導入事例は、BtoBマーケティングでも注目度の高いコンテンツの一つです。しかし、制作には多くの労力がかかるほか、取材現場でのハプニングや困りごとなどもつきものです。
SEデザインではこれまで、年間150件以上、累計2,500件以上の導入事例を制作してきました。長年の経験を活かし、さまざまなノウハウを培ってきました。
今回、ディレクターとして数多くの導入事例を制作しているSEデザインのT・KとK・Aの2名に、事例を制作しようとしている企業のよくある悩みや事例制作のポイントについて聞きました。
取材の最適なタイミングはいつ?
――導入事例制作では、取材を行う時期の見極めが難しいとの声を聞きます。そもそも、なぜそんなに難しいのでしょうか?
T・K:
営業担当者は導入直後に「すぐに取材をして成果をアピールしたい」と考えがちです。ただし、導入するソリューションによっては、すぐに効果が確認できず定量的な数値が見えていないケースが多くあります。そのため、早すぎる取材はリスクがありますね。
一方で、あまりに期間を空けすぎるのも問題です。当時の担当者が異動や転職をして取材ができなくなったり、そもそも初期の課題や状況を覚えていなかったりすることもあります。「早すぎず遅すぎず」のタイミングを見極める必要があります。
K・A:
導入直後はまだ混乱もあり、現場のユーザーが新しいシステムに慣れるまでは「使いづらい」「前のほうが良かった」などの不満が出る時期でもあります。安定稼働して「使って良かった」と思えるようになるまで待つほうが望ましいです。ですから、導入後3~6カ月くらいで効果が出始めるような製品やサービスなら、そのあたりを目安にするとよいですね。
――なるほど。「早すぎず遅すぎず」が肝心なわけですね。では、実際のベストなタイミングはどのように判断すればいいのでしょうか?
T・K:
製品やサービスの特性によって大きく異なります。ERP(企業の経営資源を統合・管理して、企業の効率化や最適化を図るシステム)や会計システムのような大規模ソリューションなら、1度決算時期を経ることで具体的な効果が見えるでしょうし、逆に小規模なツールなら導入後3カ月程度でも充分にメリットを実感できることもあります。
要は、お客様とコミュニケーションをとりながら、「ここなら確実に成果を伝えられる」という時期を探るのが大切です。
――そう考えると、契約時点で「後々、事例取材に協力してください」と打診しておくのも有効そうですね。
T・K:
取材許可を得るのが難しいケースは少なくないので、契約時に「導入後に事例取材をさせてください」と一言入れておくのは効果的ですね。事前に理解を得られれば、取材交渉がスムーズになります。
ただし、実際に取材を行うタイミングは状況に合わせて柔軟に変更できるようにしておきたいところです。担当者がいつ異動してしまうか分かりませんし、導入効果が出始める時期もプロジェクトごとに違いますから。
成果が数値で示せない場合は?
――導入事例で成果を定量的に示せると説得力が高まりますが、具体的な数値データを出せない場合もありますよね。このとき、どのように対応されていますか?
T・K:
具体的な数値が示せない場合は、まず「体感レベルでの数値化」を試みることが多いですね。たとえば「だいたい20%くらい時間短縮できた印象です」といった回答があると、正確ではなくても、読者には具体的なイメージを伝えることができます。
――たしかに、厳密な測定ではなくても目安があるだけで伝わり方が違いそうです。もし、それさえも難しい場合はどうするのでしょうか?
T・K:
その場合は「定性的な成果」に注目します。たとえば「標準化が進んでミスが減った」「スケジュール通りにプロジェクトを完遂できた」など、数字はなくても実体験に基づいたエピソードを深掘りしていきます。読者にリアルな状況が伝われば、十分メリットとして感じてもらえると思います。
――なるほど。数値化できない場合でも、体感レベルやエピソードを活用すればよいわけですね。ただ、導入して間もなく、そもそも成果が出ていないケースもありますよね?
K・A:
そんなときは「未来への期待」を聞き出す質問をします。たとえば、「今後どんな効果を期待していますか?」と尋ねると、将来の展望やポジティブな見込みについて語っていただけます。「今のところ成果はこれからだけど、こういう目標がある」というポジティブなストーリーが構築できれば、読者にとっては参考になります。
――たしかに、成果がまだでも、将来のビジョンや計画を示すことで読者の関心を引きつけられそうですね。
話がうまく引き出せないときは?
――取材では、聞きたいことが思うように引き出せないこともあると思います。そのような場合はどのように対応されていますか?
T・K:
まず、取材の仕方には大きく2パターンがあります。
1つは、お客様を乗せて口を滑らかにして“どんどん話してもらう”方法です。こちら側の知識が不十分だと感じると本音を話してくれません。気持ちよく喋ってもらえる環境を作り、取材対象者の琴線に触れる質問ができれば、当初言うつもりのなかった情報まで“つい”話してくださることがあります。もちろん、「記事化した内容は校正時に修正できます」と付け加えますが。
もう1つは、逆に素人っぽい質問をして“教えを乞う”方法です。たとえば「不勉強ですみません」と言うスタンスで聞くと、「では、かみ砕いて教えてあげよう」という気持ちになり、丁寧に教えてくれます。
――なるほど。この2パターンはどう使い分けるとよいのでしょうか?
T・K:
取材対象者のタイプを見極めないと、かえって逆効果になる場合があります。“乗せる”パターンの相手に対して素人感を出すと、「こんなことも調べないで取材に来たのか!」と不快に思われることも……。経験上、その方の立場や性格によって手法を変えるしかないですね。
K・A:
逆に、突っ込んだ質問は「業務、業界のことも意外と知っているんだな」と好印象を持っていただけるケースもあります。取材対象者の方々の役割や業務内容に対するスタンスを見ながら柔軟に進めるのがポイントですね。
――取材慣れしていない方だと、緊張していてうまく話せない場合もあると思うのですが、そういう時はどうすればよいでしょうか?
T・K:
まずはリラックスしていただくことですね。「動画収録ではないので、噛んでも大丈夫ですよ」とか、「この場では自由にお話しください」といったフランクな言葉をかけるようにしています。これだけでも、意外と緊張がほぐれることが多いです。
K・A:
最初はアイスブレイクとして、専門的な話題ではなく、「普段どのような業務を担当されていますか?」といった簡単な質問から始めます。まずは答えやすい話題から進めることで、お客様も話すペースをつかみやすくなり、そこから本題にスムーズにつなげられます。
T・K:
営業担当やエンジニアが同席されるとよいと思います。普段から顔を合わせている方がいてフォローしてくれると、お客様も安心して話しやすくなります。
――たしかに、取材スタッフは初対面ですからね。よく知った方がいてくれるだけでも、話しやすくなりそうですね。
発言が偏ってしまうときは?
――複数名がインタビューに参加する場合、主に一人だけが話して、ほかの方がほとんど発言されないこともありますよね。そういうときはどう対応していますか?
T・K:
ディレクターやライターが、直接話を振るようにします。たとえば「〇〇さんはこの点どう感じていますか?」と名指しで聞くと、その方も答えやすくなります。
K・A:
遠慮されている方、緊張している方には特に注意を払います。質問の切り口を工夫し、「ここはこの方の担当領域だから話していただけるのでは」と思えるトピックを振るようにします。
T・K:
「今日はオブザーバーとしての参加です。発言はしません」と初めに言っていた人が、実は一番詳しい情報を持っているケースも多くあります。そういうときは、あくまで自然に会話に巻き込むよう心がけます。取材対象者全員が気持ちよく話せる雰囲気作りこそ、ディレクターの大事な役割だと思っています。
――取材対象者全員が、しっかりと発言できる環境を作ることが大切なんですね。
ネガティブな情報は入れない方がいい?
――取材の中でネガティブな情報を得た場合、どこまで記事に盛り込むべきか迷うことがあります。あまり書かないほうがよいものでしょうか?
T・K:
いえ、ポジティブな話だけだと事例として面白みに欠けてしまうこともあるし、「どうやって困難を乗り越えたのか」というストーリーを描けるので、むしろ積極的に取り入れたほうがいい場合もあります。ただし、誤解を招いたりイメージを損ねたりしないよう、慎重に扱う必要はあります。
K・A:
実際、どのプロジェクトでも何かしらの課題や困難が生じるものです。課題や問題点のネガティブ要素より、それをどう解決したかを強調します。たとえば「計画が一時遅延したが、チーム全体で改善策を講じ、完遂できた」という事実であれば公表を許可されることは多いですし、読者は「同じような課題を自分たちも乗り越えられるかも」と思えるはずです。
――取材時にネガティブな話を引き出すコツはありますか?
K・A:
取材というだけで身構える方もおられますから、重要なのは、取材前に「インタビュー内容は必ず、ご承諾いただいた上で公開します」とお伝えすることです。後ろ向きな話にならないように表現は調整する、原稿確認の段階で修正や削除ができる、ということを知っていただくと、乗り越えた課題や苦労されたエピソードなども話してくださることは多いです。
T・K:
「こんなに苦労した」と抽象的な発言で終わる場合もあるので、そこを具体的に掘り下げるのがライターやディレクターの腕の見せどころですね。
――苦労された点や工夫があってこそ、成功ストーリーが際立つし、読み手に共感を与えるのですね。
導入事例の制作は経験豊富なSEデザインにご相談ください
本記事では、導入事例を作る際によくあるお悩みをピックアップし、その解決策をディレクターの視点からご紹介しました。導入事例は、読み手に「自分たちの課題が解決できそうだ」という安心感を与えるうえで欠かせないコンテンツです。なるべく具体的でリアルな声を載せ、読者の共感を得ることが大切だとお分かりいただけたかと思います。
どれだけ周到に準備をしても、実際の制作過程ではハプニングや困りごとは起こるものです。本記事で触れたのは、その一部にすぎません。導入事例を一から作り上げるのは、手間も労力もかかる作業であることは間違いありません。
SEデザインは、年間150件以上、累計2,500件以上もの導入事例を手がけてきた豊富な実績とノウハウを強みとしています。それぞれの企業が抱える課題に合わせて、柔軟かつ高品質な事例制作をサポートいたします。
「導入事例を作っているが、どうもうまくいかない」「製品の魅力が伝わる事例にできていない」など、少しでもお困りのことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。