商品やサービス、情報があふれる現代社会において消費者に選ばれるためには、差別化を図る戦略が必要です。そこで今回は、いかにして他社との差別化を図り自社の商品やサービスを消費者に選んでもらうか、マーケティングにおける差別化戦略について解説します。
マーケティングにおける「差別化戦略」とは?
マーケティングにおける差別化とは、市場における自社の商品やサービスの販売戦略と他社戦略の間に違いを生み出すことです。購買者や利用者を増やすことを目的としています。
市場における優劣は価格で決まるかというと、必ずしもそうとは限りません。そのような考えを払拭するためにも、まずは競争戦略の全体を踏まえつつ、本記事のメインテーマである「差別化戦略」の概要をおさえましょう。
マイケル・ポーターが提唱した競争戦略の一つ
「差別化戦略」は、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーターが提唱した3つの競争戦略のうちの一つです。ポーターによって提唱された競争戦略「コストリーダーシップ戦略」「集中戦略」「差別化戦略」について、それぞれ簡単に解説します。
コストリーダーシップ戦略
サービスや商品の価格を他社水準より下げる戦略です。販売価格を下げる分、利益確保のために生産過程でのコスト効率化が必要になるため、大規模生産による固定費の低減や組織構造のシンプル化による人件費の抑制などの手を打つ必要があります。
集中戦略
特定の市場やサービス・商品に経営資源を集中させて費用対効果を高める戦略です。ただし現代では、「選択と集中」が経営の基本であるという考え方が浸透しており、経営資源の特定分野への集中は他社との差別化を生むための戦略とは言い難くなっています。
差別化戦略
今回のテーマである「差別化戦略」とは、自社の商品・サービスが「他社のものとは異なる高い価値がある」と消費者に認知されるように差別化を図ることです。
現代ではさまざまな商品やサービスが市場にあふれており、消費者は膨大な選択肢から自身のニーズをもっとも満たすものを選択していく必要があります。しかし、「決定回避の法則」で指摘されているように、消費者は一見して違いが分からないものについては判断に迷ってしまい、結果的に購買活動をやめてしまいます。
消費者に「他社にはない高い価値がある」と思ってもらえるよう、他社と異なる自社の強みを明確に打ち出していくことが重要なのです。
差別化により消費に満足してもらうことが目的
差別化を図ろうとすると、競合他社と比較してどこに違いを見つけるか、という点だけに目が行きがちです。しかし、差別化戦略の目的は最終的に消費者に満足してもらうことにあります。「消費者にどのような価値を提供できているのか」という視点を忘れずに差別化を図ることが大事です。
差別化戦略の進め方
差別化戦略を実行していく際は、具体的にどのようなことから始めればよいのでしょうか。
ここでは、差別化戦略に必要な3つの基本要素を解説します。
消費者や業界のニーズを調査して把握する
まずは、消費者や業界のニーズをしっかりと調査しましょう。消費者のニーズを把握しなければ、差別化できても売り上げにつながりません。顧客ニーズに応えるためには当然、事前のリサーチが重要です。
消費者がどのようなものを欲しているかだけでなく、カーボンニュートラルやサステナビリティといった昨今の世論が業界に求める考え方など、企業が意識すべき要素はたくさんあります。さまざまな視点から「消費者や社会にどのような課題があり、自社ならどのような解決ができるか」を考え、商品やサービスに反映させることで差別化を図りましょう。
競合他社のリサーチをし、自社と比較する
次に重要なポイントは、競合他社のリサーチです。他社の商品やサービスをよく理解し、自社との違いを見出しましょう。
差別化を図るためには、まず競合他社を知ることが重要です。他社の優れている点、反対に弱みだと思える点をしっかり把握し、自社がどういう点で高価値を提供すれば明確に他社との違いを生み出せるかを考えます。その際、商品やサービスそのものの性質だけではなく、消費者の体験すべてに意識を向けましょう。
たとえばtoCの場合、店の立地や店内の雰囲気、商品のラインナップ、新商品を出すタイミング、使用している素材や材料、接客のスタイルなど、さまざまな要素が消費者の購買体験に影響を与えます。
一方toBの場合は、WebサイトやLPの視認性や問い合わせ対応、購入後のアフターフォローといった要素が購買体験に影響を与えます。これらの要素をよく観察することで、自社で推し進めるべき戦略が具体的に見えてくるでしょう。
自社の強み「USP」を洗い出す
最後のポイントは、自社の強み「USP」を洗い出して認識することです。USPとは「Unique Selling Proposition」の略語で、直訳すると「販売における特有の提案」という意味です。より分かりやすくいうと、「独自のセールスポイント」「顧客に対して自社だけが提供できる提案」という意味です。
USP理論はコピーライターのロッサー・リーブスによって1940年代に提唱され、1961年に発表されました。「強みやセールスポイント」という意味合いよりも、「顧客に対して自社だけが提案できる独自性」という意味合いが強い点が特徴といえるでしょう。
似た言葉に「コンセプト」がありますが、コンセプトは「自社が提案したいもの、打ち出していきたいもの」という意味で用いられる用語です。対してUSPは「自社が持つ、『消費者から見たときに有益となる独自性』」という視点に立っており、自社目線なのか消費者目線なのかという点で明確に異なります。
USPを作ると、強みを消費者にアピールする手段やキャッチコピーを考える際の材料になり、効果的な販促活動につながります。独自性を伝えるためにはどのような宣伝内容が効果的なのかということも併せて考えるとよいでしょう。
差別化を図るために役立つ手法
次に、差別化を図るために役立つフレームワークについて見ていきましょう。
マーケティング環境を把握・分析する「3C分析」
「3C分析」は、自社を取り巻くマーケティング環境を分析するのに有効なフレームワークです。市場を表す「Customer」、競合他社を表す「Competitor」、自社を表す「Company」の頭文字をとって3C分析と呼ばれています。
- Customer :市場や消費者のニーズを分析する
- Competitor:競合他社の強みや弱みを分析する
- Company :自社の強みを分析する
3C分析では差別化における基本の分析を行い、事業の方向性を見極めます。
市場における競争での優位性を把握する「VRIO分析」
2つ目のフレームワークは「VRIO分析」です。「Value(経済的価値)」「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の頭文字をとってVRIOと呼ばれています。人やモノ、カネ、情報、時間、知的財産といった自社が保有する経営資源に着目し、それぞれがどのような競争優位性を有しているかを「VRIO」の4つに分解して分析するフレームワークです。
- Value:「価値」
そのものにいくらの値が付くのかという観点ではなく、それらが顧客への価値創出につながっているか、あるいはそれらがあることで利益創出につながっているかという観点で判断されます。 - Rarity:「希少性」
その経営資源が市場において希少性の高いものかという基準で判断します。たとえば、立派な資格を持っている人材でも、競合他社を含めてその資格を有している人材がたくさんいる場合は希少性は低いといえます。逆に資格こそないものの、特定分野において非常に高度でスキル・実績を有している数少ない人材であれば、希少性は高いといえます。 - Inimitability:「模倣困難性」
同じものを競合他社が簡単に模倣できるかどうかという基準で判断します。たとえば、独自のビジネスモデルや自社固有の設備といった、自社にしかないものを他社が容易に真似できる場合は、すぐ他社に追いつかれてしまうため、自社の市場優位性は低いと判断されます。 - Organization:「組織」
「VRI」で評価してきた経営資源を組織全体で有効活用できているかという判断軸で評価します。つまり、業績を残せる良い組織であるかどうかという観点です。
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差別化を図るための考え方:3つの差別化軸
競合との差別化を図るためには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。ここでは、差別化のポイントとなる「3つの差別化軸」について解説します。
「3つの差別化軸」で自社に適した差別化の方向性を見定める
商品やサービスの差別化を実現するには、「3つの差別化軸」のいずれかに基づいて検討を進めることが重要です。3つの差別化軸は佐藤義典氏によって提唱されましたが、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマの共著『ナンバーワン企業の法則』で提唱された考え方がベースとなっています。
手軽軸:他社と比較して「早い・安い・便利」であること
商品軸:他社と比較して「高品質・最新技術」であること
密着軸:他社と比較して消費者の「個別」ニーズに応えること
それぞれの軸について詳しく見ていきましょう。
1.「早い・安い・便利」の手軽軸
「手軽軸」は、他社と比較して商品やサービスを「早く提供できるか」「安く提供できるか」「立地や使い勝手などが便利かどうか」といった観点で考える方法です。安さや早さ、手軽さは多くの消費者の判断基準に含まれるものであるため、広く活用することができます。ただし、この軸で差別化を図ろうとすると価格競争が激化しがちなため、注意が必要です。
2.「高品質・最新技術」の商品軸
「商品軸」は商品の質に着目するもので、他社より「高品質であるか」「新規性や独自性があるか」といった観点で差別化を図ります。この軸で差別化することができれば、その商品に価値を見出した消費者が購入するため、一定の価格を担保でき、安易な価格競争に陥らずに済みます。
ただし、競合他社が追随してくるため、新たな付加価値の創出や新技術の開発などが必要となる点を念頭に置いておきましょう。場合によっては、技術開発などのコストをどれだけ確保できるかということも重要になります。
3.「個別」のニーズに応える密着軸
「密着軸」では、柔軟性やカスタマイズ性の高さといった「それぞれの消費者にどれだけフィットするか」という観点で差別化を図ります。いわゆる「パーソナライズ」と呼ばれるものです。
手間やコストがかかる傾向にありますが、個別化された体験を好む消費者へのアピールに効果的です。この軸での差別化戦略は、消費者ニーズが多様化する現代社会に適しているといえるでしょう。
差別化した後は情報発信が必須
差別化軸に基づいて自社の差別化ができたら、最後にそれらの情報を発信する必要があります。当然のことですが、差別化を図ったからといって自然に購買数や頻度がアップするわけではありません。自社の商品やサービスについて消費者にもっとよく知ってもらうためには、適切なマーケティング活動や宣伝活動が必要です。
消費者に自社の情報を伝えるためには、自社のWebサイトやオウンドメディア、SNSやダイレクトメールなど、さまざまなアプローチ手段があります。すべての媒体に訴求するのではなく、自社のメインターゲットはどのような層なのかをよく見極め、その層に適切な媒体を中心に訴求するとよいでしょう。
差別化を図ってポジションを確立しよう
差別化戦略ではどうしても競合他社に目が行きがちですが、大事なのは、差別化によって消費者の満足度を高めることです。また、差別化に成功した後は、商品やサービスに関する情報発信も忘れずに行いましょう。効果的な情報発信の例としては、自社商品やサービスがどんな企業にどのように導入されたかを紹介する導入事例の公開が挙げられます。
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