生成AIがITに与えるインパクト(2) 最初のAIブームは1960年代― 4度にわたるAIブームの変遷
更新日:2024-07-11 公開日:2024-07-11 by SEデザイン編集部
本コンテンツは、株式会社アイティアイの大和敏彦氏をお招きし、「生成AIがITに与えるインパクト」と題したセミナーを記事化したものです。
セミナーでは、大和氏の豊富な知見と経験に基づいて、インターネットの登場からAIブームの歴史に加え、最新のテクノロジーなどが語られました。本コンテンツでは、セミナーの内容を3回に分けてお届けします。第2回となる本記事では、1960年代から現在 まで、4度にわたって起こったAIブームの変遷に加えて、AIの活用事例や課題についても触れていきます。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒業後、日本NCRでメインフレームOSの通信モジュール開発を担当。日本IBMでThinkPadの開発と戦略コンサルタントを務める。その後、シスコシステムズに入社し、CTOとしてインターネットビデオやIP電話、新幹線内のWi-Fiなど、インターネットの新しい活用分野の開拓を主導。大手企業とのアライアンスや共同開発も推進。
ブロードバンドタワー社長、ZTEジャパン副社長兼CTOを経て、2013年にITiを設立。大手製造業向けに事業戦略や新規事業戦略策定のコンサルティングを手がける一方、ベンチャーや外国企業のビジネス展開も支援。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、各省委員会の委員、日本クラウド産業協会常務理事などを歴任。現在は日本クラウドセキュリティアライアンス副会長を務めている。IT業界における豊富な経験と経歴を持つ。
AIブームの歴史
AIは1960年代の第1次 ブームを皮切りに、これまで4度の盛衰を経験してきました。それぞれのブームを通して、AIは徐々に高度化し、現在でもさまざまな産業や領域で実用化が進んでいます。
同時に、データの偏りや倫理的課題、制御の難しさなど、AIの進化に伴う新たな課題も浮き彫りになってきました。今こそAIの発展とそれに伴う課題を整理し、今後の方向性を見据える必要性が高まっています。
第1次ブーム:1960年代
意外かもしれませんが、AIの歴史は1960年代にまで遡ります。第1次ブームと呼ばれるこの時代は推論や探索の研究が中心でした。AIがパズルやゲームで高い性能を発揮し、チャットボットの原型が生まれたのもこのときです。
しかし、当時のAIは単純な問題にしか使えず、すぐに限界となりました。AIへの期待が高まった一方で、実用化には至らなかったのです。第1次AIブームは、AIの可能性を示しつつも、技術的な限界を浮き彫りにした時代だったといえる でしょう。
第2次ブーム:1980年代
AIの第2次ブームは、1980年代に訪れました。この時代は、エキスパートシステム が脚光を浴びた時期です。エキスパートシステムとは、専門家の知識をコンピューターに入力することで、その分野の問題解決をしたい際に、AIが専門家並みの答えを返してくれるシステムです。第2次AIブームでは、AIが実社会で活用され始めたのです。
日本でも、通商産業省(現在の経済産業省)が「第五世代コンピュータ計画」 という大型プロジェクトを立ち上げました。しかし、残念ながらこのプロジェクトは失敗に終わります。このトラウマから、日本はAIに対して慎重な姿勢を取るようになったのです。
第2次AIブームは、エキスパートシステムによってAIの実用化が進んだ一方で、日本におけるAIの挫折の歴史でもあったといえます。
第3次ブーム:2000年代
AIの第3次ブームは、2000年代に訪れました。この時代は、コンピューターの処理能力が飛躍的に向上し、クラウドの登場によって大量のデータを蓄積できるようになったことが大きな背景となっています。
こうした環境の変化に加え、機械学習やディープラーニング(深層学習)といった新しいデータ解析技術 の登場が、第3次AIブームを加速させました。
機械学習は、AIが大量のデータから自動的に学習するアプローチです。これにより、画像認識や自然言語処理など、さまざま な分野でAIの活用が広がっていきました。
第3次AIブームを象徴する出来事の一つが、2016年にGoogleのAlphaGoが世界最強の囲碁棋士を破ったことです。AlphaGoは、ディープラーニングを活用することで、従来のAIでは不可能だった高度な判断を可能にしたのです。
このように、第3次AIブームは、 AIの実用化が大きく前進した時代だったといえるでしょう。
第4次ブーム:現在
そして現在、AIは第4次ブームを迎えています。第4次ブームの立役者は、ディープラーニングです。ディープラーニングを支えているのが、トランスフォーマーと呼ばれるニューラルネットワークの構造です。トランスフォーマーは、単語の前後関係を効率的に捉えることができ、自然言語処理の性能を大きく向上させました。
トランスフォーマーを活用した大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)の登場も、第4次AIブームの大きな特徴です。LLMは、大量のテキストデータを学習することで、人間のような自然な文章を生成できるようになりました。GPT-3やChatGPTに代表されるLLMは、その性能の高さから注目を集めています。
並行して、「計算コスト、学習データ量、パラメータ数が増えれば増えるほど精度が良くなる法則」(Scaling Law:スケーリング則)が発見されました。GPT-3のようなモデルでは、パラメータ数が1,750億にも上ります。深層学習とビッグデータの技術 が、AIの飛躍的な進化を支えているのです。
ChatGPTが爆発的に普及した背景には、LLMによる自然言語処理の性能向上と、自然な対話形式というユーザーフレンドリーなインターフェース、APIによる拡張性、無料版もあるなどの費用対効果などの 要因が挙げられるでしょう。
AIの活用事例は増加の一途
第4次AIブームにおいて、AIの活用領域は大きく広がっており、金融や医療、製造、小売り、自動車など、さまざまな業界でAIの活用が進んでいます。たとえば、金融業界では 不正検知や与信判断が、医療分野では画像診断支援システムが開発されています。
また、製造業では品質管理や設備の予知保全が行われ、小売業では需要予測や在庫最適化が進んでいます。自動車業界では、すでに自動運転の開発にAIが欠かせない存在となっています。
分野 |
活用事例 |
金融・保険 |
投資判断・実行、保険料算出、不正検知、個人投資アドバイザー |
医療・ヘルスケア |
手術ロボット、診断支援、創薬、ウェアラブルデバイスと連携した予防医療、感染予測 |
小売り |
販売予測、在庫管理、自動発注、リコメンデーション、無人店舗 |
製造 |
品質検査、予兆診断・保守、サプライチェーン最適化、ロボット自動運転 |
スマートホーム |
音声アシスタント、自動発注、ホームセキュリティー、エネルギー管理 |
SNS |
写真判断、ニュース選別、広告配信、不適切コンテンツ削除 |
自動車 |
自動運転、AGV(自動搬送車)、 |
ゲーム |
対戦ゲーム(チェス、将棋、囲碁)、ジェスチャー認識による操作 |
サイバーセキュリティー |
攻撃検知、不正アクセス検知、マルウェア対策 |
上記のように、第4次AIブームでは、AIがビジネスに大きな変革をもたらしつつあります。AIの活用によって、業務の効率化や自動化が進み、新たな価値創出の可能性が広がっているのです。
AIの課題とは?
AIの発展とともに、いくつかの課題も明らかになってきています。
まず、AIはデータから学習するため、データの質や量がAIの性能を左右します。データの偏りは、AIの判断にバイアスを生じさせる可能性があるのです。また、機械学習モデルは、判断の根拠を説明することが難しいという問題もあります。
さらに、AIの無制限な利用は、人への危険や社会への脅威となる可能性も指摘されています。AIの悪用や誤動作、データの独占、著作権の問題など、倫理的・社会的な課題が数多く存在しているのが現状です。
AIと人間が共生する社会を実現するためには、これらの課題に真剣に向き合い、対策を講じていく必要があります。技術的な課題の解決はもちろん、AIをどのように社会に組み込んでいくのか、その在り方についても深い議論が求められているのです。
産官学民が連携し、多様なステークホルダーが対話を重ねながら、AIの健全な発展を目指していかなければなりません。私たち一人一人が、AIについて正しい理解を深め、その活用と規制の在り方について考えを巡らせていくことが、これからのAI社会を築く上で重要なのです。
次回は、最新のAI技術である「生成AI」について、大和氏の講演内容をもとに詳しく解説します。生成AIは、社会にどのようなインパクトをもたらすのか。ぜひ次回の記事もご覧ください。