本コンテンツは、株式会社アイティアイの大和敏彦氏をお招きし、「生成AIがITに与えるインパクト」と題したセミナーを記事化したものです。
セミナーでは、大和氏の豊富な知見と経験に基づいて、インターネットの登場からAIブームの歴史に加え、最新のテクノロジーなどが語られました。本コンテンツでは、セミナーの内容を3回に分けてお届けします。第3回となる本記事では、 生成AIの急速な普及と発展、経済効果と社会への影響、企業の活用事例、競争の激化、課題と対策、そして人間との共生について、詳しく解説します。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒業後、日本NCRでメインフレームOSの通信モジュール開発を担当。日本IBMでThinkPadの開発と戦略コンサルタントを務める。その後、シスコシステムズに入社し、CTOとしてインターネットビデオやIP電話、新幹線内のWi-Fiなど、インターネットの新しい活用分野の開拓を主導。大手企業とのアライアンスや共同開発も推進。
ブロードバンドタワー社長、ZTEジャパン副社長兼CTOを経て、2013年にITiを設立。大手製造業向けに事業戦略や新規事業戦略策定のコンサルティングを手がける一方、ベンチャーや外国企業のビジネス展開も支援。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、各省委員会の委員、日本クラウド産業協会常務理事などを歴任。現在は日本クラウドセキュリティアライアンス副会長を務めている。IT業界における豊富な経験と経歴を持つ。
生成AIがもたらした功罪
生成AIは人工知能の歴史に新たな革命を起こしました。大規模言語モデル(LLM)をはじめとする生成AI技術の進化により、さまざまな産業や企業活動にイノベーションがもたらされています。
一方で、出力の正確性や倫理性、セキュリティー リスクなどの課題も浮き彫りになっています。生成AIの経済効果や普及状況、企業の取り組み、影響などを注視しながら、人間とAIの新たな関係性を考えるときを迎えています。
AIがもたらす経済効果と社会への影響
米国大手のコンサルティング会社であるマッキンゼーの試算によると、生成AIは年間で約600〜900兆円の経済的価値を生み出す可能性があるとのことです。また、現在の生成AIやその他の技術を活用することで、従業員の作業時間の60~70%を自動化できる可能性が指摘されています。
「生成AIの導入によって、雇用が脅かされる」と言われて久しいでしょう。実際に、米国ではAIを理由とした人員削減の動きも出ており、モバイルUSでは全体の7%が一時解雇、ドロップボックスでは16%が削減されています。生成AIがもたらす恩恵と、それが社会に与える影響については、慎重に見極めていく必要があるでしょう。
生成AIへの期待の高まり
大和氏は、初めてのテーマでコラムを執筆する際、「『この分野で重要なこと』などの内容をChatGPTに聞いて参考にすることがある」と述べました。生成AIを活用することで、効率的に情報を収集し、アイデアを整理できると言います。
生成AIへの期待は、ビジネス界でも高まっています。米ペンシルバニア州発祥のソフトウェア開発会社であるboomiのアンケートによると、「今後5年間で最も重要になるテクノロジー」として、「AI」が最も多く選ばれています。46%もの回答者がAIを挙げているのです。
ChatGPTの普及と活用例
生成AIの中でも、特にChatGPTの影響は大きくなっています。2022年11月の公開から3ヶ月足らずで、推定1億2,300万人ものアクティブユーザーに達しました。
その理由として、自然言語をチャット形式で使えること、柔軟性が高く用途に合わせてプロンプトを変更できること、テキストを自動生成できること、そして何より無料で利用できることが挙げられます。
ChatGPTの活用例は多岐にわたり ます。文書作成、要約、翻訳、議事録作成、リサーチ、アイデア出し、プログラミング支援、メール下書きなど、ホワイトカラーの業務を幅広くサポートできます。ホワイトカラーの生産性向上が期待できるのです。
生成AIの課題と懸念
一方で、生成AIには課題と懸念も存在します。生成物の正確性や信頼性、情報漏洩、学習データの正当性、知的財産権の問題などが指摘されています。
特に、正確な情報を持たない分野では「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象が起こり、虚偽の出力結果を表示してしまう可能性が指摘されています。また、過去のデータから学習しているため、男女の役割のジェンダーバイアスを持ってしまうケースもあります。生成AIを活用する際は、出力内容を常に検証し、盲信せずに利用しなければなりません。
市場予測と産業への浸透
日本の電子技術産業協会(JEITA)は、生成AI市場は2023年の106億ドルから、2030年には約20倍の2,110億ドルに成長すると予測しています。
日本市場に限っても、2030年には現在の15倍となる1兆7,774億円に拡大すると見込まれています。特に製造分野での伸びが著しく、年平均54.6%で成長し、2030年には507億ドル市場に拡大するとのことです。
国内企業の取り組み
PwC Japanが実施した調査によると、日本企業の54%が2023年中に生成AIを使用する、あるいは使用を検討していることが分かりました。用途としては、AI学習データ作成(62%)、問い合わせ対応チャットボット(60%)、ドキュメント作成自動化(55%)が上位に挙げられています。
一方、米国企業では92%が2023年中の利用を予定しており、ドキュメント作成自動化(93%)、研究開発(93%)、AI学習データ生成(93%)への活用が進んでおり、日本に比べ、より積極的な利用姿勢がうかがえます。
特に国内では、ソフトウェア開発の分野で生成AIの活用が進んでおり、NTTデータやNEC、日立製作所、富士通などの大手企業がすでに生成AIを使ったソフトウェア開発を手がけているところです。
また、パナソニックコネクト株式会社はChatGPTベースのAIアシストサービス「ConnectAI」を社内向けに提供。LINEヤフーはソフト開発に、サイバーエージェントはゲーム開発にそれぞれ生成AIを活用し、セブン-イレブンは商品企画に生成AIを導入しています。
各方面への影響
生成AIの登場は、社会や産業に大きな変革をもたらしつつあります。ビジネスの効率化や新たな価値創造の可能性を秘める一方で、倫理的な課題や悪用のリスクにも目を向ける必要があります。ここでは、コンテンツマーケティングやIT業界への影響、収益化の課題、技術的な側面など、生成AIがもたらすインパクトについて、さまざまな 角度から考察します。
コンテンツマーケティングへの影響
生成AIは、コンテンツマーケティングの現場にも大きな影響を与えています。コンテンツやコピーの自動生成、マーケティング資料の作成など、生成AIを活用することで大幅な効率化を図ることが可能です。
企業の取り組みとしては、株式会社ロゼッタがSWOT分析や財務分析をAIで行う事例、Netflixがデータをもとにオリジナル作品を制作する事例などがあります。
テック企業による生成AI競争
生成AIは、特にIT業界へのインパクトが大きいと考えられています。
中でも、マイクロソフト は生成AIへの取り組みが積極的です。同社はChatGPTを活用し、全製品にAI技術を取り入れていく方針を打ち出しました。Bingへの機能組み込み、オフィススイート「Microsoft 365 Copilot」の開発などを進めています。また、GPTのプラットフォーム化も推進しています。APIを公開し、他社製品との連携を可能にすることで、GPTのエコシステムを拡大する方針です。
生成AIを巡っては、世界の株価時価総額ランキングの上位に位置するGoogle、Amazon、Meta、Xなどの主要IT企業が次々と製品を投入しています。Googleは「Gemini Advanced」、Amazonは「Amazon Q」、Metaは「Meta AI」などの新サービスをリリースしています。
一方、日本企業でもNEC、東京工業大学・富士通、サイバーエージェント、ソフトバンクなどが生成AI技術の開発・提供に乗り出しました。グローバルな企業と熾烈な競争が続きそうです。
生成AIのビジネス化に向けた課題
企業が生成AIに注力する大きな理由の一つ が、マネタイズ(収益化)です。生成AIの開発や運用には極めて高額な投資が必要とされます。こうした莫大な投資を回収するため、企業はさまざまな収益化の仕組みづくりが必要です。マイクロソフトは有料サービスの展開のほか、GPTをプラットフォームとして外部開発者とAPI収益を分配する仕組みの構築を進めています。
このようにマネタイズが実現できるかどうかが、生成AI市場での企業の勝ち残りを左右することになりそうです。
また、技術面での課題もあります。生成AIの技術的な進化を支えているのが、半導体の高性能化です。中でもNVIDIAは、AI分野で圧倒的な存在感を示しています。同社は、GPUの高性能化に注力してきた半導体メーカーであり、最新の決算期で売上高が3.7倍の221億300万ドル 、利益が8.7倍の122億8,500万ドルに達するなど、AI需要の恩恵を大きく受けています。
NVIDIAが特に強みとしているのは、GPUを高度に汎用化する「CUDA」などのソフトウェア技術です。これにより、GPUをAI推論だけでなく、シミュレーションやデータ分析など幅広い用途に活用できるようになりました。
NVIDIA製のGPUは、OpenAI、マイクロソフト、Google、Meta、Xなどの主要AI企業で採用されています。同社は多くのAIスタートアップにも投資を行い、エコシステムの拡大を狙っています。こうした動きから、生成AI市場の勢力図がGPUベンダーとの緊密な関係に左右される可能性も考えられます。
セキュリティー への影響と規制
生成AIの台頭は、セキュリティーの分野にも大きな影響を与えそうです。CSA(Cloud Security Alliance)の報告では、セキュリティー業務に生成AIを活用するCISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティー責任者)は35%を占めています。
生成AIを使えば、コードの脆弱性検査や修正案の提示など、セキュリティー対策の自動化や効率化が期待できます。一方で、生成AIがマルウェアの作成や標的型攻撃に悪用されるリスクも指摘されているのが現状です。
生成AIの利用に関するガイドラインの整備も進んでいます。Adobeはユーザーガイドラインを公開し、人工知能トレーニングの禁止や、人権侵害、なりすまし行為の防止などのルールを設けています。
政府の規制も動き出しました。EUはAI規制案を成立させ、人の権利や安全に対するリスクの高いAIシステムに対して、透明性の確保やリスク管理体制の整備を義務付けています。米国でもバイデン大統領がAI規制の大統領令に署名しました。虚偽情報の拡散防止や軍事転用の規制、AIコンテンツへの認証の仕組み作りなどを指示しています。
生成AIをビジネスにうまく活用できるよう、企業にはセキュリティーリスクへの適切な対応が求められています。単に革新的な技術を導入するだけでなく、倫理的配慮や法的リスクの回避へのコミットが重要になってくるでしょう。
生成AIはパートナー的に活用すべき
生成AIは、「人間に代わるもの」ではなく、「人間を補完するもの」として捉えるべきです。AIに頼りすぎず、人間ならではの感性や倫理観を大切にすることが重要です。
AI が100%完璧であることはあり得ません。「完璧でなければ使えない」という思い込みを捨て、限界やリスクを見極めながら、活用できる領域を見定めていく必要があります。サイバー攻撃等の悪用は避けられないという前提に立ち、使う側も倫理観やリテラシーを高めて対策すべきでしょう。
技術の可能性を最大限に引き出しつつ、負の影響を最小化するための知恵を結集していくことが求められています。生成AIの発展が、人類の英知を存分に発揮させ、新たな価値創造の場を切り拓くことを期待したいと思います。
AI技術はこれからさらに発展していくと予測されているので、早い段階で基本的な活用方法を取り入れておくことが大切です。SEデザインでは、IT分野におけるBtoBマーケティング&セールス支援を行っており、35年以上の実績がございます。業務の効率化や顧客へのアプローチでお困りの際は、お気軽にSEデザインへご相談ください。