成長と成果を両立させるBtoBマーケティング組織のマネジメントの考え方―富家翔平氏インタビュー#3
更新日:2025-05-20 公開日:2025-05-20 by SEデザイン編集部
企業の成長を支えるマーケティングでは、「正しい戦略」と「適切な打ち手」を見極めることが不可欠です。しかし、膨大なデータや手法に翻弄され、どこから着手すべきか頭を悩ませている企業も多いのではないでしょうか。
こうした課題を解決するために、マーケティングの本質を実践的に解説しているのが、当社のグループ会社・翔泳社から出版された、富家翔平氏の著書『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』です。
MarkeDriveでは、3回にわたり本書の主要テーマである「マーケティングの全体像」「コンテンツ戦略」「マネジメント」について、3回にわたり解説しています。
第1回では、BtoBマーケティングの全体像をつかむ3つのマップと、CABフレームによる合意形成の手法を紹介しました。また第2回では、コンテンツ戦略の立案と運用をテーマに、事業理解・顧客理解の重要性を掘り下げました。
そして今回は、成果を最大化するための「マネジメント」に焦点を当てます。
戦略・戦術を“実行力”に変えるマネジメントの本質
――マーケティング組織におけるマネジメントでは、どのような点が重要だと感じていますか?
富家翔平氏(以下、富家氏):
最大のポイントは、マーケティングの戦略と戦術をしっかりと考え、それを組織の実行力と結びつけることです。「どのように実行するか」はマーケティングの知識だけでは足りず、マネジメントの知識と取り組みで差が出ます。
私は、マーケティング組織が解決しないといけない課題は「事業の成果と組織の成長を同時に追求すること」だと思っています。事業の成果を優先し短期的な目標を無理に追い続ければ、一時的には成果が出るかもしれません。しかし、その分メンバーに過度な負荷がかかり、疲弊や離職につながるリスクも高まります。
特に小規模な組織では、一人の退職が目標達成を大きく左右するケースも少なくありません。短期的な成果の積み重ねが中長期の成果につながるのは間違いありませんが、同時に成果を出し続ける組織を作るための成長も実現しなければ、持続的な成果・成長にはつながらりません。
だからこそ、マネージャーには「成果を出しながら、組織をいかに成長させ続けるか」という視点が必要です。
成果を出すためにメンバーをマネジメントすることは当然ですが、短期的な成果を出しつつ、持続的に成長できる組織に導くことが、マネジメントにおいて非常に重要だと思っています。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
――では、富家さんはマーケティングの戦略や戦術と、組織の成長はどのような関係にあると考えていますか?
富家氏:
マーケティング施策の実行と、組織を成長させる活動は、本質的に異なるものです。
- マーケティング施策の実行:「個別化された戦略をもとに、適切な施策を行い、どのチャネルを活用するか」などの実行に関する計画
- 組織を成長させる活動:「組織の実行力を高めるために体制やスキルをどう整備し、強化するか」という育成・開発に関する計画
この2つを区別して計画を練ることで「組織を成長させるための課題はどこか、そのためになにを実行するか」を明確にすることができます。
「組織をどう成長させるべきか」という観点を持つことで、日々の施策に成長の目的や意味を加えられたり、メンバーに対しても、マネージャーとして期待している行動変容や成長を言葉にして伝えたりすることができます。重要なのは、2つの観点を常に頭の中に入れながら両立することを目指し続けることだと考えています。
――では、メンバーの感情を意識したマネジメントは、組織の成長にどのような影響があると考えていらっしゃいますか?
富家氏:
「プロフェッショナルなら、好きとか嫌いとか関係なくやらないといけないことはやれ」と言われますが、強制的に与えられた「やらねばならない仕事」ほど、クオリティは下がりやすいですよね。みなさんも実感があると思います。もちろん、誰かがやらないといけない仕事はあり、それに人をアサインしないといけません。ですが、成果を産むための創造性や積極的な関与を期待しているなら、そうした感情面を無視してはいけません。求めている成果から逆行してしまうこともあります。
人には感情があるので、経験のない仕事を振られて不安になる人もいれば、逆にワクワクする人もいます。その他にも、その仕事を実行するスキルはあるが、組んだチームの中に人間関係が良好ではない人がいるとパフォーマンスは下がります。アサインする人がどういう感情を抱きやすい人なのか、感情が成果にどのように影響するかを考えるのは、マネージャーとして当然です。
ポジティブな感情もネガティブな感情も、成果を最大化するために「マネジメントすべき要素」として捉えるべきだと思っています。
――自分の目指す方向性と真逆の仕事をやれと言われても、成果に結びつかない悪循環が生まれやすいということですね。
富家氏:
私の著書でも「才能との出会いが戦略を変える」という考え方を紹介しています。メンバーの才能を発揮できる施策を見つけてアサインすることが、高い成果への近道です。また、そうした才能を起点に戦略の幅を広げることができれば、自分が想像もしていなかった戦略や施策を描けるようになります。
BtoBマーケティングの施策は、そうした才能を活かせるかどうかが戦略設計以上の差別化要素になるのではないか、と考えています。私は、これこそが「マーケティング×マネジメント」の掛け合わせで導き出せるアプローチだと信じています。
個人の成長が組織を変える。マネジメントが果たすべき「調整と示唆」
――タスクの実行力を高める組織の成長と個人の成長について、どのようなバランスでみていくべきでしょうか?
富家氏:
私は、個人の成長の総和が組織の成長の総和になると考えています。
そのために大切なのは、「個人が望む成長」「マネージャーとして期待する成長」「組織として目指すべき成長」といった3つの軸をいかにすり合わせるかです。
こうしたことに思考を巡らせた後に言語化してアウトプットすることがマネージャーの役割だと思っています。
そして、メンバーそれぞれが「なぜこの仕事に取り組むのか」を納得できるように言語化を手伝うことも重要です。
――マネージャーとしては、個人の意思と会社の業務目標をすり合わせ、その人が意義を見出せるようタスクを割り当てることが重要ということですね。具体的には、どのように伝えればよいのでしょうか?
富家氏:
あるタスクをお願いするときに、「この仕事にはこういう目的があって、あなたにはこういう成長を期待している」という一言を添えるだけでも、メンバーの受け止め方は大きく変わります。
たとえば、とあるマーケターに「インサイドセールスの立ち上げ」を依頼する場合です。
これから事業を担うマーケターとして成長してほしいと思っている。その成長には、営業現場に対する解像度を高めることが必要だ。営業活動の前工程を担う重要な役割であるインサイドセールスを主導して立ち上げ、実際に顧客と対話しながら営業活動をしてほしい。事業を担うとはどういうことかを身をもって学んでほしい。
このように伝えれば、メンバーはその仕事の目的や意義を感じやすくなりますよね。
その業務の中でトークスクリプト作成を依頼する場合も「単にスクリプトを書くのではなく、自社の提供価値を自分の言葉で整理し、実際のやり取りを通じて相手のニーズをとらえる思考を養って欲しい」と伝える、などです。
こうした目的や背景を踏まえて、「あなたが事業を担うマーケターへと成長するために、半年間チャレンジしてほしい」と伝えれば、メンバーもより前向きに取り組んでくれるはずです。どのような仕事でも、この「たった一言」を誠意を込めて伝えられると成果と成長の両方に効いてきます。私が知っている素晴らしいマネージャーのみなさんは、もれなくやっていますね。
メンバー理解を深める「スキル・CAN・WILL」の観点
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
――マネジメントにおいて、メンバーの適性を把握するために重要な要素は何でしょうか?
富家氏:
メンバーの適正を把握するうえで重要なのは、以下3つの観点で理解することです。
これらをもとに、将来の目標と照らし合わせてアサインすることが重要です。
マネジメントの重要な仕事は「目標を決めて評価する」ことですが、特に大事なのはメンバーに納得感を持ってもらえるかどうかです。
定量的な評価なら人を直接見なくても判断できますが、定性的な成長を評価するには、メンバーの変化を観察し、理解することが不可欠です。そこで、スキル・CAN・WILLを理解し、人に興味を持ち、変化を見逃さない姿勢が、マネジメントには求められます。
――たしかに、人の変化はしっかり見ていなければ気づけないことが多いですし、メンバーを理解しながらマネジメントしていくことは大切ですね。
富家氏:
私が考えるマネジメントの究極形は、「内容は完全に理解できていないが、この人のもとで頑張りたい」と思ってもらえる状態です。マネージャーの目的が好かれることであってはいけませんが、信頼や安心感のある関係性が、チームの成果につながると信じています。
数字にとらわれない、「活動計画表」で可視化する成長プロセス
――メンバーのスキル・CAN・WILLを理解しながら、組織全体の成長を促すには、どのような点を意識すべきでしょうか?
富家氏:
先ほど述べたように、マネージャーは「スキル・CAN・WILL」を踏まえたうえでメンバーを適切にアサインし、成長を促すことが重要です。単に業務を割り振るだけでなく、組織全体の成長を見据えた計画的な管理が不可欠です。そこで活用できるのが「活動計画表」です。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
――活動計画表について、もう少し詳しく教えていただけますか?
富家氏:
活動計画表は、定量目標を達成できているチームの理想状態をイメージしながら、そこに至るための課題とアクションを整理するためのフレームワークです。
たとえば、四半期の商談目標が30件だとします。
達成できているチームの状態として、
- 1から企画や実行でき、目標進捗も把握できる状態
- 振り返りとアクションを自分たちで考えられている状態
- 外部パートナーを含め必要なリソースが調達できる状態
などの要素が考えられます。
このように理想状態を言語化することで、必要なアクションが具体的に見えてきます。
――活動計画表は単なる目標管理ツールではなく、組織の成長を可視化する役割もあるんですね。具体的にはどのように活用すればよいのでしょうか?
富家氏:
たとえば、商談目標30件に対して結果が20件だったとしても、PDCAを回す企画書が整備され、数字の可視化も進み、外部リソースを導入する段取りまで決まっているなら、チームは確実に前進していると評価できます。
数字だけを見れば「未達」ですが、組織の成長を可視化し、実感を共有することで、マーケティングチームとしての確かな成長と自信が育ちます。活動計画表は、まさにそのためのツールです。
――活動計画表で決まったアクションを具体的に落とし込むための「アサインシート」も作られていますね。アサインシートを活用することで、どのような課題を解決できると考えていますか?
富家氏:
アサインシートは、「誰をどのタスクに割り当てるか」を、意図をもって決めるためのシートです。
出典:BtoBマーケティングにおける「思考のシンプル化」フレーム(スライド・シート付き)
よくあるのが、同じ人を複数のタスクを重ねてしまい、結果としてリソースが回らない状態です。しかし、アサインまで事前に計画しておけば、現実的な稼働量との整合性を確認することができます。
さらに、スキルやWILLを書き込みながら、「期待している成長」や「想定する行動変容」などの視点が持てるようになります。
たとえば、「あなたにこのプロジェクトを任せたいのは、あなたのWILLと成長方向が合致しているから」と伝えることで、本人の納得感ややりがいも高まります。
事業成果と組織成長の両立を目指すマネジメントには、この“納得感あるアサイン”が欠かせません。
――富家様の著書では、ディスカッションのルールや考え方についても言及されていますよね。マネジメントの観点から「誰が何を決めるのか」を明確にし、議論の目的を整理するというルールに至ったきっかけは何でしょうか?
富家氏:
ウェビナーやホワイトペーパーなどの企画では、意思決定者が曖昧なまま進むと、最終的に多数決で決めたり、なにやらぼやけた企画になってしまいがちです。そのため私は、「最終的な決定は自分が下す。ただし、みんなの意見は必ず参考にしたい」というスタンスをとっていました。
もちろん自分が意思決定者じゃない場合でも、「これは○○さんが決める」と最初に決めるようにしていました。決める人が明確だと、それ以外の人はその人の意思決定がより良いものになるためのアイデアや意見を出してくれるようになります。
意思決定者を明確にすることと、チーム全員が自由に意見を出せる場を作ること。
この2つが両立されている状態が、良い議論と良い企画を生む土台になると考えています。これはすぐにできることなので、ぜひやってみてほしいと思います。最初はうまく馴染まないかもしれませんが、意識的に実行してみてください。
まとめ
これまで全3回にわたり、富家翔平氏の著書『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』をもとに、BtoBマーケティングの「全体像」「コンテンツ戦略」「マネジメント」について解説してきました。
第1回では、3つのマップとCABフレームを用いた施策整理や優先度の決定方法を解説しました。
第2回では、事業理解と顧客理解を軸に、熱量のあるコンテンツを設計・制作することの重要性をお伝えしました。また、コンテンツ生成フレームで、企画の精度と一貫性を確保する方法も紹介しました。
そして第3回となる今回は、メンバーのスキル・意欲を把握し、納得感あるアサインと活動計画で成果につなげるマネジメントについて解説しました。
書籍『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』とは?
『最高の打ち手が見つかるマーケティング実践ガイド』は、組織の仕組みと実行力によって成果を生むことの重要性を説いた一冊です。
本書の特徴は、マーケティングの個別施策ではなく組織全体の設計に焦点を当て、継続的に成果を生む仕組みを作る視点があることです。
BtoBマーケティングで長期的な成果を追求し、組織を着実に成長させたい方に向けて、実践的な知識と具体的なフレームワークが詰まっています。本書を活用すれば、正しい戦略と実行可能な打ち手を見極め、BtoBマーケティングの成果を最大化するアプローチを学ぶことができるはずです。
弊社グループ会社の翔泳社から出版されていますので、ぜひご一読ください。
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