マーケティングに重要なのは「共感してもらうこと」と「自分で実践すること」―Datadog Japan 安藤浩二氏インタビュー
更新日:2025-04-02 公開日:2025-03-31 by SEデザイン編集部
Datadogは、あらゆるITインフラのスタックやアプリケーションの内部をモニタリングできるクラウド型の統合監視ツールです。現在、世界中の企業がシステム運用の可視化やトラブルシューティングに活用しています。
そんなDatadogの日本法人でシニアフィールドマーケティングマネージャーとして活躍するのが、約30年にわたってIT業界に携わってきた安藤浩二氏です。MicrosoftやAWSなどグローバル企業で開発ツールのプロダクトマーケティング、フィールドマーケティングを経験し、数多くのマーケティング施策や導入事例を手がけてきました。
今回は、ITサービスにおけるマーケティング戦略と導入事例の効果的な活用方法について、安藤氏の豊富な知見を伺いました。
Datadog様の事例コンテンツの活用については、「事例・実績」ページにて詳細に掲載しておりますので、併せてご覧ください。
インターネット黎明期にMicrosoftでプロダクトマーケティングを担い、マーケターとしての礎を築く
安藤氏は大学を卒業した後、三菱重工に入社。 6年間勤めた後、企業経営全般を学ぶことに興味を抱き大学院に進学しMBAを取得しました。その後、1996年から2009年まで14年間Microsoftに勤めた安藤氏。これまで複数の企業でキャリアを積んできましたが、Microsoftでの経験が特に印象深いといいます。
「私がMicrosoftに入社したのはWindows95が登場して間もない頃で、まさにPCやインターネットの黎明期でした。当時私が担当していた開発ツール製品の年間売り上げはまだ小さかったものの10年足らずで数倍の120億円ほどにまで急成長していく様子をリアルタイムで目にすることができて、とても貴重な経験を得られたと思っています」(安藤氏)
安藤氏が最初に配属されたのは、開発ツールのプロダクトマーケティングとMicrosoftの技術を普及させるためのエバンジェリズムの役割を持つチームでした。IT業界におけるエバンジェリストという職種は今でこそ定着していますが、当時は珍しかったと言います。エバンジェリズムと合わせて開発ツールのプロダクトマーケティングを推進したことが、安藤氏にとってマーケターとしての原点となっています。
安藤氏は、入社当時、Micrrosoftのエバンジェリズムを創立当初から率いてきた幹部の方の言葉が今でも印象に残っていると話します。
「『エバンジェリストは別にかっこいい仕事でもなんでもなくて、とにかく話を聞いてもらわなければならない。だから、頑丈な靴を履くことから覚えてね』と言われました。これは、お客様のところに訪問しても話を聞いてもらえないとき、扉を閉められそうになっても靴を挟んで遮れるように、という冗談のような話ですが、納得したのを鮮明に覚えています。これは今でも“話を聞いてもらい、共感してもらう”というマインドとして私の心に刻まれています」(安藤氏)
△解放感のあるオフィスでインタビューに答える安藤氏
「どうすれば共感してもらえるか」を最優先に考える
Microsoftでエバンジェリスト、プロダクトマーケティングに携わった後、McAfeeやAWSなど複数の企業で実績を積んできた安藤氏。AWSでは、ソフトウェアベンダーやSI事業者と協業するパートナーマーケティングや、顧客と直接関わるフィールドマーケティングを担当しました。現在はDatadog Japanのシニアフィールドマーケティングマネージャーとして、各種イベントの開催や導入事例の制作を通じて、見込み客の購買意思を高めて営業部門に繋げる施策を推進しています。
今のマーケティング活動においても“お客様に話を聞いていただき、共感していただく”姿勢が、大いに活かされているのだそう。安藤氏は、「マーケティングの活動で顧客に100%満足してもらうことは難しいので、80%までは満足いただけることを目指すのが私のアプローチです。ポジティブな状態で引き渡すことで、残りの部分はお客様にコンタクトをとるインサイドやフィールドセールスが引き継ぎ、100%に近づけてくれます」と話します。
また、お客様に共感してもらうためには、お客様の方からアクションを起こすことは滅多にないので、こちらから積極的に投げかけることが重要だと安藤氏は考えているようです。
「イベントや事例制作といった施策を通じて、仮説・実践・検証・改善を繰り返し、確度を高めることが不可欠です」(安藤氏)
マーケターはゼネラリストではなく、スペシャリストであるべき
長年マーケティングに従事してきた安藤氏。マーケティングの成果を最大化するためには、担当者が各領域におけるスペシャリストであることが欠かせないと語ります。市場の競争激化とともにマーケティングの重要性が高まり、ディマンドジェネレーション、フィールドマーケティング、パートナーマーケティングと細分化された今、自ら実務はおこなわないゼネラリスト的なアプローチでは限界があると強調します。
たとえば、広告を活用して幅広くリードを獲得する場合、どのチャネルに出稿するのか、それをどのようなレポートツールで評価するのかをスペシャリストとして正確に把握する必要があります。このとき、データやツールを自らが使いこなして広告手法や分析システムを深く理解していなければ、適切な成果を得ることは難しいでしょう。
また、フィールドマーケティングでは、イベントの企画や運営が重要な要素です。プロジェクトマネジメントのスキルや、創造力、実行力が求められます。安藤氏は「運営ベンダーの提案をそのまま受け入れるのではなく、達成すべき目標を明確にし、それに沿ってベンダーと議論を重ねて連携することが必要です。これにより、コスト効率を高めることができます」と話します。
パートナーマーケティングにおいても、「いかにパートナー企業に能動的に動いていただくか」を考え、その仕組みを作るスキルが求められます。「単にパートナーに情報を提供するだけではなく、どうすれば彼らが自発的に動いてくれるか」を設計し、施策を実行することが重要なのです。
こうした専門性を磨き成長するためには、他人の成功事例を参考にするだけでは限界があり、「とにかく自分でやってみる」ことが不可欠だと安藤氏は強調します。
「重要なことは、トライ&エラーを繰り返して自ら経験を積むことです。自分で仮説をたて、検討し、実際にやってみて、振り返り、学習し、改善する。このプロセスを繰り返すことで、実践的な知識と経験が積み上がり、本当の専門性が身につきます」(安藤氏)
△エントランスにある大きなモニターの前で
社内の巻き込みと連携が成功のカギ
Datadogでは、マーケティング部門単独で施策を決定・実行するのではなく、関連する営業チームのリーダーや実務担当者とコンセンサスを取りながら進めています。これにより、組織全体で方向性を揃え、マーケティング施策の効果を最大化することができます。
また、大きな施策を成功させるためには、周囲を巻き込み、ポジティブなマインドで参加してもらうことが重要です。例えば、イベント運営では全体統括をマーケティングが担いながらも、コンテンツ企画や集客はそれぞれの担当者に協力をお願いしてお任せし、「各メンバーがオーナーシップを発揮できる体制を作っている」と安藤氏は話します。
事例制作においても、当初は関連部門の協力を得ることが難しい状況だったところ、カスタマーサクセス部門に支援をお願いして協力を得て事例の数を増やしていき、事例制作が営業活動に有効である理解が広まって次第に事例制作に協力的な流れが醸成されました。その結果、現在では関連する全ての部門の協力を得て、コンスタントに事例を制作できる体制が整っています。
このように、社内での連携を強化するうえでも「共感」は欠かせません。マーケティング施策を社外向けに展開するだけでなく、社内の関係先とビジョンを共有し、一緒に取り組むことで、より大きな成果を生み出すことができるのです。
△オフィスエントランスではDatadogの犬のぬいぐるみが出迎えてくれる
導入事例は「共感を呼ぶ」重要なエビデンス
マーケティング施策には、多彩な手法がありますが、安藤氏が注力しているのが「お客様導入事例」です。安藤氏は、以前からITサービスにおける「お客様導入事例」の重要性を理解して、積極的に制作してきました。導入事例は、単なるマーケティングコンテンツにとどまらず、顧客との信頼関係や新たな価値創出の要と捉えているようです。
「導入事例の取材で得られるお客様の“生の声”は、サービスの実態を明らかにする強力なエビデンスです。リアルな声を伝えることで、同じ課題を抱える潜在顧客の共感を生む重要なコンテンツとなるのです。そもそもサービスに不満を抱えているお客様からは取材協力を得られないので、協力してもらえる時点で、お客様がポジティブな評価を持っている証です。専門性が高い製品ほど有効なコンテンツだと思います」(安藤氏)
また、導入事例は営業活動においても重要な役割を果たすと安藤氏は話します。一つの事例が完成すると、それを基に他の営業担当が似た業界・規模の企業に提案を行い、新たなサイクルが生まれていきます。また、対面イベントなどでは導入事例が媒介役として機能し、参加者同士のコミュニケーションを深める役割を果たしているそうです。さらに、事例制作に協力する企業側にも、ブランディングや採用強化といった副次的なメリットがあると安藤氏は話します。
「導入事例は単なるマーケティングコンテンツではありません。ユーザー企業の言葉で顧客の課題にミートし、解決策を提示することで新たな価値をもたらすツールです」(安藤氏)
Datadogでは、導入事例をさまざまな形で活用しており、導入事例がきっかけとなった問い合わせが増えていると言います。特に、セミナーでの事例紹介が好評だったと安藤氏は話します。
「ある事例の取材先企業に登壇いただいた私が主導したセミナーイベントがありましたがそのイベントでは、60名にご参加をいただいたなかで 16件が商談化し、そのうち6件が契約に至りました。導入事例は、営業やCS活動の強力な後押しになっています」(安藤氏)
「To Be」×「How To」を考え、とにかく「自分でやってみる」
安藤氏は数々のマーケティング施策を推進し続けてきていますが、その背景には「マーケターとしてどう在りたいか」を明確にする姿勢があるといいます。「導入事例制作に取り組むうえでも、“自分は何を成し遂げたいのか”を明確にしておくことが重要だ」と安藤氏は強調します。
さらに、マーケターとしての成功の秘訣について、「『To Be』と『How To』が大事」と語る安藤氏。まず『どうなりたいか』を考え、そのために『何をするか』を決め実行に移すことが重要だと話します。その過程で失敗に直面することがあったとしても「振り返って時間を費やすことと、新しい取り組みを進めることで得られるメリットを考えて判断すると、ほとんどの場合は新しい取り組みが優先する」と、前進し続けることの重要性を強調しました。
「悪い結果も当然ありますが、それを気にしている時間があるなら、早いペースで次の行動に移るほうがメリットが大きいと思います。判断力と実行力、スピード感を大切に、挑戦を続けることが自分のキャリアを切り開くカギになるでしょう」(安藤氏)
本記事を通じて、Datadog Japanの安藤氏が実践するマーケティング戦略や導入事例の活用方法についてご紹介しました。顧客の声を核に据え、社内外を巻き込みながら成果を最大化していく姿勢は、多くのマーケターにとって貴重な示唆となるでしょう。
△丸の内にあるオフィスからは東京駅を見下ろせる
SEデザインでは、ITビジネスの包括的なマーケティング支援において豊富な実績を持ち、その中でも導入事例の制作・活用に高い評価をいただいています。年間150件以上、累計2,500件を超える事例制作の経験を活かし、ITに関する深い知識と高い取材力で、良質なコンテンツを提供しています。ITビジネスのマーケティングにお悩みの方や、導入事例制作をご検討中の方、現在制作している導入事例の質にお悩みの方は、ぜひお気軽にSEデザインにお問い合わせください。