2025年の改正育児・介護休業法でいつから何が変わる?中小企業の人事担当者・経営者必見!わかりやすく解説!
更新日:2025-04-14 公開日:2025-03-19 by SEデザイン編集部
2025年4月から段階的に施行される改正育児・介護休業法。この法律は、従業員のワークライフバランスの向上と、企業の人材確保・定着に大きな影響を与えます。本記事では、中小企業の人事担当者や経営者の皆様に向けて、改正の概要や対応すべきポイントをわかりやすく解説します。自社の対応に不安を感じている方も、この記事を読めば具体的なアクションプランが立てられるはずです。
育児・介護休業法改正の背景と目的
育児・介護休業法(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)は、育児や介護を行う労働者の職業生活と家庭生活の両立を支援するための法律です。2024年5月に改正され、2025年4月から段階的に施行されます。
少子高齢化と労働力不足への対応
日本の労働力人口は、最も悲観的なシナリオでは、2022年の6902万人から2040年には6002万人まで減少すると予測されています(1人当たりゼロ成長・労働参加現状の場合。(出所:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計(速報)」)。また、2024年の出生数は70万人を割り込む可能性が高い一方で、65歳以上の人口が総人口に占める割合を示す高齢化率は29.3%(出所:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」)に達するなど、人口構造の変化が加速しています。
このような背景から、育児や介護を理由とした離職を防ぎ、貴重な人材が長く活躍できる環境整備が急務となっています。特に中小企業では、限られた人材を最大限活かすことが企業の持続的な発展に直結します。
女性活躍推進と男性の育児参加
女性の就業率は年々上昇し、2024年には74.1%(出所:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)平均結果の要約」)に達しています。しかしながら、第1子出産を機に約3割の女性が離職しているとされているという統計もあります(出所:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」調査期間は2015~19年)。また、男性の育児休業取得率は30.1%(出所:「令和5年度雇用均等基本調査結果」)にとどまっています。
今回の改正法は、こうした課題に対応し、以下の効果を目指しています。
・女性の継続就業支援
・男性の育児参加促進
・企業の人材確保・定着
・労働生産性の向上
改正育児・介護休業法はいつから?改正内容は?
改正法は、施行時期によって大きく2段階に分けられ、2025年4月と10月に順次施行されます。それぞれの改正内容について、中小企業への影響が大きい順に解説していきます。
2025年4月施行の主な改正内容
最も注目すべき変更は、育児休業取得状況の公表義務適用の拡大です。現在、従業員1000人超の企業にのみ課されている公表義務が、従業員300人超の企業にまで拡大されます。公表内容は男性の育児休業取得率または取得者数で、自社のホームページや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」での公開が求められます。
【表1:公表義務の対象拡大】
項目 |
現行制度 |
改正法施行後 |
対象企業 |
従業員1000人超 |
従業員300人超 |
公表内容 |
男性の育休取得率 |
同左(変更なし) |
公表方法 |
自社HP、両立支援のひろば等 |
同左(変更なし) |
次に重要な改正点は、子の看護休暇制度の大幅な拡充です。
現行制度では小学校就学前の子を対象としていましたが、改正後は小学校3年生修了までに拡大されます。さらに、これまで病気やけがの看護に限定されていた取得事由に、学校行事への参加なども追加されます。また、現在は労使協定により除外できる「勤続6か月未満の労働者」も施行後は一律で制度の対象となります。
残業免除制度も大きく変更され、対象となる子の年齢が3歳未満から小学校就学前まで引き上げられます。この改正により、保育園・幼稚園に通う子を持つ従業員も、所定労働時間を超える残業を免除されることが可能となります。
さらに、介護離職防止のための雇用環境整備として仕事と介護の両立支援制度の強化等のため、事業主は以下の①~④のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
- 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- 自社の労働者の介護休業取得・介護両立新制度等の利用の事例の収集・提供
- 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
さらに、介護離職防止のための雇用環境整備に加えて、個別労働者への対応も強化されます。具体的には以下の取り組みが新たに義務付けられます。
介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
(1)介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認
(2)介護に直面する前の早い段階(40歳)での情報提供
2025年10月施行の主な改正内容
10月からは、柔軟な働き方を実現するための新たな措置が導入されます。事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下の選択肢から2つ以上を選択し、実施することが求められます。
【表2:事業主が講ずべき措置の選択肢】
措置の種類 |
具体的な内容 |
最低基準 |
始業時刻の変更 |
フレックスタイム制 |
- |
テレワーク |
在宅勤務 |
月10日以上 |
短時間勤務 |
1日の所定労働時間短縮 |
- |
特別休暇 |
時間単位・半日単位の休暇 |
年10日以上 |
保育施設の設置運営等 |
ベビーシッターの手配かつ ベビーシッター費用の補助 |
- |
中小企業への影響と対応のポイント
この法律が中小企業に与える影響は決して小さくありません。就業規則の改定や新たな制度設計はもちろんのこと、運用体制の整備やシステム改修なども必要となってきます。特に重要なのは、複数の制度変更が同時期に実施されることへの対応です。
従業員への丁寧な説明と周知期間の確保、管理職への教育・研修の実施など、段階的な準備が求められます。また、テレワーク環境の整備や勤怠管理システムの改修など、一定の予算確保も必要となるでしょう。
企業が対応すべき具体的なアクション
社内制度の見直しと整備
改正法に対応するための社内制度の整備は、計画的に進めることが重要です。まずは現行の就業規則や関連規定の総点検から始めましょう。
【表3:制度整備のステップと実施事項】
実施時期 |
主な対応事項 |
具体的な取り組み内容 |
2024年10~12月 |
現状把握 |
現行規定の確認、課題抽出、社内ニーズ調査 |
2025年1~3月 |
制度設計 |
新制度の検討、規定改定案作成、労使協議 |
2025年4月 |
第1段階施行 |
改定規定の運用開始、社内周知、運用状況モニタリング |
2025年7~9月 |
追加対応準備 |
10月施行分の制度設計、規定改定 |
2025年10月 |
第2段階施行 |
柔軟な働き方に関する制度の運用開始 |
就業規則の改定においては、改正法への対応だけでなく、自社の実情に合わせた制度設計が重要です。例えば、ある製造業の中小企業では、以下のような工夫を取り入れています。
-
1始業時刻の変更制度早番・遅番の2パターンを設定
-
2テレワーク事務職を中心に週1回から段階的に導入
-
3特別休暇既存の半日単位の有給休暇制度を拡充
従業員への周知と理解促進
新制度を効果的に運用するためには、従業員の理解と協力が不可欠です。特に以下の点に注意して、段階的な周知を行いましょう。
まず、制度の概要説明では、改正の背景や目的から丁寧に説明することが重要です。従業員向けの説明会は、部署ごとや職種ごとなど、小規模なグループに分けて実施すると、質問や意見が出やすくなります。
また、制度利用の手続きについては、具体的な事例を用いて説明すると理解が深まります。例えば、「子どもの運動会で子の看護等休暇を利用する場合」「テレワークと時差出勤を組み合わせて活用する場合」など、実際の場面を想定したケーススタディを提示すると効果的です。
管理職への教育と意識改革
新制度を円滑に運用するためには、管理職の理解と適切なマネジメントが鍵となります。管理職向けの研修では、以下の内容を重点的に取り上げましょう。
・制度の詳細な説明と運用ルール
・部下からの申請への対応方法
・業務分担や人員配置の見直し
・コミュニケーションの取り方
・労務管理上の留意点
特に重要なのは、制度利用者への配慮と、周囲の従業員への影響を考慮したマネジメントです。制度を利用しやすい職場風土づくりと、業務効率化の両立が求められます。

株式会社HALZ 取締役社長
人事コンサルタント
中小企業向け支援制度と助成金の活用
利用可能な支援制度の概要
中小企業が改正法に円滑に対応できるよう、様々な支援制度が用意されています。これらを効果的に活用することで、制度導入の負担を軽減できます。
主な支援制度として、以下のようなものがあります。
①両立支援等助成金
育児・介護休業制度の整備と利用促進に取り組む企業を支援する制度です。助成金の詳細、支給申請については、都道府県労働局雇用環境・均等部にお問い合わせください。
②働き方改革推進支援助成金
テレワークの導入など、柔軟な働き方の実現に向けた取り組みを支援します(2024年度の交付申請は終了済み)。
活用できる助成金の種類と申請方法
助成金の申請手続きと注意点について、実務的な観点から解説します。
■助成金申請の基本的な流れ
【表5:申請手続きの詳細ステップ】
段階 |
実施事項 |
重要ポイント |
①事前準備 |
・現行就業規則の確認 |
助成金の支給要件を満たす規定内容かを確認 |
②制度整備 |
・就業規則の改定 |
規定の不備があると不支給となるため、専門家への相談を推奨 |
③事前確認 |
・労働局への事前確認 |
支給申請の対象となる取り組みの着手前に必ず実施 |
④制度実施 |
・従業員への周知 |
実施状況を証明する書類(議事録、配布資料等)の保管が重要 |
⑤支給申請 |
・申請書類の作成 |
不備のない書類作成と期限厳守 |
申請時には以下の点に注意しましょう。
-
支給申請期間制度導入から6か月以内
-
期間計算の起算日就業規則の施行日
-
申請書提出計画終了から2か月以内に必要
- 就業規則本文(労基署の受理印があるもの)
- 制度導入前後の規定の新旧対照表
- 労使協定書(該当する場合)
- 制度の周知文書
- 取り組み内容を証明する書類(実施報告書等)
- 支給要件確認申立書
- 経費の支払いを証明する書類
-
対象労働者の範囲
-
制度の規定内容
-
運用実績の要件
-
併給調整の有無
-
制度利用者の記録台帳作成
-
実施した取り組みの記録実施報告書
-
経費支出の証拠書類領収書等
-
社内会議・研修の記録議事録、参加者名簿
支援制度・助成金活用の成功事例
ここでは主に助成金を活用した2つの事例を紹介します。
- 就業規則改定費用:20万円
- テレワーク環境整備:35万円
- 研修実施:10万円
- 育児休業取得促進
- 職場復帰支援
- 時差出勤制度導入
これらの企業では、助成金を活用することで、より充実した制度整備を実現しています。特に、専門家のアドバイスを受けながら計画的に準備を進めたことが、成功のポイントとなっています。
改正育児・介護休業法への対応チェックリスト
改正法への対応を確実に進めるため、重要な確認事項を体系的にまとめました。
制度整備に関するチェック項目
制度整備は、現状把握から段階的に進めることが重要です。まずは現行の就業規則や関連規定を確認し、改正法による変更が必要な事項を特定します。その際は、法律に即するのはもちろんですが、自社の実情に合わせた制度設計を心がけるようにしましょう。
【表6:制度整備の主要チェックポイント】
実施時期 |
主な対応事項 |
重要ポイント |
2024年12月まで |
現行制度の確認 |
既存規定と法改正の差異分析 |
2025年1~2月 |
規定改定案作成 |
自社の実情を踏まえた制度設計 |
2025年3月 |
労使協議・意見聴取 |
従業員の意見を反映した制度づくり |
2025年4月 |
運用ルールの整備 |
具体的な運用方法の確立 |
従業員への周知・教育に関するチェック項目
周知・教育は、対象者別に計画的に実施することが重要です。以下の項目を参考に、自社の状況に応じた計画を立てましょう。
- 改正の概要説明会の開催
- 制度利用の手引きの配布
- 社内報やイントラネットでの告知
- Q&A集の作成と共有
- 詳細な制度説明会の実施
- マネジメント研修の開催
- 部下からの相談対応方法の指導
- 業務調整方法の研修
- 個別説明会の実施
- 相談窓口の設置
- 申請手続きの説明
- 利用計画の作成支援
特に重要なのは、制度の意義や目的を理解してもらうことです。単に制度の内容を説明するだけでなく、なぜこの制度が必要なのか、どのように活用できるのかを、具体的な例を交えながら説明することで、理解が深まります。
運用体制の整備に関するチェック項目
円滑な制度運用のために、以下の体制整備が必要です。
- 担当部署・担当者の選任
- 相談窓口の設置
- 外部専門家との連携体制
- フォローアップ体制の構築
- 取得状況の把握方法
- データ管理の仕組み
- 公表資料の作成体制
- 情報更新の担当者選定
- 運用状況の確認方法
- 課題把握の仕組み
- 改善提案の収集方法
- 定期的な見直し体制
特に中小企業では、限られた人員で効率的な運用を行う必要があります。担当者の選任と役割分担を明確にし、必要に応じて社会保険労務士などの外部専門家とも連携しながら、無理のない運用体制を整えましょう。
運用開始後は、定期的に制度の利用状況や課題を確認し、必要に応じて改善を図ることも重要です。従業員からのフィードバックを活かしながら、より使いやすい制度へと発展させていくことが望ましいでしょう。
まとめ
改正育児・介護休業法は、従業員のワークライフバランス向上と企業の競争力強化につながる重要な取り組みです。2025年4月からの段階的な施行に向けて、特に中小企業においては計画的な準備が求められます。
改正のポイントを整理すると、以下の3点に集約されます。
【表7:改正法対応の重要ポイント】
対応の柱 |
具体的な取り組み |
期待される効果 |
制度整備 |
就業規則の改定 |
法令順守と円滑な制度導入 |
意識改革 |
従業員への周知 |
制度の積極的な活用 |
環境整備 |
業務体制の見直し |
持続可能な運用体制の確立 |
中小企業にとって、新たな制度への対応は負担に感じられる部分もあるかもしれません。しかし、両立支援等助成金などの支援制度を活用しながら、段階的に準備を進めることで、円滑な対応は十分に可能です。
むしろ、この改正法を契機として、働きやすい職場環境づくりを推進することで、従業員の定着率向上や優秀な人材の確保にもつながります。特に中小企業では、一人ひとりの従業員が貴重な戦力です。育児や介護と仕事の両立をサポートすることは、企業の持続的な成長にとって重要な投資となるでしょう。
※本記事の内容は2024年6月時点の情報に基づいています。最新の情報は関係機関にご確認ください。

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