顧客価値を最大化するABM(アカウントベースドマーケティング)とは?〜そのメリットと始め方を解説
更新日:2022-10-04 公開日:2020-10-23 by SEデザイン編集部
働き方改革を求められる昨今、営業活動の効率化は、企業における喫緊の課題として避けて通れなくなっており、その実現のためにSFAなどを導入する企業も増えています。そこに現れたのがABM(アカウントベースドマーケティング)という手法です。
この記事では、MAをさらに進化させたマーケティング手法であるABMについて解説します。
ABMとは
ABMは、アカウント・ベースド・マーケティングの略で、「自社にとって価値の高い顧客を選別して、顧客に合わせた最適なアプローチでマーケティングを行う」手法です。
顧客ごとに適切な対応を取ることは営業の現場では当たり前のことですが、マーケティングの現場では必ずしも行われていなかったことでした。
近年はMA(マーケティング・オートメーション)の発達により、見込み顧客を可視化し、パーソナライズドされたコンテンツで見込み顧客とコミニュケーションをすることが可能です。
しかし、これまでのMAの対象はあくまで「見込み=リード(個人)」であり、その見込み顧客の所属する組織に対して適切なマーケティングが行われてきたわけではありませんでした。
ABMはこれを改め、個人ではなくその組織全体を見込み顧客として捉え、自社に対してより売上や利益をもたらす企業に対して積極的にセールスを行っていくための施策のことを意味します。従ってこの場合、マーケティングチームだけでなく、セールスチームとも連携して対応する体制が求められます。
ABM導入のメリット
マーケティング/セールスのリソース効率化
後述するMA/SFA/CRMといったツールを使うことで、マーケティングチームとセールスチームの業務負荷が効率化されます。そのため、限られた人員でも効果的に見込み客の獲得や受注が行えるようになります。
顧客企業に最適化されたコンテンツ
ABMを実行することで、顧客企業に最適化されたコンテンツの配信を行えます。一般的な内容のコンテンツよりも、顧客のニーズに沿ったコンテンツを提供するほうが、顧客企業の印象は良くなり信頼を得ることができます。MAやSFAといったツールを駆使することで実現が可能です。
Web上における顧客行動の可視化
ツールの進化により、Web上での顧客の行動が可視化されるようになりました。例えば、ウェブサイトのどのページを何回見たのか、どの資料をダウンロードしたのか、などがデータとして提供されます。これにより顧客の思考が明確となり、より顧客のニーズに沿った提案や接客が可能となります。
マーケティングチームとセールスチームの連携
一般に、マーケティングチームは見込み客の獲得を、セールスチームはその見込み客からの受注の獲得を業務目的としています。ただ、それぞれのチームが個別に行動してしまい、連携が取れないということもよくある話です。しかし、ABMは顧客と接する部門が連携をとらなければ実現できないマーケティング手法です。それぞれのチームが独立して動くのではなく、ともに手を取り合うことで顧客価値を最大化することができます。
ABMの始め方と全体の流れ
・顧客の選定
ABM実施の第一歩は、顧客の選定から始まります。まず既存顧客に対しては、理想的な顧客像を定め、多少条件をゆるめつつ、それに沿った顧客をピックアップします。
また、潜在顧客や見込み顧客に対しては、下表のようなステータスアップの要件に基づいて選定するのがよいでしょう。
|
マーケティング視点 |
セールス視点 |
対応 |
・サイトに◯PVのアクセスがあった ・お問い合せの送信があった |
・過去の取引額が高い ・顧客との関係性が良好である |
・ターゲットへのアプローチ
ABMの考え方として、自社にとって価値の高い顧客を選別するという前提があるため、すべての顧客を相手にする必要はありません。あくまで自社に大きな売上や利益をもたらす企業を優先して対応します。
実際には、契約に対する熱意が高く、自社としてもプライオリティの高い顧客は営業担当に引き継ぎ、熱意はまだ高くないがプライオリティの高い見込み顧客へはマーケティング部門が担当する、という具合です。また、プライオリティが低い顧客へはヒューマンリソースをかけないことも選択肢のひとつとして挙げられるでしょう。
・キーパーソンの選定
商談においては、決定権を持つキーパーソンが必ず存在します。そのキーパーソンを可視化することも、ABMの上では重要事項です。MA上で可視化される見込み顧客は、決定権を持たない一担当者である可能性もあるため、MAのリード=キーパーソンでないことも念頭に置いておかなければなりません。既存顧客であれば営業担当者に確認をとったり、新規の見込み客の場合は、顧客とのコミュニケーションの中で見つけ出す必要があります。
・最終的なセグメント分け
顧客選定、ターゲットへのアプローチ、キーパーソンの選定が完了すれば、自ずと自社が注力すべき顧客像が見えてきます。しかし、今一度、各顧客企業を各セグメントにあてはめて、担当分野や注力の度合いを決めておくと良いでしょう。
例えば、下図のように設定することも一考です。
自社への売上・利益が横軸、顧客の熱意が縦軸とすれば、右上へ行けば行くほど重要な顧客となり、マーケティングチームからセールスチームへとトスアップされます。一方で、熱意は高いものの売上につながりにくいと考えられる顧客は、一旦マーケティングチームで対応するなど、効率よく進めることが大切です。
このようにABMは、マーケティングチームだけ、あるいはセールスチームだけで行うものではなく、全社一体となって行うチームプレイです。従って、ABMの導入も特定のチームだけが旗を振るのではなく、関係する各部署(マーケティング、セールス、カスタマーサポート等)からABMの担当者を選抜し、プロジェクトチームとして組織するのが望ましいでしょう。また、後述するツールの利用のためにシステム担当者も参加し、ツール利用の調整も行う必要があります。
このように、ABMは実施にあたって多くのチャレンジが存在しますが、これをなし得てこそ自社に利益をもたらす顧客との密接な関係づくりがスタートしますので、臆せずトライしましょう。
ABMを実施するために必要なツール
ABMは、あくまでマーケティング/セールスの手法に過ぎないため、それを効率よく実行するためには、さまざまなツールを駆使し、社内で情報の共有を図る必要があります。
MA(マーケティングオートメーション)
MAは、主に見込み客を可視化し、自社への興味を高めるためのツールです。サイトに訪れた顧客や、展示会で名刺交換をしたりした顧客の情報を登録し、その顧客がサイト上でどのような行動をとったかが可視化されます。
商品ページやよくある質問のページを何度も閲覧している顧客であれば、商品への興味関心度合いが高いと考え、セールス部門へ情報を転送します。MAはこういった一連の流れを効率よく処理するためのツールです。
SFA(セールスフォースオートメーション)
SFAは、セールスチームが効率よく商談を行い、受注に至るまでのプロセスをサポートするツールです。顧客情報と商談の内容が紐づくことにより、受注への確度や、見込み金額の総額を可視化することができます。
CRM (カスタマーリレーションマネジメント)
MAやSFAは、あくまで受注前のプロセスをサポートするツールですが、CRMは受注後も含めてトータルで顧客との関係性を管理するツールです。アフターサポートや、納品後の定期的な訪問などで上がってきた顧客の課題やニーズを蓄積し、新たな受注へとつなげます。
なお、これらのツールは統合して運用されるものであり、実際にはすべての機能を備えているソリューションもたくさんあります。
ABMは顧客の選別やキーパーソンの選別が大変重要です。その可視化のためにも、MA/SFA/CRMは必要なツールと言えます。
代表的なABMツールの紹介
Hubspot
(画像出典元:Hubspot公式サイト)
Hubspotは、インバウンドマーケティングを行うためのトータルソリューションです。MA/SFA(セールスフォースオートメーション)/CRM(カスタマーリレーションマネジメント)の3つの機能を統合して備えています。また、最近ABMの機能も追加され、より強力なマーケティングツールとして進化しました。
FORCAS
(画像出典元:FORCAS公式サイト)
FORCASとは、自社の成長に必要な顧客企業をABMのプラットフォームで出力してくれるクラウドサービスです。144万社、560業界を超えるデータ数の中から、自社が取り組むべき顧客を探し出してくれるため、特に顧客選定のフェーズで威力を発揮します。なお、FORCAS自体にはMAやSFAの仕組みはないため、他のMA/SFAソリューションと連携させる必要があります。
eセールスマネージャー
(画像出典元:eセールスマネージャー公式サイト)
eセールスマネージャーは、日本製のSFA/CRMツールで、ABMとしても活用ができる企業データ連携機能を保有しており、特にエリアターゲティングに強みを持ちます。
全国に支店を持つような企業の場合、その見込み顧客開拓も広域で数も多くなりがちですが、eセールスマネージャーの場合、エリアを指定すれば、そのエリア内の見込み企業を出力してくれるので、そのデータを支社に送付すればABMを実践できます。
全国展開をしていたり、それを視野に入れている企業におすすめのSFA/CRMツールと言えます。
Salesforce
(画像出典元:Salesforce公式サイト)
Salesforceは、その名の通りSFAからスタートしたツールです。今では、MAやCRMも内包しており、マーケティング、セールスの両面で強力な機能を提供しています。また、SalesforceにはEinstein ABMという追加機能も存在し、これを連携させることにより、本格的なABMを実行することも可能です。
kintone
(画像出典元:kintone公式サイト)
kintoneは、WebDBシステムと呼ばれる、プログラムコードを書かずにデータベースを操作できるシステムです。SFAやCRMではありませんが、顧客情報や商談内容などをデータベースに取り込むことによって、SFA、CRMと同等のシステムを作ることができます。
また、高度で柔軟なAPIが用意されているため、データベースの内容を外部へ出力し、他のシステムと連携することも得意です。
企業データと連携させることによって、ABMを実施するベースとなるシステムとして利用することも可能です。
まとめ:ABMで効率のよいマーケティング/セールス活動を
自社にもたらす売上や利益が高い企業から優先的に対応するABMは、決して新しい考え方ではありません。むしろ、企業として当然行うべきマーケティングやセールスの手法が、デジタルツールの登場でより高度に効率よく行うことが出来るようになった、と言えます。
ABMは、チームによるマーケティングやセールスのプロセスを可視化し効率化します。この記事を参考に、御社でもぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。