コンテンツマーケティングの重要性が高まるなか、導入事例を提示することで、企業の信頼性向上とコンバージョン率の向上に大きく貢献できます。しかし、導入事例の形式や提示後の指標についてあまり把握できていないという企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、これまで2,500件以上の事例取材を行ってきたSEデザインが導入事例制作の基本的知識や導入のメリット・デメリット、評価指標、制作時の注意点などを詳しく解説します。
導入事例の基礎知識
ここでは、導入事例に関する基本知識をおさらいしておきましょう。導入事例の形式には複数の形式がありますので、顧客のニーズに合わせるだけでなく、自社の専門性をアピールできる形式を選ぶ必要があります。
導入事例とは
導入事例とは、自社の製品やサービスを導入した企業の声やその導入によって得られた効果、課題解決のプロセスなどをわかりやすくまとめたコンテンツのことです。
記事や動画などで、具体的な課題から成果、今後の展望などをわかりやすく解説し、導入を検討している企業の意思決定を後押しすることができます。
導入事例の種類
導入事例と一言で言っても、さまざまな種類があります。
導入事例は「どのような課題解決・目的のために導入したのか」によって、どのようなストーリー構成に巣るのかを効果的に使い分ける必要があります。以下が課題・目的別の導入事例の型です。
- 業務課題 解決型:
財務会計、営業、生産、販売、サプライチェーンなど、業務上の課題を解決した事例 - 経営課題 解決型:
データドリブン経営、意思決定の高度化など、経営課題の解決に焦点を当てた事例 - 業種課題 解決型:
特定の業界特有の法規制・ルール、商習慣への対応を取り上げた事例 - エコシステム型(業種横断型、官民の連携型):
業種や官民の垣根を越えた協業、新たなエコシステムの中で生まれたビジネスモデルを紹介する事例 - 社会貢献型(社会課題の解決):
脱炭素など、財務目標以外の社会貢献(非財務目標への取り組み)に焦点を当てた事例 - テクノロジー特化型:
生成AIなど、新しい技術のパフォーマンスを強調した事例
また、実際のアウトプットをどのようにまとめるかという、編集方法にも複数の形式があります。
- 第三者視点の読み物形式:
第三者の客観的な視点で書かれた記事 - インタビュー形式:
ライターとインタビュー対象者のQ&A形式の記事 - 対談形式:
ITベンダーとユーザー企業の対談など。座談会形式も含まれる - 動画形式:
インタビューやデモンストレーションなどを動画形式でまとめた事例
導入事例の型や種類については、「導入事例がもたらす価値と制作・活用の基礎知識【社内インタビュー】」で詳しく説明しています。併せてご覧ください。
導入事例が求められる背景
デジタルマーケティングの発展によって、製品やサービスの選択肢が多くなった市場では、顧客はより多くの情報を得てから購入を検討する必要性が出てきました。
また、潜在顧客の意思決定においては、具体的な成功事例を求める傾向が強まってきています。とくにBtoB分野における製品・サービスは、投資額が大きく、導入の意思決定に慎重な検討を要します。
そのため、実績のある企業の具体的な成功体験が、重要な判断材料として求められている状況です。
導入事例を制作するメリット
ここでは、導入事例を制作することで得られるメリットについて見ていきましょう。導入事例を有効に活用することで、企業の信頼性や専門性のアピールにつながります。
製品・サービスの信頼性が高められる
導入事例は、実際の顧客の体験や成功事例を共有することで、製品・サービスの有効性や信頼性を高められます。加えて、ブランドへの信頼感を醸成する重要な役割も果たします。
第三者である顧客企業からの評価は、製品・サービスの有効性を示すエビデンスです。自社の広告よりも説得力があり、見込み客に強いインパクトを与えることは間違いありません。また、顧客が抱えていた課題やその解決に至った過程を具体的に示すことで、ほかの見込み客にも信頼できる選択肢であることをアピールできます。
多くの導入事例を掲載することで、製品・サービス導入に対する不安を解消し、購入を決断する後押しもにもなるでしょう。
コンバージョン率の向上が期待できる
導入事例は、実際の顧客が得た具体的な効果や課題解決のプロセスを数字や実績とともに示すため、以下のような効果を得やすくなります。
- 導入プロセスやサポート体制に不安があっても明確に把握できる
- 成功体験やメリットだけでなく、同様の課題に対するアプローチ方法が明確になり、期待感を高められる
これらの効果により、コンバージョン率の向上が期待可能です。
営業やイベントにも活用できる
導入事例は、営業資料やプレゼンテーションにおいても強力なツールとなります。実際の成功事例を通じて、商品やサービスの強みを具体的に説明できることに加え、特定の業界に特化している場合、見込み客の悩みを深く聞くきっかけにすることも可能です。
たとえば、顧客の業界や規模に合わせた事例を紹介することで、運用イメージの醸成やより深いコミュニケーションの実現も期待できるでしょう。具体的な成果を示すことで、競合他社との差別化を図りつつ、営業チーム全体の提案力向上にも貢献します。
ウェビナーや展示会など、さまざまな場面で活用が可能です。当社のクライアントでは、導入事例に協力してくれた企業担当者に登壇してもらい、事例を紹介するセミナーを実施したところ、その後の商談や契約に複数件つながったそうです。
SEO効果を期待できる
導入事例を含めた独自コンテンツは、検索エンジンに高く評価される傾向がありSEO効果も期待できます。
たとえば、製品・サービス名、業界キーワード、顧客の抱える課題など業界特有の専門用語や課題に関するキーワードを自然に含むため、検索エンジンからの評価につながりやすいといえるでしょう。
導入事例を制作するデメリット
ここでは、導入事例を制作するデメリットについて見ていきましょう。導入事例を掲載すること自体はメリットしかありませんが、制作する際のコストや期待値とのギャップについては、認識しておきましょう。
制作コストがかかる
導入事例の制作には、動画やデザイン、記事の作成などの「制作費」や「外注費」といった金銭的コストが必要です。インタビューやライティングのスキルを持った人材がいなければ社内での制作は難しいでしょう。
また、掲載許諾を得るための調整、セールス部門との連携、社内外の確認作業に関わる工数など、時間的コストについても把握しなければなりません。制作を外部に依頼する場合、とくにITやAIなどの専門領域においては、豊富な知識を持ったパートナーを見つけるのにも苦労するでしょう。
継続的な事例制作が難しい
導入事例は、1社作って終わりではありません。業界・業種ごとに複数の導入事例があるほうが信頼性が高まるため、定期的に新たな事例を追加する必要があります。
しかし、導入事例には顧客の許諾や社内外の調整が必要で、思い通りのスケジュール感では進まず、なかなか事例を増やせないという悩みを抱えている企業が大半なのです。
期待値とのギャップが生まれやすい
導入事例は、実質的に成功例だけを取り上げるため、成功例を強調することになります。そのため、顧客の期待値が不必要に高くなり、誤解を生じさせるリスクがあるといえるでしょう。
成功事例をアピールしすぎると、導入事例と同様の成果を得られない場合、不満やクレームにつながりやすくなるため、前提条件を明確にしなければなりません。当社では、美しい成功ストーリーではなく、成功までに経験した紆余曲折の部分もしっかり伝えるようにしています。過度な成功事例のアピールによって、ブランドの信頼性に悪影響を及ぼさないよう、細心の注意を払う必要があります。
導入事例の効果を評価する主な指標
ここでは、導入事例が成功しているか否かを評価する指標について見ていきましょう。指標を用いて、具体的な根拠を示すことができるようになれば、導入事例コンテンツに関しての社内評価も高くなり、制作にコストをかける理解も得やすくなります。
ただ、実際には「導入事例がきっかけで商談・契約につながったかどうか」を判断するのは難しい面もあります。直接的・短期的な施策ではないため、その点は理解したうえで導入事例の制作を進めましょう。
費用対効果(ROI)
費用対効果(ROI: Return on Investment)は、導入にかかった初期費用や運用費用、人件費などの総コストに対して、得られた収益や削減効果の比率を算出する指標です。
費用対効果を測定することで、導入事例をきっかけに新規顧客の獲得や契約単価の向上があったか、効率化により運用コストや人件費が削減できたかを評価できます。計算式は以下のとおりです。
費用対効果が低い場合は、制作プロセスの効率化と成功事例の横展開による費用対効果の最大化を図るとよいでしょう。
コンバージョン率(CVR)
コンバージョン率(CVR: Conversion Rate)は、施策実施前後での目標達成率の変化を測定する指標です。購入や申し込み、問い合わせ、契約、ダウンロードなどコンバージョンの目標行動を何に設定するかによって評価方法が異なります。
導入事例の場合は、記事を閲覧した人のうち、何人が問い合わせフォームや資料請求を行ったか、該当記事ページの滞在時間はどれくらいだったかなどが評価ポイントになります。
仮にCVRが低い場合は、ユーザー行動分析に基づく導線の最適化とCTA(行動喚起)の設置やユーザー視点での構成の見直しなどが必要です。
閲覧・利用状況
導入事例の効果を評価するには、閲覧・利用状況を確認することも重要です。具体的には、SNSシェア数でほかの見込み客への拡散効果を測定する、ダウンロード数で資料の利用者数を把握するといった分析を行います。
また、ページビュー数を基にコンテンツがどれだけ多くの人に届いているかを分析することも大切です。これらのデータを活用すれば、導入事例の効果や成功しているかどうかを客観的に評価できます。
閲覧数や利用状況が少ない場合は、メルマガでの配信や、SNSやリリースなどを活用して露出を増やす方法もあります。事例をユーザーニーズに合わせたコンテンツに改善することで、SEO対策の強化を図ることも検討できます。
営業支援効果
導入事例が営業活動に与える影響を評価する指標として、商談成約率の向上や営業プロセスの短縮・効率化などが挙げられます。具体的には、導入事例を活用した商談が契約に結びつく割合や導入事例が顧客の意思決定を加速させたかといった評価を定量的に分析しましょう。
加えて、営業担当者の実感に基づく定性的な評価も重要です。営業支援効果が低い場合は、営業現場の意見を参考に、導入事例の内容や形式を改善することが求められます。
導入事例の活用方法
導入事例の活用方法には、さまざまな種類・形式があります。そのうえで、自社の製品・サービスにおいて、どういったジャンルで活用していくのがよいかをしっかりと見極めることが重要です。ここでは、主な活用方法を紹介します。
Webサイトで公開する
コーポレートサイトやオウンドメディアなど、自社Webサイトに専用のセクションを設け、導入事例を掲載する方法が一般的です。訪問者に製品やサービスの具体的な活用イメージを提供できます。業界別や製品・サービス別などの絞り込み機能を付けると、見込み客が自社に近い事例を見つけやすくなるでしょう。
また、問い合わせフォームや事例集のダウンロードなどと連携させれば、次のアクションを促すことも可能です。
動画コンテンツとして配信する
導入事例のインタビュー動画は、導入事例を訴求力の高いビジュアルコンテンツとして提供できます。顧客インタビューや実際の利用シーンを動画で紹介することで、視覚的に分かりやすく、説得力のある情報を示すことが可能です。セミナーや展示会といった対面の場面においても受け手の興味・関心を引きやすくなります。
また、YouTubeやInstagram、TikTokなどプラットフォームの影響力も利用すれば、幅広い層に発信・拡散されることも期待できます。共有や口コミの効果にも期待できるでしょう。
SNSでシェアする
SNSでの導入事例のシェアは、若年層を中心に幅広い層へ迅速に情報を拡散できます。SNSは情報が共有されやすく、導入事例をターゲット層へ到達させるスピードを高めることも可能です。
また、ハッシュタグを効果的に使用しつつ、詳細情報へのリンクを貼ることで、興味を持った見込み客を自社サイトへ誘導できます。
メールマーケティングで活用する
メールマガジンやニュースレターで、導入事例の概要や詳細版へのリンクを配信することで、既存顧客や、見込み客に直接アプローチできます。メールマーケティングでは、顧客の興味・関心に合わせた情報提供が可能です。
たとえば、受信者の業種や関心に合わせてセグメント配信を行い、より関連性の高い事例を届けることで、開封率やクリック率の向上も期待できます。見込み客の育成シナリオに組み込むことで、効果的なナーチャリングを実現することも可能です。
ホワイトペーパー(事例集)として提供する
詳細な導入事例をホワイトペーパーにまとめ、資料ダウンロード形式で提供することで、見込み顧客のリード獲得のための重要なコンテンツや営業資料として活用できます。
また、導入事例と業界動向や課題分析と組み合わせれば、より包括的な情報提供も可能です。ホワイトペーパーは、ダウンロード時の顧客情報を取得できるため、見込み客の特定と効果的なフォローアップが可能です。導入事例で深掘りした情報を提供することで、見込み客の受注につながりやすくなるといえます。
プレスリリースで配信する
特に革新的な導入事例や顕著な成果が出ている事例については、プレスリリースとして配信することで、メディアや業界関係者に広く認知してもらえます。新規顧客の獲得、企業の認知度向上、ブランド強化につなげることが可能です。
事例紹介セミナーを開催する
制作した導入事例を活用して、導入検討層向けのセミナーを開催する方法もあります。
当社のクライアントであるDatadog様では、導入事例に協力してくださった企業の担当者様に登壇してもらい、Datadogの導入事例を紹介するセミナーを開催しました。結果は非常に好評で、セミナー参加者約60名のうち、16件が商談に進み、うち6件が契約につながったとのことです。
導入事例の制作において注意すべきポイント
ここで、導入事例を実際に制作していくうえで確認しておきたい注意点について解説します。掲載許可や顧客情報の保護など、情報発信を行ううえで必要な対応を把握しておきましょう。
クライアントへの取材依頼は相手にもメリットを伝える
顧客企業の取材許可を得られなければ、導入事例は作れません。自社で導入している製品やサービスを公開したくないという理由で断られる場合もありますが、導入した製品・サービスに満足していないことや、多忙が理由の場合もあるでしょう。
導入事例として紹介したい企業に対しては、受注のタイミングで導入事例の打診をしておくとスムーズに許可がいただけるでしょう。もちろん、製品・サービスに満足していただくことは最優先事項です。
取材依頼をする際は、顧客企業の知名度向上やブランディングに寄与する点など顧客企業にとってのメリットを具体的に提示することも重要です。大切な時間を割いて協力いただくことになるので、お互いにとってプラスになる方法で進めましょう。
取材依頼の準備についても把握し、万全の態勢で依頼しましょう。
顧客情報の取り扱いには最新の注意を払う
顧客情報の取り扱いには細心の注意を払いましょう。場合によっては、公開可能な情報範囲を明確にした同意書を交わす必要もあります。
同意書を交わす場合は、公開範囲や利用目的を明記し、数値データや固有名詞の掲載などについても事前に詳細な確認を行い顧客の意向を尊重することが重要なポイントです。ロゴを掲載する際も、レギュレーションに従い、クライアントの確認を挟みながら大事に取り扱いましょう。
また、個人情報保護法に基づく適切な情報管理、社内での情報アクセス制限、情報漏洩防止策などに対しても配慮が必要です。
虚偽の情報を掲載しない
導入事例に限りませんが、あらゆる広報活動において、情報提供は正確な事実に基づいて行う必要があります。導入事例における効果や成果に関する表現は、景品表示法や薬機法などの関連法規に抵触する可能性があるため、誇大広告や虚偽表示にならないよう注意が必要です。
また、競合他社との比較表現を行う際は、公正競争規約に違反しないためにも慎重な表現を選ぶ必要があります。こうしたリスクを回避するために、公開前に法的な観点から内容を精査することが大切なポイントです。
法律・倫理的に問題ないか確認する
導入事例の作成・公開においては、法律面・倫理的な観点から、特にステルスマーケティング(広告であることを明示せずに商品やサービスを宣伝する行為)にならないように十分に表現を検討することが重要なポイントです。
2023年10月の景品表示法改正によってステルスマーケティングは厳しく規制され、不当表示に指定されています。導入事例が広告に該当する場合、SNSなどでの発信時には必ずその旨を明記し、透明性を確保することが求められています。
導入事例コンテンツを効果的に導入するためには
導入事例コンテンツを効果的に活用するためには、適した型や編集形式、メリット・デメリット、注意点などを正しく理解し、自社のマーケティング戦略に合わせた導入事例を制作することが重要です。
また、導入事例を制作する際は、業界の知識や取材経験が豊富なパートナー企業に依頼することも検討してみてください。
約40年にわたりコンテンツマーケティングを支援するSEデザインでは、年間150件以上、累計2,500件以上の導入事例制作を行っています。とくにIT業界における導入事例の制作実績が豊富で、インタビューや取材に関するノウハウと知見を数多く蓄積しています。詳しい実績も紹介可能ですので、導入事例制作をお考えの場合はお気軽にお問い合わせください。