SaaSビジネスでは、収益性を測る指標としてARPU(Average Revenue Per User)が注目されています。ARPUは1ユーザーあたりの平均収益を示し、事業の成長性や安定性を把握するうえで欠かせない指標です。
また、ARRやARPAと組み合わせて活用することで、収益モデルの改善ポイントを明確にし、効果的な意思決定をサポートします。
この記事では、ARPUの定義や計算方法、ARRやARPAといった指標との違いを詳しく解説します。ARPUを向上させるための実践的なポイントについてもふれますので、ぜひ参考にしてください。
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ARPU(アープ)とは
ARPUとは、「Average Revenue Per User(ユーザーあたりの平均収益)」の略語です。SaaSビジネスにおける収益性を測る基本的な指標のひとつとなっています。
ここでは、ARPUの定義や重要性について、詳しく解説します。
ARPUの定義
ARPUは、1ユーザーあたりの平均売上を示す指標です。SaaSビジネスの成長性や収益性を測るうえで重要な役割を果たします。たとえば、月額課金型サービスでは、顧客がもたらす毎月の利益を明確にすることで、戦略的な意思決定に役立てられます。
基本的には以下の計算式で求めます。
しかし、ビジネスモデルによって、適切な計算方法が異なるため注意が必要です。
ARPUを活用しやすいビジネスモデルは、主に以下の4つです。
- ユーザー課金モデル
- 広告表示課金モデル
- クリック課金型広告モデル
- SaaSビジネスモデル
どのモデルであっても継続的な利用が収益に直結するため、ARPUは顧客の価値を数値化するための有効な指標だといえるでしょう。
ARPUがSaaSビジネスで重視される理由
近年、SaaSビジネスでは競争が激化し、新規顧客の獲得が難しくなっています。そのため、既存のユーザーから得られる収益を最大化するために、ARPUが重要視されている状況です。
また、ARPUは企業の市場での立ち位置を把握する指標として有効です。高いARPUを維持できれば、競合に対して優位性を示し、逆にARPUが低い場合は戦略的な改善が必要であることが分かります。
ARPUを基準にして、クロスセルやアップセルの機会を見極めることもできます。既存顧客に対して追加サービスを提案すれば、収益が向上するでしょう。このように、ARPUは単なる収益指標にとどまらず、成長戦略を支える重要な要素となります。
ARPUのモデルと計算方法
ARPUを正しく理解するには、ビジネスモデルごとの計算方法を把握しておく必要があります。課金モデルによって適した計算方法が異なるため、ここでは代表的な4種類の課金モデルと計算式、具体例について見ていきましょう。
ユーザー課金モデル
ユーザー課金モデルは、サービスの利用に応じて利用者に直接課金される仕組みです。動画配信サービスやオンラインゲームなどでよく採用されているビジネスモデルです。ユーザー課金モデルでは、実際に課金している利用者数やその支払い金額を基に収益が計算されます。
ユーザー課金モデルのARPUは、以下の式で計算可能です。
たとえば、あるアプリで全体の30%のユーザーが月に1回、1,000円を課金すると仮定します。この場合、ARPUは次のように計算できます。
- ARPPU = 1,000円 × 1回 = 1,000円
- ARPU = 1,000円 × 30% = 300円
この場合のARPUは300円です。
広告表示課金モデル
広告表示課金モデルは、ユーザーが広告を表示するたびに収益が発生する仕組みです。主にWebサイトやアプリで利用され、広告主は表示回数に応じて支払います。
広告表示課金モデルでは、ARPUを次の式で計算します。
CPMは1,000回広告が表示されるごとに得られる収益です。エンゲージメントは、1ユーザーが広告を表示した回数を意味します。
たとえば、1,000回の広告表示で500円の収益が得られ、1ユーザーが1日5回、1ヶ月(30日)で合計150回広告を表示する場合、ARPUは次のように計算可能です。
- ARPU = 500円 × 150回 ÷ 1,000回 = 75円
この場合のARPUは75円です。
クリック課金型広告モデル
クリック課金型広告モデルは、ユーザーが広告をクリックするたびに収益が発生する仕組みです。検索エンジン広告やディスプレー広告などの場面で利用されています。
クリック課金型広告モデルのARPUは、次の計算式で求めることが可能です。
たとえば、1クリックあたりの収益が20円、広告が100回表示されとしましょう。そのうち1回クリックされた場合、クリック率は1%です。この条件を基にARPUを計算すると、次のようになります。
- ARPU = 20円 × 1% = 0.2円
この場合のARPUは0.2円です。
SaaSビジネスモデル
SaaSビジネスモデルは、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、ユーザーが定期的に料金を支払う仕組みです。多くの場合は、企業全体で利用されるため、個人単位ではなく、アカウント単位で収益を評価します。
そのため、ARPU(ユーザー単位の平均収益)ではなく、ARPA(アカウント単位の平均収益)を用いるのが一般的です。
SaaSビジネスモデルのARPAは、次の計算式で求められます。
たとえば、月次定期収益が50万円、契約中のアカウント数が50件の場合、ARPAは以下のとおりです。
- ARPA = 50万円 ÷ 50アカウント = 1万円
この場合、1アカウントあたりの平均収益は1万円です。
ARPUと似た用語(ARPA・ARPPU・ARR)の違い
ARPUに似た指標はいくつか存在し、それぞれが異なる視点から収益を評価します。ARPUとよく混同されるARPAやARPPU、ARRの違いを解説し、それぞれの指標がどのように活用されるかについて見ていきましょう。
ARPUとARPAの違い
ARPUとARPAは、どちらも「平均収益」を示す指標です。ただし、その評価基準は異なります。ARPUは1ユーザーあたりの収益です。対して、ARPAは1アカウントあたりの収益を示します。
とくに企業向けのSaaSビジネスモデルでは、1アカウントが複数のユーザーを持つことが一般的です。そのため、ユーザー単位の指標であるARPUよりも、アカウント単位の指標であるARPAが重視されます。
たとえば、月間売り上げが100万円、契約アカウント数が50の場合、ARPAは次のように計算できます。
- ARPA = 100万円 ÷ 50アカウント = 2万円
計算の結果、1アカウントあたりの収益は2万円です。
ARPUとARPPUの違い
ARPUとARPPUは、どちらも「1人あたりの収益」を示す指標です。しかし、その対象が異なるため、収益を計算する方法が異なります。ARPUは全ユーザーを対象にするのに対し、ARPPUは課金ユーザーに限定して収益を計算します。
この2つの違いは、無料トライアルを提供しているビジネスモデルで重要です。無料ユーザーが多い場合、全ユーザーを対象とするARPUでは収益の実態が正確に反映されないことがあるためです。
たとえば、月間売上が50万円、課金ユーザー数が1,000人の場合、ARPPUは次のように計算されます。
- ARPPU = 50万円 ÷ 1,000人 = 500円
計算結果から、1人あたりの平均収益は500円となります。
ARPUとARRの違い
ARPUは、ユーザーごとの月次の平均収益を示す指標であり、通常、短期的な収益の傾向を把握するのに役立ちます。一方で、ARR(Annual Recurring Revenue)は、年間ベースでの定期収益を評価する指標です。
ARRは、長期的なビジネスの成長や安定性を評価するために使われることが多く、1年間を通じた安定した収益の確保を示すものです。
たとえば、月次定期収益が10万円の場合、ARRは以下のように計算されます。
- ARR = 10万円 × 12 = 120万円
この計算では、年間の定期収益が120万円です。
ARPUの向上に欠かせない指標
ARPUはSaaSビジネスにおいて重要な指標ですが、その向上にはほかの指標の活用が欠かせません。とくに、顧客満足度(NPS)や顧客生涯価値(LTV)は、ARPUを高めるために注目すべき重要な要素です。ARPUの向上に貢献するNPSとLTVについて解説します。
NPS
NPS(ネットプロモータースコア)とは、顧客満足度を測る指標です。顧客が自社サービスを他者に推薦したい意欲を示します。
NPSスコアは、顧客のロイヤルティーを反映しており、スコアが高い顧客ほどサービスを長期間利用する傾向があります。そのため、顧客がサービスを長期的に利用することで収益の安定が得られ、ARPUの向上につながるといえるでしょう。
NPSは、顧客に「このサービスを友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」という質問を行い、回答を0から10の11段階で評価します。評価結果に基づき、顧客は次のように分類されます。
- 9-10:プロモーター(サービスを積極的に推薦する顧客)
- 7-8:パッシブ(推薦の可能性が低い顧客)
- 0-6:ディトラクター(サービスに不満を持っている顧客)
NPSスコアの計算式は以下のとおりです。
高いNPSスコアは、サービスのロイヤルティーや顧客維持率に直結し、最終的にARPUを引き上げる結果となります。
LTV
LTV(ライフタイムバリュー)は、顧客が生涯にわたって企業にもたらす総収益を示すものです。LTVが高いほど、1顧客あたりの収益が安定して確保され、ARPUの向上にも寄与します。
LTVを高めるには、顧客満足度を高め、継続的な利用を促進することが重要です。ターゲット顧客をLTVの高い層に絞ることで、収益の安定性とARPUを最大化できます。
LTVの計算式は以下のとおりです。
たとえば、以下のような条件を計算式に当てはめてみましょう。
- 平均顧客単価が5,000円
- 収益率が80%
- 購買頻度が年12回
- 継続期間が3年
上記の場合、以下のような計算になります。
- LTV = 5,000円 × 0.8 × 12回 × 3年 = 14万4,000円
このように、高いLTVは顧客維持コストを抑え、ARPUの向上につながります。
ARPUを最大化させるためのポイント
ARPUを向上させるためには、顧客体験を向上させつつ収益を増やす工夫が必要です。以下の施策は、顧客満足度を維持しながら収益を効率的に引き上げるための基本的かつ効果的な方法です。
これらの施策について詳しく解説します。
無料ユーザーとの違いの明確化
無料プランと有料プランの差別化は、ユーザーが有料プランを選ぶ大きな動機の1つです。有料プランの魅力を高めるには、無料プランでは利用できない高度な機能や特典を明確に伝える必要があります。
たとえば、無料プランに利用回数や機能に制限を加えれば、有料プランの利便性が際立つため、より魅力的に感じられるはずです。また、無料ユーザーには有料プランのメリットや具体的な活用例を示すことで、アップグレードの価値を実感してもらいやすくなります。
このように、無料プランとの差別化を進めることで、ユーザーの移行を自然に促進できます。
アップセル・クロスセルの実施
既存顧客に対するアップセルやクロスセルは、収益を効率的に増加させる戦略です。アップセルでは、顧客に対してより高額なプランや追加機能を提案します。ストレージ容量の増加や優先サポートの付加を提供すれば、顧客はより高い価値を感じ、より高いプランへの移行が促進されるでしょう。
一方、クロスセルでは、顧客が利用しているサービスに関連する商品や機能を提案します。たとえば、分析ツールを使用している顧客に、レポート自動化機能を追加で提供することが考えられます。
これらの戦略を活用することで、顧客が現在利用しているサービスの価値を高め、ARPUの向上にもつながるでしょう。ただし、顧客のニーズに合わせた提案が前提となるため、詳細な顧客分析も大切です。
カスタマーサクセスの推進
カスタマーサクセスは、顧客満足度を高め、長期的な利用を促進するための施策です。顧客が問題に直面する前に予測し、解決策を提供することで負担を軽減し、サービスの利用がスムーズになるよう支援します。
また、定期的なフォローアップも重要です。顧客と継続的にコミュニケーションを取り、利用状況を確認することで、早期に課題を把握できます。加えて、他の顧客の成功事例を紹介すれば、サービスの価値を再認識してもらえるでしょう。
ユーザーが十分にサービスを活用できていない場合、サポートが個別に提案を行うことでロイヤルティーが高まり、アップセルの機会が生まれます。これらの施策は、顧客満足度や長期契約の向上につながります。
課金ポイントの改善と購入頻度向上
課金ポイントの見直しと購入頻度の向上は、ARPUを高めるための重要な施策です。従量課金制や年間契約割引など、柔軟な料金プランを提供することで、より多くのユーザーを取り込めます。
また、コア体験に沿った課金ポイントの設定も課金促進に効果的です。購入頻度を向上させるためには、リマインダー機能や割引クーポンを活用し、顧客に再購入のきっかけを与えられます。再購入時にリコメンドを行う方法も有効です。
これらの施策を実施すれば、ユーザーあたりの収益を効率的に増加させ、安定した収益基盤を築けます。
ARPUの改善を図ってSaaSビジネスを成長させよう
SaaSビジネスの成長には、ARPUの向上が欠かせません。無料プランと有料プランの差別化、アップセル・クロスセル戦略の強化、カスタマーサクセスの推進などを実行することで、ARPUを効率的に最大化できます。これらの施策を通じて顧客との関係を深め、より多くのユーザーに価値を提供していきましょう。
また、SaaSビジネスにおいてCRM(顧客関係管理)ツールの活用は不可欠です。HubSpotは顧客データを一元管理し、マーケティングや営業活動を効率化する強力なツールです。SEデザインでは、HubSpotが日本進出した当初から、HubSpotの導入支援を行っています。
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