生成AI時代における公式コンテンツの価値とは ―アドビの実践例に学ぶ―

更新日:2025-01-20 公開日:2025-01-20 by SEデザイン編集部

目次

近年、生成AIの台頭により、コンテンツの制作・配信を取り巻く環境は大きく変化しています。誰でも手軽にコンテンツを作成できるようになった一方で、情報の真偽を見極めることが難しくなっています。本記事では、アドビ社内で行われているコンテンツマーケティングの取り組みを通して、生成AI時代における公式コンテンツの価値と作り方、そして効果的な届け方について解説します。

本記事は、「Content Marketing Day 2024」で行われた、アドビのSEOスペシャリストである松谷昌俊氏と加納宏徳氏のセッション「コンテンツの届け方をデザインしよう!~ アドビで実践している、企業の「公式」コンテンツの作り方 ~」の一部を記事化したものです。

アドビが公式で情報を発信する理由

アドビは、PhotoshopやIllustratorなどを含む「Creative Cloud」、Acrobatを擁する「Document Cloud」、そしてマーケティングツールを扱う「Digital Experience」という3つの主要プロダクトを提供しています。

これらのプロダクトは、クリエイティブな表現やビジネスの効率化に役立つ強力なツールですが、その多様な機能ゆえに、ユーザーがすべての機能を理解し、最大限に活用するのは容易ではありません。

現在、生成AIやUGCの影響もあり、情報はWeb上に溢れています。しかし、その中から自分が求めている、本当に役立つ情報を見つけるのは容易ではありません。だからこそ、公式が正確に情報を発信するということに大きな意味があると、松谷氏と加納氏は考えています。

読み手は「誰が言っているのか」も重視しており、上述のプロダクトに関しては、「開発元であるアドビが出している情報」であることが重要なのです。アドビでは、SEOスペシャリストである松谷氏と加納氏を中心に、この公式コンテンツの制作・配信に力を入れています。

社内体制の構築:情報の一元化と発信力の強化

松谷氏と加納氏は、SEOに関する社内理解を深め、質の高いコンテンツ制作を推進するためにさまざまな取り組みを行ってきました。ここでは2つ紹介します。

1つ目は「SEO Office Hour」で、社員からのSEOに関する質問にお二人が答える時間を設けるというものです。毎週金曜日のお昼に1時間、オンラインで自由に参加できる場を設けています。これまで2年間続けてきて、社内におけるSEOの知識向上と、情報の一元化への貢献を実感しているそうです。

2つ目は、コンテンツ制作体制の整備です。よりコンテンツを作るには、マーケティングや広報、開発、営業などの社内の関係部署と、外部のエキスパートとの連携が必要です。松谷氏と加納氏が中心となり、それぞれの役割を整理して強力なSEOチームを作りました。この動きは、アドビの四半期MVPに選出されるなど、社内からも評価を得ています。

コンテンツの質を突き詰めるには

コンテンツの質を突き詰めるためのポイント3つ

松谷氏と加納氏は、ユーザーにとっての「質」と、自社がこだわる「質」は必ずしも一致しないとし、両者のバランスを取ることの重要性を語りました。

アドビでは、「ユーザーはこの情報を求めているだろう」という社内の想定と、市場のニーズのギャップを埋める作業に時間をかけています。それをコンテンツに落とし込んだうえで、情報量や提示する順番、その後どのようなコンテンツにつなげるのかなど、コンテンツ全体を設計していきます。

具体的なコンテンツ制作のポイントとして、お二人は以下の3点に言及しています。

ポイント1.複数の検索意図に対応する

1つのコンテンツで複数の検索意図に対応することで、ユーザーの利便性を高めます。たとえば、Photoshopの使い方を解説する記事にたどりついた人の中には、静止画を作りたい人もいれば、3D画像を作りたい人もいるでしょう。人によってツールの使い方が異なるため、それぞれの悩み事に合った情報を提供できるよう、アドビのコンテンツでは情報の網羅性を意識しています。

ポイント2.生成AIに最適化する

生成AIはWeb上のコンテンツをクローリングし、情報を蓄積して質問への回答を生成します。そのため、生成AIがコンテンツの内容を正しく理解し、検索結果に表示されるように、網羅的な情報提供やユーザーニーズの高い情報の提供を意識しています。また、生成AIが引用元としてコンテンツを認識しやすいよう、コンテンツの記述も工夫しています。

ポイント3.全て読まれない前提で作る

ユーザーがコンテンツを最初から最後まで読んでくれるとは限りません。目次や見出しを確認し、必要な情報だけを拾い読みすることもあるでしょう。

ユーザーが求めている情報にたどり着きやすいよう、目次や見出しを効果的に活用し、一部だけ切り取っても内容が理解できる構成にすることが重要です。これは、情報過多の現代において、ユーザーに最適なコンテンツ体験を提供するための重要な要素といえるでしょう。

SEO記事以外のチャネル活用

アドビでは、動画コンテンツも積極的に活用しており、ツールの使い方やチュートリアル動画を公開しています。特に、グラフィックツールのような視覚的な説明が必要な製品の場合、動画による解説は非常に効果的だからです。

ユーザーは、動画を見ることでツールの使い方を直感的に理解できます。また、テキストでは伝えにくいニュアンスや操作手順も、動画であれば説明しやすいでしょう。松谷氏と加納氏は、コンテンツマーケティングにおいてはSEOだけでなく動画やSNSなどのコンテンツも必要だと考えており、今後はそのあたりにもより注力していきたいとのことです。

ユーザーとの共創:生の声を生かしたコンテンツ作り

アドビは、ユーザーとの共創によるコンテンツ作りにも力を入れています。これは、ツールの使い方や活用事例をユーザー自身に語ってもらうことで、よりリアルで説得力のあるコンテンツを生み出すことを目的としています。ここでは、アドビの取り組みを2つ紹介します。

アドビの取り組み1.みんなの仕事術

アドビでは、ユーザーの生の声を活かしたコンテンツ制作にも注力しており、「みんなの仕事術」という企画を設けています。これは、Acrobatオンラインツールをさまざまな業務でどのように活用しているか、ユーザー企業やライターに記事として外部サイトに公開してもらうことで、公式では伝えきれない多様な活用事例を共有する取り組みです。

特定の業務におけるAcrobatの便利な活用法を、ユーザー自身の言葉で語ってもらうことで、より具体的で説得力のある情報を提供しています。公式が機能の利便性を説明するよりも、ユーザーが具体的な業務場面でのメリットを語ることで、読者はツールの活用イメージを膨らませることができます。

アドビの取り組み2.Adobe Expressアンバサダープログラム

「Adobe Expressアンバサダープログラム」では、Adobe Expressの認知拡大とさらなる活用を目的に、会社経営者やスクール講師などをアンバサダーとして認定し、コンテンツの共同制作やセミナーの共催などを行っています。アンバサダーの生の声や具体的な活用事例は、他のユーザーにとって非常に参考になる情報源となっています。

まとめ:ユーザー中心のコンテンツ作りで、さらなる価値を提供

公式発のコンテンツは、単なる製品情報を発信するものではなく、正確な情報を伝え、ユーザーの課題解決を支援する重要な役割を担っています。アドビは、社内体制の構築、質の高いコンテンツ制作、多様な配信チャネルの活用、そしてユーザーとの共創を通じて、ユーザー中心のコンテンツ作りを推進しています。

公式コンテンツ制作における重要なポイントは以下の通りです。

  • 情報過多な時代だからこそ、正確で信頼できる情報を提供する
  • 質の高いコンテンツ制作のために、社内外を巻き込んだ強力なチームを作る
  • 機能の説明で終始せず、ユーザーに役立つ踏み込んだ情報を発信する
  • 記事コンテンツだけでなく、多様なチャネルでの発信を検討する
  • ユーザーと共創してコンテンツを作る

アドビは、これらのポイントを踏まえ、今後もユーザーにとって価値のあるコンテンツを提供し続け、さらなる顧客体験の向上を目指しています。そして、これらの取り組みは、他の企業のコンテンツマーケティング戦略にも参考になるはずです。ぜひ、自社のコンテンツ戦略に活かしてみてください。

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松谷 昌俊氏
登壇者
アドビ株式会社
コーポレートマーケティング SEOスペシャリスト
松谷 昌俊氏
アドビのSEO担当としてAdobe Creative Cloud、Adobe Acrobatの集客施策に従事。加納氏と共に検索データを起点に、記事から動画にイベントまで、幅広くコンテンツマーケティングに取り組む。代理店にてSEOコンサルタントを数年経験。マーケティング業界以前は、アメリカの⼤学院にてMBAを取得。英語を駆使した仕事に興味があり、現職に⾄る。
加納 宏徳氏
登壇者
アドビ株式会社
PLGチーム Adobe Express担当 SEOスペシャリスト
加納 宏徳氏
アドビのSEO担当としてAdobe Expressのグロースチームに所属。松⾕と共に検索データを起点に、記事から動画にイベントまで、幅広くコンテンツマーケティングに取り組む。実質⼩卒。10年間英語やWEBを独学で学ぶ。伝統⼯芸品の越境ECサイト、不動産スタートアップ、海外広告代理店を経て現職。趣味は受賞歴もある折り紙。