今期のリード獲得だけで、商談機会は十分か ―95:5ルールから考える「ショートリスト入り」
更新日:2026-07-23 公開日:2026-07-23 by 村橋 昇
問い合わせを獲得した時点で、競争が始まるわけではありません。顧客はその前から情報を集め、相談先の候補を絞っています。この比較検討の候補企業群を、ここでは「ショートリスト」と呼びます。そこで自社が候補に入っていなければ、営業は提案する機会すら得られません。SEデザインは、BtoBマーケティングを、リードを獲得する活動だけでなく、未来の商談への参加権をつくる活動だと考えています。
見えている需要だけを追うと、同じ顧客を奪い合う
BtoBマーケティングでは、問い合わせ数や商談化率など、短期で確認できる成果が重視されます。今期の売上をつくるには、すでに課題が顕在化している企業への施策が欠かせません。
ただし、BtoB商材の多くは購買頻度が低く、ある時点で実際に検討している企業は限られます。顕在層だけを追えば、競合各社が同じ少数の顧客を奪い合う構造から抜け出せません。
Ehrenberg-Bass InstituteのJohn Dawes氏が示した「95:5ルール」は、この構造を考える補助線です。企業がサービス提供者を平均5年に一度変更すると仮定した場合、四半期に購買市場にいる企業は約5%になる、という例が示されています。
もちろん、95%と5%はあらゆる市場に当てはまる厳密な法則ではありません。重要なのは、今すぐ買う企業は市場の一部であり、残りの企業も将来は購買市場に入るという点です。
※95:5は、あらゆる市場に当てはまる厳密な固定値ではなく、考え方を示す比喩的な数字です
出典:John Dawes, “The 95:5 Rule”を元にSEデザインが作成
問い合わせ時点で、候補はすでに絞られている
顧客は営業担当者へ連絡する前に、検索、導入事例、第三者からの評判などを通じて情報を集めています。問い合わせ時点では、顧客の中ですでに複数社の評価が進んでいる可能性があります。
MarkeZineが紹介するKorn Ferryの調査では、営業担当者との初回商談を「ソリューションの評価」以降に行う購買担当者が増えているとされています。これは海外調査であり、日本企業へそのまま当てはめるべきではありません。それでも、日本のBtoB企業も、営業接触前に候補選定が進むことを前提にマーケティングを設計すべきです。
問い合わせを獲得しても、競合がすでに有力候補なら、営業は不利な状態から商談を始めることになります。提案力の問題に見えて、実際には問い合わせ前の候補形成で差がついているケースもあります。
日本企業では「認知」より「ショートリスト」で考える
この議論を「ブランド認知が重要だ」とまとめるだけでは、実務や経営判断につながりません。社名を知っていても、「その課題ならこの会社」と結びついていなければ、相談候補には入らないからです。
ショートリストに入るには、「解決できる課題」「その領域に強い理由」「実績や知見」が、顧客の中で結びついている必要があります。認知をショートリスト入りへつなげるには、課題と企業の結びつきが必要です。
SEデザインが日本のBtoB企業を支援する中では、既存取引、人的な接点、社内稟議、国内での導入実績などが候補選定へ影響する場面も多く見られます。だからこそ、海外の95:5ルールを「大規模なブランド広告を増やすべきだ」と単純に読み替えるべきではありません。
日本企業に必要なのは、顧客が課題を認識したときに、自社の得意領域や実績、考え方が見つかり、相談候補として理解される状態です。抽象的な認知拡大ではなく、ショートリストへ入る確率を高める情報設計として捉える方が、営業にも経営にも目的が伝わります。
マーケティングは、未来の商談への参加権をつくる
短期的なリード獲得を減らせばよい、という話ではありません。今期の売上をつくる施策と、将来のショートリスト入りをつくる活動は、どちらも必要です。ただし、役割も評価する時間軸も異なります。
問い合わせ件数だけでマーケティングを評価すると、獲得できたリードは見えても、候補に入れず営業が参加できなかった商談は見えません。短期獲得と未来の商談形成を、同じ指標だけで評価することには無理があります。
SEデザインは、BtoBマーケティングを、単なるリード獲得の仕組みではなく、営業が未来の商談へ参加できるよう、問い合わせ前から候補に入る状態をつくる活動だと捉えています。今期の数字を追いながら、来期以降のショートリスト入りもつくる。その二つを一つの商談形成プロセスとして設計することが、経営に求められる判断です。
参照
SEデザインの視点|村橋 昇
BtoB企業のマーケティング支援に携わる立場から、国内外のBtoBマーケティング動向を日本企業向けに読み替え、実務でどう捉えるべきかを考察します。