SaaS KPI完全ガイド|主要指標とKPIツリー活用法も徹底解説

更新日:2025-04-02 公開日:2025-02-20 by SEデザイン編集部

目次

SaaSビジネスの成長はKPI設定で左右されます。そのため、どの指標をどのように見ればよいか、具体的な方法が分からず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、約40年にわたり、多くの企業のコンテンツマーケティング支援を行っているSEデザインが、SaaSビジネスに不可欠な主要KPIを「収益」「顧客獲得」「顧客管理」という3つの視点から分かりやすく解説します。

KPI設定と共に運用される「KPIツリー」を用いた管理方法やSaaSビジネスの現場で役立つ実践的な情報を紹介します。KPIを正しく理解し、データに基づいた意思決定を行って、自社のSaaSビジネスを着実に成長させましょう。

SaaSビジネスにおけるKPIについて

「KPI(Key Performance Indicator)」は、現状把握と将来予測に不可欠な「重要業績評価指標」を意味する言葉です。KPIを測定・分析することで、ビジネスの状況を定量的に明らかにし、客観的な見通しを立てられます。

また、主観に左右されない数字で状況を示せる点もKPIの活用メリットです。社内での戦略立案や第三者向けの事業説明にも役立ちます。

SaaS企業では、「新規顧客獲得数」や「解約率」「顧客生涯価値(LTV)」などがKPIとして用いられる点が特徴です。これらのKPIを定期的にモニタリングすることで、自社のビジネスモデルの強みや課題を特定し、改善策を講じることができます。

注意点として、KPIはあくまで「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」を達成するための「中間目標」であることを覚えておかなければなりません。KPI達成だけを追い求めず、KGI達成に向けた活動ができているかに注意しておきましょう。

SaaSビジネス特有のKPI設定が重要な3つの理由

SaaSビジネスには、特にKPI設定が重要とされる理由が3つあります。

  • 継続的な収益と顧客維持に必要なデータであるため
  • 部門間の連携と効率化を図るため
  • 資金調達時や投資家への説明に説得力を持たせるため

また、SaaSビジネスでは、データを活用してサービスを改善し、成長を促進することが求められています。解約率や顧客満足度を追跡することで、サービスのどの部分が顧客にとって価値があるのか、改善が必要なのかを特定可能です。

継続的な収益と顧客維持に必要なデータであるため

サブスクリプションモデルを採用するSaaSビジネスでは、従来のパッケージ型販売とは収益構造も大きく異なります。そのため、SaaSビジネスの評価に最適なKPIを設定し、モニタリングすることが事業成長と安定性を確保するうえで不可欠です。

たとえば、月次経常収益(MRR)や顧客維持率(CRR)などを計測すれば、より正確な収益予測が可能となり、的確な経営判断を行えます。

また、SaaSビジネスでは顧客との関係性を示すKPIも重要です。解約率や顧客満足度などのKPIを追跡することで、サービスの改善点を特定し、顧客価値を高められるでしょう。

このようにKPI設定と管理は、SaaSビジネスの持続的な成長と顧客維持に欠かせない要素なのです。

部門間の連携と効率化を図るため

SaaSビジネスの成功には、マーケティングや営業、カスタマーサクセスといった各部門の連携が不可欠です。適切なKPIを設定・管理し、部門間の協力体制を強化できれば、より効率的な事業運営が実現できます。

たとえば、マーケティング部門はリード獲得数、営業部門は成約率、カスタマーサクセス部門は顧客満足度といったKPIを設定することで、KGI達成に向けた役割分担が可能です。

また、各部門のKPIを定期的にモニタリング及び共有することで、どのプロセスに課題があるのかを特定し、速やかに改善策を検討できます。

資金調達時や投資家への説明に説得力を持たせるため

多くのSaaSビジネスは初期投資が大きく、収益回収に時間がかかるため、外部からの資金調達が欠かせません。そのため、投資家に対して事業の安定性や成長性を説明するために、具体的かつ説得力のあるKPI設定が求められます。

例として、MRR(月次経常収益)やARR(年間経常収益)の成長率を示すことで、事業の拡大ペースを明確に伝えることが可能です。

適切に選定されたKPIを用いて事業説明を行えば、投資家との建設的な対話が可能になり、資金調達の成功率も高められます。

SaaSビジネスにおける主要KPI

本項目はSaaSビジネスにおける主要KPIを解説します。

  • 収益の成長を測るKPI
  • 顧客獲得に関するKPI
  • 顧客管理に関するKPI

必要なKPIを理解して、KGI達成に活用しましょう。

収益の成長を測るKPI

最初に収益に関するKPI指標を解説していきます。

MRR(月次経常収益:Monthly Recurring Revenue)

【概要】
顧客から得られる1ヶ月分の収益を示す指標。
金額が大きいほど事業の収益性が高いと判断できる。
【計算式】
MRR = サービスの月額利用料金 × 顧客数


「MRR(月次経常収益)」は、SaaSビジネスの成長と収益基盤を把握するための重要指標です。顧客から得られる1ヶ月分の収益を示し、金額が大きいほど事業の収益性が高いと判断できます。

SaaSのようなサブスクリプション型のビジネスモデルにおいて、毎月の収益を示すMRRは事業の健全性を測る基準でもあり、下記4種類に分類されます。

項目

詳細

New MRR(新規MRR)

その月に新規獲得した顧客から得られたMRR

Expansion MRR
(アップグレードMRR)

アップグレードなどにより、前月よりも取引額が増えた既存顧客から得られるMRR

Downgrade MRR
(ダウングレードMRR)

ダウングレードなどにより、前月よりも取引額が減った既存顧客から得られるMRR

Churn MRR(解約MRR)

その月にサービスを解約した既存顧客のMRR


MRRは月次で割り出せる指標であるため、毎月定期的なタイミングで収集したデータの分析を行うことが重要です。四半期ごとに詳細な分析を行えば、事業の成長予測にも活用できるため、社内全体で共有すべき重要なKPIといえます。

ARR(年間経常収益:Annual Recurring Revenue)

【概要】
顧客から得られる1年分の収益を示す指標。
MRRと同じく金額が大きいほど事業の安定性が高いと判断できる。

【計算式】
ARR = MRR(月次定常収益) × 12ヶ月


「ARR(年間経常収益)」は、毎年決まって得られる1年分の収益を算出した指標です。月額や年額で利用料を得るサブスクリプション型のSaaSビジネスでは、長期的な収益予測を立てる際や、事業の成長性を判断する際に活用されます。

具体例として、ARRが増加していれば、新規顧客の増加や既存顧客のアップグレードが順調であると判断できます。そのため、投資家や経営陣への説明にも活用できる重要指標の一つです。

ARPA(顧客単価:Average Revenue Per Account)

【概要】
サービスにおける「1アカウント」あたりの平均収益を示す指標。
【計算式】
ARPA = MRR(月次定常収益) ÷ アカウント数
【混同しやすい指標】
・ARPU (Average Revenue Per User):「ユーザー1人」あたりの平均収益
→ゲーム、SNSなど無料ユーザーを含む全ユーザーからの収益把握が必要な場合に用いる。
・ARPPU (Average Revenue per Paid User):「課金ユーザー1人」あたりの平均収益
→ゲーム内課金、一部機能が有料のSNSなど課金ユーザーの利用状況の分析に活用する。


「ARPA(平均顧客単価)」は、1アカウントあたりから得られる平均的な収益を示す指標です。

SaaSのように、クラウド上でソフトウェアを提供するビジネスでは、1つのアカウントを複数のデバイスやユーザーが利用することも珍しくありません。そのため、1アカウントごとの収益を確認できるARPAを用いることで、より実態に近い収益状況を把握できます。

たとえば、ARPAが高ければ、多くのユーザーを抱える大口顧客が多い可能性や、上位プランの契約が多いといった、顧客ごとの利用状況が分析可能です。

どの顧客層に注力すべきか、料金プランを見直すべきかなど、具体的な戦略を立てるのに役立つため、ARPAは定期的にモニタリングしておきましょう。

Quick Ratio(一定期間内における収益の増減率)

【概要】
一定期間における収益の増加と減少の比率を示す指標。
【計算式】
Quick ratio = ( New MRR + Expansion MRR ) ÷ ( Contraction MRR + Churn MRR )


「Quick Ratio(収益増減率)」は、新規顧客獲得やアップセルなどによる収益増加と、解約やダウングレードなどによる収益減少の比率を示す指標です。

SaaSビジネスは、事業規模の拡大やサービス開始からの経過時間とともに、新規顧客の獲得が難しくなります。Quick Ratioを観測することで、新たに増加・減少したMRRの割合を把握でき、SaaSビジネスが持続可能かどうかを判断可能です。

具体的な判断基準は、計算結果が「4以上」であれば事業が健全に成長していると判断できます。反対に「4未満」であれば、収益が減少しているため、早急な改善が必要です。

【例:Quick Ratioが4以上の場合】
New MRR:100万円
Expansion MRR:50万円
Downgrade MRR:20万円
Churn MRR:10万円
Quick Ratio = (100万円 + 50万円) ÷ (20万円 + 10万円) = 5
→収益の増加が減少を大きく上回っており、事業が健全に成長している状態。
【例:Quick Ratioが4未満の場合】
New MRR:50万円
Expansion MRR:20万円
Downgrade MRR:30万円
Churn MRR:20万円
Quick Ratio = (50万円 + 20万円) ÷ (30万円 + 20万円) = 1.4
→収益の減少が発生しており、早急な改善策が必要。


事業の安定的な収益と成長を維持するためにも「Quick Ratio」は毎月チェックしましょう。

顧客獲得に関するKPI

顧客獲得に関わるKPI指標も、事業評価に必要な要素です。ひとつずつ詳しくチェックしていきましょう。

CAC(顧客獲得単価:Customer Acquisition Cost)

【概要】
新規顧客1人を獲得するためにかかった総コストを示す指標。
数値が低いほど、マーケティングや営業活動が効率的に行われていると判断できる。
【計算式】
CAC = 1ヶ月で使用した広告や営業などの総コスト ÷ 1ヶ月で獲得した新規顧客数


「CAC(顧客獲得単価)」は、新規顧客1人を獲得するためにかかった総コストを示す指標です。顧客の獲得経路を区別するために、下記3つの指標が用いられます。

  • Organic CAC(広告費をかけずに獲得した顧客の獲得単価)
  • Paid CAC(広告費をかけて獲得した顧客の獲得単価)
  • Blended CAC(Organic CACとPaid CACを合計した顧客獲得単価)

それぞれのCACは、各施策の効果を測るための判断材料として活用可能です。

CACを評価する際は「LTV(顧客生涯価値)」にも着目しましょう。LTVは顧客が契約期間中に企業にもたらす利益の総額を指しており、CACとは以下のような関係を持ちます。

  • CACがLTVを上回る:顧客獲得のたびに損失が発生する
  • CACがLTVを下回る:顧客獲得のたびに収益が発生する

それぞれの理想的なバランスは、CACがLTVの3分の1以下に抑えられている状態です。CACをチェックする際の指標として覚えておきましょう。

LTV(顧客生涯価値:Lifetime Value)

【概要】
1人の顧客が、取引期間中にどれだけの収益をもたらすかを示す指標。
【計算式】
LTV = 顧客の平均購入単価 ÷ 解約率


「LTV(顧客生涯価値)」は、顧客が自社との取引期間中にどれだけの収益をもたらすかを示す指標となります。

LTVの計算式は「LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入回数 ×平均継続年数」を用いるのが一般的です。しかし、サブスクリプションモデルを用いて継続的な利用を前提とするSaaSビジネスでは、解約率を元にした計算式で算出する場合もあります。

SaaSビジネスでは、製品やサービスの継続利用により、長期的な売り上げ確保が重要です。そのため、LTV向上には、アップセルやクロスセルの促進、解約率を下げるといった施策が求められます。

ユニットエコノミクス

【概要】
CACとLTVを元に、顧客1人あたりの収益性を測る指標。
【計算式】
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC


「ユニットエコノミクス」は、1人の顧客を獲得するためにかけたコストに対して、どの程度のリターンが得られるかを割合で表したものです。一般的に「LTVがCACの3倍以上」であることが望ましいとされています。

  • ユニットエコノミクスが3以上:顧客獲得にかけたコストよりも収益が高い
  • ユニットエコノミクスが3未満:収益よりも顧客獲得にかけたコストが高い

注意点として「3以上」という数値はひとつの目安であることを覚えておきましょう。ビジネスモデルによって各々が理想とするCACやLTVは異なり、3未満であっても順調に収益を上げている場合があるためです。

広告費などの顧客獲得コストが適切かどうかを評価するためも、ユニットエコノミクスを活用してください。

CAC Payback Period(CAC回収期間)

【概要】
CAC(顧客獲得単価)を回収し、利益が発生するまでにかかる期間を示す指標。
【計算式】
CAC Payback Period = CAC ÷ (顧客の平均単価 × 粗利率)

 

「CAC Payback Period(CAC回収期間)」は、CACを回収し、利益が出始めるまでにかかる期間を示す指標です。

利益発生までの期間が短いほど、効率的に顧客を獲得できていると判断でき、一般的には6ヶ月〜12ヶ月程度が目安とされています。

SaaSビジネスでは、将来的な利益を見込んで先行投資を行うことが一般的です。そのため、CAC 回収期間が長くなるほど、投資回収の長期化やビジネスモデルの再検討が必要になるといったデメリットが生じやすくなります。

CAC Payback Periodを定期的にモニタリングすることで、投資回収期間を短縮するための施策を検討可能です。ほかKPIと合わせてチェックしておきましょう。

顧客管理に関するKPI

顧客管理に関わる指標は、特にSaaSビジネスにおいて重要視されます。主だった指標は必ずおさえておきましょう。

Churn Rate(解約率)

【概要】
顧客の解約率を示す指標
【計算式】
Churn Rate = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100


「Churn Rate(解約率)」は、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合であり、SaaSビジネスにおける主要KPIの中でも重要度が高い指標です。

一般的に、Churn Rateが低いほど顧客維持に成功していると判断できると共に、提供しているサービスが顧客にとって、どの程度需要があるのかを確認できます。

また、Churn Rateは、サービス改善の必要性を測るうえでも重要です。Churn Rateが高い場合は、顧客満足度の低下や競合他社への乗り換えが発生している可能性があります。早急に改善策を検討し、実行しましょう。

CRR(顧客維持率:Customer Retention Rate)

【概要】
一定期間内で契約を継続した顧客の割合を示す指標。
【計算式】
CRR = (期間終了時の顧客数 - 期間中の獲得顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数 × 100


「CRR(顧客維持率)」は、一定期間内に契約を継続した顧客の割合を測定する指標です。CRRが高いほど、多くの顧客が自社サービスに満足している状態を示し、低い場合は、サービスに満足している顧客が少ない状況と判断できます。

CRRが低い状態では、売り上げが伸び悩むだけでなく、アップセルやクロスセルの提案も難しくなります。そのため、サービスの見直しや顧客満足度向上を目的とした施策を行いましょう。

具体的にはアンケート調査による不満点や改善点の把握、カスタマーサポートを強化して、顧客の疑問や問題を迅速に解決するといった対策が効果的です。

NRR(売上維持率:Net Revenue Retention)

【概要】
既存顧客からの収益が、どの程度維持できているかを示す指標。
【計算式】
NRR = (月初のMRR + Expansion MRR – Contraction MRR – Churn MRR) ÷ 月初のMRR × 100


「NRR(売上維持率)」は、既存顧客(注:新規顧客は含まない)から得られる収益が、月や年といった一定期間内でどの程度維持できているかを示す指標です。

NRRが100%以上の場合、解約などによる収益減少を上回る収益増加があることを意味しており、逆に下回っている場合は、収益が減少していると判断できます。

その際は顧客獲得や顧客維持率に対する改善策が必要であるため、顧客満足度を向上させる施策や、解約率を下げる施策を検討しましょう。

NPS(顧客推奨度:Net Promoter Score)

【概要】
顧客が自社製品やサービスを、他者にどの程度推奨したいかを評価する指標。
【計算式】
NPS = 推奨者の割合(%) - 批判者の割合(%)
推奨者:9〜10点で評価した顧客
批判者:0〜6点で評価した顧客(※7〜8点の評価者は「中立者」とされ評価には含まない)


「NPS(顧客推奨度)」は、顧客が自社の製品やサービスを自分以外の人物(友人・同僚など)にどの程度推奨したいかを測定する指標です。NPSが高いほど、顧客が自社の商品及びサービス利用を継続する可能性が高いと判断できます。

また、NPSは顧客の解約リスクを測る目的に活用することで、新規顧客の獲得予測にも繋げることも可能です。たとえば、推奨者に対し、紹介キャンペーンなどで追加の価値提供ができれば、新規顧客の可能性を高められるでしょう。

NPSを定期的に計測し、顧客の声に耳を傾けることで、サービス改善や顧客満足度向上のための施策を検討できます。

Magic Number(営業や施策に使ったコストの回収率)

【概要】
営業やマーケティングにかかったコストに対する販売効率を示す指標
【計算式】
Magic Number = (当四半期の経常収益 – 前四半期の経常収益) × 4)÷(前四半期の営業コスト+マーケティングコスト)


「Magic Number」は、営業やマーケティングに投資したコストに対し、どれだけの売り上げを生み出せているかを計測する指標です。SaaSビジネスでは計算結果が「1.0」が理想とされており、下記の基準を元に判断します。

  • 75以上:営業・マーケティングへの投資を積極的に検討・実行すべき
  • 5以上0.75未満:状況に応じて営業・マーケティングへの投資を実施するかを判断
  • 5未満:営業・マーケティングへの投資を控えて施策の改善が必要

Magic Numberをチェックすることで、どのマーケティング施策に投資すべきか、営業戦略をどのように改善すべきかといった、具体的なアクションプランを策定するのに役立ちます。

SaaS KPI管理に必要な「KPIツリー」

本項目では、SaaS KPI管理に必要な「KPIツリー」について解説します。

  • KPIツリーはKGI(最終目標)達成に必要なKPIを可視化したツール
  • KPIツリーの利用目的とメリット
  • KPIツリーの作成手順を4ステップで解説

KPI設定と合わせて、利用が推奨されるフレームワークであるため、正確に把握しておきましょう。

KPIツリーはKGI(最終目標)達成に必要なKPIを可視化したツール

「KPIツリー」は、KPIを構造化し、関係性の可視化に特化したツールです。目標達成への道筋を地図のように示すことで、複雑なSaaSビジネスのKPI管理を効率化します。

目標設定に用いられるフレームワークには、「OKR」や「バランス・スコアカード」などもあるものの、KPIの関係性や構造の可視化には向いていません。その理由としては、目標設定や多角的な視点での管理を重視したフレームワークであるためです。下記にそれぞれの役割をまとめました。

  • KPIツリー:KPIを構造化し、関係性を可視化するためのツール
  • OKR:目標設定と進捗管理のためのフレームワーク
  • バランス・スコアカード:多角的な視点から組織の目標を管理するためのフレームワーク
  • コホート分析:同様の時期に近しい経験をしている特定のグループの行動を分析するための手法
  • パレート分析:重要な要素を特定し優先順位をつけるための手法

SaaSビジネスでは、顧客獲得から契約継続まで、複雑なプロセスでKPIを管理しなければなりません。そのため、KPI間の相互作用を把握しやすい「KPIツリー」の活用が推奨されているのです。

KPIツリーの利用目的とメリット

KPIツリーは、KGI(最終目標)達成に必要なKPIを構造的に可視化したツールです。以下のように活用することで、3つのメリットが得られます。

  1. 目標達成までの道筋を明確化できる:KGI達成に必要な要素を分解し、具体的な行動計画が立てやすくなる
  2. 進捗管理の効率化が見込める:各KPIの進捗をモニタリングすることで、課題を早期に発見し、迅速な対応が可能となる
  3. 組織全体の連携強化を図れる:各部門やメンバーが自分の役割を理解し、目標達成に向けた連帯感を構築できる

KPIツリーを用いることで、目標達成に必要な要素やプロセスを明確にし、各部門やメンバーが具体的に何をすべきかを理解しやすくなります。目標達成への道筋を明確にし、組織全体の力を最大化するためにも、KPIツリーを導入しましょう。

KPIツリーの作成手順を4ステップで解説

KPIツリーの作成手順は、下表のとおりです。

内容

説明

1.最終目標(KGI)の設定

・組織やプロジェクトが最終的に達成したい目標を明確にする

 

・具体的かつ定量的な指標を設定する

(例:年間売り上げ10億円を達成する)

2.KGIを構成する成功要素の洗い出し

・KGIを達成するために必要な成功要因を洗い出す

 

・目標達成に必要な要素を分解・明確化する

(例:「売り上げ」をKGIとする場合は「新規顧客数」「リピート率」など)

3.KPIを具体的に設定する

・KGI達成に向けたKPIを具体的な指標として設定する

 

・KGIとの因果関係を明確にし、無関係なKPIは設定しない

 

・KPIの配置基準は以下のルールに則る

 

【遅行指標(達成・測定に時間がかかる指標)】

・最終的な成果を測定する指標であるため、ツリーの上位に配置する

(例:ひとり辺りの平均購入金額)

 

【先行指標(達成・測定までの時間が短い指標)】

・早期に達成すべき行動を測定する指標であるため、ツリーの下位に配置する

(例:自然検索からの流入数)

4.定期的に見直しと改善を行う

・設定したKPIと実情にズレが無いかを定期的に確認する

 

・ズレがあった場合は原因を分析し、KPIツリーの修正を行う


これらのステップを踏むことで、目標達成に必要な要素を明確にしながら、効果的なKPIツリーが作成可能です。

SaaSビジネスを加速させるKPIツリー活用の3つの秘訣

本項目ではSaaSビジネスの成長を加速させるKPIツリーの活用方法を3つ紹介します。

  1. 具体的かつ実現可能な目標を設定する
  2. 行動データを元に顧客理解を深める
  3. データで現状を把握し継続的なモニタリングと改善を実施する

それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

1.具体的かつ実現可能な目標を設定する

SaaSビジネスの成長を加速させるためには、達成すべき目標を具体的かつ実現可能なレベルまで落とし込むことから始めます。目標設定時には「SMARTの法則」で示される下記5つの要素を基に作成しましょう。

  1. Specific(具体的であること)
  2. Measurable(測定可能であること)
  3. Achievable(達成可能であること)
  4. Relevant(関連性があること)
  5. Time-bound(期限を設けること)

たとえば、「売り上げを増やす」というあいまいな目標ではなく「四半期末までに、既存顧客からの売り上げを10%増加させる」などの具体的な数値を用いて設定することが重要です。

併せて、設定した目標をKPIツリーで整理し、主要な指標を明確にすることで何をすべきかを可視化できます。SMARTの法則を活用し、チーム全体が同じ方向を向きながら、効率よく目標達成を目指しましょう。

2.行動データを元に顧客理解を深める

SaaSビジネスにおいて、顧客理解を深めることは事業成長の鍵です。顧客データを分析し、顧客の行動パターンやニーズを深く理解することで、より効果的なマーケティングや営業戦略を展開できます。

顧客一人ひとりに最適な施策を実現するためにCRM(顧客関係管理)ツールを活用し、顧客のニーズや行動を可視化しましょう。代表的なCRMツールは下記の3つです。

  • HubSpot
  • Salesforce
  • Zoho CRM

CRMツールは顧客の基本情報だけでなく、購買履歴やWebサイトの閲覧履歴など、さまざまなデータを一元管理できます。顧客理解を深め、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指すうえで、必要不可欠ですので、自社に最適なCRMツールの導入を検討してください。

3.データで現状を把握し継続的なモニタリングと改善を実施する

ツリーに設定したKPIは、定期的にモニタリングし、現状をデータで把握することが重要です。

目標未達の場合は、その原因を分析・改善しながら、運用を続けなければなりません。また、定期的なモニタリングで現状を把握することにより、改善が必要なポイントやボトルネックを即座に発見可能です。

一度設定したら終わりではなく、継続的に改善サイクルを取り入れることで、常にKPIを最適化できます。着実に目標達成するためにも必ず実施しましょう。

適切なKPI設定を行ってSaaSビジネスを成功に導こう

SaaSビジネスの成長には、MRRなどの収益指標、CACなどの顧客獲得指標、Churn Rateなどの顧客管理指標などを正しく理解し、定期的にモニタリングすることが不可欠です。

また、KPIツリーを活用することで、目標達成に必要な要素を可視化し、各部門が連携して目標達成に取り組むことが可能になります。本記事の内容を参考に、自社に合ったKPIを設定し、SaaSビジネスの成功を目指しましょう。

SaaSビジネスの成功には、KPI管理のほか、顧客管理と情報分析を行えるMAツールが必要不可欠です。

SEデザインでは、HubSpot社が日本に進出した当初からビジネスパートナーとして導入支援を行っており、外資系大手IT企業様のコンテンツマーケティングを約40年にわたって支援し続けてきた実績があります。MAやCRMの導入をお考えの方、集客やリード獲得、リードナーチャリングにお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。貴社のビジネスを成功に導くための最適なソリューションをご提案いたします。

この記事をシェアする

  • note
  • メール
  • リンクをコピー
SEデザインの企業ロゴ
監修者
SEデザイン編集部

BtoB企業、特にIT分野を中心にコンテンツマーケティング支援を行っているSE H&Iグループ企業。HubSpotが日本に進出してきた当初から、HubSpotのパートナーとして多くの企業の導入支援・活用支援を実施。コンテンツ力が強みで、導入事例やホワイトペーパー・eBook、SEO記事などのコンテンツ制作のほか、LP制作やオウンドメディア構築、広告運用なども行う。