顧客の抱えている興味や課題に沿って商品やサービスを提供する顧客主導型のマーケティングが隆盛な現在、自社サイトやブログといったオウンドメディアの役割が重要になっています。ただし、オウンドメディアを活用する際、目的や目標を決めずにただサイトやブログを立ち上げただけでは、思うような効果は得られません。
今回はオウンドメディアを運用する際に重要な指標となるKPIの設定について解説します。
KPIとは?オウンドメディアとは?
まずは、KPIとオウンドメディアについて解説します。
KPIとは
そもそもKPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」「重要経営指標」「重要業績指標」などと訳されます。経営戦略における目標達成の指標の一つですが、最終目的に対する指標ではなく、そこに至るプロセスの指標として使われます。
例えば、次の四半期の売上目標を5,000万円に設定したとしましょう。
この売上目標を達成するための戦略の一つとしてオウンドメディアを立ち上げ、週間目標を2万アクセスとしました。
この場合、最終の売上目標5,000万円を達成できたかどうかの指標ではなく、それを達成するための手段・プロセスであるオウンドメディアのアクセス数がKPIになります。このようにKPIの設定はオウンドメディアの活用に非常に重要な役割を担います。
ちなみに上記の例で、売上目標5,000万円が達成できたかどうかはKGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)という指標になります。
オウンドメディアとは
オウンドメディア(Owned Media)とは広報の種別である「トリプルメディア」の一つです。文字通り自社で所有するメディアを意味し、カタログやパンフレット、自社運営のサイトやブログなど、自社でコントロール可能なメディアを指します。
オウンドメディアは、自社や商品、サービスの認知拡大(ブランディング)、見込み客(リード)の獲得に利用されることが多く、自社主導で行えるため比較的低コストで運用できるメリットもありますが、効果が表れるのに時間がかかるというデメリットもあります。
また、オウンドメディアは経営目標を達成するための手段・プロセスとして活用されます。KPIの設定は主にプロセスの達成度指標とされますので、オウンドメディアとKPIは切っても切れない関係といえます。
なお、他のトリプルメディアには、新聞やテレビ、ラジオなど有料で広告を配信するペイドメディア(Paid Media)、TwitterやFacebookなどのSNSに代表されるアーンドメディア(Earned Media)があります。
トリプルメディアについては以下の記事で詳しく説明しておりますので、併せてご覧ください。
≫トリプルメディアとは?各メディアの特徴や運用のポイントを紹介
オウンドメディアにおけるKPIの正しい設定方法
オウンドメディアのKPIの設定について、新商品の販売用ECサイトを例に説明しましょう。
- プロジェクト:新商品の販売に関して特設Webページを起ち上げ、Webページ上で成約させる
- KGI:オンラインでの成約数150件
KPIを設定する際、最終的な目標であるKGIより逆算して設定するとわかりやすくなります。事例のように新商品の成約者数をオンラインより150人獲得するというKGIがあった場合、特設Webページにどの位のアクセスがあれば達成できるか、この数値設定がKPIの一つとなります。
もちろん、それだけではありません。具体的に見ていきましょう。
トップダウンで設定していく
- 成約数150件(KGI)=訪問者数(KPI)×成約率(KPI)
- 訪問者数(KPI)=新規訪問者(KPI)+リピート訪問者(KPI)
- 新規訪問者(KPI)= 検索からの訪問者(KPI)+外部リンクからの訪問者(KPI)+・・・
というようにトップにある成約数150人というKGIから逆算し、分解しながらKPIを設定していきます。
- 成約者数150人を達成するためには過去の自社のWebページでの成約率を見ると2%なので訪問者数は7500人が必要だ。訪問者数のKPIは7,500人、成約率は2%に設定しよう。
- 訪問者数7,500人を達成するためには過去のリピート訪問者率が25%なので新規訪問者のKPIは6,000人必要だ。
- ・新規訪問者6,000人を達成するためには過去の検索からの訪問者割合が75%なので外部リンクからの訪問者数は1,500人位は必要だ。
このように設定していきます。
KPI設定の重要性
オウンドメディアは新聞やテレビ、ラジオ広告といったペイドメディアと違い、効果が表れるのに時間がかかるため、目標を設定しておかないとプロジェクト半ばでメンバーのプロジェクトに対する意識が薄れてしまいます。
また、数値測定をしないと効果測定ができず、自社主導で行うため目標値や指標を決めておかなければ、外部からの提案もないのが前提ですので、改善するべきタイミングを逃してしまいます。後述しますが、PDCAサイクルでプロジェクトを回すにもKPIの設定は重要です。
オウンドメディアの優れている点は、PV(ページビュー)数やCV(コンバージョン)数など、具体的な数値を測定するのが簡単かつ正確に行えることにあります。新聞やテレビ、ラジオなどの広告は即効性はありますが、コストが高く、また効果測定数値は大まかすぎて正確とは言えません。また自社主導で行えるので実証実験を繰り返すなどでKPIを達成するための改善施策を行うことが容易です。
KPIの設定ポイント
オウンドメディアを使ったプロジェクトにKPIを設定していくにあたり、以下の4点に気をつけるとより効果的です。
1. 具体的で明確なものにする
誰が見ても違った解釈にならないように具体的で明確なものにします。上記の例だと単に訪問者数7,500人と設定すると新規訪問者数なのかリピート訪問者数なのか分かりませんが、それぞれの訪問者数を明確にし、合わせて7,500人とすると誤解を招きません。
2. 高すぎず低すぎない目標数値を設定する
現実的でない数値を設定しても絵に描いた餅になりますし、メンバーのモチベーション低下にもつながります。逆に低すぎると、KPI達成のための努力を怠るかもしれません。過去の実績と現状、将来の展望を加味し、プロジェクトメンバーの意見を聞きながら達成が可能な指標に設定します。
3. ステップを細かく分解する
プロジェクト全体を出来るだけ細かく分解し、それぞれにKPIを設定することによって、より具体的に何をすればいいのかが分かります。また、プロジェクトメンバーそれぞれが自分の役割を認識できるようになります。
4. KPI設定はツリー図にする
更に文字だけでは分かりにくいので、下図のようにツリー図にすることを勧めます。
こうして見ると、最終目標であるKGIは掛け算と足し算で構成されているのが分かります。
ツリー図を作成する際のポイントは、このように加減算、掛け算、割り算といった簡単な四則演算程度で表現すること(チームの誰が見ても勘違いが起きにくい)と、出来るだけ単位(上図では「人」)を合わせることです。
KGIを達成するためにそれぞれのKPIを設定するのですが、例えば第3段階の「新規訪問者数+リピート訪問者」のところで、新規訪問者のKPIが6,000人、リピート訪問者のKPIが1,500人と設定したとします。リピート率が過去の実績25%を上回り、30%で推移しているとすると「この調子なら新規訪問者数は5,250人で達成できるな」というように、効果が非常に見通しやすくなります。
KPI設定によるPDCAの回し方
PDCAと表現される「Plan(計画)」→「Do(実行)」→「Check(確認)」→「Action(改善)」のサイクルは継続的な仕事の改善のために使われますが、オウンドメディアはこのPDCAサイクルと親和性が高いメディアと言えます。自社主導で行えることと、具体的に正確な数値で効果が見えるからです。
ただし、オウンドメディアでPDCAサイクルを回すには、メディアの特性に応じて適切にKPIを設定する必要があります。
オウンドメディアがECサイトの場合
ECサイトは商品の販売を目的としていますので、「売上=訪問者数 × コンバージョン率 × 単価」という数式が成り立ちますが、PDCAサイクルを回すには、KPIの設定はこの数式にある項目をさらに深堀して、より具体的なものにするとよいでしょう。
例えば、「検索エンジンからの訪問者数を10%増やす」「一回当たりの購入数を1.2個から1.3個に増やす」「リピート購入者割合を18%から20%に増やす」「カートへの遷移率を10%から15%にする」などが適切です。
オウンドメディアがリード(見込み客)獲得サイトの場合
リード獲得を目的としているサイトの場合は、サイトでアンケートを取り、営業マンが電話や訪問で完結するなどサイトのみで完結出来ない場合もあり、サイトに関するKPIのみでは不十分なケースもあります。
ただし、例えば「一日当たりのユニークユーザー数150人を200人にする」「アプローチ後の成約率15%を20%にする」「セミナーへの動員数200人を250人にする」などであれば、PDCAサイクルで回す際には適切です。
オウンドメディアが商品やサービスのサポートサイトの場合
サポートサイトの場合は、他のサイトとは違い、いかに早く問題解決してくれるか、あるいは電話サポートではなくサイトでの対応だけで完結できるか、などがテーマです。
こういったサイトの場合、「サポートページへのユーザー満足度を55%から70%にする」「電話サポート割合を15%から10%にする」「サイトの滞在時間5分20秒を3分00秒にする」などが適切です。
まとめ
今回はオウンドメディアにおけるKPIの役割、重要性、適切な設定法などに関して紹介しました。KPIは、ことビジネスに限らず、何か目的を達成しようとする時に非常に重要な指標を示してくれます。
例えば、3年後にマンションを購入するのに頭金のためにあと300万円貯金しなければならない(KGI)。そのために毎月の収入から5万円を貯金に回す(KPI)。ボーナスからの貯金を更に3万円増やす(KPI)。奥様もパート収入から毎月5万円を貯金する(KPI)という場合と、適切なKPIの設定がKGIを実現してくれるという意味では同じです。
なお、オウンドメディアの活用方法としてインバウンドマーケティングが注目されています。興味のある方はぜひ、以下のリンクをご参照ください。