AWSの誕生と変革 ― クラウドコンピューティングが企業ITをどう変えたのか

更新日:2025-05-27 公開日:2025-05-27 by SEデザイン編集部

目次

クラウドコンピューティングは、近年の企業ITにおいて欠かせない存在となりました。
その中でもAmazon Web Services(AWS)は、2006年のサービス提供開始以来、クラウド市場の拡大を牽引し、企業のITインフラのあり方を根底から変革しました。

本記事では、クラウドという概念の基本から出発し、AWSがどのような背景で誕生し、どのように普及・進化してきたのかをわかりやすく整理します。本記事が、マーケティング戦略を練る上で不可欠なクラウドの本質と意義を理解する一助となれば幸いです。

クラウドとは何か ― ITインフラ利用の常識を変えた仕組み

クラウドとは、インターネットを通じてサーバーやストレージ、ネットワーク、データベースなどのコンピュータリソースを、必要なときに必要な分だけ、かつ利用した分だけ支払うことができる仕組みです。従来、企業はこれらのリソースを自社で保有・運用するオンプレミス型の環境を構築していましたが、この方式では、初期投資が多額になり、システムの拡張や縮小に時間がかかり、運用・保守の負担も大きいという課題がありました。クラウドの登場によって、ITインフラの調達と運用に大きな変化がもたらされました。

クラウドコンピューティングには、主に以下の3つのサービスモデルがあります。

  • IaaS(Infrastructure as a Service):仮想サーバーやストレージなどのインフラを提供
  • PaaS(Platform as a Service):アプリケーション開発・実行環境を提供
  • SaaS(Software as a Service):アプリケーション自体をクラウド経由で提供(例:Google Workspace、Salesforce など)

とりわけIaaSの普及は、企業にとって大きなインパクトを与えました。初期投資を抑えつつ、必要に応じて迅速にシステムを立ち上げることができるため、事業の柔軟性が飛躍的に高まったのです。また、クラウドベンダーがセキュリティやインフラの保守・運用を担うため、自社内のIT部門の負荷軽減やITガバナンス強化にもつながります。

近年では、クラウドは単なるコスト削減手段にとどまらず、企業の競争力を高めるIT基盤として位置づけられるようになりました。迅速なサービス展開、グローバル対応、災害対策など、さまざまなビジネス要件に柔軟に対応できる点が、クラウドの最大の価値といえます。

AWS誕生の背景 ― 自社課題から生まれた世界標準のインフラ

Amazon Web Services(AWS)は、2006年に商用サービスを開始したクラウドコンピューティングプラットフォームです。現在では世界最大級のクラウドサービスとなっていますが、その出発点は、Amazon自身の課題にありました。

2000年代初頭、Amazon.comは急成長を遂げる中で、異なる技術スタックの乱立、連携の難しさなど、複雑化する社内システムの開発と運用に課題を抱えていました。各部署が個別にシステムを構築していたため、重複や非効率が発生し、新機能の開発スピードが低下していたのです。

この状況を打破するため、Amazonは「社内インフラの標準化・共通化」に着手しました。エンジニアが必要とするインフラ(コンピューティング、ストレージ、データベース、ネットワーク、監視システムなど)をオンデマンドで利用できるようにすることで、サービス開発の効率化を図りました。こうした取り組みの中で、「自社のために整備したITインフラを外部の開発者にも提供できるのではないか」という発想が生まれました。

aws_iconこのアイデアをもとに開発されたのが、AWSの第一弾サービスである Amazon S3(Simple Storage Service) と Amazon EC2(Elastic Compute Cloud) です。

S3は、増え続けるデジタルデータの保管と管理の課題を解決するために開発されたオブジェクトストレージサービスで、2006年3月に公開されました。
EC2は、必要な時に必要なスペックの仮想サーバーを迅速に立ち上げ、柔軟なコンピューティング能力を提供するために開発され、同年8月にベータ版がリリースされました。

いずれも、スケーラブルかつ従量課金型の仕組みを採用し、初期投資を抑え、使った分だけ支払うという、これまでのITインフラの常識を覆すものでした。

当初のターゲットは開発者やスタートアップでしたが、その後、柔軟性・拡張性・コスト効率の高さが評価され、大企業にも広く採用されるようになりました。AWSは、単なるホスティングサービスを超えて、“クラウド”という新たなインフラの形を定義づけた存在となったのです。

AWSが変えたこと ― インフラの民主化と開発スピードの革新

Amazon Web Services(AWS)の登場は、企業におけるITインフラの導入・運用に対する考え方を大きく変えました。とりわけ注目すべき点は、「インフラの民主化」と「開発スピードの飛躍的な向上」です。

1. インフラの民主化

AWSの提供するIaaS型サービス(例:Amazon EC2やS3など)は、それまで大企業にしか構築が難しかった高信頼なITインフラを、中小企業やスタートアップにも手の届く形で提供しました。これにより、数百万、数千万円単位の物理サーバーやデータセンターといった設備投資を行わずとも、インターネット経由でグローバル規模のインフラを即時に活用できるようになりました

この「初期投資不要」「従量課金制」というクラウドの特徴は、限られた予算内で事業を立ち上げたい企業にとって特に大きなメリットとなりました。さらに、利用規模に応じて柔軟にリソースを増減できるスケーラビリティの高さも、多様なビジネスモデルとの親和性を高めました。

2. 開発スピードとアジリティの向上

AWSは、サーバーの調達や設定に数週間〜数カ月を要していた従来のオンプレミス環境に比べ、数分で仮想サーバーを立ち上げられるという圧倒的なスピード感を実現しました。これにより、アプリケーション開発のリードタイムが短縮され、企業は迅速に市場へ新サービスを投入できるようになりました

また、CI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)の普及とあいまって、DevOps文化の浸透にも貢献しました。開発者はインフラを自動化し、テストやリリースを高速かつ安全に繰り返すことが可能となりました。

3. クラウドネイティブな事業成長の加速

AWSは単なるインフラ提供にとどまらず、機械学習、IoT、分析、セキュリティなど、200を超えるサービス群を提供しています。これにより、企業はIT戦略上の多様な課題に対して、単一プラットフォーム上で迅速に対応できる環境を整えることができました

実際、複数の著名なテック企業が、創業初期からAWSを活用し、高い成長スピードを維持してきました。AWSはこうした「クラウドネイティブ」なビジネスモデルのインフラ基盤として、企業の競争力を根本から支えているといえます。

今のすごさ ― 世界のクラウド市場で圧倒的な存在感を誇るAWS

AWSは2006年の商用サービス開始以来、クラウド市場の先駆者として業界の標準を築いてきました。現在では、その先進性と圧倒的なサービススケールにより、グローバルで最も広く利用されているクラウドプラットフォームのひとつとして位置付けられています。

1. 世界最大規模のクラウド事業者

世界最大規模のクラウド事業者調査会社Synergy Research Groupの調査によると、2024年のグローバルクラウドインフラサービス市場において、AWSは依然としてトップシェアを維持しており、第4四半期には約30%のシェアを獲得しています。これは、2位のMicrosoft Azure(約21%)、3位のGoogle Cloud(約12%)を依然として大きくリードするものです。

また、AWSは世界32の地域(リージョン)と100以上の可用ゾーン(AZ)を展開しており、グローバルでの可用性と低レイテンシの実現に注力しています。この地理的分散は、大規模企業にとってのデータ主権対応や災害復旧対策といった重要課題に対する信頼性の担保にもつながっています。

2. サービスの網羅性

AWSが評価される大きな理由の一つが、200を超える多様なクラウドサービスを提供している点です。仮想サーバー(EC2)やストレージ(S3)といった基盤サービスに加え、以下のような先端領域にも対応しています。

  • AI/ML(Amazon SageMakerBedrock など)
  • IoT(AWS IoT Core
  • ビッグデータ・分析(Amazon RedshiftAthena
  • セキュリティ(AWS ShieldIAM
  • アプリケーション統合(API GatewayStep Functions

これにより、企業は1つのプラットフォーム内でIT課題の解決から新規事業開発までを包括的にカバーすることが可能となります。

3. 継続的な成長と投資

AWSは継続的な設備投資と研究開発を通じて、インフラおよびサービスの進化を加速させています。2023年には、インド、マレーシア、ニュージーランドなどの新規リージョン開設を発表し、世界展開をさらに拡大しています。

また、年次カンファレンス「AWS re:Invent」では、毎年数百の新機能が発表されており、技術革新のスピードと柔軟なサービス提供において、業界のトレンドセッターとしての役割を果たしています。

まとめ:AWSは、インフラの利用形態とビジネスの常識を変えた

AWSは、インフラを所有するという従来の前提を覆し、必要なときに必要な分だけ使うという新しい利用モデルを確立しました。この変化は、ITのコスト構造やスピード、柔軟性に根本的な転換をもたらし、企業の成長戦略においてクラウドが不可欠な存在となるきっかけを生み出しました。

限られたリソースでも高度なIT環境を活用できるようになったことは、スタートアップから大企業に至るまで、イノベーションの裾野を広げています。さらに、200を超えるサービス群とグローバル規模のインフラ展開によって、AWSは単なるクラウドベンダーではなく、企業の競争力を支える戦略的基盤として定着しています。

クラウドが前提となる時代において、AWSは今後もITとビジネスの関係性を再定義し続ける存在であり続けるでしょう。引き続き、その技術動向や新サービスの展開には注目したいところです。

 

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参考
AWS公式サイト「AWS とは?」
AWS公式サイト「グローバルインフラストラクチャ」
AWS公式ブログ「今後のリージョン拡張計画」

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