企業の成長を支えるマーケティングでは、「正しい戦略」と「適切な打ち手」を見極めることが不可欠です。しかし、膨大なデータや手法に振り回され、どこから手をつければよいのか悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
こうした課題を解決するために、マーケティングの本質を実践的に解説しているのが、当社のグループ会社である翔泳社から出版された、富家翔平氏の著書『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』です。
本記事では、3回にわたり本書の主要テーマである「マーケティングの全体像」「コンテンツ戦略」「マネジメント」について、具体的な事例を交えながら解説します。各回を通じて、成果を生み出すために欠かせない実践的ノウハウを掘り下げ、読者が自社のマーケティング戦略に活かせるヒントを提供します。
第1回となる今回は、マーケティングの全体像を俯瞰しながら、本書の核となる「3つのマップ」に焦点を当てます。これらを理解することで、自社に最適なマーケティング戦略を設計し、成果を生み出すための視点を得られるはずです。
BtoCからBtoBへ。富家翔平氏が歩んだマーケターとしてのキャリア
――大企業からスタートアップ企業への転職は、かなり大きな挑戦だと感じます。なぜEVeMに転職を決めたのでしょうか?
富家翔平氏(以下、富家氏):
おっしゃる通り、3,500人規模の大企業から当時10人のスタートアップへの転職で、マーケティング担当者も私一人という状況でした。
株式会社EVeMは、「すべてのチャレンジにマネジメントの力を」というパーパスを掲げ、企業にマネジメントのナレッジを提供している会社です。
私自身、BtoBマーケティングは、戦略と戦術が優れているだけではなかなか成果が出ないと思っており、戦略を実行する際のマネジメントの重要性を強く実感しています。「BtoBマーケティング×マネジメント」で成果を出すことにチャレンジしたいと思っている私にとって、EVeMが提供しているナレッジは魅力的でしたし、身を置く環境を変えることで得られるものもあると思い、転職を決めました。
――どのようなきっかけで、マネジメントの重要性を実感するようになったのですか?
富家氏:
マネジメントの重要性を感じたのは、前職のコニカミノルタジャパン株式会社に勤めていたときです。
マーケティングチームを見るようになって間もない頃、メンバーに対してかなり厳しく接していた時期がありました。あるときメンバーに必要以上に負荷やプレッシャーを掛けてしまって、職場で泣いている姿を見ました。成果を出したいからといって、相手にそんな想いをさせる必要はないはず。「自分は一体何をしているんだ」と深く反省し「関わり方を変えなければならない」と強く思いました。
そこからマネジメントについて学び、意識的にマネジメントの実践を重ねたことで、組織がうまく機能しはじめ、周囲からの自身の評価も変化していきました。
さらに、どのようにメンバーと向き合い、どのようにコミュニケーションを取れば成果を高められるかを冷静に判断し、行動に移していくうちに、マネジメントが「苦手」から「強み」に変わっていったように思います。
3つのマップで可視化する、戦略実行の全体像
――ここからは、著書について伺います。『最高の打ち手が見つかるマーケティングの実践ガイド』には、富家様のどのような思いが込められているのでしょうか?
富家氏:
私は日頃から、「BtoBマーケティングにおける課題の特定は、複雑でややこしく難易度が高い」と感じているので、なるべくシンプルかつ客観的に事象を捉え、課題解決につなげられるように工夫しました。
たとえば「展示会で成果が出ない」という課題があっても、
- ブースの企画や販促物の内容、声掛けからブース内への誘導などのオペレーションが適切でない場合
- 商談機会を獲得するにあたって営業との連携不足やフォロー活動がボトルネックになっている場合
など、同じように見える課題でも、要因と課題は全く異なることが多いように感じます。
よく「どうしたらいいでしょうか」と相談を受けますが、私から具体的な打ち手を提示することはあまりありません。まず当事者が客観的に事象を把握しやすくなるための質問を投げかけるようにしています。
――たしかに富家様の著書では「事象を俯瞰し、ボトルネックを見つけること」の重要性が強く打ち出されていると感じました。
「こういう時はこうすべき」という打ち手を紹介する書籍やコンテンツも多いですが、本書では具体的な打ち手についてはほとんど言及していません。事象をいかに客観的に捉え、成果へのインパクトが大きい課題を特定し、そこに対して効果的な打ち手を導き出すか、という点にフォーカスしています。課題の把握や整理に本書を活用していただけるとうれしいですね。
広い視野で全体を捉え、指標と要点を押さえた成果創出のためのアクションを積み上げていくことができるように、3つのマップを作りました。「何を、どのように実行するのか」を考えるのに役立ててもらえたらと思います。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
――富家様が実施されているセミナーや勉強会では、マップの具体的な活用方法もレクチャーされていると伺いました。
富家氏:
実際に本書を活用したワークショップを実施させていただいています。たとえばアクションマップの「見直しポイント」を活用して打ち手を検討する際には、まず個人ワークとして現在の取り組みの「事実」を書き出してもらいます。
このとき、主観でかまわないのでその人にとっての「事実」を言語化してもらうのがポイントです。その後、グループでそれぞれの事実を持ち寄り、議論を通じて最終的にきちんとした事実にまとめてもらいます。その後、実際の打ち手を「見直しポイント」から3つに絞って決めてもらいます。
――チーム内で実際にやってみたのですが、書けない項目などもあって、なかなか難しかったです。
そうですよね。やってみると、「この人からはそういうふうに見えていたんだな」「自分はトスアップ以降のことをなにも把握できていなかった」など、多くの気づきがあります。個人ワークを行った後、書いたものを持ち寄ってグループワークで話し合うことで、打ち手に対する納得感も増すと思います。
BtoBマーケティングの役割は「事業の成果」と「組織の成長」への貢献
――著書の中では、BtoBマーケティングの全体像についても描かれていて、特定の施策を担当している方にとっても学びが多いと感じました。
富家氏:
BtoBマーケティングの全体感を掴むのは本当に難しいですよね。私自身も組織全体を俯瞰する立場を3年ほど経験して、ようやく「全体感を掴めたかな」というレベルでした。
そのため、特定の施策のみを任されている担当者が全体像を把握するのは、相当ハードルが高いはずです。全体像が見えないままだと、もっと成果が出る施策があることに気づけないまま、自分の担当施策だけを実行し続けてしまう危険性があります。
これは、事業成長の選択肢を狭めてしまうことにもつながりかねません。
――では、そうした全体像を踏まえたうえで、富家様が考えるBtoBマーケティングの役割とはどのようなものでしょうか?
富家氏:
BtoBマーケティングが担う本質的な役割は「事業の成果」と「組織の成長」の2軸だと思っています。ただ、これらの両立は決して簡単ではありません。
たとえば、事業の成果を追求するあまり、短期的な効果が期待できる施策にリソースが偏ってしまうと、組織の成長につながる施策がおろそかになってしまいます。一時的に定量目標を達成できたとしても、組織の基盤が強化されていなければ、持続的な成長にはつながらず、結果として短期の成果目標を達成し続けて中長期の成果に繋げていくことは難しくなってしまいます。
こういった事態を回避するには、事業成果を生み出す戦略と、組織の持続的な成長を実現する戦略を切り分けて考える必要があります。それぞれに対して適切な判断を下し、関係者の共通認識を確立することが重要です。
――それでは、BtoBマーケティング組織におけるマネジメントの役割は、どのように捉えていらっしゃいますか?
富家氏:
マネージャーの役割は目標を決めること、そして結果をもとに評価を行い次につなげていくことに尽きます。まずは会社や事業として目指している方向性に沿って組織がどのような役割を担うのかを明確にし、そこから目標を定めます。
そのうえで、目標を達成するための戦略や方針を示し、施策を実行するためにメンバーの取り組みをマネジメントしながら目標達成へと導いていきます。こうした組織の役割や目標、それを達成するための戦略や方針を意思決定し、合意形成ができていないと、組織や事業が目指す方向とは異なる活動に時間や労力を費やしてしまうリスクがあります。
特にBtoBマーケティングの現場はステークホルダーが多いので、細やかな意思疎通とすり合わせによる合意形成がとても重要です。成果が頭打ちにならないように、マネジメントの立場から全体を見渡し、戦略やゴールを整合させていくことが不可欠です。
組織のズレをなくし、意思決定の質を高める「CABフレーム」
――BtoBマーケティングにおける合意形成の重要性についてお話しいただきましたが、うまく合意形成を図るコツなどはあるのでしょうか?
富家氏:
マーケティングに関する知識や経験など差から、マーケターがいくら正当性を主張しても、周囲からは「自分たちのやりたいことを押し通しているだけではないか」と誤解されることがあります。そうなると、合意形成とは関係のないところで余計な調整が発生してしまうんですよね。
そこで考えたのが、CABフレームという手法です。これは、マーケティングチーム内はもちろん、他のステークホルダーにも施策の意図や重要性をわかりやすく伝え、建設的なディスカッションを行うためのツールです。「施策区分×達成度×比重」の3軸で施策を整理し、理想と現状のギャップや優先度を可視化していきます。
CABフレームを見ながら議論することで、自分たちは今何をどの程度できているのか、どこにリソースを割くべきか、などが客観的に把握でき、意思決定もスムーズになるはずです。
――CABフレームの3つの軸「施策区分」「達成度」「比重」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
施策区分は「ポジション形成」「リード獲得」「商談機会獲得」「オペレーション強化」の4つの目的に分けています。
たとえば「展示会に出展すること」一つをとっても、一概に「展示会の目的はこれ」と決めつけることはできません。
- 自社のソートリーダーシップをアピールしたいなら「ポジション形成」
- 商談を獲得したいのなら「商談機会獲得」
といったように、似たような施策でも目的が異なります。施策の種類で分類するのではなく、主目的で整理すると詳しくない方にとってもわかりやすく整理できます。
「達成度」は、各施策区分でどの程度実行できているかを評価する指標です。あらかじめ定めた達成基準と比較することで、主観にとらわれずに現状を把握できます。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
「比重」は、施策に対する注力度(予算・人員・時間)を示すための指標で、状況によって変化します。物理的なリソースだけでなく、注力の度合いを表現するようにしてください。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
たとえば
といった形で示せば、何に注力するのかが直感的に伝わるようになります。
こうして「施策区分×達成度×比重」を整理することで、チーム内外で施策の意図や優先度を共有しやすくなり、合意形成も進めやすくなります。さらに、CABフレームと3つのマップを組み合わせて活用することで、戦略から実行まで一貫して管理することが可能になります。
――ありがとうございます。実際に私たちもワークを実践してみた結果、見えている景色が異なっていたことに気づく場面もあれば、逆に共通認識が明確になる部分もありました。このプロセスを経ることで、より精度の高い意思決定につながりそうですね。
まとめ
今回は、富家氏の実践的なマーケティング知識をもとに、企業が成果を生み出すための戦略設計の重要性と、3つのマップとCABフレームの活用方法について解説しました。
とくに重要なのは、以下の2点です。
- 事実を正しく収集し、戦略を整理すること
- 現状分析に基づいた意思決定を行うこと
感覚や思い込みではなく、客観的な視点で施策の優先度を見極めることが成果に直結する鍵となります。
ぜひ、今回紹介したワークを試してみてください。自社の現状と課題を可視化することで、戦略の解像度が高まり、成果につながる打ち手が見えてくるはずです。
次回は、「コンテンツ戦略の立て方」について深掘りしていきます。
書籍『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』とは?
『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』は、組織の仕組みと実行力によって成果を生むことの重要性を説いた一冊です。
本書の特徴は、マーケティングの個別施策ではなく組織全体の設計に焦点を当て、継続的に成果を生む仕組みを作る視点があることです。
BtoBマーケティングで長期的な成果を追求し、組織を着実に成長させたい方に向けて、実践的な知識と具体的なフレームワークが詰まっています。本書を活用すれば、正しい戦略と実行可能な打ち手を見極め、BtoBマーケティングの成果を最大化するアプローチを学ぶことができるはずです。
弊社グループ会社の翔泳社から出版されていますので、ぜひご一読ください。
→書籍の詳細・購入はこちら(SE Shop)