導入事例は、見込み客に自社の製品やサービスの価値を示し、購入の意思決定を後押しする最強の営業ツールであり、既存顧客との信頼関係を強化するうえでも重要な意味を持っています。それだけではありません。導入事例は企業のブランディングや採用活動においても大きな貢献を果たしてくれることをご存じでしょうか?
前回は、IT業界を取り巻くエコシステムの変化や導入事例制作におけるディレクターの役割についてご紹介しました。今回は導入事例に潜在する価値にあらためて整理しながら、その活用方法について考えてみます。
導入事例の制作において直面する課題
突然ですが、貴社は顧客に提供する製品やサービスの導入事例を制作しているでしょうか?
答えが「Yes」でも「No」でも、それぞれに課題はあるはずです。
Yes:導入事例を作っていても課題はある
導入事例を制作していたとしても、制作プロセスや品質、活用方法において全く課題がないという企業は少数です。SEデザインのクライアントから寄せられる導入事例制作に関わる課題としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 計画的に制作できていない
→制作が断続的で、年間の制作本数が十分ではない - 品質が良くない
→外注の制作ベンダーの納品物が期待する品質に達していない - 内製による担当者の負荷
→外注予算がなく内製しているが、担当者に過度な負担がかかっている - 活用方法が分からず、作って終わりになっている
→作ることが目的になり、その後の営業活動やマーケティング活動に活かせていない
No:導入事例を作れない事情を抱えている
一方、導入事例を制作できていない企業には、次のような事情があります。
- 上層部の理解が得られず予算が確保できない
- 外資系企業なので、海外事例を翻訳して使うようにいわれている
- 予算はあるが制作のノウハウがなく、制作ベンダーの選び方も分からない
- そもそも製品が売れないので導入事例が作れない
- 導入事例がもたらす価値が理解できていない
このように導入事例制作に関する課題を整理していくと、ひとつの仮説が生まれます。それは「さまざまな事情で導入事例を制作できていないことが、結果として製品やサービスの販売を妨げているのではないか」ということです。そうなると、まずは導入事例の価値を正しく理解することが何よりも重要になります。
導入事例は、見込み客が求める情報そのもの
導入事例の価値を理解していただくために、「見込み客が何を求めているか」という視点から考えてみましょう。
マーケティング活動やセールス活動における見込み客とのタッチポイントは、Webサイトや製品カタログ、メルマガ、またイベントや営業担当者のセールストークなどが一般的です。しかし、ここで接する情報の多くは売る側の一方的な理屈やセールストークです。見込み客が本当に知りたいのは、「実績に基づく有益な情報」「製品の価値を裏付ける顧客の声」といった意思決定につながる判断材料であるはずです。
つまり、見込み客は「嘘のない実績、価値のエビデンス」を求めているのであり、これがまさに顧客の生の声に基づいて制作される導入事例なのです。
導入事例が企業にもたらす価値
導入事例には、単なる営業ツール以上のさまざまな価値が潜在しています。ここでは、その効果を3つの観点からご紹介します。
価値1.対外的な営業活動への効果
顧客の生の声に基づいて自社の製品やサービスの価値を示すことができる点は、導入事例の最大のメリットです。Webサイトや製品カタログにはない説得力を備えた導入事例によって、商談の成約率やマーケティング活動の成果を高めていくことができます。その効果は、特にBtoBビジネスの領域において顕著です。
- 新規顧客の開拓と売上拡大
→見込み客が「同じ課題を解決できるかもしれない」と具体的にイメージするきっかけとなる - 既存顧客へのアップセル・クロスセル
→ひとつの成功事例から生まれた信頼をもとに、他の業務領域でも新たな提案を行うことができる
価値2.営業活動やマーケティング活動の活性化
導入事例は外部向けの営業ツールとしてだけでなく、社内の営業部門やマーケティング部門の活動を活性化するうえでも大きな効果があります。
- 営業チームのモチベーション向上
→ひとつ導入事例をきっかけに見込み客からの引き合いが増えれば、営業チーム内から「自分のお客さんの事例も作りたい」という声が寄せられ、導入事例を活用した営業活動が活性化する - 新たな提案のアイデア創出
→完成した導入事例を営業チーム内で共有することで、「このお客さんなら、こんな提案もできる」という新たなアイデアが生まれるきっかけになる - マーケティング施策の拡充
→導入事例をダウンロードコンテンツとして活用するなど、良質なリードの獲得に向けた新たなマーケティング施策を実践できる
価値3.優れた人材の獲得、企業のブランド価値向上
導入事例をアーカイブ化して外部に公開することで、優秀な人材の獲得や企業のブランド価値向上にもつながります。
- 採用活動での活用
→「大手企業の顧客から高く評価されている会社」「将来性、成長性がある会社」であることの証として導入事例を示し、多くの求職者や学生に関心を持ってもらう - ブランド価値の向上
→顧客との信頼関係や成功事例を示すことで、企業の社会的な評価や知名度が高まる
導入事例には、社内外に向けた多くの価値が凝縮されていることがお分かりいただけたでしょうか。営業活動やマーケティング活動だけでなく、企業の持続的な成長を支える大きな価値が備わっているのです。
導入事例の基礎知識
導入事例で取り上げる内容には、製品やサービスによってさまざまなものがあります。以下では、実際に制作を進めるうえでの基礎知識として、いくつかの視点で導入事例のタイプを分類してみます。
タイプ1.課題/目的別
導入事例は、解決したい課題や達成したい目的によって以下のように分類できます。SEデザインのクライアントはIT系企業が多いため、これらの課題をITで解決する事例、たとえばクラウド、SaaS、AI、セキュリティなどの最新テクノロジーを活用したDX、GXなどの事例が中心となります。
型 |
概要 |
業務課題 解決型 |
財務会計、営業、生産、販売、サプライチェーンなど、業務上の課題を解決した事例 |
経営課題 解決型 |
データドリブン経営、意思決定の高度化など、経営課題の解決に焦点を当てた事例 |
業種課題 解決型 |
特定の業界特有の法規制・ルール、商習慣への対応を取り上げた事例 |
エコシステム型 |
業種や官民の垣根を越えた協業、新たなエコシステムの中で生まれたビジネスモデルを紹介する事例 |
社会貢献型(社会課題の解決) |
脱炭素など、財務目標以外の社会貢献(非財務目標への取り組み)に焦点を当てた事例。ITベンダー、ユーザー企業の社会的信頼、ブランド価値向上に貢献する |
テクノロジー特化型 |
生成AIなど、新しい技術のパフォーマンスを強調した事例。アーリーアダプターへの訴求力が高い |
タイプ2.編集形式別
導入事例をどうまとめるかという、アウトプットの形式や編集方法によっても分類できます。
形式 |
概要 |
第三者視点の読み物形式 |
第三者の客観的な視点で書かれた記事 |
インタビュー形式 |
ライターとインタビュー対象者のQ&A形式の記事 |
対談形式 |
ITベンダーとユーザー企業の対談など。座談会形式も含まれる |
動画形式 |
インタビューやデモンストレーションなどを動画形式でまとめた事例 |
タイプ3.取材方法別
導入事例の取材方法にも、いくつか方法があります。
取材方法 |
概要 |
訪問取材 |
ユーザー企業のオフィスを訪問して行う取材。地方取材や、パートナーと合同で取材を行う場合もある |
オンライン取材 |
Web会議ツールなどを用いたオンライン取材。こちらもパートナーとの合同取材が可能だが、写真撮影は別途必要となる |
イベント講演/ セミナー取材 |
イベント会場での聴講取材や、セミナーの録画をもとに記事を作成する方法。対面でのインタビューは行わない |
タイプ4. メディア、チャネル別
完成した導入事例を発信するメディア、チャネルもさまざまです。
メディア・チャネル |
概要 |
印刷物 |
リーフレット、広報誌などを配布 |
オウンドメディア |
企業Webサイト内の事例紹介ページなどに掲載 |
ペイドメディア |
広告媒体を利用して発信 |
ソーシャルメディア |
YouTube、Instagram、Xなどで配信 |
メールマガジン |
導入事例紹介メールの配信で告知・誘導 |
イベント/セミナー |
イベントやセミナーでの講演発表 |
完成した導入事例をどのように活用するか?
導入事例は、制作したら終わりではありません。完成した後、市場に向けてどのように発信するかによって、その価値は大きく変わってきます。ここでは、導入事例の効果を最大化するための具体的な活用方法をご紹介します。
活用方法1.動画などへの転用・横展開
ひとつの導入事例を複数の形式で再利用することで、さらに多くのターゲットへリーチし、効果を高めることが可能です。
活用方法 |
概要 |
既存事例の動画化 |
動画形式に再編集することで、視覚的な訴求力を高め、セミナーやWebサイト、SNSなどで活用できる |
事例集の制作(冊子化) |
過去の制作した事例を冊子としてまとめて、展示会や営業活動のなかで配布することで、自社の製品やサービスの包括的な価値を伝えることができる |
オウンドメディアでのアーカイブ化 |
導入事例を自社サイトでアーカイブ化することで、見込み客が知りたい情報にアクセスしやすい環境を整える |
英語版の制作・海外発信 |
英語版を制作してグローバル市場に情報を発信し、海外の見込み客との商談のきっかけにする |
活用方法2.テーマに応じたメディア活用・広告展開
導入事例は、その内容やテーマに応じて適切なメディアや広告チャネルで活用することで、ターゲット層へ効果的にリーチできます。
活用方法 |
概要 |
専門メディアの活用 |
セキュリティ、クラウド、AIなど特定のテーマに応じた専門メディアを選定し、記事掲載や広告展開を行う |
広告商品の活用 |
ペイドメディアや広告キャンペーンに導入事例を組み込むことで、新規顧客や潜在顧客の興味を引き出す |
活用方法3.ユーザー企業のイベント登壇、講演
導入事例の用途のひとつとして、ユーザー企業との信頼関係を活かしたイベント活用があります。
活用方法 |
概要 |
主催イベントでのユーザー企業の登壇 |
自社主催のセミナーやイベントに顧客企業を登壇者として招き、事例を共有してもらうことで、他の見込み客に対する信頼性を高める |
ラウンドテーブルの開催 |
潜在顧客や既存顧客を集めたディスカッション形式のイベントを開催し、顧客間の交流を促進することで、導入事例を活用した新たな商機を生み出す |
活用方法4.新たなエコシステム・ネットワークの創出
導入事例は、ユーザー企業やパートナー企業とのコミュニティの形成においても重要な役割を担います。ここから新たなエコシステムを創出していくことも可能です。
活用方法 |
概要 |
ユーザー会の創設 |
導入事例を共有する場を設けることで、ユーザー間の情報交換や交流を促進し、コミュニティの結束を強化する |
パートナーネットワークの拡大 |
事例を通じてパートナー企業との協業を深め、新たな価値創出や市場拡大を目指す |
これらの活用方法を駆使することで、導入事例は単なる営業ツールにとどまらず、企業全体のマーケティングや事業戦略を支える重要な資産となります。
導入事例制作に関する課題はSEデザインにご相談ください
導入事例は、企業の成長を力強く後押しするマーケティングツールです。新規顧客の開拓、既存顧客との関係強化、営業活動の活性化、採用活動の促進、そして企業のブランド価値向上など、その効果は多岐にわたります。
しかし、導入事例制作にはさまざまな課題が伴います。「制作が計画的に進まない」「作成した事例の品質が低い」「事例制作のノウハウがない」といった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
SEデザインには、これらの課題を解決するためのノウハウと豊富な実績があります。高品質な導入事例制作はもちろんのこと、完成した後の活用方法までトータルでサポートすることで、お客様のビジネスの成長に貢献します。
導入事例制作に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にSEデザインまでお問い合わせください。お客様の課題に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。