2024年4月から「障害者差別解消法」の改正法が施行されることにより、民間企業などにおいてWebアクセシビリティへの配慮が義務化されることになりました。
Webアクセシビリティへの配慮として、企業はどのような対応を行っていけばよいのでしょうか。今回は、Webアクセシビリティの概要や義務化の内容、代表的なガイドライン、取り組み例などについて解説します。
Webアクセシビリティとは
はじめに、Webアクセシビリティの定義やWebユーザビリティとの違いについて解説します。
Webアクセシビリティの定義
Webアクセシビリティは、Web技術の標準化を行う非営利団体であるW3C(World Wide Web Consortium)によって以下のように定義されています。
“Web accessibility means that websites, tools, and technologies are designed and developed so that people with disabilities can use them”
日本訳) ウェブアクセシビリティは、障害を持つ人々が使用できるように、ウェブサイト、ツール、技術が設計および開発されることを意味します。
上記より、Webアクセシビリティは「障害を持つ人々が不自由なく使えるようにWebサイトなどを構築する」ものと考えられてきました。
しかし、「障害の有無にかかわらず全員が平等にWebを使えるようにすべき」との考え方から、2014年4月には以下のような新しいWebアクセシビリティの考え方も定義されています。
“Accessibility was once viewed as benefiting people with disabilities only — not anymore! Accessibility now exists on a continuum and covers a wide spectrum of needs, thus benefiting everyone in different situations to different degrees.(以降省略)”
日本訳)アクセシビリティはかつて、障害を持つ人々のみに利益をもたらすものと見なされていましたが、もうそうではありません!アクセシビリティは現在、連続体上に存在し、幅広いニーズをカバーしており、異なる状況で異なる度合いですべての人々に利益をもたらします。
引用:The 11th Web for AlConference「The New Accessibility
WebアクセシビリティとWebユーザビリティの違い
Webアクセシビリティと類似する用語として「Webユーザビリティ」があります。
両者の違いは、Webアクセシビリティは「全員にとって使いやすいか」が基準であるのに対し、Webユーザビリティは「特定のユーザーが特定の状況下において使いやすいか」が基準となっている点です。
つまり、Web利用における根本的な基準としてWebアクセシビリティがあり、Webユーザビリティはその上に成り立つ基準であるといえるでしょう。
Webアクセシビリティにおける代表的なガイドライン
続いて、Webアクセシビリティにおける代表的なガイドラインについて、以下の項目を解説します。
- WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)
- JIS X 8341-3:2016
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)
WCAGは、W3Cが作成しているWebアクセシビリティのガイドラインです。1999年にWCAG 1.0が勧告され、現在はモバイル端末への対応なども含めたWCAG 2.1が勧告されています。
JIS X 8341-3:2016
JIS X 8341-3:2016は、日本国内のJIS規格に基づき規定されたガイドラインであり、内容はWCAG 2.0に準拠しています。JIS X 8341-3:2016では、適合レベルがA~AAAに段階分けされており、それぞれの適合レベルの基準は以下のとおりです。
なお、公的機関は2017年度末までに適合レベルAAに準拠することが目標とされています。
適合レベルA
適合レベルAは、Webアクセシビリティにおける基本的な事項であり、キーボードの達成基準(キーボードだけでも操作可能)などが定められています。
適合レベルAA
適合レベルAAは、適合レベルAよりも細かい基準となり、事業者は基本的に適合レベルAAへの準拠が求められています。適合レベルAAでは、最低限のコントラストの達成基準(少なくとも4.5:1のコントラスト比を確保)などが定められています。
また、コンテンツの作り方に関しても、ライブ動画にはキャプションを付ける、ロゴマークなどを除き文字は画像ではなくテキストで表現するといった基準があります。
適合レベルAAA
適合レベルAAAは、特殊な状況でのWebアクセシビリティ事項であり、一般的に適合レベルAAAへの準拠までは求められていません。適合レベルAAAでは、高度なコントラストの達成基準(少なくとも7:1のコントラスト比を確保)などが定められています。
Webアクセシビリティの義務化について
ここでは、Webアクセシビリティの義務化の概要や対象業者、対応しない場合に起こり得ることについて解説します。
Webアクセシビリティの義務化の概要と対象業者
Webアクセシビリティが義務化されることになった背景には、「障害者差別解消法」の改正があります。これまでは努力義務であった本法律の「合理的配慮」の項目が義務化され、2024年4月より改正版が施行されます。
■改正前(努力義務)
「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。」■改正後(義務化)
「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」
この合理的配慮を行うための対処の一環としてWebアクセシビリティの対応があり、全ての事業者が対象となっています。
Webアクセシビリティに対応しないと日本においてどうなるのか?
国内の事業者がWebアクセシビリティに対応しない場合はどうなるのでしょうか。結論から言うと、Webアクセシビリティに対応していないからといって罰則が適用されることはありません。
ただし、管轄省庁から要求があった場合には、Webアクセシビリティの対応状況を報告することが必要です。その際に報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合は、20万円以下の過料の対象となる可能性があるため注意しましょう。
Webアクセシビリティを高めるための具体的な取り組み例
ここからは、Webアクセシビリティを高めるための具体的な取り組み例について、以下のポイントごとに解説していきます。
- ページレイアウト
- 文字・色
- 画像・動画・音声
- 操作
ページレイアウト
ページレイアウトに関しては、以下のような取り組み例が挙げられます。
- Webサイトに対して階層や各Webページを表す「パンくず」ナビを表示し、Webサイトの構成を分かりやすくする
- Webサイト全体を通じてボタンやリンクの大きさ・レイアウトを統一する
- 見出しやリストなどを用いてWebサイトの構造を正しく整理する
文字・色
文字・色に関しては、以下のような取り組み例が挙げられます。
- 文字の色と背景色のコントラストをはっきりさせ、視認性を高める
- Webページのタイトルは、ページ内容を容易に連想できる文言にする
- 文字化けが生じやすい環境依存文字(特殊な記号や半角カタカナなど)は避ける
- リンクを設置する際は、リンク先の内容が分かるテキストを記載する
画像・動画・音声
画像・動画・音声に関しては、以下のような取り組み例が挙げられます。
- 画像データに対して、画像の内容を具体的に説明する代替テキストも表示する
- 動画データや音声データに対して、内容に対応したテキスト情報も表示する
- 動画データや音声データは自動再生されないようにする
操作
操作に関しては、以下のような取り組み例が挙げられます。
- マウスを使わずにキーボードだけでも操作できるようにする
- 入力フォームなどでエラーを表示する際は、具体的な箇所とエラーの内容を明確に表示する
- 入力フォームなどに対して制限時間を設けないようにする
Webアクセシビリティに役立つチェックツール
Webアクセシビリティに役立つチェックツールとして、以下3つのツールを紹介します。
- みんなのアクセシビリティ評価ツール「miChecker」
- Lighthouse
- スクリーンリーダー「NVDA日本語版」
「みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker」
「みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker」は、総務省が開発・提供している無料のWebアクセシビリティ評価ツールです。おもに検証作業を支援しており、付属文書などに沿って検証作業を実施することで、JIS X 8341-3:2016に基づいたWebサイトの評価を行えます。
OSはWindows10、11のみ、ブラウザはMicrosoft Edgeのみ対応しています。詳細は以下の総務省の公式ページも併せてご確認ください。
参考:総務省-みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker (エムアイチェッカー)Ver.3.0
Lighthouse
Lighthouseは、GoogleがGoogle Chrome拡張機能として無料で提供しているWebサイトの評価・診断ツールです。Lighthouseでは、以下の項目ごとにWebサイトをチェックでき、Webアクセシビリティは「Accessibility」の項目が該当します。
- Performance
- Accessibility
- Best Practices
- SEO
- PWA(Progressive Web App)
「Accessibility」では、Webサイトにアクセスする全ての人にとって見やすい文字のサイズや配色になっているかなどを確認できます。
参考:Lighthouse - Chrome ウェブストアN
スクリーンリーダー「NVDA日本語版」
スクリーンリーダー「NVDA日本語版」は、オーストラリアの非営利法人「NV Access」が開発・提供している無料の音声読み上げソフトです。OSはWindowsのみ対応しています。
本ツールを使用することで、Webサイトが実際にどのように音声で読み上げや点字の出力を確認することができます。NVDA 日本語版は日本語の利用者のための機能を追加したものになります。
詳細は以下の公式ページも併せてご確認ください。
参考:NVDA日本語版
まとめ
Webアクセシビリティは、Webサイトにアクセスする全ての人が平等にWebサイトを利用できるようにするための考え方や取り組みを指します。「障害者差別解消法」の改正に伴い、全ての事業者がWebアクセシビリティに配慮することが求められます。
Webアクセシビリティは、障害を持つ人々への配慮だけでなく、自社のWebサイトの品質向上や視認性向上などの観点においても重要です。本記事で紹介したチェックツールなども活用しながら、Webアクセシビリティの対応を進めていきましょう。
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