策を紹介します。
よくある課題とその原因
人事部の立ち上げ時、よく見られる課題とその原因は、主に以下の5つです。
- 予算不足
多くの企業、特に中小企業やスタートアップでは、人事部立ち上げに十分な予算を確保できないことがあります。これは、人事部の重要性や投資対効果に対する経営層の理解不足が原因であることが多いです。 - 経営層の理解不足
人事部の役割や重要性に対する経営層の理解が不足していると、必要なリソースの確保や権限の付与が適切に行われない可能性があります。これは、人事を単なる管理部門と捉える古い価値観が残っていることが原因かもしれません。 - 人材不足
人事の専門知識やスキルを持つ人材の確保が難しいケースがあります。特に、戦略的人事や最新のHRテクノロジーに精通した人材は社内にいるとは限らず、社外でも引く手あまたのため採用できるとは限りません。 - 既存の組織文化との軋轢
まれにですが、新しく人事部を立ち上げる際、既存の組織文化や慣習と新しい人事施策が衝突することがあります。これは、変化に対する従業員の抵抗や、コミュニケーション不足が原因となることが多いです。 - 業務の属人化
人事部の立ち上げ初期には、少人数で多くの業務をこなすため、特定の個人に業務が集中しやすくなります。これにより、業務の属人化や、担当者の過重労働といった問題が生じる可能性があります。
効果的な解決策
人事部立ち上げで直面する課題に対しては、実践的かつ段階的なアプローチが必要です。以下、主要な課題別に具体的な解決策を解説します。
予算不足への対応
限られた予算で人事部を立ち上げるには、「投資対効果の見える化」が不可欠です。まず、現在発生している「見えないコスト」を数値化します。例えば、採用ミスマッチによる早期離職で発生する再採用コスト、人事業務の非効率による管理職の時間ロス、労務トラブルによる機会損失などを金額換算し、人事部設置による改善効果を示します。
初期投資を抑える工夫も重要です。高額な人事システムを一括導入するのではなく、まずは無料または低価格のクラウドサービスから始め、組織の成長に合わせて段階的にアップグレードしていく方法が効果的です。
経営層の理解を得る方法
経営層に人事の重要性を理解してもらうには、「経営課題と人事課題の紐付け」が鍵となります。売上目標の未達成を「営業スキル不足」という人材課題に、新規事業の遅れを「イノベーション人材の不在」に結びつけて説明することで、人事投資の必要性が明確になります。
月次の経営会議では、財務指標と同じレベルで人事指標(離職率、採用充足率、従業員エンゲージメントなど)を報告し、経営の意思決定に人事データを組み込む習慣を作ります。
人材・スキル不足の解消
人事の専門人材が採用できない場合は、「内部育成と外部活用のハイブリッド戦略」を取ります。総務や経理など、既存の管理部門から人事に興味のある人材を選抜し、外部研修や資格取得支援を通じて育成します。同時に、労務管理や採用など専門性の高い領域は、月数回の顧問契約で外部専門家のサポートを受けます。
人事業務の中でも定型的な作業(勤怠集計、社会保険手続きなど)は、アウトソーシングサービスを活用することで、少人数でも戦略的な業務に集中できる体制を構築します。
組織文化との調和
新しい人事制度への抵抗を最小化するには、「共創型アプローチ」が有効です。制度を一方的に押し付けるのではなく、各部署から選出したメンバーで構成する「人事制度改善委員会」を設置し、現場の声を反映させながら制度を作り上げていきます。
変更の影響が大きい制度については、まず一部の部署でパイロット運用を行い、そこで得られた改善点を反映してから全社展開することで、スムーズな導入が可能になります。
業務の仕組み化
属人化した業務を標準化するには、「業務の棚卸しと優先順位付け」から始めます。すべての人事業務をリストアップし、「法的に必須」「経営上重要」「nice to have」の3段階に分類します。その上で、法的に必須な業務から順次マニュアル化を進めていきます。
定型業務については、エクセルのマクロやRPAツールを活用した自動化を検討します。例えば、毎月の勤怠データ集計や有給休暇の残日数計算などは、簡単な自動化で大幅な時間削減が可能です。
これらの解決策を実行する際は、自社の規模や業界特性、組織文化に合わせてカスタマイズすることが重要です。また、すべてを一度に実施するのではなく、優先度の高いものから段階的に取り組むことで、着実な成果を上げることができます。
まとめ
人事部の立ち上げは、企業の成長と持続的な発展に不可欠な取り組みです。本記事で解説した3つのステップ(現状分析と目標設定、人事制度の設計と構築、運用体制の確立と改善)を着実に実行することで、効果的な人事部を構築することができます。
また、必要なスキルと人材の確保、そして立ち上げ時に直面する課題への対応策を理解し、適切に実行することが成功への鍵となります。人事部の立ち上げは一朝一夕には実現できませんが、継続的な改善と努力により、着実に成果を上げることができます。
外部の専門家や人事部立ち上げサービスの活用も有効な手段です。これにより、経験やノウハウの不足を補い、効率的かつ効果的に人事部を立ち上げることができます。人事部の成功が、企業全体の成功につながることを念頭に置き、戦略的かつ計画的に取り組んでいきましょう。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント