【ひとり人事の悩み解決】効率化のコツと外部リソース活用法
更新日:2025-04-14 公開日:2025-03-31 by SEデザイン編集部
人事業務をたった一人で担当する「ひとり人事」。採用から労務管理、評価制度の構築まで、多岐にわたる業務をこなす必要があり、悩みや課題も多いのが現状です。本記事では、ひとり人事が抱えやすい悩みとその解決策、業務を効率化するためのポイントをご紹介します。
ひとり人事とは?その特徴と役割
ひとり人事の定義と特徴
「ひとり人事」とは、組織内でただ一人の人事担当者がすべての人事業務を担当する状態のことを指します。主にベンチャー企業やスタートアップ企業、中小企業に多く見られる形態です。
組織の成長期において、経営層は「採用を強化したい」「人事制度を整備したい」という思いを持ちますが、まだ人事部門として複数名を抱えられる規模ではない——そんな状況で生じるのが、ひとり人事という状態です。
一般的な人事部門では、採用担当、労務担当、制度設計担当などと役割分担をしながらチームで業務を進めていきます。一方、ひとり人事ではこれらすべての業務を一人で一手に引き受けることになります。このため、幅広い知識と実務能力が求められると同時に、高い時間管理能力も求められるでしょう。
ひとり人事の主な業務内容
ひとり人事が担う業務は、大きく分けて「採用」「労務管理」「評価・育成」「組織開発」の4つの領域があります。
採用
採用においては、採用計画の立案から求人票の作成、面接の実施、内定者フォローまでを一貫して担当することになるでしょう。特に成長企業では採用が最重要課題となることも多く、この領域だけでも大きな時間を要します。
労務管理
労務管理では、日々の勤怠管理や給与計算はもちろん、社会保険関連の手続きや就業規則の整備なども行います。これらの業務は法令順守の観点からも正確性が求められ、ミスが許されない性質を持っています。
評価・育成
評価・育成の面では、人事評価制度の設計や運用、評価面談の実施、さらには従業員の成長をサポートする研修計画の立案なども担当します。会社の成長のためには従業員の成長が不可欠であり、この領域の重要性は年々高まっています。
組織開発
組織開発においては、従業員満足度の向上や組織課題の分析、改善施策の立案など、より戦略的な業務も求められます。会社の持続的な成長のためには、働きやすい環境づくりと生産性の向上の両立が必要不可欠だからです。
これらの場面からわかるように、従業員代表は労働条件の変更や労使協定の締結において重要な役割を担っています。労働基準法をはじめとする労働関係法令では、労働者の権利を守るために、会社が一方的に労働条件を決定するのではなく、労働者の意見を反映させるための仕組みとして従業員代表制度を位置づけています。
企業としては、これらの場面で必要となる手続きを適切に行い、コンプライアンスを遵守するとともに、従業員の声を尊重した職場づくりを進めていくことが重要です。
ひとり人事が抱えやすい5つの悩みと課題
企業の成長を支える重要な役割を担うひとり人事ですが、その特性上、様々な悩みや課題に直面します。ここでは、多くのひとり人事が共通して抱える5つの主要な課題について詳しく見ていきましょう。
業務負担の大きさ
人事業務は多岐にわたるため、一人ですべてを担当することによる負担は想像以上に大きくなります。特に採用が佳境を迎える時期は、通常の労務管理業務に加えて、応募者対応や面接設定などが重なり、長時間労働に陥りやすい状況となります。
また、給与計算や社会保険手続きなどの定型業務は、どんなに多忙でも決められた期日までに完了させる必要があります。このため、「休みたくても休めない」「急な対応に追われて計画的な業務推進が難しい」といった状況に陥りやすく、心身ともに大きな負担がかかります。
相談相手の不在
人事部門には従業員の個人情報や機密性の高い情報が集まるため、業務上の悩みを他部署の社員に相談することが難しいかもしれません。ひとり人事の場合、この問題がより顕著になるようです。
【ひとり人事が直面する相談関連の課題】
場面 |
具体的な悩み |
影響 |
判断に迷うとき |
相談できる相手がいない場合、すべて自己判断が必要になる |
精神的負担が増大 |
新しい制度設計時 |
他社の事例やベストプラクティスを知る機会が限られる |
施策の質に不安 |
トラブル発生時 |
緊急時の相談相手や代理対応者がいない可能性がある |
問題解決の遅延リスク |
採用活動の難しさ
成長企業において採用は最重要課題の一つですが、ひとり人事にとって大きな負担となります。採用戦略の立案から、求人原稿の作成、応募者対応、面接調整、内定者フォローまで、すべての工程を一人でこなさなければならないためです。
さらに、採用業務は会社の成長に直結するため、経営層からの期待も大きく、プレッシャーも相当なものとなります。採用計画の達成と既存の人事業務の遂行の両立に苦心する状況は、多くのひとり人事が経験する課題といえるでしょう。
人事制度構築の困難さ
企業の成長段階に応じて、評価制度や給与制度、教育研修制度など、様々な人事制度の整備が必要となってきます。しかし、これらの制度設計には専門的な知識と経験が必要であり、ひとり人事にとって大きな課題となります。
特に制度設計の際は、現場の声を丁寧に聞きながら、会社の方針や予算との整合性を図る必要があります。また、一度導入した制度は簡単には変更できないため、慎重な検討が求められます。これらすべてを一人で担うことは、時間的にも能力的にも大きな負担となるでしょう。
キャリアパスの不透明さ
ひとり人事の経験は、確かに幅広いスキルを習得できる貴重な機会です。しかし、その一方で「今後のキャリアをどのように築いていくべきか」という不安も抱えるという声も多く聞かれます。
多くの場合、社内に人事部門の先輩社員がいないため、キャリアの相談をする相手もなく、成長のロールモデルを見つけることも困難です。また、幅広い業務をこなしているものの、それぞれの専門性という点では物足りなさを感じることもあるかもしれません。
ひとり人事を成功させるための5つのポイント
ひとり人事の課題は確かに大きいものですが、適切な対策を講じることで、効率的かつ効果的に業務を進めることが可能です。ここでは、実践的な5つの解決策を紹介します。
経営層との密な連携
ひとり人事の成功には、経営層との強力な連携体制が不可欠です。特に重要なのは、以下の3つの観点での連携です。
・経営方針と人事戦略の整合性確保
経営層と定期的に対話の機会を設け、会社の方向性や期待される人事部門の役割を明確にします。これにより、優先順位の高い業務に注力でき、効率的な業務遂行が可能になります。
・リソース配分の適正化
業務量が過多な場合は、データを基に具体的な状況を説明し、外部リソースの活用や追加の人員配置などを提案することも検討すべきでしょう。経営層に人事業務の実態を理解してもらうことで、適切なサポートを得やすくなるはずです。
・重要施策の推進力強化
新しい人事制度の導入など、全社的な取り組みが必要な施策については、経営層からのメッセージを通じて社内の理解と協力を得やすくなります。
会社の課題発見や改善のヒントを得る貴重な機会となります。
外部リソースの活用
業務の効率化と質の向上のために、外部リソースの活用を検討するのも一案です。
外部リソース活用の主な選択肢には以下のようなものがあります。
【表:外部リソースの活用例】
分野 |
活用方法 |
期待効果 |
労務管理 |
社労士への業務委託 |
専門性の確保、リスク低減 |
採用活動 |
採用代行サービスの活用 |
工数削減、採用力の強化 |
教育研修 |
研修会社の活用 |
質の高い研修提供 |
制度設計 |
コンサルタントの起用 |
専門知識の補完 |

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
自己啓発とネットワーキング
扱う業務が多岐にわたるため、専門分野の知識を身に付けるのが広く浅くなりがちなのがひとり人事を担う方の悩みの種の一つとされます。専門性の向上と情報収集のために、積極的な自己啓発とネットワーキングを心がけましょう。オンラインセミナーやウェビナーへの参加、人事担当者コミュニティへの参画など、様々な学習機会を活用することで、最新のトレンドやベストプラクティスを学ぶことができます。
ひとり人事の業務効率化に役立つシステムを紹介
業務効率化のためのシステム導入
人事業務の多くは、適切なシステムの導入により効率化が可能です。導入を検討する際は、以下の点に注意を払いましょう。
・現状の課題分析
どの業務にどの程度の工数がかかっているのか、システム化によってどの程度の効率化が見込めるのかを具体的に分析します。同時に導入・運用コストも見極めましょう。
・段階的な導入
すべての機能を一度に導入するのではなく、将来的な拡張性も視野に入れるとともに、優先度の高い機能から段階的に導入することで、スムーズな移行が可能になります。
・使いやすさの重視
機能が豊富でも、使いこなすのに時間がかかるものは避けたほうがいいでしょう。困った場合にサポートが得られるかどうかも重要なポイントです。
続いて、具体的にはどのような業務分野においてシステムを活用できるかを紹介します。
採用管理システム
採用業務は、ひとり人事の中でも特に工数がかかる領域です。採用管理システムを活用することで、以下のような効率化が可能となります。
①応募者情報の一元管理
②選考プロセスの自動化
③面接スケジュール調整の効率化
④選考状況の可視化
特に効果が高いのが、応募者とのコミュニケーション管理です。テンプレートメールの活用により、応募受付や面接案内などの定型連絡を自動化でき、工数を大幅に削減できます。また、選考状況をダッシュボードで一覧化することで、採用業務の進捗管理も容易になります。
労働基準法上の管理監督者は、従業員代表になることができません。管理監督者の判断基準は以下の表の要素から総合的に判断されます。
人材マネジメントシステム
従業員情報の管理から評価、育成まで、人材マネジメント全般をサポートするシステムです。以下のような活用が可能です。
①従業員情報管理
基本情報やスキル、資格情報などを一元管理し、必要な情報に素早くアクセスできます。また、各種証明書の発行も自動化が可能です。
②評価管理
目標設定から評価入力、フィードバックまでのプロセスをシステム上で完結できます。評価の集計や分析も自動で行えるため、制度運用の工数を大幅に削減できます。
③育成管理
従業員のスキルマップや研修受講履歴を管理し、適切な育成計画の立案をサポートします。
労務管理システム
労務管理は正確性が求められる業務であり、手作業での処理はミスのリスクが高くなります。システム化により、以下のような業務の効率化と品質向上が期待できます。
①勤怠管理
・出退勤時間の自動記録
・残業時間の自動計算
・有給休暇の取得管理
・各種申請・承認ワークフローの電子化
②給与計算
・勤怠データとの連携による自動計算
・社会保険料の自動計算
・給与明細の電子化
・年末調整処理の効率化
コミュニケーションツール
社内のコミュニケーションを活性化し、情報共有を円滑にするためのツールです。ひとり人事の業務効率化に特に有効な活用方法を紹介します。
①社内SNS・チャットツール
日常的なコミュニケーションをオープンにすることで、従業員の声を広く集めることができます。また、人事からの情報発信も容易になり、施策の浸透がスムーズになります。
②アンケート・フィードバックツール
定期的な従業員調査や、各種施策への反応を効率的に収集できます。結果の集計・分析も自動化され、データに基づく施策立案が可能になります。
③ナレッジ管理ツール
就業規則や各種規程、福利厚生の案内など、人事関連情報を一元管理し、従業員が必要なときに必要な情報にアクセスできる環境を整備できます。
ひとり人事のキャリアパスと今後の展望
ひとり人事の経験は、転職市場においても高い評価が得られ、将来的に様々なキャリアパスの選択肢が得られます。
キャリアの方向性として、主に以下の3つのパスが考えられるでしょう。
- 人事のスペシャリストとして
多くの実務経験を活かし、より規模の大きな企業でCHRO(最高人事責任者)を目指すキャリアです。ひとり人事として培った幅広い知識と実践力は、人事部門のマネジメントにおいて大きな強みとなるでしょう。 - 経営層として
人事視点での経営課題への理解や、全社的な視野を活かし、経営層としてのキャリアを築くことも可能です。特に、人材戦略が重要な企業において、その経験は大きな価値を持つでしょう。 - 人事コンサルタントとして
自身の経験を活かし、他社の人事課題解決をサポートする道も考えられます。特に、ひとり人事ならではの課題に直面した経験は、同様の状況にある企業へのコンサルティングにおいて強みとなるでしょう。
【キャリア形成のポイント】
・専門性の強化:労務管理や人材開発など、特定分野での専門性を高める
・ネットワークの構築:業界団体や勉強会への参加を通じた人脈形成
・最新トレンドのキャッチアップ:HRテクノロジーなど、新しい潮流への理解
・経営視点の養成:財務や経営戦略への理解を深める
まとめ
ひとり人事には確かに多くの課題があります。しかし、適切な対策を講じることで、それらの課題を克服し、効率的な業務運営を実現することが可能です。
重要なのは以下の3点です。
- 一人で抱え込まない
経営層との連携や外部リソースの活用など、必要に応じて適切なサポートを受けることが重要です。 - システムを活用する
業務の効率化とクオリティの向上のために、適切なシステムを選定し、活用することが不可欠です。 - 自己成長を意識する
日々の業務に追われがちですが、自身のキャリア形成も意識した行動を心がけましょう。
ひとり人事としての経験は、確かに大変なチャレンジです。しかし、その経験は必ず自身の強みとなり、今後のキャリアにおける大きな財産となるはずです。
本記事で紹介したさまざまな工夫やツールを活用しながら、自身の状況に合った最適な方法を見つけてみてはいかがでしょう。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント