PingCAPが提供する次世代データベース「TiDB」とは──柔軟性と高可用性でデータ活用を支える新しい選択肢

更新日:2025-09-12 公開日:2025-09-12 by SEデザイン編集部

目次

本記事では、AWSパートナーを検討されている方に向けて、「AWSソフトウェアパスとは?導入企業が知っておきたい信頼性の指標」で取り上げた企業の実際の取り組みを、個別にご紹介していきます。今回は、PingCAP株式会社についてお伝えします。

クラウドの普及やAIの進化により、企業システムには柔軟性と高い可用性が求められています。特にデータベースは、ビジネス成長に伴うアクセス増加や複雑化する分析ニーズに即応できることが欠かせません。こうした課題に応える存在が、PingCAPの分散型データベース「TiDB(タイディービー)」です。

OSS(オープンソースソフトウェア)として誕生したTiDBは自由度と拡張性を備え、さらにマネージドサービス「TiDB Cloud」により運用負担を軽減した形でも利用可能です。2つの選択肢を持つことで、幅広い企業ニーズに応えています。

※こちらの記事は、2025年8月に実施した、PingCAP株式会社の代表者およびご担当者様へのヒアリングをもとに作成しております。

 

なぜPingCAPは世界から注目されるのか

PingCAPは2015年に設立、シリコンバレーに本社を置く、次世代データベースの研究開発と提供を専門とするテクノロジーカンパニーです。

世界規模での事業展開を進めるなか、2021年に日本法人が設立されました。国内では、企業向けのサポートや導入支援を強化し、日本市場の特性や業界ニーズに応える体制を整えています。スタートアップながら、Gartnerでの高い成長評価や業界イベントでのランキング上位獲得など、グローバルに存在感を示しています。

PingCAPのミッションは「ユーザーが複雑なインフラ設計に煩わされず、データ活用に専念できる環境を提供すること」。OSSとしての「TiDB」と、マネージドサービスの「TiDB Cloud」の両輪で、企業のデータ活用を支援しています。

 

OSSとマネージドの“二刀流”で広がるTiDBの可能性

TiDBはOSSとして自社で運用することはもちろん、マネージドサービスとして提供されるTiDB Cloudの2つの形で利用できます。

TiDB

「TiDB」はオープンソースの分散型リレーショナルデータベース(RDB)です。名前の由来はチタン(Titanium)の元素記号「Ti」にあり、「チタンのように堅牢なデータベース」を意味します。ソースコードはGitHubで公開され、Apache 2.0ライセンスのもと、商用利用や拡張も自由に行うことが可能です。

MySQL互換を持ち、水平スケーラビリティや高可用性を備えています。さらにHTAP(トランザクション処理と分析処理の統合)に対応し、クラウドネイティブなアーキテクチャを採用しています。

TiDB Cloud

マネージドサービスである「TiDB Cloud」は、TiDBを基盤とし、クラスタの構築から監視、スケーリング、セキュリティ対応までを一括してクラウドで提供します。そのため、利用者はインフラ運用を気にすることなくデータ活用に集中できます。

また、TiDB Cloudは下記2つのラインナップで提供されています。

Starter(共有型)

開発や検証などの小規模利用に適しており、初期投資を抑えてスモールスタートできます。完全従量課金制のため、コスト管理がしやすいのも特長です。トライアルや新規プロジェクトの立ち上げ時に、リスクを抑えて導入できる利点があります。

Dedicated(占有型)

冗長構成が標準で備わっており、複数のアベイラビリティゾーン(AZ)に自動分散配置されることで、障害時にも高い可用性を維持できます。さらに、VPC PeeringやPrivate Linkといったセキュアな接続方法に対応し、通信をインターネットに出さない閉域接続が可能です。金融や公共サービスなど、堅牢性とセキュリティを重視するシステムで多く採用されており、エンタープライズ要件が求められる場合の利用に適しています。

市場でも高い評価を獲得

OSSの自由度とクラウドの利便性を両立できる点で独自の立ち位置を築いています。Gartnerの調査ではデータベース分野で2年連続90%以上の高成長を記録しており、国内イベント「db tech showcase」でも2022年から4年連続で「今後使用したいデータベースランキング」第1位に選ばれ、企業ユーザーから高い支持を得ています。

なぜTiDBは“止まらない”のか ― 新世代データベースの魅力

TiDBが注目される理由は、従来のデータベースでは難しかった拡張性と可用性を両立している点にあります。本章では、TiDBの技術的特長と利便性を紹介します。

柔軟な拡張性 ― 水平方向のスケーラビリティ

TiDBの最大の特徴は、従来のリレーショナルデータベースでは難しかった「柔軟な拡張性」と「無停止での運用」を同時に実現している点です。ノードを追加するだけで処理能力を拡張でき、不要になれば縮小も可能なだけでなく、稼働中に停止する必要がありません。これにより、ECサイトのセールや新規ゲームのリリース時など、アクセスが急増するタイミングにも柔軟に対応できます。

高可用性 ― 3AZ分散による堅牢性

TiDB Cloudはクラスタを自動的に3つのアベイラビリティゾーン(AZ)に分散配置した状態で提供しています。1つのゾーンに障害が発生しても他のゾーンで稼働を続けられるため、追加の設計や特別な運用が不要です。ユーザーは障害対策を意識せずに、本番から開発まで一貫した環境を利用できます。

3AZ分散出典:PingCAP株式会社「TiDB Cloudの紹介」より抜粋

HTAP ― トランザクションと分析を一体化

TiDBはHTAP(Hybrid Transactional/Analytical Processing)を実現しています。トランザクション処理(OLTP)と分析処理(OLAP)を1つのプラットフォームで実行できるため、データウェアハウス連携やETL(データ移行処理)が必要ありません。運用コストを削減しつつ、リアルタイムなデータ分析で意思決定を加速できます。

AIとの親和性

近年注目されているのがAIとの連携です。代表的な機能のひとつに 「Text-to-SQL」 があります。これは自然言語で入力された質問を、AIが自動的にSQLクエリへ変換する仕組みです。これにより、SQLの知識がないビジネス担当者やアナリストでも、データに直接アクセスして必要な情報を得られるようになりました。

TiDB_2

出典:PingCAP株式会社「TiDB Cloudの紹介」より抜粋

また、PingCAPが提供する「OSS Insight」では、GitHub上のオープンソースプロジェクトのデータを解析し、自然言語からプロジェクト動向を即座に把握できます。OSSの柔軟性とマネージドサービスの即時性を活かし、データベースとAIを組み合わせた新しい活用の可能性が広がっています。

事例から読み解く、TiDBが選ばれる理由

TiDBの強みは先述の通りですが、本章ではゲーム業界と社会インフラ領域での活用事例をそれぞれご紹介します。

リンク先から事例の詳細がご覧いただけますので、この機会にぜひご覧ください。

ゲーム業界の活用事例 - カプコン

当初想定していたデータベースの数や規模からすると、現状はかなり低コストに抑えられているという。特にゲームのようにユーザー数や負荷が変動しやすいシステムに対し、TiDBは非常に相性が良く、期待以上の費用対効果を発揮していると評価する。また、「アップデートでカラムを追加する際、ユーザー数が多いためレコード数も相当数あったのですが、コンマ何秒という速さで完了できました」と、TiDBの利点を挙げた。

出典:なぜカプコンは超人気ゲームにTiDBを選んだのか?モンスターハンターワイルズを支えるDB基盤に迫る

社会インフラ領域での活用事例 - 東京ガス

当初、アプリケーションはPostgreSQLを採用し、O/Rマッパーを利用してデータベースにアクセスすることで、PostgreSQL固有の機能には依存しないように構築していたという。そのためPostgreSQLからTiDBに切り替えてみたところ、「MySQL用にドライバを変えた程度でほぼ動いた」と迫田氏は説明する。MySQLとの互換性は高く、アプリケーションにもほとんど手を加えることなく動作したのだ。過去には「互換性のある」他のデータベースで期待通りの動作が得られず、手作業での対応が必要になった経験があったといい、TiDBの「ほぼ完璧に動いた」という結果は、TiDBを採用する決め手となった。

出典:東京ガス、「myTOKYOGAS」の開発内製化をTiDBで加速 エンジニアが事業を動かす環境へ

AWSとつながる安心感 ― 日本企業が導入しやすい理由

TiDB CloudはAWS、Azure、Google Cloud上で提供され、既存のAWS環境とシームレスに統合できます。大きなメリットはセキュアな接続です。VPC PeeringやPrivate Linkに対応しているため、高いセキュリティ要件が求められるサービスでも安心して導入できます。

さらに、AWS Marketplace経由での請求統合にも対応しているため、既存のAWSアカウントを経由して利用料をまとめて支払うことが可能です。また、クラスメソッドやiretといった国内のパートナーと提携しているため、パートナーを介してAWSの請求代行を利用する企業の導入にも適しています。

PingCAPが拓くTiDBの可能性

PingCAPはこれまで、ゲーム、EC、金融といった分野で導入実績を積み重ねてきました。今後は既存業界でのシェア拡大に加え、製造業への展開を強化していく方針です。製造業は日本の基幹産業でありながら、クラウドや最新データベース技術の活用がまだ十分に進んでいない領域です。TiDBの柔軟性と高可用性を活かし、製造現場やサプライチェーンでのデータ活用を後押ししていきます。

また、技術面ではAIとのさらなる連携強化に注力する予定です。すでに自然言語からSQLを生成する「Text-to-SQL」や、ベクトル検索を活用したデータ連携機能を提供していますが、今後は生成AIや大規模言語モデルとの統合をさらに進める計画です。データベースとAIをより密接に結びつけ、企業のデータ活用の幅を広げていきます。

データベースの常識を変える存在、それがTiDB

TiDBは、スケーラブルで無停止、かつ高可用性を備えた次世代データベースとして、多様な業界で導入が進んでいます。OSSの柔軟性とクラウドの利便性を併せ持つ点が最大の特長です。クラウドやAIが前提となる今、TiDBは次世代のデータ基盤を象徴する存在といえるでしょう。

 

会社概要

会社名

PingCAP株式会社

日本法人所在地

東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYOTORCH 常盤橋タワー 9F

設立

2021年3月17日

代表者

代表取締役社長 Eric Han

事業内容

「TiDB」の開発・サポートサービスの提供
マネージドサービス「TiDB Cloud」の提供
・TiDB Cloud Starter
・TiDB Cloud Dedicated

 

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