ROASは、投じた広告費に対してどれだけの売上が得られたかを示す指標です。マーケティング戦略において重要な目安となり、広告効果を評価するための確かな基準となるばかりか、CPCやACOSといった他の指標と連動させることで、最適な広告運用のための追加情報も得られます。この指標を活用することで、売上アップにつながる広告に予算を集中させる一方、効果が低い広告の改善点を洗い出すことが可能です。
今回は、ROASの基本的な考え方から計算方法、改善のポイントまでを解説します。さらに、広告運用の現場でよく耳にするROIやCPAとの違いについても触れながら、ROASを効果的に活用するためのヒントをご紹介します。
マーケティングで使われる「ROAS」とは
マーケティングの現場で用いられるROAS(ロアス)は、英語の「Return on Advertising Spend」の略で、広告の投資対効果を示す目安として位置づけられています。投資額のうち、売り上げがどのくらいあったのかをパーセンテージで示すことで、広告から売り上げがいくら発生したのかが分かります。
割り出されたパーセンテージが高くなるほど、広告の効果が大きいので、予算配分や入札価格を上げる際の判断材料に有効です。
割り出された数値が低い場合は得られる効果が低いので、問題点を洗い出して対策を行うことが大切です。成果があまり出ない広告には、売り上げにつながるような対策をするなど、施策や広告の改善基準に役立ちます。
ROASが注目される理由
ROASが注目される理由は、デジタル広告の多様化とともに、各広告媒体の効果を比較・評価する必要性が高まっているためです。従来のGoogle広告やYahoo!広告に加え、XやInstagramといったSNS広告、さらに各種マーケティングツールが普及した現代では、広告予算の最適な配分が求められています。
こうした状況下で、投資額に対する売上のリターンを明確に示すROASは、各媒体間の効果検証や戦略見直しのための重要な判断基準となり、企業のマーケティング施策における必須の指標として注目されるようになっています。
ROASが特に有効な業界・広告形式
ROASは、EC業界やオンライン小売業で高い実用性を発揮します。ネットショップやデジタルマーケティングを展開する企業では、広告投資に対する売上が即時に把握できるため、ROASは施策の効果を迅速に評価し最適な予算配分につなげる判断材料です。
また、SNS広告やリスティング広告、ディスプレイ広告など多様なデジタル広告形式において、各媒体間の費用対効果を正確に比較できるツールとしてもROASは役立ちます。こうした理由から、効率的なマーケティング戦略の構築や収益向上を目指す上で、ROASは企業活動における重要な指標として注目されています。
ROAS・広告費用対効果の計算方法
ROASを算出する際は、「広告経由の売上額÷投資額×100(%)」の計算式を使います。たとえば、広告費100万円からの売り上げが200万円だった場合、以下のとおりです。
上記の場合、広告費1円から発生した売上額は2円だと分かります。ROASは、数値が高いほど広告からの売り上げが多いことを意味します。算出された割合が100%を超えていれば、使った投資額より売上額が多いということとなり、一定の効果が出たと判断できます。
一方で100%を下回ると、投資した広告費より売り上げが低いという意味となり、広告効果が低いと判断できます。さらに、CPC(クリック単価)という指標も重要です。ユーザーが広告をクリックした際に発生する平均費用を示し、効率的な予算配分の判断材料となります。
同時に、売上に対する広告費の割合を示すACOSは、投入した広告費がどれだけの売上に貢献しているかを明確にするため、ROASと併せた分析で、より精度の高い効果測定が可能です。
ROIやCPAとの違い
Web広告の運用に使われる費用対効果を調べるものには、ROAS以外にもROIとCPAがあります。いずれも広告にかかるコストを算出するマーケティング用語ですが、それぞれ意味合いが異なるので違いを理解しておきましょう。
ROASとROIの違い
ROIは、英語の「Return On Investment」の略称で、投資額から発生した利益を割り出すことができます。ROASは、広告費に対する売り上げを示しますが、ROIは広告費に対しての利益率を表す点が異なります。
またROASの基準は100%ですが、ROIは0%です。ROIも、数値が高いほど効果が高いことを意味します。
一般的には、経営の指標となるROIを重視することが多い傾向にあります。売り上げか利益かのどちらを重視するかで、どちらを利用するかが分かれます。
ROASは売上額だけを表した指標として可視化できる一方、利益を表す指標ではないため注意が必要です。 またROIは、広告費に対する利益を算出する数値のため、長期的に見る際には向いていません。
そのため、成果が高い広告運用をするためには、ROASとROIの数値の向上を目指すことが必要です。
ROIの計算方法
ROIを算出する際は、以下の計算式を使います。
たとえば、広告に投資した金額が100万円で、利益が150万円だった場合のROIは、次のようになります。
上記の例の場合、150%の利益が出ていることが分かります。割合がマイナスの場合は、損失が発生したという意味となります。
ROASとCPAの違い
CPAは英語の「Cost Per Acquisition」の略称で、獲得単価を表します。CPAもROASと同様に、広告の効果を示す指標のひとつです。
CPAでは、問い合わせや購入完了などの1件のコンバージョンを得るまでに投じた広告費を算出することができます。 CPAは問い合わせや資料請求など、直接的に売り上げや利益に反映できないコンバージョン獲得の効果を把握する際に活用できます。
たとえば、コンバージョンが無料のお問い合わせや資料請求の場合や、すべてのコンバージョンの売り上げや利益が同じ場合は、CPAを使うのが最適です。
一方で、コンバージョンが売り上げに直結する場合は、ROASを使うのが良いでしょう。 ROASは割り出された数値が高いほど効果が高いことを示しますが、CPAは数値が低いほど広告の効果が高くなります。CPAを低くすることが広告運用としては効果的なので、クリック数を増やし、コンバージョンにつながる対策が必要です。
CPAの計算方法
CPAを算出する際は、「広告に投じた費用÷獲得したコンバージョンの数」の計算式を使います。
たとえば、100万円使った広告からコンバージョンが50件あった場合のCPAは、以下のようになります。
上記の例の場合、コンバージョンを1件獲得するまでに、広告費が2万円かかっていることを意味しています。コンバージョン数を増やすことで、1件のコンバージョンを獲得するまでの広告費を下げることで、利益を上げることに繋がります。
ROASのメリット・デメリット

ROASのメリット
ROASのメリットには、過去の売り上げや将来の売上予測などのデータが取得しやすい点が挙げられます。売上に関するデータを把握することで、将来の売上予想を立てることができ、繁忙期に備えての準備ができます。
たとえば「2月は売り上げが下がるが、6月は上がる」と以前のデータから判断できたとしましょう。その場合、より多くの売り上げが見込める6月に向けて、該当の広告の予算を増やしたり、入札価格を上げたりなどの対策が行うことができます。
一方で売り上げが低い広告については、キーワードの変更・追加や広告文の修正などの改善が可能ということが分かり、効果を高めるための施策を講じることに繋ぐことができます。 また、ROASに使用する広告に投じた費用や、これまでの売上データは会社に残っているため、次期の売上額の予測に役立ちます。自社のデータを使いながら、効率的な広告戦略を長期間で組み立てる際にも活用できるでしょう。
ROASのデメリット
ROASは、知名度が低く広くは認知されていないことが弱点です。ROIの方が一般的なため、ROASについて知らない方も多く、認識違いが生じる可能性があることに注意が必要です。
さらに、ROAS単体では実際の利益が分かりません。ROASはあくまで売り上げの効果しか判断できないため、割り出された数値が良くても利益は赤字になる可能性も考えられます。売り上げと利益の両方を上げるためにも、ROASとROIを一緒に確認していくことが大事です。
ROASを改善させるポイント
ROASの数値を上げるためには、広告からの売り上げを伸ばす必要があります。売り上げを伸ばすためには、リピーターの増加を図り、CVR率や獲得数(CV)を上げたりなどの施策を行うのが効果的です。ここでは、ROASを改善させるポイントを4つご紹介します。リピート購入率を上げる
リピーターの顧客のニーズに合ったコンテンツやサービスを提供し続けることで売り上げが伸びるため、リピート購入率を上げることがROASの数値も上げることに繋がります。
購入歴のある顧客に、商品やサービスの継続的な購入を促すことで、少ない広告費でも売り上げを伸ばすことができます。 継続的な購入には、顧客との間で地道に信頼関係を築くことが大切です。
購入直後のお礼メールや、定期的なお役立ち情報メールなどの発信が挙げられます。お役立ち情報には、ユーザーに合ったメルマガの発信や、ポイントやキャンペーンなどリピートを促進する仕組みの提供などが挙げられます。施策を継続的に行うことで、リピート購入率が上がっていくでしょう。
CVRを向上させる
ROASを改善する方法のひとつに、CVRを向上させることがあります。CVRとは「Conversion Rate」の略で、コンバージョン率を指します。
広告にアクセスした人のうち、コンバージョンに至った人の割合を示します。CVRが向上すれば、売り上げが伸びるチャンスが増えるので、結果的にROASの改善になります。
Web広告は、Webサイトにユーザーを誘導するだけでは、売り上げにつながりません。そのため、Webサイトにアクセスしたユーザーがコンバージョンに至るまでのアクションを意識した施策が必要です。
広告のCVRの改善策には、CTAやLP、入力フォームの改善などが挙げられます。 また、ユーザーが広告をクリックしてコンバージョンしたくなるような、画像やキャッチコピーなどクリエイティブを改善することも大切です。A/Bテストを行うことで、効果的な改善ポイントの把握が可能とます。
広告のターゲットを最適化する
広告から売り上げにつながっていない場合は、必要とするターゲットに広告が表示されていない可能性が考えられます。
売り上げにつなげるためには、ターゲットを的確に絞り、広告を最適なタイミングで表示させることが大切です。Web広告でのターゲティングを明確な形で行うことで、購入意欲の高い顧客に向けて、ニーズにあった広告を発信することがます。
広告のターゲットを最適化するためにも、まずは広告ごとのROASを比較してみましょう。配信の広告効果が高いターゲットを把握することで、表示させる相手の傾向や属性が見えてきます。ターゲットが多く利用する広告媒体の予算を増やすことで、適切な広告を表示させることができます。
クリエイティブの検討を続ける
クリエイティブとは、宣伝動画、バナー(デザイン、文言)、チラシ、LP(メインビジュアル、訴求文言、LPの全体構成)などといった、広告のために作られた素材全般のことです。
広告のターゲット設定が正しくても、ユーザーに刺さらないコピーやデザインでは、売り上げにつながる可能性が低くなります。広告のクリック率を上げるには、クリエイティブの質に影響されるため、常にクリエイティブのテストを繰り返しながら、クリック率を上げることを目指しましょう。
クリエイティブは、ターゲットのニーズに気づけているのかを見極めることが必要です。クリック率が低い場合は、クリエイティブの導線設計に何らかの問題があることが多くあります。売り上げにつながるようにユーザーを導けているかどうかを繰り返し検討しましょう。
PDCAサイクルをまわす
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4段階を繰り返す手法です。PDCAサイクルの活用は、ROAS改善に不欠かせない取り組みといえます。
まず「Plan」段階で、ターゲット市場の動向分析と、広告クリエイティブの仮説を立て、ABテストなどによる検証計画を策定します。次に「Do」で実際の広告配信を実施し、クリック率やコンバージョン数などのデータ収集が一般的です。
続く「Check」段階では、各施策の効果を詳細に分析し、例えば、画像やキャッチコピーごとの成果比較を行います。最後に「Act」で評価結果を踏まえた改善策を反映し、次回の施策に活かすことで、費用対効果の向上と持続的な成長が実現します。PDCAサイクルを徹底して回し、数値データに基づく柔軟な戦略改善でROASの持続的向上に挑戦しましょう。
業界別のROAS改善事例
業界 |
リスティング広告ROAS |
SEO ROAS |
自動車 |
1.2 |
12.1 |
BtoB SaaS |
1.7 |
8.75 |
建設 |
2.25 |
7.4 |
EC |
2.05 |
3.65 |
サイバーセキュリティ |
1.4 |
11.2 |
教育 |
1.9 |
10.4 |
医療機器 |
1.1 |
12.85 |
各業界でのROAS(広告費用対効果)は、市場環境や顧客行動の違いにより大きく変動します。自動車業界や医療機器業界では、リスティング広告とSEOのROASの差が顕著です。これは、商材が高額であるために即決購入が少なく、長い検討期間を経て購入に至るためです。逆にEC業界ではリスティング広告とSEOのROASの差が最も小さく、安価な商材も多いことが影響していると考えられます。
業界ごとにROASの水準や特性は大きく異なり、広告運用の戦略も変わってきます。短期的な成果を求める業界ではリスティング広告が有効な場合もありますが、長期的な信頼構築が必要な業界ではSEOを活用することで高い費用対効果を得られるケースが多いでしょう。
あるEC企業では従来の広範囲な広告配信からターゲット層を絞る施策とクリエイティブの改善を実施し、従来比でROASを約25%向上させる成果を上げました。この成功事例は、各業界の特性に合わせた戦略調整の重要性を再認識させ、今後の広告運用における有効な手法として注目されています。
まとめ
ROASを利用することで、これまでの売り上げや今後の売上予測などのデータ取得ができます。ROASは、売り上げが把握できるため、将来の売上予想も立てやすくなりますが、常に改善させていくことが重要です。
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